はじめに
秩父多摩甲斐【ちちぶたまかい】国立公園は、奥秩父山塊【おくちちぶさんかい】を中心とした埼玉・山梨・長野・東京の一都三県にまたがる国立公園である。奥秩父山塊とは、おおまかに言えば、東は雲取山、西は瑞牆山、南は大菩薩嶺、北は両神山までの山域を指す。
保水力の大きな森林と、その水が源流となって流れ出る渓谷の美さがこの山域の魅力となっている。特に、渓谷美で知られているのは、西沢渓谷、東沢渓谷や御岳昇仙峡などである。
私は大学時代にワンゲル部(ワンダーフォーゲル部)に所属していたことから、奥秩父の山々へは「錬成」と称するトレーニング登山で何度か登っている。トレーニング登山なので、楽しい想い出はあまり残っていないが、それでも金峰山や雲取山、それに甲武信ヶ岳などのことはよく覚えている。
<目次> はじめに 両神山 三国山 三国峠 十文字峠 三峰山(妙法が岳・白岩山・雲取山) 三宝山 甲武信ヶ岳 鶏冠山 木賊山 破風山 雁坂峠 笠取山 将監峠 飛龍山 国師岳 北奥千丈岳 奥千丈岳 大弛峠 朝日岳 金峰山 瑞牆山 乾徳山 大菩薩嶺 あとがき |
両神山
両神山【りょうかみさん】(標高1,723m)は、奥秩父山塊の北端に位置する山である。古くからの信仰の山であり、表登山道とされる東面の日向大谷からの道には、数多くの石仏、石碑、丁目石が残されている。
両神山、三峰山、武甲山をあわせて「秩父三山」と呼ばれる。
三国山
三国山【みくにやま】(標高1,834m)は、群馬県(多野郡上野村)・埼玉県(秩父市)・長野県(南佐久郡川上村)の3県にまたがる山である。山名は、旧国名の上野国・武蔵国・信濃国の3国の境界に位置することに由来する。山頂から1kmほど南の鞍部には三国峠がある。
三国峠
三国峠【みくにとうげ】(標高1,740m)は、三国山の山頂から1kmほど南の鞍部に位置する峠である。
三国山から三宝山に続く尾根を超える峠となっている。この峠を長野県と埼玉県を直接結ぶ唯一の車道が通っている。
名 称 | 三国峠 |
所在地 | 埼玉県秩父市中津川~長野県南佐久郡川上村 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 中津川林道(三国峠) | 日産ドライブナビ |
十文字峠
十文字峠【じゅうもんじとうげ】(標高1,962m)は、奥秩父にある峠である。
十文字峠の埼玉県側斜面には十文字小屋がある。山小屋は丸太組みの昔ながらの造りで、風情がある。
十文字小屋の周辺には多くのアズマシャクナゲの群落があり、シャクナゲが開花する5月末~6月には美しい景色を堪能できる。
また、乙女の森は十文字小屋から約5分歩いた先にあり、原生林が広がっている。原生林とシャクナゲのコントラストが美しい。
名 称 | 十文字峠 |
所在地 | 埼玉県秩父市大滝十文字峠 |
Link | シャクナゲ(十文字峠) | 秩父観光なび ハイキング:十文字峠コース | 秩父観光協会 ハイキング:栃本広場~十文字峠コース | 秩父観光協会 |
三峰山
三峰山とは、妙法ヶ岳、白岩山、雲取山の三山の総称である。かつて修験道が盛んであった時代には信仰の対象となった山々である。
妙法が岳
妙法が岳【みょうほうがたけ】(標高1,326m)は、埼玉県秩父市にある山で、山頂には三峯神社の奥の院(奥宮)がある。
かつての修験道が盛んであった時代の名残として山頂には祠と多くの石碑が残されている。
白岩山
白岩山【しらいわやま】(標高1,921m)は、埼玉県秩父市にある山である。妙法が岳のように山頂部に祠や石碑があるわけではない。
雲取山
雲取山【くもとりやま】(標高2,017m)は、 東京・埼玉・山梨の1都2県にまたがる山である。妙法が岳のように山頂部に祠や石碑があるわけではない。
三宝山
三宝山【さんぽうざん】(標高2,483m)は、埼玉県(秩父市)と長野県(南佐久郡川上村)の県境にある山で、甲武信ヶ岳の北隣に位置する。山頂に一等三角点があり、埼玉県の最高峰とされる。山頂の眺望は全く開けていないが、すぐ近くの三宝岩からの眺望が良い。
甲武信ヶ岳
甲武信ヶ岳【こぶしがたけ】(標高2,475m)は、山梨・埼玉・長野の3県の県境にある山で、奥秩父山塊主脈のほぼ中央に位置する。
山名の由来は、甲州(山梨県)、武州(埼玉県)、信州(長野県)にまたがる山であるからという説が有力である。
鶏冠山
