はじめに
秋の紅葉は、自然が織り成す一大イベントであり、季節の変わり目を実感する季節でもある。夏の暑さから完全に癒え、冬の訪れを感じるなど、季節の移ろいを感じる瞬間でもある。
秋になると、カエデ、イチョウ、ナラなどの葉が鮮やかな赤色、黄色、オレンジ色に染まる。このカラフルな風景はまるで絵画のような美しい色彩で私たちを楽しませてくれる。日本では秋になると北から南へと順に全国的に紅葉が楽しめるが、その魅力は地域や紅葉の名所によって特徴が異なる。
個人的には静かな森や山中で紅葉を楽しみたいと思う。その理由は、自然の中でリフレッシュでき、心が洗われるような感覚が味わえるからである。一方で、有名な神社仏閣の境内での紅葉は、観光客が多いという問題を除けば、紅葉自体は素晴らしい。観光客が多いということは、その場所が紅葉の名所であることを物語っている。人混みを覚悟で、そんな紅葉の名所に押しかけてしまうのも人情というものであろう。
奈良県には美しい紅葉スポットがたくさんある。例えば、桜の名所として有名な吉野山も秋には紅葉の名所となる。また、大峯山も紅葉の季節に紅葉が目当ての観光客で賑わう。奈良県南部に位置する葛城山は、紅葉の季節には山全体が赤色やオレンジ色に染まる。このように奈良県は紅葉の名所に事欠かない。そんな奈良県の紅葉名所を私の撮った写真と共に紹介したい。
みたらい渓谷
みたらい渓谷は、奈良県吉野郡天川村北角にある渓谷である。新宮川水系天ノ川【てんのかわ】の支流である山上川下流部で、川迫川と合流する場所付近の渓谷を指す。みたらい渓谷は、漢字では「御手洗渓谷」と表示される。この名の由来は、南北朝時代に、後醍醐天皇の皇子・護良親王が勝利祈願に、この地で手を清めたとされる伝説によるという。
およそ200mという大きな高低差がある渓谷内には、大小の滝がいくつも流れ落ち、巨石・奇岩もいたるところに点在する。
大きな高低差(約200m)がある渓谷内には、大小の滝がいくつも流れ落ち、巨石・奇岩もいたるところに点在する。そのため四季折々の渓谷美を楽しむことができる。特に秋の紅葉時の景観は絶景というほど素晴らしい。川沿いには遊歩道も整備されており、ハイキング気分で散策すれば豊かな自然を満喫できる。
遊歩道は高低差が約200mあるので、天川村総合案内所を起点に洞川地区を目指す歩き方は登りになり、反対に洞川温泉観光案内所を起点に天川村総合案内所を目指す歩き方は下りになる。
みたらい遊歩道入口から約30分ほどで「みたらい休憩所」に到着する。ここまでは、ほぼ平坦な道程である。道路を挟んで「みたらい休憩所」横の石段から少し登った所は、みたらい渓谷のなかでも一番の見所であるという。確かに美しくて絶好の撮影スポットがいくつも存在した。
みたらい渓谷の紅葉は、見どころも多く、確かに見事である。唯一、残念な点を指摘するなら、その見頃の時期が読みにくい点であろうか。標高が高いので、他よりも紅葉の見頃時期は早いのは確かであるが、それが何日前かが全く予測できないし、情報も少ないように思う。まあ、見頃を過ぎていたとしてもそれなりに楽しむことができるのは有難いことではある。
渓谷を見渡すことができるみたらい大橋からの景色は圧巻である。ここがみたらい渓谷を代表する景観の一つとなっているのが容易に理解できる。筆舌できないほどの絶景である。
光の滝付近の紅葉も陽光に照らされて、とても綺麗であった。
みたらい渓谷から近い洞川温泉周辺でも紅葉が楽しめるスポットがいくつかあるので、時間があれば立ち寄ると良い。
名 称 | みたらい渓谷 |
所在地 | 奈良県吉野郡天川村北角 |
駐車場 | あり(無料)、有料駐車場もあり |
Link | みたらい渓谷 | 天川村公式サイト(奈良県) みたらい渓谷|奈良県観光[公式サイト] |天川村 みたらい遊歩道 | 天川村公式サイト(奈良県) 関西屈指の渓谷美!奈良・天川村「みたらい遊歩道」 |
龍泉寺
