はじめに
立山駅から黒部ダムに行くには5つの乗り物を乗り継いでいかなければならない。まず最初に乗るのは立山ケーブルカー(立山駅から美女平)で、美女平からは高原バスに乗り換えて室堂に向かう。次に乗るのは立山トンネルトロリーバス(室堂から大観峰)である。大観峰から黒部平へは黒部ロープウェイで行く。そして最後に乗るのが黒部ケーブルカー(黒部平~黒部湖)である。このようにかなりの労力と交通費を必要とする。
だから大観峰や室堂に興味がなく直接、黒部湖に行きたいなら扇沢駅から向かった方が便利である。関電トンネル電気バスに乗るだけで黒部ダムに到着できるからである。
しかしながら、たまには公共交通機関を利用しての旅も良いものである。私は、基本的に旅の移動には自家用車またはレンタカーを利用する。手ぶらで移動したいからである。今回の旅にも車を利用しているが、立山駅から先は一般車両では行けない。言わばやむなく公共交通機関を利用せざる得ないというわけである。
欅平に行くにしても宇奈月温泉より先の道程は黒部峡谷鉄道を利用せざるを得ない。しかし、自分で運転しなくてもよい旅も良いものだと気づく旅にはなったと思っている。公共交通機関に乗ること自体も旅の経験として、そして学びの場として大切であることを再認識した。高い所が苦手な私はロープウェイにはなかなか慣れることはできないが仕方がない。
立山室堂
みくりが池
みくりが池は、約1万年前にできた周囲約630m、水深約15mの火山湖である。北アルプスで最も美しい火山湖といわれている。
室堂ターミナルから舗装された遊歩道を歩いていくと美しいみくりが池が姿を現す。そして紺碧の湖面に雄大な立山を映し出してくれる。みくりが池は室堂のシンボルとなっている。
名 称 | みくりが池 |
所在地 | 富山県中新川郡立山町芦峅寺ブナ坂外11国有林 |
Link | 【公式】みくりが池温泉:アクセス |
室堂平散策
名 称 | 室堂平 |
所在地 | 富山県中新川郡立山町芦峅寺字ブナ坂外11国有林 |
Link | 室堂平で雲上散策【公式】富山県の観光「とやま観光ナビ」 |
黒部ダム
日本各地に点在する有名な人造湖は、国立公園や国定公園の一部を構成していたり、それ自体が観光地になっていたりする。黒部湖(黒部ダム湖)もその一つであり、中部山岳国立公園の一部に指定されている。
黒部湖は、北アルプスの立山連峰と後立山連峰に挟まれた黒部渓谷にあるため自然の景観が良く、立山黒部アルペンルートのハイライトとして多くの観光客が訪れる観光名所となっている。
黒部ダムは、一度は見てみたいと長らく願っていて、ようやくその機会を得ることができたダムである。学生時代や社会人になりたての頃、登山をしていても遠くから眺めていただけなので、ダムを間近で見ることができた時は感動ものであった。
黒部ダムは、富山県東部の長野県境近くの黒部川上流に関西電力が建設したコンバインダム(複数の形式を組み合わせて建設されるダムを指す)である。黒部ダムは、実は単純なアーチ型コンクリートダムではなく、ウイング部は重力式コンクリートダムであるという。
理由は、建設途中で両岸の基礎となる岩盤を再調査したところ亀裂が見つかり、予想以上に脆いことが判明したため、設計変更をしたからである。両側がウイング状に変更となり、アーチ部を川下に向かって傾斜させることにより、水圧を両岸に逃がすのではなく、下向きの力へと変化させることでダム下部の岩盤に支えさせる構造となっているという。
黒部ダムは、黒部渓谷に建設された日本を代表するダムの一つであり、水力発電専用ダムで貯水量2億立方メートル、高さ(堤高)186メートル、幅(堤頂長)492メートルの規模を誇る。
日本で最も堤高の高いダムとして知られ、黒部ダムの完成により、北陸地方屈指の人造湖「黒部湖」が誕生し、ダム湖百選にも選ばれている。(引用:ウキペディア)
終戦(1945年)以降、日本の電力需要の大半は水力発電所によって賄われていたが、渇水になると各地で停電が相次いていた。関西地方では、1951年の秋に深刻な電力不足に陥り、一般家庭で週3日の休電日が設けられたが、休電日に関わらず連日のように停電していた。こうした状況は高度経済成長期を迎えた1955年以降も続き、工場で週2日、一般家庭では週3日、電力使用制限が行われていたという。このように関西地方では深刻な電力不足により、戦後復興の遅れと慢性的な計画停電が続き、深刻な社会問題となっていた。
