はじめに
秋の紅葉と言えば、文字通りにモミジの紅葉をイメージしてしまうことが多いが、銀杏(イチョウ)の黄葉も秋の風物詩であることに間違いはない。大イチョウの葉が黄葉している様は絵になるし、そのイチョウの落葉して地面に敷き詰められ、まるで黄色の絨毯のようになった様も見事というしかない。
そのような黄葉したイチョウの写真が撮りたくなり、「伊賀の国」でイチョウの大木がある場所を探したところ、幸いにも三か所も見つけることができた。そのうちの一つが、本稿で紹介する霊山寺【れいざんじ】である。
霊山寺
霊山寺【れいざんじ】は、黄檗宗【おうばくしゅう】の寺院である。黄檗宗は、日本三禅宗のうち一つで、中国臨済宗の僧の隠元隆琦(江戸時代初期に来日)によって創始された禅宗である。
霊山寺の創建は、平安時代初期の弘仁年間(810~824年)とされ、開基は伝教大師【でんぎょうだいし】最澄【さいちょう】によると伝えられる。最澄は、日本の天台宗の開祖としてよく知られている。
霊山寺は、元々は霊山の山頂に位置した、七堂伽藍を有する巨大な寺院で、多くの人々の信仰を集めたという。しかしながら、不幸にも天正伊賀の乱(伊賀国で起こった織田信長と伊賀惣国一揆との戦いの総称)で伽藍がすべて焼失してしまったという。
霊山の山頂に残る広大な寺院跡地は、「霊山山頂遺跡」として三重県の史跡に指定されている。
江戸時代の延宝年間(1673~1681年)に鉄牛禅師によって中興開基されたが、その際に霊山寺は山頂から山腹(現在地)に境内が変更になっているようだ。
尚、霊山【れいざん】(標高766m)は、布引山地【ぬのびきさんち】の北端に位置する山で、現在ではハイカーたちに人気の山となっている。山名の由来は、勿論、かつて霊山寺が建立されていたことによる。霊山には、天然林が生育しており、アセビやイヌツゲなどの県指定の天然記念物が群生しているという。
霊山寺の境内にはサクラの樹木が多く植栽されており、桜の名所となっているようだ。毎年4月中旬には霊山寺の境内にて「さくら祭り」が開催されているという。
名 称 | 霊山寺 |
所在地 | 三重県伊賀市下柘植3252 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 霊山寺 | 観光三重 |
あとがき
イチョウ(銀杏)は、落葉性の高木樹で、秋になる黄葉して実に美しい。大木に育つため神社や寺院の境内で御神木になっている場合もある。また丈夫な樹木であるため街路樹として植栽されている場合もある。
だからイチョウが「生きている化石」として国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されていると知ったときには率直に驚いたものである。
また、イチョウの種類には一種類しかないと思っていたのであるが、いくつかの変種があるらしいことを最近になって学んだ。
実は霊山寺の大イチョウは、その変種のオハツキイチョウ(学名は Ginkgo biloba var. epiphylla Makino)であり、牧野富太郎博士によって発見されたもののようである。
イチョウは代表的な裸子植物ではあるが、オハツキイチョウは、葉に種子が付く(または葉上に葯【やく】を付ける)珍しい変種であるらしい。どれくらい珍しいかというと、日本全国にわずか20本程度しかその存在を知られていないらしい。
そんな珍重なオハツキイチョウを霊山寺で直接見ることができるなんてなんて贅沢なことだろうか。三重県の天然記念物に指定されているのも納得である。
このことだけでも霊山寺に何度、参拝に出かけて行っても苦にはならないと言えば言い過ぎだろうか。次に参拝する際には「お葉付き」の実が観察できる季節であればよいのだが。
いずれにせよ、オハツキイチョウのおかげでイチョウを見る私の目が変わったのは事実である。
霊山寺からそう遠くない場所に滝山渓谷・白藤滝があり、折角、遠方から訪ねて来た場合には、双方を訪ねるのが合理的である。