大峯山龍泉寺【おおみねさん りゅうせんじ】は、真言宗醍醐派の大本山であり、大峯山寺の護持院でもある。本尊の弥勒菩薩、八大龍王、役の行者尊は、全国信者の尊崇を集めている。修験道の根本道場として信者や登山者が訪れる霊場でもある。白鳳年間(645〜710年)に役行者【えんのぎょうじゃ】が大峯を開山し、修行していた頃に、山麓の洞川で岩場の中から水が湧き出る泉を発見したという。
役行者がその泉のほとりに八大龍王尊を祀り、行をしたのが龍泉寺の始まりであると伝えられている。この泉を「龍の口」と言い、この地を龍神様の住まわれる泉ということから、「龍泉寺」と名付けたとされる。龍の口より湧き出る清水によって満たされた池は、水行場としても名高く、修行者の身心を清める第一の行場となっている。
洞川から大峰山に登る修験者は、宗派を問わず龍泉寺に参拝し、水行の後、八大龍王に道中安全を祈ってから、山上ヶ岳に向かうしきたりとなっているという。
昭和21年(1946年)の洞川の大火によって、境内の建物のほとんどを焼失したが、昭和35年(1960年)に伽藍は復興された。秋の紅葉の季節になると、その境内は紅葉でとても美しくなり、しかも静かな雰囲気の中で自然を堪能できる。
紅葉の見頃の期間中は、境内はライトアップされ、幻想的な雰囲気を堪能することができる。但し、夜は冷えるので服装は温かくする必要がある。
龍泉寺の山門を出たすぐ先の川沿いには一際艶やかな紅葉を見せてくれるカエデの木があり、私のような写真愛好家がカメラを向ける姿をよく見かけることになる。しかし、足場が悪いので好みの構図を探すのが大変である。
みたらい渓谷の紅葉の見頃は過ぎていたが、洞川温泉前に位置する龍泉寺はちょうど紅葉の見頃を迎えていた。
名 称 | 龍泉寺 |
所在地 | 奈良県吉野郡天川村洞川494 |
Link | 奈良吉野・天川村|真言宗醍醐派大本山|大峯山 龍泉寺 |
談山神社
談山神社【たんざんじんじゃ】は、藤原鎌足を祀る神社である。大化元年(645年)に、中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣鎌足(後の藤原鎌足)が、この神社が鎮座する多武峰【とうのみね】において宿敵の蘇我入鹿【そがのいるか】を討ち滅ぼそうと談合したという伝承があり、神社の名称の由来となっている。
談山神社の境内にある十三重塔は、定慧和尚が、父・鎌足の供養のために678年に創建した塔婆で、現存のものは1532年に再建されたものであるという。現存する木造の十三重塔としては世界唯一のものであり、非常に貴重な建造物であるということだ。
談山神社権殿は、天禄元年(970年)に摂政右大臣藤原伊尹の立願によって創建されたという。実弟の如覚(多武峰少将藤原高光)が阿弥陀像を安置したという元常行堂でもある。
私たちが談山神社を参拝したのはちょうど紅葉の季節であったので、紅葉のなかの社殿の景色は本当に綺麗であった。少し構図が違うだけでも違った印象が得られるのは実に楽しい。
談山神社の境内全体が紅葉で彩られ、どこで撮影してもそれなりの写真が撮れるが、特に談山神社権殿横辺りから眺める紅葉を被写体にするのが構図的には良いと個人的には思う。
秋の紅葉の季節には、談山神社の境内は写真愛好家のパラダイスになると思う。何故なら広大な境内では観光客同士が混みあうことが少ないからである。
談山神社では、拝殿から眺める紅葉も綺麗である。構図を工夫すれば、絵画のような写真を撮ることもできる。
談山神社が紅葉シーズンに合わせてライトアップされると聞いていたので、防寒着をしっかり準備して行ったのは良かった。日が沈むと急に外気が冷えて、一段と寒くなるからである。しかし、不思議なもので写真撮影に夢中になっている間は寒さのことを忘れていた。拝殿から眺める紅葉は、昼間とは違った雰囲気を醸し出していた。写真では分かりづらいかも知れないが、幻想的な雰囲気を楽しむことができた。