決定的な打開策として、関西電力は、大正時代から過酷な自然に阻まれ何度も失敗を繰り返した黒部峡谷での水力発電以外に選択肢はないと考えた。当時、人が行くこと自体が困難で命がけだったその黒部川上流という秘境の地でのダム建設案に、当時の太田垣社長は「黒部しかない。関西の消費電力を一気に賄える。工期7年、遅れれば関西の電力は破綻する」と決断し、資本金の3倍(最終的には5倍)の総工費で臨んだという。
工事は難航を極め、多くの犠牲者も出たという。事期間中の転落やトラック、トロッコなど労働災害による殉職者は171人にも及び、建設現場以外でも、宿舎(飯場)が雪崩の被害を受け87名が犠牲(死亡)になったという。作業員延べ人数は、1,000万人とされる大工事であったことには間違いない。
黒部ダムの完成当時、大阪府の電力需要の50%(25万kW)を賄ったとされ、産業も重工業への転換がようやく可能になった。
(引用:ウキペディア)
このように原子力発電や火力発電が普及していない時代にあって、黒部ダムの水力発電は多大な貢献をしたと言える。
2006年時点での土砂堆積率は14%であり、ダム本体の耐久性と併せて考えると、これからも約250年はダムとして機能すると推定されているらしい。(引用:ウキペディア)
黒部ダムには観光で訪れたが、このダムの建設に尽力した人々への感謝と黒部ダムの電力供給への貢献の大きさも忘れないようにしたいものである。
名 称 | 黒部湖(黒部ダム) |
所在地 | 富山県立山町 |
Link | 黒部ダムオフィシャルサイト (kurobe-dam.com) |
黒部峡谷
黒部峡谷は、立山連峰と後立山連峰の間を北上する黒部川が花崗岩質の岩肌を浸食して形成したV字谷であり、日本一深い急峻な谷として知られている。
黒部川は、北アルプス中央部に位置する鷲羽岳に源流があり、距離にして約86kmの道程を経て日本海に注ぎ込む。黒部川は標高差3000 mを流れ下るため黒部川の上・中流域には浸食によって深く刻み込こまれたV字峡が形成されている。それが日本一の大峡谷と呼ばれる黒部峡谷である。
その景観の美しさと自然保護の観点から中部山岳国立公園に指定されている。
黒部峡谷鉄道
黒部渓谷のトロッコ列車は、元々はダム建設資材を運ぶ鉄道として誕生したものであるが、観光客の増加に伴い一般客にも開放されるようになったという経緯がある。
黒部峡谷鉄道は、関西電力の専用鉄道を一般客にも開放した路線で、一般客が利用可能な全ての列車にオープン客車(後部6両がトロッコ車両)が連結されている。宇奈月駅は、黒部峡谷鉄道の始発駅である。
宇奈月駅から欅平駅までの約20kmの区間は一般の観光客も乗ることができる。
欅平【けやきだいら】は宇奈月温泉の南に位置し、黒部ダムとの間に延びる登山道、下ノ廊下と水平歩道の北の起点になっている場所である。ここに行くには黒部峡谷鉄道を利用するしかない。
黒部峡谷鉄道が一般観光客にも開放されたおかげで、欅平は登山口としての役目だけでなく、観光地そのものになっており、多くの観光客がロコッコ列車に乗って訪れている。
黒部峡谷鉄道は黒部峡谷に沿って走っているので必然的に途中、いくつもの橋やトンネルを走り抜ける。橋やトンネルなしでは列車を開通できないほどに黒部峡谷はV字に切立っているということが実感できる。ちなみに、私は数えることができなかったが、途中には22の橋と41のトンネルがあると言われている。
下の写真は宇奈月駅を出発して間もない頃のものである。赤い鉄橋(山彦橋)は徒歩で渡ることができ、宇奈月温泉に滞在した際の散策コースにもなっている。
黒部峡谷には黒部ダム以外にもダムがあるため、黒部峡谷鉄道の沿線にも人工湖(うなづき湖;宇奈月ダム湖)がある。エメラルドグリーンの水面に赤色の鉄橋(湖面橋)が映える。思わずシャッターを押してしまう。
列車の車窓から見える景色の中でも印象に残っているのが下の写真に写る用水路橋である。トロッコ列車に乗ったからこそ味わえる私にとっての絶景の一つである。自画自賛かも知れないが、黒部峡谷を象徴するような一枚になったのではないだろうか。
冬季は雪のため列車は走らない。そのため関西電力の電力保全職員は専用の冬季歩道を歩いて目的地に行くという。下の写真の左前方から奥に続くのがその冬季歩道である。黒部峡谷鉄道が元々は関西電力が資材と職員の運搬用に運行していることを改めて認識する機会となった。
名 称 | 黒部峡谷鉄道 |
所在地 | 富山県黒部市黒部峡谷口11(宇奈月温泉駅) |
駐車場 | あり(有料) |
