はじめに
2025年春、日本が世界の注目を集める一大イベント――大阪・関西万博が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、158か国・地域と7国際機関が参加して開催され、早いもので6カ月の会期も終盤を迎えている。
EXPO 2025 大阪・関西万博では、世界各国のパビリオンが注目されがちであるが、行政機関や日本企業が手がける国内パビリオンは伝統と革新が融合した見どころ満載の展示空間を私たちに提供してくれているため、決して見逃すわけにはいかない!
日本国内の各都道府県が独自の文化、技術、未来への取り組みを発信する国内パビリオンでは、まさに「日本再発見の旅」を見つけることができるだろう。
本記事では、建築美・展示内容・体験価値の三拍子がそろった国内パビリオンの魅力と見どころを紹介したいと思う。
<目次> はじめに 行政・日本企業が出展する注目パビリオン10選 日本館 EXPOホール 大阪ヘルスケア館 関西パビリオン ウーマンズパビリオン パナソニックグループ館 三菱未来館 飯田グループ館x大阪公立大学共同出展館 住友館 パビリオン【未来の都市】 あとがき |
日本の行政・企業が出展する注目パビリオン10選
行政や日本企業が出展する国内パビリオンは、伝統と革新が融合した見どころ満載の展示空間ばかりであり、どれも個性豊かで、未来社会のヒントがいっぱいに満たされている。
事前予約が必要なものもが多いので、公式サイトやアプリで最新情報をチェックして、効率よく入館できるよう計画を立てる必要がある。本記事では、注目度の高い10のパビリオンを厳選して紹介したいと思う。
【日本館】国家のビジョンを体感
日本館の出展者は、日本政府(経済産業省)である。万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を象徴する日本国パビリオンである。
パビリオンの建築は、木材を活かしたサステナブル設計(木造建築×環境技術の持続可能なデザイン)となっており、木造建築の美しさと環境に配慮した設計は一見の価値がある。和傘をモチーフにした屋根が自然光を取り込み、温かみのある空間を演出しているのは特に印象深いものである。
館内の展示は、日本の美意識と最先端技術が融合した空間になっている。日本館は、次の3つのエリアで構成された「循環の旅」が楽しめるような演出になっている。
- Factory Area
- AI・ロボット・再生エネルギーなど、日本のものづくりの最前線が紹介されている
- Plant Area
- 藻類や微生物など、生命の根源に触れる展示がメイン
- Farm Area
- 持続可能な農業や食の未来を体感できる展示
館内は伝統文化と先端技術が融合した没入型展示が主体となっており、AI・ロボット技術、バイオガス循環体験、そしてファクトリーエリアも注目を集めている。
展示物の見どころは、伝統と革新の融合、災害対応、医療、環境技術などを網羅している点であろうか。災害対応技術や医療イノベーションの展示や、伝統文化と未来技術の融合の演出はきっと目を引くはずである。
また、目玉展示品の一つが「火星の石」であるので、決して見落とさないようにしたい。火星の石や「はやぶさの砂」など宇宙と地球のつながりを感じさせる展示により、宇宙探査の成果を間近で見られるのは嬉しい。
【EXPOホール】
EXPOホールの出展者は、日本国際博覧会協会である。大型イベント・式典・パフォーマンスの中心施設である。オープニングや国際会議、文化交流イベントが開催される「万博の心臓部」となっている。
EXPOホールは、シャインハットという愛称で呼ばれることも多い。その理由は、黄金に輝く円形の大屋根が特徴で、shine(輝き)とhat(帽子)を組み合わせた名前であるという。
EXPOホールは、万博の開会式や閉会式、音楽・演劇イベントなどが行われる中心的な祝祭空間として、万博会場ではランドマーク的な存在にもなっている。
EXPOホールでは各国のナショナルデーやスペシャルデーに合わせて、伝統舞踊・音楽・パフォーマンスが披露される。つまり、世界の文化が集まるステージというわけである。
また、国際的なフォーラムや講演も開催される会場となり、環境・医療・教育など、未来社会に向けた課題を語り合う場として、専門家やリーダーたちが登壇することもある。その場に居合わすことができたなら、知的好奇心が刺激されること間違いなしである。
公式キャラクター・ミャクミャクが登場するステージイベントも人気であり、子どもたちには大人気であるらしい。
夜はライトアップ&音楽ショーが開催されている。夕方以降は、音と光の演出が加わった幻想的なショーが開催されることもあり、夜の万博見学には外せないスポットとなる。
【大阪ヘルスケア館】健康未来の実験場
大阪ヘルスケア館の出展者は、大阪府・大阪市・医療機関連合である。
大阪ヘルスケア館のテーマは、Nest for Reborn(再生の巣)であり、館内の展示は健康・医療・ライフスタイルの未来を五感で楽しめるような演出になっている。そのため、まるで「未来の自分に会いに行く旅」を体験できるような、驚きと発見に満ちた体験ができる。
館内の展示では、最先端医療技術と健康寿命延伸の取り組みを紹介している。AI診断、遠隔医療、再生医療などの体験型展示が充実している。