今回、談山神社を参拝した私の理由の一つは、日本で唯一無二の十三重塔の写真を撮ることであったので、自然と十三重塔の写真が多くなった。
他の社殿に興味がなかったわけでは決してないが、相対的に両者の差が開いてしまった。心のままにシャッターを押したからに相違ない。
同じような写真を何枚撮ったことであろうか。後でどれを選ぶか迷ってしまうことも考えずに・・・
しかしながら、構図にほんの少しの変化をつけながら写真を撮るのが写真愛好家の醍醐味である。プロの写真家にも決して味わうことができない楽しみである。趣味だからこそできる贅沢と言って良いかも知れない。
勿論、プロの写真家は、私が撮った写真などは歯牙にもかけないであろうが、それでも一向に構わない。
名 称 | 談山神社 |
所在地 | 奈良県桜井市多武峰319 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 【公式】大和多武峰鎮座|談山神社 |
室生寺
室生寺【むろうじ】は、奈良県宇陀市室生に位置する、真言宗室生寺派の大本山の寺院である。山号は宀一山【べんいちさん】または檉生山【むろうさん】で、御本尊は如意輪観音である。天武天皇の勅願によって、役の行者【えんのぎょうじゃ】と呼ばれる修験道の祖、小角【おづぬ】がこの室生の地に初めて寺を建立したと伝わる。
奈良時代末期、山部親王(後の桓武天皇)の延寿祈祷をきっかけに、興福寺の高僧・賢璟【けんけい】が勅命を受けて、弟子の修圓が平安遷都まもなくの頃に堂塔伽藍を建立したという。その後、弘法大師・空海の弟子であった真泰が真言密教を携えて入山し、灌頂堂や御影堂等が整えられた。真泰は修圓とも親交が深かったと伝わっている。
弘法大師・空海が開山した高野山金剛峯寺は、かつては女人禁制の聖地であり、女性の参詣は許されていなかった。一方、室生寺は真言宗室生寺派大本山とされ、高野山金剛峯寺とは異なり、古から女性の参詣が許されていた。そのため室生寺は「女人高野」と呼ばれるようになったと言われている。
室生寺は、春にはシャクナゲで有名なお寺ではあるが、秋の紅葉の季節に美しい紅葉スポットに変貌する。この紅葉を目当てに多くの参拝客や観光客で境内が賑わう。
本堂への参道の両側に並ぶカエデの木々が一際艶やかに赤色やオレンジ色に染まり、写真愛好家の恰好の被写体となっていた。
名 称 | 室生寺 |
所在地 | 奈良県宇陀市室生78 |
駐車場 | あり(有料:600円)門前に最も近い駐車場 室生寺前駐車場(さかや):500円(おススメ!) |
Link | 女人高野 室生寺 (murouji.or.jp) |
奈良県内の紅葉名所一覧
紅葉の名所 | 所在地 |
---|---|
みたらい渓谷 | 奈良県天川村 |
大台ケ原 | 奈良県北山村 |
奈良公園 | 奈良県奈良市 |
正暦寺 | 奈良県奈良市 |
談山神社 | 奈良県桜井市 |
長谷寺 | 奈良県桜井市 |
橿原神宮 | 奈良県橿原市 |
岡寺 | 奈良県明日香村 |
信貴山 朝護孫子寺 | 奈良県平群町信貴山 |
吉野山 | 奈良県吉野町 |
高取城跡 | 奈良県高取町 |
室生寺 | 奈良県宇陀市 |
県立竜田公園 | 奈良県斑鳩町 |
奥香落渓 | 奈良県曾爾村 |
長岳寺 | 奈良県天理市 |
(太字は、私が実際に紅葉の季節に訪ねたことがあるお勧めの紅葉名所)
参考:ウエザーニュース・紅葉
あとがき
奈良県には紅葉の名所と呼ばれる観光スポットが多いにも関わらず、私自身はあまり出かけていないことが本稿を書いていて気付いた。結構多くの場所に足を運んでいたつもりになっていたが、それは秋ではなく春の桜の季節や、牡丹の開花の季節であったからである。
如何せん、本質的に出不精な私は妻に半ば強引に誘われなければ(実態は命令に近い指示か?)、一人で出かけられない軟弱者であるから致し方ない。こうして撮った写真を基にしてブログが書けるのは妻のおかげであると感謝している。