Link | 黒部峡谷鉄道トロッコ電車【公式サイト】 |
黒部峡谷展望ツアー
私は「黒部ダムの見学」がメインであったが、妻のお目当ては「黒部渓谷展望ツアー」に参加することであった。
(上部トンネル出口広場)
(上部トンネル出口広場)
(上部トンネル出口広場にて)
欅平駅(黒部渓谷鉄道)前で記念撮影
名 称 | 黒部峡谷パノラマ展望ツアー |
Link | 黒部峡谷パノラマ展望ツアー|北陸支社|関西電力 |
黒部渓谷鉄道が一般観光客に開放されてから欅平駅周辺は一大観光地になって賑わっている。
欅平の散策
猿飛峡
黒部峡谷鉄道の終着駅、欅平駅【けやきだいらえき】で降り、徒歩で行った先にあるのが景勝地になっている猿飛峡【さるとびきょう】である。
上流は黒部ダム直下から下流は東谷合流地点までの地域と、下流の奥鐘山の大断崖と猿飛の地域が飛地として指定されている。
猿飛峡は、黒部川本流で最も川幅が狭くなった場所で、昔猿が飛び越えたことから命名されたとされる。
猿飛峡への遊歩道はよく整備されており歩きやすかった。
名 称 | 猿飛峡 |
所在地 | 富山県黒部市黒部峡谷口 |
Link | 黒部峡谷附猿飛ならびに奥鐘山 |【公式】富山県の観光 |
宇奈月温泉
宇奈月温泉【うなづきおんせん】は、富山県黒部市にある温泉地である。大正時代に黒部川の電源開発をきっかけに温泉を引くことに成功したことで誕生した比較的新しい温泉地であるが、すでに100年近くも経ている。かつては無人の地であったというが、今では日本一の透明度と高い美肌の湯として知られ、人気の温泉地の一つとなっている。
宇奈月温泉は、黒部峡谷のトロッコ観光(黒部峡谷鉄道)の玄関口としても全国的に知られている。宇奈月温泉駅前(富山地方鉄道)には温泉水を利用した噴水があり、宇奈月温泉のシンボル的存在の一つになっている。
泉質と効用
宇奈月温泉の源泉は、すべて黒部川上流にある黒薙温泉【くろなぎおんせん】からの引湯となっている。源泉温度は90℃以上もあり、かなりの高温である。
湯量も豊富で、1日に3,000トンも湧く湯量も宇奈月温泉の自慢の一つにはなっている。そのため引湯とは言え、源泉かけ流しになっているのは嬉しい。
宇奈月温泉の自慢は、清らかに澄んだ湯であり、日本一の透明度とも言われている。本当に日本一かどうかは別にしても、日本屈指の透明度であることには相違ない。
泉質は、弱アルカリ性の単純温泉である。「美肌の湯」として知られている温泉である。
筋肉痛、五十肩、神経痛、関節痛や慢性消化器病などに効能があるとされている。
温泉街
宇奈月温泉街は、黒部川の渓谷沿いに、多くの旅館や保養所が立ち並んでいる。
宇奈月温泉街には、美味しいスイーツや黒部のご当地グルメを提供するお店が11店舗もあり、散策途中や帰りに立ち寄ることができる。
名 称 | 宇奈月温泉 |
所在地 | 富山県黒部市宇奈月温泉 |
Link | 宇奈月温泉【公式】富山県の観光/旅行サイト 宇奈月まち歩き | 宇奈月温泉旅館協同組合 |
宇奈月温泉街周辺の散策
周辺の緑に赤色の橋は映えるので、思わずシャッターを押す。
あとがき
好天候に恵まれたなかで、念願であった黒部ダムを間近で見ることができて良かった。遠隔地への旅は天候次第で良くも悪くにもなる。運が良かったというしかない。
一方で、室堂からの立山連峰の展望は曇り空のためにくっきりと見ることができなかった。幸運は長くは続かないということだろうか。それにしても山の天気は夏でも変わりやすい!
黒部峡谷鉄道の旅は、車窓からの黒部峡谷の景色を十分に堪能できるものとなった。いつの日か紅葉の季節の黒部峡谷も見てみたいものである。
今回の旅は、目的地への主たる交通機関は公共交通機関という私たち夫婦の旅の移動手段としては珍しいものであったが、いつもとは違うシチュエーションも体験することができ、結果的に楽しい旅となった。ただ自宅から公共交通機関を利用して旅行する気にはなれない。それだけの体力と気力がなくなってということだろう。
【参考資料】
【公式】みくりが池温泉:アクセス |
室堂平で雲上散策【公式】富山県の観光「とやま観光ナビ」 |
黒部ダムオフィシャルサイト (kurobe-dam.com) |
黒部峡谷鉄道トロッコ電車【公式サイト】 |
黒部峡谷パノラマ展望ツアー|北陸支社|関西電力 |
黒部峡谷附猿飛ならびに奥鐘山 |【公式】富山県の観光 |
宇奈月温泉【公式】富山県の観光/旅行サイト |
宇奈月まち歩き | 宇奈月温泉旅館協同組合 |