リボーンチャレンジゾーンでは、約400社の中小企業やスタートアップ企業が出展しており、再生医療、腸内環境ゲーム、未来の人間洗濯機など、ユニークな技術が展示されている。
また、AIによる健康診断体験、遠隔医療のデモンストレーションや、認知症予防や介護ロボットの紹介もある。
さらに、ミライの食と文化ゾーンでは、ワンハンドBENTOや未来のジュースなど、健康×美味しさを追求したフードが楽しめる展示があり、調理実演や物販もあって、食の未来も体感できる。
【関西パビリオン】
関西パビリオンの出展者は、関西広域連合である。関西2府5県(滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・三重)の他、鳥取・徳島・福井も参加している。これら10府県の魅力を集約した展示によって、観光・食・文化・産業の多様性を体感できるのが魅力となっている。
例えば、鳥取県の展示では、実際の鳥取砂丘の砂を敷き詰めた空間で、幻想的な映像ショー(プロジェクションマッピング)が展開されている。
また、福井県の展示ではリアルな恐竜骨格や体験型ミニ展示が充実しており、恐竜博物館さながらの展示を行ったいる。
一方、滋賀県の展示では、発光球体による立体的な映像演出(アートショー)で、琵琶湖の美しさを表現している。
さらには、兵庫県の展示では、コウノトリのアートやステンドグラスの回廊など、芸術的な演出が注目される。
このような地域の個性が光る展示や演出によって、各府県の自然・文化・産業を、伝統文化から最先端技術まで、美しく紹介してるので、観ていて実に楽しい。
観光・食・産業のPR空間と言えなくもないが、地域の魅力を五感で体験できるので、私たちにとってはそれが逆に有難い。
未来への挑戦を共有するため、地方創生、環境保全、教育改革などの取り組みを発信しているのも頼もしい。
館内のものづくり企業の技術展示も見応えがあり、地域発のスタートアップ企業や伝統工芸も紹介されている展示には興味が尽きることはない。
いずれの展示も単なる観光PRではなく、地域が未来社会にどう貢献できるかを示す「挑戦の場」であり、日本の多様性と可能性を再発見する絶好の機会となる関西パビリオンは注目である。
【ウーマンズパビリオン】共感と共創の空間
ウーマンズパビリオンの出展者は、日本政府と女性起業家・団体の連携となっている。女性の視点から未来社会を描く展示が特徴的である。ジェンダー平等、教育、ケア、起業支援など、共感と発見の空間を提供してくれる。
この世界初の女性テーマパビリオンのテーマは、When women thrive, humanity thrives (ともに生き、ともに輝く未来へ)であり、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを力強く訴えかける演出となっている。
ウーマンズパビリオンの館内は、まるで「物語の中を歩くような没入体験」ができる、感性と知性を刺激する特別な空間となっている。
ヘッドホンとデバイスを使って、3人の女性の人生を追体験できるという没入型ストーリー体験は新鮮で、印象深いものである。
入館者は、吉本ばななさん(小説家)、エムティハル・マフムードさん(詩人・科学者)、シエ・バスティダさん(気候活動家)の三人の女性のうちの一人を選ぶことで、彼女たちの人生の物語を映像と空間演出で追体験できるようになっている。
ジェンダー平等の現状と未来を知る展示では、クイズ形式で世界の法制度を学べる「PUZZLE BOX」や、多様な人々からのメッセージが集まる「YOUR HAND」ゾーンも感動的である。
このように女性起業家による未来社会の提案、ケア・教育・地域づくりの展示や、多様性と包摂性をテーマにした展示など示唆に富む展示が印象的なパビリオンであるので、是非、足を運んでほしいと思う。
個人的には、パビリオンの屋上に設置されている、大阪の樹木で構成された「UPPER GARDEN」がお気に入りである。
【パナソニックグループ館・ノモの国】未来の暮らしを五感で体感
パナソニックグループ館・ノモの国の出典者は、パナソニックHDである。
「サステナブル・スマートライフ」をテーマに、エネルギー・家電・モビリティの未来を体験できるパビリオンである。
見どころは、スマート家電のインタラクティブ展示、再生可能エネルギーと蓄電技術や、家庭と都市のエネルギー最適化モデルなどである。
また、環境配慮型建築も注目されている。使用済み家電から回収されたリサイクルの鉄・銅・ガラスを活用して建設された、環境にも優しいパビリオンであるとされる。
ノモの国は、まるで私たちの「心の中にある冒険心」を解き放つような、感性とテクノロジーが融合した幻想的なパビリオンで、館内にはパナソニックグループが手がける体験型展示で、子どもも大人も夢中になれる仕掛けがいっぱい凝縮している。
例えば、Unlock体験エリアでは、五感を刺激する演出がある。音・光・風・ミスト・映像が融合した没入空間で、立体音響や360°映像、ミストウォールなどで、感覚が研ぎ澄まされる体験ができる。
また、館内で渡される「結晶」を使って、展示物に触れたり風を送ったりすると、行動や表情から性格診断が行われる。最後には自分の個性を映した「蝶」が誕生して、空間に舞い上がる演出が感動的である!
