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那智瀧に導かれて:熊野那智大社で出会う自然崇拝の世界

はじめに

熊野那智大社は、和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山にある神社で、熊野三山熊野本宮大社・熊野那智大社・熊野速玉大社)の一角である。主祭神として熊野牟須美大神【くまのふすみのおおかみ】(=イザナミ)が祀られている。かつては那智神社や「熊野夫須美神社」と呼ばれていた時代があるという。

熊野那智大社と言えば、那智の滝【なちのたき】である。幅は約13m、落差は133mもある直瀑である。滝壺の深さも約10mはあるという。日本三名瀑の一つに数えられている名瀑である。

那智の滝は、古くから神聖な場所とされ、滝自体が神格化されている(「飛瀧権現」として祀られている)。

那智山青岸渡寺は、那智の滝を見下ろす位置にあり、観音霊場としても有名である。西国三十三所第一番札所である。

また、大門坂は、熊野古道の一部であり、美しく苔むした石畳道が続く。杉木立の中を歩くと、長い歴史と大自然の美しさを強く感じることができる。

目次
はじめに
熊野那智大社
あとがき

熊野那智大社

熊野那智大社の主祭神は、熊野夫須美大神【くまのふすみのおおかみ】である。この名は、イザナミノミコトの別名である。

別名を結神【ムスヒノカミ】ともいう。「ムス」とは「万物の生成・育成」を意味し、「」は「目に見えない存在」を意味するという。御神徳によって結宮【むすびのみや】と称され、人の縁だけでなく諸々の願いを結ぶ宮として崇められたという。

熊野那智大社は、神日本磐余彦命【カムヤマトイワレヒコノミコト】の東征を起源としているとされる。

西暦紀元前662年、神日本磐余彦命の一行は丹敷浦【にしきうら】(現在の那智の浜)に上陸した。一行が光り輝く山を見つけ、その山を目指し進んで行ったところ、那智御瀧(那智の滝)を探りあて、その御瀧を大己貴命【オオナムチノミコト】の現れたる御神体として祀ったと伝わる。

神日本磐余彦命の一行は、天照大御神から使わされた八咫烏の先導によって無事、大和の橿原の地へ入り、西暦紀元前660年2月11日に初代天皇、神武天皇として即位したとされる。先導の役目を終えた八咫烏は熊野の地へ戻り、姿を石に変えて(烏石)休んでいると伝わる。八咫烏の縁起により「お導きの神」として交通・海上の安全の守護を祈願されている。

その後、熊野の神々が光ヶ峯に降臨され、御滝本に祀られた。仁徳天皇5年(317年)、山の中腹にあらためて社殿を設け、熊野の神々と御瀧の神を祀ったのが熊野那智大社の起源だという。

那智の御瀧は、熊野那智大社の別宮、飛瀧神社御神体として祀られている。那智の御瀧は、自然を尊び、延命息災を祈る人が多いという。

一般には「那智の滝」と呼ばれるこの滝は、落差133mもあり、その雄姿は訪れた者を圧倒する。世界的にも誇れる景勝地で、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれている。

さらに境内には、樹齢850年と推定される御神木梛の木があり、無事息災をあらわすものとして崇められている。

このように熊野那智大社は、熊野の自然と共に神々の恵み深い御神徳のある神社である。

名 称熊野那智大社
所在地那智勝浦町那智山1
参拝時間6:00~16:30(通年)
8:30~16:00(宝物殿)
駐車場あり(有料)
Link熊野那智大社

あとがき

那智山青岸渡寺【せいがんとじ】は、熊野那智大社と隣接する、天台宗の寺院である。本尊は如意輪観音菩薩であり、西国三十三所第一番札所となっている。

西国三十三所とは、観音菩薩を祀る近畿地方2府4県と岐阜県に位置する三十三箇所の札所寺院と三箇所の番外寺院からなる観音霊場を指している。

那智山青岸渡寺は、伝承によれば、仁徳天皇の時代(4世紀)にインドから渡来した裸形上人によって開基されたことになっている。平安時代には、熊野三山の信仰が広まり、皇族や貴族が参詣するようになったとされる。

中世から近世にかけては、熊野那智大社と一体化し、那智山熊野権現や那智権現と呼ばれるようになり、修験道場として栄えたと伝わっている。

明治維新後、明治新政府の神仏分離政策により熊野那智大社から独立して、天台宗の寺院として再興されたらしい。

神仏分離政策という全く馬鹿げた政策をよくも実行したものである。当時の政治家や政府の役人で反対者は誰もいなかったのだろうか。実に残念なことである。

那智山青岸渡寺の本堂は、天正18年(1590年)に再建され、現在では重要文化財に指定されている。

また、三重塔は、1972年に再建され、那智の滝を背景にした美しい景観が楽しめるようになっている。

那智山青岸渡寺もユネスコの世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として登録されている。


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