はじめに
朝霧が発生しやすい気象条件は、一般的に前日の最高気温と翌日の最低気温の気温差が10℃以上あり、日の出前の湿度が90%以上であることが望ましいとされている。
伊賀上野城の周辺には四つの川が流れている。西側には木津川が流れ、南には久米川、そして北側には服部川と柘植川が流れている。川の水分が気化して空気中に広がり、気温が下がると霧になりやすい。伊賀上野城は、山に囲まれた伊賀盆地に位置しているため、朝霧が発生しやすい地域でもあると言われている。
朝霧に浮かぶ伊賀上野城が観れるのは、秋から冬にかけての晴れた日の早朝である。この時期は、気温差が大きく、湿度が高いため、霧が特に発生しやすいと言われている。
朝霧が観れる時間帯としては、日の出からせいぜい午前9時前頃まである。12月中旬の日の出時刻はかなり遅いので、朝霧がかかるのは午前7時頃から午前8時半頃まででのわずか1時間半程度である。しかも濃い霧に伊賀上野城が覆われるのはそのうちのわずかな時間である。束の間に繰り広げられるショーのようなものだ。しかも、朝霧は風や気温の変化によって消えやすいため、必ず見られるとは限らない。私の前回の経験がそうであった。まさに運不運に左右される。
そんな珍しい「朝霧に浮かぶ伊賀上野城」を幸運に恵まれ、2回目のチャレンジで見事に写真に収めることができたので本稿で紹介したい。
伊賀上野城の撮影場所
伊賀上野城が朝霧の中に浮かぶ美しい光景を写真に収めるためには、撮影場所の選定も重要となる。
霧の中に現れる天守を望遠レンズで狙うことになるが、伊賀上野城は高台にあるので、その位置よりも高い位置から、すなわち城を見下ろすアングルがおすすめとなる。
私が地元のアマチュア写真家に聞いた話では、「ふるさと芭蕉の森公園」内にある展望台がこの辺りではその条件に合致しているらしいということである。
そこで、私もその展望台から伊賀上野城を狙ってみたところ、確かに城を遠くからやや見下ろすアングルが得られる位置である。おすすめの撮影場所であることに納得した次第である。
名 称 | ふるさと芭蕉の森公園 |
所在地 | 三重県伊賀市長田2384 |
アクセス | 名阪国道・大内ICから約10分程度 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | ふるさと芭蕉の森公園 | 観光三重 |
撮影日の気象条件
私が「朝霧に浮かぶ伊賀上野城」の撮影に成功したの2023年12月14日の午前7時から午前8時30分までの間であった。
この日は、前日(12月13日)が晴天であり、最高気温は13℃であった。一方、当日(12月14日)も晴天で午前7時の気温は1℃であったから、前日の最高気温との温度差は12℃となり、朝霧が発生しやすいとされる温度差10℃以上の条件を満たしていた。しかも無風状態であったから、絶好の気象条件を満たしていたことになる。尚、日の出時刻は、午前6時58分であった。
伊賀上野城周辺の霧の発生状況
私は、2023年12月14日の日の出時刻(午前6時58分)前には現地に到着し、スタンバイしていた。
日の出と共に辺りは急に明るくなってきて、晴天であることが確認できるようになった。確かに霧も発生していたが、午前7時頃から7時半頃まではまだ伊賀上野城を覆うほどの霧は発生していなかった。
ところが午前7時半過ぎ頃から突如として霧が伊賀上野城を覆い隠し始めた。
午前7時45分頃には霧の中に浮かぶ伊賀上野城の写真が撮れるようになった。
そして午前8時頃には伊賀上野城は、霧の中に隠れてしまった。
しかし、それはほんの瞬間であり、伊賀上野城の天守はすぐに霧の中から現れた。
そして午前8時15分頃には伊賀上野城を覆っていた霧も晴れて来た。文字通りの「霧散」である。
時間にして午前7時45分頃から午前8時15分までの実に約30分間のショーを観たような感じである。貴重な体験をさせてもらったと思っている。伊賀上野城には最初から霧がかかっているものだと思っていたので、最初に観たときにはガッカリし、すぐに帰宅しようと思ったくらいである。少し我慢して、その場で待機したのが良かったと思っている。
朝霧に浮かぶ伊賀上野城
『朝霧や 伊賀の上野の 白鳳城』
この句は、俳聖・松尾芭蕉が貞享元年(1684年)に伊賀上野城を訪れた際に、霧に包まれた城の姿を観て感動し、詠んだ句であると言われている。
この句は、伊賀の上野の城が朝霧に浮かび上がる幻想的な光景を表現している。「白鳳城」とは、伊賀上野城の別名で、天守の屋根が鳳凰の翼に似ていることから名付けられたとされる。
この句の句意は、下記のように解釈できるとされている。
「朝霧や」の「朝霧」は、自然の美しさや神秘さを象徴するものである。「や」は、感嘆の気持ちを表す係り結びの助詞であるから、「朝霧に感動した様子」が伝わってくる。
「伊賀の上野の」の「伊賀の上野」は芭蕉翁の故郷であり、芭蕉翁はこの地に対する郷愁や思い入れを持っていたことでしょう。
「白鳳城」は、伊賀上野城の別名であり、伊賀の歴史や文化を象徴する存在である。
この句は、自然と人間の作り出したものが調和する美しい風景を描いている。芭蕉翁は、故郷の伊賀上野で、朝霧に浮かぶ幻想的な白鳳城を観て、この自然が織りなす美しい風景に敬意や愛情を込めて、この句を詠んだことでしょう。
あとがき
朝霧に浮かぶ伊賀上野城は、気象現象と地形の恵みの結果であると私は思う。伊賀上野城を囲む周辺の地形がなければ、気象現象だけでは朝霧は発生しないだろう。この恵まれた地形と気象現象が相まって、私たちに素晴らしい景色を提供してくれる。それを見ることができたのは、とても幸せなことだと私は思っている。
悔いが残るのは望遠レンズを装着していたカメラの筐体内部の汚れが目立つことである。しばらく使用していなかったので、気づかなかった。折角撮った写真なのに非常に残念である。しかし、気をとり直して、次の機会を狙いたいと思う。試行錯誤である。
伊賀上野城の朝霧は、「日本の名城100選」に選ばれた城の美しさを一層引き立てる絶景でもある。皆さんも是非一度ご覧になってください。俳聖・芭蕉翁のように感動することでしょう。