はじめに
ユウスゲは、ススキノキ科ワスレグサ属に分類される多年草で、葉の形状がスゲに似ていることと、花が夕方に開き翌日の午前中にしぼむという特性が名の由来だとされる。別名でキスゲと呼ばれるように、ニッコウキスゲに似た同じ黄色いラッパ状の花を咲かせる。
日本では本州、四国、九州に分布すると言われているが、多数の都道府県で絶滅危惧種に指定されている。千葉県ではすでに絶滅しており、長野県の霧ヶ峰や滋賀県の伊吹山では、ニホンジカの食害により植生の衰退が危惧されているという。ほかにも海岸開発、道路工事、草地開発、自然遷移、園芸採集などによって個体数が減少している地域があるとされる。(引用:ウィキペディア Wikipedia)
和歌山県でもユウスゲは絶滅危惧種に指定されている。そんな貴重なユウスゲが咲いている海岸があると聞いた。その場所は和歌山県が指定する西有田【にしありだ】県立自然公園の指定区域内の何処かにあるという。
西有田県立自然公園は、宮崎ノ鼻(有田市)から唐尾湾(広川町)までの海岸に和歌山県が指定した自然公園である。典型的なリアス式海岸が続く、美しい景観で知られる場所である。
私は、朝咲いて夕方には萎むニッコウキスゲが好きであるが、ユウスゲはまだ見たことがなかった。ニッコウキスゲとは逆に夕方に咲き翌朝には萎むというユウスゲにも興味を抱いた。それでユウスゲを探して西有田県立自然公園を旅することにした。
宮崎ノ鼻
宮崎ノ鼻は、有田市に位置し、有田川の河口の南側から太平洋に突き出た岬である。
宮崎ノ鼻は、高さ約80mの断崖になっている。太平洋の波が眼下の岩に打ち寄せ、砕けてしぶきをあげる様子は壮観である。
宮崎ノ鼻には、白亜の「紀伊宮崎ノ鼻灯台」が建てられている。想像していたより小ぶりの灯台ではあったが、こんな場所に灯台を建設するには苦労したであろうことは想像に難くない。
登山道が整備されているので道に迷うリスクは小さいが、急斜面に沿って道がつけられているので非常に滑りやすい。滑らないようにするため、往路は右足が、復路は左足が痛くなるほどに力がかかる。登山道が雨で濡れている場合はさらに滑りやすくなっているはずなので、登山は避けた方が賢明であろう。
紀伊宮崎ノ鼻灯台への登山道は、結構な登りなので、夏場の登山は運動不足の私にはかなりきつかった。途中には大きな蜘蛛の巣が登山道を塞ぐように張っており、夏場に灯台へ行く人はほとんどいないのかも知れない。
また往路と帰路の2回、ヘビにも出会った。私は脚が多いムカデは苦手だが、脚のないヘビはもっと苦手である。夏の暑さと急斜面の登山でかいた汗が、冷や汗に変化したのを実感した。彼らの出てこない冬場の登山の方が快適かも知れない。
宮崎ノ鼻の崖地には、ウバメガシやトベラなどの自然林が分布しているという。さらに、崖地の尾根には貴重な植物群落とされるキキョウランの群落が見られるという。その群落の大きさは和歌山県でも最大規模の部類に入るとされる。
名 称 | 宮崎の鼻・紀伊宮崎ノ鼻灯台 |
所在地 | 和歌山県有田市宮崎町 |
駐車場 | なし(女の蒲海水浴場の駐車場を利用) |
Link | 宮崎ノ鼻|有田市公式ウェブサイト |
船越
船越【ふなこし】は、宮崎ノ鼻と女ノ浦海水浴場の間に位置する斜面地で、ユウスゲの群生地として知られる。
7~8月頃の夕方にはユウスゲの黄色い花を観ることができるというので、8月上旬に探しに出かけていったが、残念ながら一輪も見つけることができなかった。
時期が遅かったのであろうか。しかし、茎や葉さえ見つけることができなかった。絶滅していなければよいのだが・・・
覆われていたので、登るのを断念!
