鴨都波神社を歩く──賀茂一族の源流にふれる神話の記憶

目次
はじめに
鴨都波神社
都羽八重事代主命について
下照姫命について
あとがき

はじめに

奈良・御所の地にひっそりと佇む鴨都波神社【かもつばじんじゃ】は、 賀茂一族の源流を今に伝える静かな古社である。 葛城川と柳田川が合流するこの地は、 古代より鴨氏の人々が暮らし、祈りを重ねてきた場所でもある。 境内に足を踏み入れると、 水の気配とともに、どこか遠い時代の息づかいがそっと胸に届いてくる。

ここに祀られる事代主神と下照姫命は、いずれも大国主大神の子として知られ、高鴨神社の阿遅志貴高日子根命と深い血縁で結ばれている。この系譜をたどると、賀茂一族がどのように神話と共に歩み、大和の地に根を下ろしていったのかが静かに浮かび上がる。

鴨都波神社を歩くという行為は、ただ古社を訪ねるだけではなく、賀茂氏の源流にふれ、神話の記憶が今も息づく大和の風景に身を委ねる旅でもある。


鴨都波神社

鴨都波神社【かもつばじんじゃ】は、奈良県御所市に鎮座する、 古い歴史をもつ鴨氏ゆかりの古社である。社伝によれば、崇神天皇の時代に、 太田田根子【おおたたねこ】の孫である大賀茂都美命【おおかもつみのみこと】が 創建したと伝えられている。

主祭神は、積羽八重事代主命【つみはやえことしろぬしのみこと】と 下照姫命【したてるひめのみこと】の二柱の神々である。

さらに、建御名方命【たけみなかたのみこと】も配祀されている。 建御名方命は大国主大神と高志沼河姫【こしぬなかわひめ】の子であり、「国譲り」の神話で建御雷神【たけみかづちのかみ】と力比べをして敗れ、 信濃国・諏訪へ退いたのち、 諏訪大社の主祭神として祀られるようになった神である。

鴨都波神社は、鴨氏一族の守護神を祀る社として古くから崇敬され、 高鴨神社(上鴨社)に対して「下鴨社」とも呼ばれている。 境内には伊勢神宮および宮中三殿への遥拝所が設けられ、古代からの信仰の深さを今に伝えている。

社地は葛城川と柳田川の合流地点に位置し、 この地に根を下ろした鴨氏一族が農耕を営んでいたことが 考古学的にも知られている。 豊かな自然と歴史が重なるこの神社には、今も多くの参拝者が訪れ、静かな祈りを捧げている。

名 称鴨都波神社
所在地奈良県御所市宮前町513
TEL0745-62-2176
駐車場あり(無料)
Link鴨都波神社 | 葛城鴨大明神

都羽八重事代主命について

積羽八重事代主命【つみはやえことしろぬしのみこと】は、出雲大社の主祭神・大国主大神と、美保神社に祀られる三穂津姫命【みほつひめのみこと】との間に生まれた神で、 日本神話の「国譲り」において重要な役割を果たした事代主神【ことしろぬしのかみ】の別名である。

大国主大神は縁結びの神として知られ、多くの妻子を持つため、 その系譜は複雑で、相関図がないと理解しにくい部分も多い。 私自身、かつて積羽八重事代主命と下照姫命【したてるひめのみこと】を夫婦だと誤解していたが、 実際には 兄妹(異母兄妹) の関係である。

事代主神は、もともと「鴨氏」一族が信仰していた神であり、 大神神社(奈良県桜井市)に祀られる大物主大神(=大国主大神)の子にあたることから、 鴨都波神社は「大神神社の別宮」とも称される。 この系譜を理解すると、鴨氏と出雲系神話の深い結びつきが自然と見えてくる。


下照姫命について

下照姫命【したてるひめのみこと】は、日本神話に登場する女神で、 大国主大神と多紀理毘売命【たきりびめのみこと】(宗像三女神の一柱・田心姫神【たごりひめ】の別名)との間に生まれた娘である。 高鴨神社の主祭神・阿遅志貴高日子根命【あじしきたかひこねのみこと】とは、同じ母を持つ実の兄妹にあたる。

下照姫命は、天稚彦(=天若日子)と結ばれたが、 天稚彦が高天原からの返し矢に当たって亡くなった際、 彼のために喪屋を建て、八日八夜にわたり歌舞して弔ったと伝えられる。その嘆きの声は天に届くほどであったとされ、この物語から、下照姫命は悲劇の女神として語られることも多い。また、機織りに秀でていたことから、織物の女神としての信仰も厚い。

高鴨神社(上鴨社)と鴨都波神社(下鴨社)が 「上鴨」「下鴨」と呼ばれる背景には、 祀られている神々の血縁関係が深く関わっている。高鴨神社には阿遅志貴高日子根命、 鴨都波神社には事代主神【ことしろぬしのかみ】と下照姫命が祀られているが、 事代主神は大国主大神の子であり、 下照姫命とは異母兄妹の関係にある。 このように、両社に祀られる神々の系譜を知ると、「上鴨」「下鴨」という呼称にも一定の納得がいく。

もっとも、この呼び分けが血縁関係によるものか、 あるいは単に地理的な標高差によるものかは明確ではなく、両方の要素が重なっている可能性も指摘されている。


あとがき

鴨都波神社の境内を歩き終える頃、川のせせらぎと風の音が、古代から続く祈りの時間をそっと思い起こさせてくれる。ここに祀られる神々の系譜をたどることで、賀茂一族がどのように大和の地に根づき、神話とともに生きてきたのかが自然と胸に落ちてくる。

社殿を振り返ると、そこには人々の暮らしと祈りが静かに積み重なり、「上鴨」「下鴨」と呼ばれる二つの社が 長い時を超えて互いに響き合ってきたことが感じられる。その風景は、日々の忙しさの中で忘れがちな「自分の源流を見つめること」の大切さをそっと思い出させてくれる。

鴨都波神社を歩くひとときが、私たちのこれからの旅路に、古代の静かな光と、神話の余韻を添えてくれることだろう。


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