鶏冠山【とさかやま】(標高2,177m)は、奥秩父山塊のほぼ中央部に位置し、山梨県山梨市に属する山である。山名は、山頂部に連なる岩峰がニワトリのトサカのように見えることに由来するらしい。山頂より南の尾根上に第一岩峰、第二岩峰、第三岩峰と続く。鶏冠山は、東沢渓谷の北側に位置している。
木賊山
木賊山【とくさやま】(標高2,468m)は、山梨県(山梨市)と埼玉県(秩父市)の県境にある大きな山容の山である。木賊山の山頂は樹林に囲まれ眺望はない。
しかし、甲武信ヶ岳方面へ少し下った所には展望の良い場所があり、そこからは正面に甲武信ヶ岳、遠くには国師岳や金峰山などの山々を望むことができる。
破風山
破風山【はふさん】(標高2,318m)は、山梨県(山梨市)と埼玉県(秩父市)の県境にある山で、別名は「破不山」である。
木賊山と雁坂嶺の間に東西に長い山稜の両端にそれぞれ東破風、西破風と呼ばれるピークがあり、標高が高い方の西破風が破風山の山頂とされている。
破風山は、奥秩父山塊主脈を縦走する過程で必ず通過する山であるが、山頂を示す標識がないと見逃してしまいそうである。
雁坂峠
雁坂峠【かりさかとうげ】(標高2,070m)は、埼玉県(秩父市)と山梨県(山梨市)の県境にある雁坂嶺の尾根に位置する峠である。かつての武蔵国と甲斐国を結ぶ峠であった。峠には笹薮の草原が大きく広がり、南側に広い展望が開けている。
かつて雁坂峠を越えるハイキングコースが国道140号に指定されていた時代があった。自動車で通行することはできない国道のため当時は「開かずの国道」と呼ばれたという。
現在は、国道140号が雁坂峠のほぼ真下を雁坂トンネルで通過している。雁坂トンネルを山梨側に出たすぐのところに西沢渓谷が位置する。一方、埼玉側には雁坂小屋があり、宿泊もできる。
名 称 | 雁坂峠【かりさかとうげ】 |
所在地 | 埼玉県秩父市大滝3423 |
Link | 雁坂峠|埼玉県の山と峠への鉄道バス案内 日本三大峠「雁坂峠」とは? | kurashi-no 雁坂峠(雁坂小屋公式ブログ) |
水晶山
水晶山【すいしょうやま】(標高2,158m)は、埼玉県(秩父市)と山梨県(山梨市)の県境にある山である。
笠取山から雁坂嶺へ尾根伝いに行くと、燕山、古礼山、水晶山、雁坂峠を通る縦走路となる。
笠取山
笠取山【かさとりやま】(標高1,953m)は、埼玉県(秩父市)と山梨県(甲州市)の県境にある山である。山頂南側部には水干【みずひ】(水乾)と呼ばれる多摩川の水源がある。
将監峠
将監峠【しょうげんとうげ】は、龍喰山【りゅうばみやま】と牛王院平【ごおういんだいら】の鞍部に位置する峠である。付近からは、和名倉山への登山道が分岐している。将監峠には将監小屋が季節営業(4月下旬〜11月上旬)している。
名 称 | 将監峠【しょうげんとうげ】 |
所在地 | 山梨県甲州市塩山―之瀬高橋489 |
Link | 将監小屋 – 山梨県甲州市観光協会 ぐるり甲州市 将監小屋 │ 山小屋.info |
唐松尾山
唐松尾山【からまつおやま】(標高2,109m)は、埼玉県(秩父市)と山梨県(甲州市)の県境にある山である。山名は、かつて山一帯がカラマツ林だったことに由来するという。
飛龍山
飛龍山【ひりゅうさん】(標高2,077m)は、奥秩父山塊の主稜線上にある山である。山名の由来は、飛龍権現が祀られているからである。
国師岳
国師岳【こくしだけ】(標高2,591m)は、山梨県(山梨市)と長野県(南佐久郡川上村)の県境にある山である。奥秩父山塊の最高峰である北奥千丈岳とほぼ一体をなす山でもある。つまり、奥秩父山塊の主脈をなす山の一つで、山頂には一等三角点が設置されている。
山名の由来は、夢窓疎石の偉業に対して地元民が付けたといわれている。夢窓疎石は、鎌倉時代末から南北朝時代・室町時代初期にかけて活躍した臨済宗の禅僧で、作庭家・漢詩人・歌人でもあり、後醍醐天皇から「夢窓国師」の国師号を授けられた多才な人物であった。
北奥千丈岳
北奥千丈岳【きたおくせんじょうだけ】(標高2,601m)は、山梨市に位置する、奥秩父山塊の最高峰である。最高峰であるが、主稜線からは少し外れている。標高差が10mしかない国師岳とほぼ一体の山であり、両山頂は徒歩5分程度で往来できるという。山頂からの眺望は素晴らしく、晴れた日には360度の展望が開けているらしい。
山名の由来は、奥千丈岳(標高2,409m)の北側約4 km先に位置することから名付けられたとされる。最高峰であるにも関わらず、国師岳や金峰山と比べると知名度が低いのは、この山名の名付け方がやや雑であったせいかも知れない。もっとこの山に対して愛着が持てる独自の山名が付けられていたなら、奥秩父山塊で最も有名な山になっていたかも知れない。名前は大切である。