屋外の幻想的な空間「ノモテラス」は、撮影スポットとしても人気が高い。風や光の演出が実に美しい。昼間だけではなく、夜景も美しいことを忘れないでほしい。
【三菱未来館】宇宙と地球の未来をつなぐ
三菱未来館の出展者は、三菱グループである。三菱未来館は、地上に浮かぶmothership(大型宇宙船)のような外観をしたパビリオンである。資源循環を意識した設計で、解体後も資材を再利用できる構造になっているらしい。
三菱未来館のテーマは、JOURNEY TO LIFE(いのちを巡る旅)で、三菱グループの技術と想像力が凝縮している。
宇宙・エネルギー・モビリティの未来を描く展示となっている。月面都市構想や水素社会のシミュレーション展示が話題にも挙がる。
見どころは、月面都市のVR体験、水素エネルギー社会のシミュレーションや宇宙資源開発の展示などである。
館内では、垂直移動型シャトル(小型宇宙船)に乗り込んだ設定で、深海→地球→宇宙→火星へと7500万kmを旅する映像体験ができる。高さ9m×幅11mの巨大曲面スクリーンで、まるで乗り物に乗ってるような没入感が体験できる。
この宇宙の旅では、クリオネ風の可愛いナビゲーター(オリジナルキャラクターのビビとナナ)が案内してくれる。声優は花江夏樹さん(ビビ)、早見沙織さん(ナナ)、沢城みゆきさん(火星探査隊員)という豪華キャストが演じてくれているらしい。
生命の誕生・進化・未来を科学的に探る内容をアストロバイオロジー(宇宙生命科学)に基づいた構成で、約9分間の映像にまとめている。この映像を約100人が同時に鑑賞できるようになっているわけである。
また、三菱グループ30社の技術展示も充実している。自動運転、AI、次世代エネルギー、宇宙開発など、未来社会のリアルな技術が勢ぞろいした展示も見逃せない。
【飯田グループ館x大阪公立大学共同出展館】
出展者は、飯田グループHDと大阪公立大学である。このパビリオンの外観は、メビウス構造(紙を半回転させて端を貼り合わせた形状)であり、伝統工芸・西陣織を特殊加工して使用しているという。建築美×科学技術×伝統工芸の融合が美しく、このパビリオンの外観だけでも一見の価値がある!