船越は、隣の荒越とは異なり、波は穏やかで、静かな砂浜という感じがとても癒された。
名 称 | 船越のユウスゲ群生地 |
所在地 | 和歌山県有田市宮崎町 |
駐車場 | なし(女の蒲海水浴場の駐車場を利用) |
Link | 宮崎ノ鼻|有田市公式ウェブサイト |
荒越
荒越【あらこし】の浜は、好天の日でも太平洋の荒波が押し寄せ、岩場に当たって水飛沫をあげていた。
反対側の船越とは50mも離れていない距離しかないけれども、見える景色は全く異なっていた。非常に興味深い体験であった。
矢櫃海岸
矢櫃海岸【やびつかいがん】は、美しい景観の海岸で、和歌山県では、朝日や夕陽が綺麗な海岸として知られている。
矢櫃から逢井、高田にかけての海岸にはアコウの自生がみられるという。アコウは、クワ科の半常緑高木であり、元来は台湾、中国南部、沖縄の海岸に生育するものらしい。和歌山県の矢櫃地区はアコウの自生地としては東限で、かつ、北限であるといわれている。
名 称 | 矢櫃海岸 |
所在地 | 和歌山県有田市宮崎町 |
駐車場 | なし |
Link | 矢櫃(やびつ)地区 – 有田市観光協会 |
栖原海岸
栖原海岸【すはらかいがん】は、海水の透明度が高いので絶好の海水浴場として利用されている。
端崎【はしざき】は、栖原漁港の南西に位置する地磯(陸続きの磯場)であり、釣り場のすぐ目の前に駐車することができる。磯釣りを楽しむには絶好の場所である。また、朝日と夕陽が美しい海岸であることでも知られている。
水深は浅いので、グレとチヌを釣るためには沖に向かって投げ釣りをする。高校時代は湯浅町湯浅で過ごしたので、私も先輩に連れられてここで釣りをした経験がある。
毛無島【けなしじま】は、端崎の西側の沖に位置する島であり、端崎からの景観が素晴らしい。
栖原海岸は、起伏に富んだ海食崖とウバメガシの植生が見られ、海岸景観が素晴らしいことで知られる。
名 称 | 栖原海岸 |
所在地 | 和歌山県有田郡湯浅町栖原 |
駐車場 | なし |
Link | 栖原海岸 | 湯浅町観光公式ホームページ |
名南風鼻・鷹島
名南風鼻【なばえのはな】は、湯浅湾に突き出た岬である。そして、明恵【みょうえ】上人ゆかりの鷹島【たかしま】(無人島)は、名南風鼻の西側約0.8 km先の湯浅湾沖に浮んでいる。
名南風鼻から眺める鷹島の景観は、西有田県立自然公園の観光スポットとなっているが、私はまだその場所に立った経験はない。
鷹島は、鎌倉時代初期の華厳宗の高僧・明恵上人が修行をしたと伝わる島である。頂上付近には石積みの基壇跡や寺院跡が見つかっているという。
平成15年(2003年)には明恵が詠んだという和歌の歌碑が建立されたという。
かつて島内にはスダジイが繁茂していたと伝わるが、現在はスダジイ林はわずかにしか分布していないという。
名 称 | 名南風鼻・鷹島 |
所在地 | 和歌山県有田郡広川町西広 |
駐車場 | なし(樫長海岸沿いの茂みに駐車) |
Link | 名南風鼻及び鷹島の景観 | 和歌山広川町の日本遺産 |
西広海岸
西広海岸【にしひろかいがん】は、遠浅の砂浜が広がり、夏場は大勢の海水浴客で賑わう。
西広海岸は、夕日が綺麗な海岸としても知られている。
名 称 | 西広海岸 |
所在地 | 和歌山県有田郡広川町西広 |
駐車場 | あり(有料) |
Link | 西広海岸 | 百世の安堵 – 和歌山広川町の日本遺産 西広海岸|広川町 |
あとがき
ユウスゲの花が見たくて西有田県立自然公園指定区域内の船越を探し出し、8月初旬に行ってみた。黄色い花をつけたユウスゲの群落を期待して行ったが、一輪のユウスゲも見つけられずに帰宅せざるを得なかった。
私が探した場所がよくなかったせいで見つからなかったのならば笑って済ませられる。しかし、絶滅しているならば、事は重大である。非常に気がかりである。「まぼろしの花」でないことを願って、来年、もう一度確認するために訪れたいと思っている。
ユウスゲの花ばかりに気をとられていて、西有田県立自然公園指定区域内の海岸からの夕日をゆっくりと見る時間がなかった。もっとも夕方から雲がかかってきて夕陽が見える状況ではなかったので、夕陽は次回のお楽しみということにしておこう。