奥千丈岳
奥千丈岳【おくせんじょうだけ】(標高2,409m)は、山梨市に位置する山で、奥秩父山塊の主脈をなす。
しかしながら、白檜平【しらべだいら】の登山口から国師岳(標高2,591m)へと登っていく途中にある山であるため、山頂という印象は薄く、稜線上のこぶ状のピークの一つと捉えられ、標識がなければ見過ごされるほどであるという。また樹林帯のために頂上からの展望がないのも見過ごされやすいのかも知れない。不運な山というしかない。
大弛峠
大弛峠【おおだるみとうげ】(標高2,360m)は、山梨県(山梨市)と長野県(南佐久郡川上村)の県境にある峠である。峠を通過する林道が整備されており、峠には駐車場もある。一般車両で通行できる峠としては「日本最高所」の車道峠であるとされる。
峠の駐車場から徒歩約15分圏内に「夢の庭園」が整備されており、散策が楽しめるという。特に、6月のシャクナゲの季節や秋の紅葉シーズンの土日祝日は大いに賑わうという。
名 称 | 大弛峠【おおだるみとうげ】・夢の庭園 |
所在地 | 山梨県山梨市牧丘町北原 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 大弛峠/夢の庭園/山梨県公式観光情報 夢の庭園|山梨市観光協会 |
朝日岳
朝日岳【あさひだけ】(標高2,579m)は、長野県(川上村)と山梨県(甲府市)の県境にある山である。
朝日岳は、大弛峠【おおだるみとうげ】から朝日峠へ登り、さらに金峰山への登山道の途中にある山である。山頂は露岩となっていて、山頂からは西側に金峰山が見える。
金峰山
金峰山【きんぷさん】(標高2,599m)は、山梨県(甲府市)と長野県(南佐久郡川上村)の県境にある山である。山頂部は開けていて360度の展望が楽しめる。
古くから信仰の対象となる山で、蔵王権現が祀られている。山頂には、金櫻神社【かなざくらじんじゃ】の御神体とされる五丈岩【ごじょういわ】がある。
瑞牆山
瑞牆山【みずがきやま】(標高2,230m)は、奥秩父山塊の西端に位置する山である。山体は黒雲母の花崗岩でできており、風化や浸食の影響で南西部には独特の景観の岩峰が聳える。
古くからの信仰の山で、洞窟には修験者の修行跡や刻字が残り、山頂の西峰には弘法岩があり、空海開山伝説も伝わる。
乾徳山
乾徳山【けんとくさん】(標高2,031m)は、甲武信ヶ岳の南方、金峰山の南東、笠取山の南西、大菩薩嶺の北西に位置する山である。
乾徳山には夢窓疎石(国師;鎌倉時代に活躍した臨済宗の僧)が座禅をしたと伝わる座禅石や髪剃岩、天狗岩などの奇石がある。中腹にも夢窓疎石との関わりを伝える銀晶水や錦晶水などの水飲場がある。
大菩薩嶺
大菩薩嶺【だいぼさつれい】(標高2,057m)は、奥秩父山塊の南端に位置する山である。
大菩薩峠(標高1,897m)は、大菩薩嶺の南方約2kmに位置する尾根の鞍部にある峠である。武蔵国と甲斐国を結ぶ甲州裏街道的存在であった青梅街道の重要な峠として江戸時代まで利用されていたという。また、大菩薩峠は青梅街道の最大の難所でもあったらしい。
中里介山の長編時代小説である『大菩薩峠』が原作の映画がテレビ放送されていたのをぼんやりと私は覚えている。主人公の剣士・机竜之助【つくえ りゅうのすけ】の旅は、大菩薩峠から始まることになっている。だから大菩薩峠に登ったときには真っ先にこの映画のシーンを想像したものである。
名 称 | 大菩薩峠 |
所在地 | 山梨県甲州市 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 大菩薩峠/やまなし観光ネット 山梨県公式観光情報 |
あとがき
緒言にも書いたが、奥秩父の山々へは「錬成」と称するトレーニング登山で登ったことの印象が強く残っていて、決して楽しくはなく、どちらかというと苦しかった想い出しかない。毎回のトレーニング登山のたびに先輩のいない水飲み場で親友といつワンゲル部を止めるかをお互いによく相談しあったものである。
普通のハイキングなら本当は素晴らしく楽しいはずの金峰山や雲取山への登山ですら、当時の私たちにはバテバテの辛かった記憶しか残っていない。
甲武信ヶ岳へは単独行で登っているが、そのときは鼻歌がでるような楽しいハイキングであったように記憶している。奥秩父山塊の山々ではそんな楽しい登山をしたいものである。