飯田グループ館のテーマは、ウェルネススマートシティであり、館内は健康・環境・暮らしを軸に、未来の都市と住宅のあり方を体感できる空間になっている。
巨大ジオラマで見る未来都市は圧巻である。24m×15mのスケールで再現された2050年のウェルネススマートシティには、木造超高層ビル、次世代交通、脱炭素エネルギーなど、理想の街づくりが施されており、私たちはそれを巨大模型でビジュアルに体感できるようになっている。
未来の住宅「ウェルネス・スマートハウス」では、AIが心拍数や体温を測定し、健康アドバイスをくれる家が再現されている。脱炭素・断熱・自然素材を活用した暮らしの進化を体験できる演出である。腸内環境が可視化されるトイレなど、ユニークな発想が盛りだくさんの展示は観ていて楽しい。
また、人工光合成の最新研究展示も見逃せない。水(H₂O)と二酸化炭素(CO₂)から水素(H₂)を生成する技術を模型とパネルで紹介している。大阪公立大学との共同研究で、エネルギーの未来を楽しく学べる展示の演出となっている。
飯田グループ館×大阪公立大学館では、住宅と暮らしの未来をテーマに、スマートホーム、災害対応住宅、地域共生型都市開発の展示を見ることができるため、「未来の暮らし」をリアルに感じられる知的な冒険ができると言って良いかも知れない。
【住友館】
住友館の出展者は、住友グループである。住友館の外観は、四国別子の山々をモチーフにしているとされ、約1000本の杉とヒノキを使用しているという。木材を余すことなく使う「桂剥き」加工で、いのちを大切にする思想が込められているという。
館内は、資源循環、インフラ、環境技術を軸にした展示がなされている。鉱山から都市まで、サステナブルな社会構築のビジョンを提示しているのが特徴である。
ランタンを片手に、森の中を自由に探検するインタラクティブ体験で、木々との対話、動物たちの痕跡、菌類の輝きなど、見えない生命の営みを感じる幻想的な空間が話題となっているようだ。
また、幅20m×高さ7.5mの巨大スクリーンで、風・霧・音・映像が融合した大迫力の演出で、森を育んできたマザーツリーの「いのち輝く最期」に立ち会う感動体験が得られるのも住友館の人気の秘密であるようだ。
【共同出展パビリオン・未来の都市】
このパビリオンの出展者は、博覧会協会+12の企業・団体による共同出展となっている。
テーマ展示・コモン展示・企業展示の3エリアに分かれ、大阪・関西万博の中でも未来志向の象徴的なパビリオンの一つとなっている。まさに「未来社会の縮図」とも言える体験型展示が満載で、私のお気に入りのパビリオンである。
主な出展企業と分野
分野 | 出展企業・団体 |
---|---|
Society 5.0・都市設計 | 日立製作所、KDDI |
交通・モビリティ | 川崎重工業、商船三井、関西電力送配電 |
環境・エネルギー | 日本特殊陶業、IHI、カナデビア |
ものづくり・まちづくり | 神戸製鋼所、小松製作所、青木あすなろ建設 |
食と農 | クボタ |
魅力と見どころ
各企業が得意分野を活かして、未来の技術や社会課題への解決策を提示している。
テーマ展示「40億年・幸せの旅」
- 地球誕生から未来都市までを映像と空間演出で辿る体験
- 壮大な時間軸の中で、人類の進化と都市の変化を体感できる
Society 5.0の世界を体感!
- 日立製作所やKDDIなどが出展する展示では、AI・IoT・ロボットを活用した未来の都市生活を紹介
- 4つの立体キューブで構成された体験ゾーン
- スマートインフラと都市OSの提案(日立製作所)
- 5G・XRによる都市体験の拡張(KDDI)
- Society 5.0の実現による都市生活を、AI・IoT・エネルギー・モビリティの視点から体験できる
- 交通・医療・教育・防災など、暮らしのあらゆる場面がスマートに進化してる
未来のモビリティゾーン
- 川崎重工業や商船三井による空飛ぶ乗り物や次世代船舶の展示
- 次世代モビリティと自動運転技術(川崎重工業)
- 子どもも大人もワクワクする乗り物の未来が見られる
環境・エネルギーの最前線
- 関西電力やIHIなどが、再生可能エネルギー・水素技術・スマートグリッドを紹介
- 水素エネルギーとカーボンニュートラル技術(IHI)
- 地球に優しい都市づくりのヒントが多く展示
食と農の未来
- クボタによるスマート農業・都市型農園の展示
- スマート農業と食の安全保障
- 食料生産と環境保護の両立を考えるきっかけになる
建築・インフラの革新
- 神戸製鋼所や小松製作所などが災害に強い都市構造・資源循環型建築を提案
- 未来の街は、安心・安全・持続可能がキーワードとなる!
子どもから大人まで楽しめる設計(Mirai Arcade)
- 各展示は体験型・インタラクティブで、遊びながら学べる工夫がいっぱいである
- 都市の課題をゲーム感覚で学びながら、未来の選択肢を探ることができる
- バーチャル体験も充実していて、遠隔でも楽しめる
未来シアター
- 360度スクリーンとスマホ連動型の参加型シアター
- 2035年の都市課題に対して、自分の選択で物語が変化する没入体験が楽しめる
未来の都市パビリオンは、技術だけでなく、人と人とのつながり、都市のあり方、暮らしの質を問い直すことができる展示空間となっている。おすすめの国内パビリオンである。
あとがき
本記事で紹介したパビリオンは、単なる企業PRや行政展示ではなく、「未来社会への具体的な提案」のために日本の知恵と技術が集結した展示空間であると言える。
日本が誇る多様な知恵と技術が、EXPO 2025のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」にどう貢献するかを、来場者である私たち自身が体感できるのが最大の魅力であると言えよう。