はじめに
2025年春、日本が世界の注目を集める一大イベント――大阪・関西万博が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、158か国・地域と7国際機関が参加して開催され、早いもので6カ月の会期も終盤を迎えている。
開催前のマスコミによるネガティブ報道とは裏腹に、多くの人々が訪れ、盛況が続いている。人気パビリオンには酷暑の中、長蛇の列が長く伸び、なかなか入館できない。事前予約もなかなか当選しないので、並ぶ必要のない万博を目指していたのではないのかと愚痴の一つも言いたくなる。それが人情というものである。
イタリア館やフランス館のような海外の人気パビリオンに入館するには確かに長蛇の列に並んで長時間待つ必要がある。しかし、海外旅行で行くことを思えば、待つだけの価値はある場合が多いのではないだろうか。つまり、万博は意外にコスパの良い海外体験ができる場となっている。現代のように海外旅行が普及していなかった1970年の大阪万博を経験している私のような世代には特にそんな想いが強いのではないだろうかと思う。
こんな御託を言わなくとも、洗練された海外パビリオンの外観と展示物を見物するのは非常に楽しい。それは万博の良さが凝縮しているからであろう。
閉会まで残すところ1カ月を切ってしまったが、このグローバルな祭典に是非、足を運び、世界と繋がる体験をしてみてほしい。
<目次> はじめに 注目の海外パビリオン20選 サウジアラビア館 クエート館 イタリア館 フランス館 アメリカ館 TECH WORLD(台湾館) 中国館 大韓民国館 インド館 インドネシア館 マレーシア館 ウズベキスタン館 アラブ首長国連邦(UAE)館 カタール館 バーレーン王国館 トルクメニスタン館 セルビア館 スペイン館 ドイツ館 オーストラリア館 あとがき |
注目の海外パビリオン20選
EXPO 2025大阪・関西万博は、ただの展示会ではない。世界の課題に向き合い、未来を共に創るための「対話の場」でもある。特に、海外パビリオンを巡ることで、文化の違いを超えた共感や発見がきっとあるはずである。
EXPO 2025に出展している海外パビリオンは、単なる展示ではなく、各国が描く「未来の社会」そのものを私たちにイメージさせてくれる。文化、技術、価値観が交差するこの空間で、私たち自身の未来へのヒントがきっと見つかるはずである。
海外パビリオンには各国が自国の文化、技術、未来への取り組みを紹介する展示スペースが多い。建築デザインから展示内容まで、すべてがその国の個性を反映しており、まるで世界旅行をしているかのような体験ができる。
各国が独自の建築美を競い合うように、外観デザインにも力を入れている。たとえ入場制限がかかり入館できなくとも、魅力的な外観を楽しむことができる海外パビリオンも多い。そんな感動を呼ぶ海外パビリオンを紹介してみたい。
これらの海外パビリオンは、展示内容だけでなく、建築そのものがアートとなっている。建築好きはもちろん、SNS映えを狙う人にもおすすめである。朝・昼・夜で表情が変わるパビリオンも多い。そのため時間を変えて訪れるのも一興であろう。
【サウジアラビア館】未来都市を象徴する幾何学美のパビリオン!未来と伝統の交差点
サウジアラビア館は、ネオム構想を反映した近未来的なデザインである。鋭角的なフォルムと鏡面仕上げの外壁が、砂漠の太陽を反射して幻想的な光景を生み出している。
夜になるとLEDライトで鏡面仕上げの外壁が幻想的に輝く。LEDライトの幾何学模様の光が建物全体を包み込み、まるでSF映画の世界に迷い込んだような感覚にもなる。まるで未来都市ネオムが浮かび上がるようである。砂漠の静寂とテクノロジーの融合を感じられる圧巻の演出と言えよう。
サウジアラビア館は、伝統文化と未来都市構想が融合した壮大な空間でもある。巨大なLEDスクリーンと没入型映像で、未来都市プロジェクト;ネオムのビジョンを体感できる。ネオムの都市模型とAI技術の展示が見どころである。
また、伝統音楽と現代アートの融合パフォーマンスも見どころとなっている。
砂漠の王国が描く持続可能な未来は、まさに驚きの連続と言えよう。時間が許せば、サウジ料理のフュージョンメニューを楽しんでみるのも良いだろう。
実は、サウジアラビア館は私が大阪・関西万博で最初に入館したパビリオンである。西ゲートから入場して、大屋根リングの下をブラブラしていたらスタッフから『Now you can get in in 5 seconds.』と呼び止められた。私が『Is it 5 minutes?』と問い返すと、『No, five seconds!』と返ってきた。おかげで、確かにすぐに入館することができた。後日、再入館しようと思ったが、いつも長蛇の列ができていたので、今思い起こせば、ラッキーであったというしかない。
【クエート館】砂漠の風を感じさせる帆型構造のパビリオン内は水と砂の知恵が満載!
クエート館は、伝統的なダウ船の帆をモチーフにした外観が特徴である。風を受けて膨らむ帆のような曲面が、自然との調和を感じさせる。ベージュと白を基調とした色使いが、砂漠の穏やかな風景を彷彿とさせ、静かな美しさを放っており、数あるパビリオンの中でも秀逸である。
クエート館では、限られた資源の中で築かれた持続可能な社会の知恵を紹介している。水の再利用技術や太陽光発電の実例が展示され、環境と共生する中東のライフスタイルに触れることができる。
見どころは、砂漠での水循環システムの体験展示、クエートの伝統建築を再現した空間や地元職人による工芸品のライブ制作であろうか。
クエート館は人気のパビリオンであるため、なかなか入館できる機会がなかった。基本的に並ぶのが嫌いな私であるからなおさらである。妻に強く誘われなかったら、入館することはなかったであろう。しかし、非常に印象深いパビリオンであり、今となっては入館しておいて本当に良かったと思っている。誘ってくれた妻に感謝である。
【イタリア館】ルネサンスの美と革新の現代建築の融合
イタリア館(+バチカン市国館)は、クラシカルなアーチ構造と現代的なガラス素材を組み合わせた優雅な外観をしたパビリオンである。フィレンツェの建築美を思わせる曲線美と、環境に配慮したグリーンウォールが調和し、芸術とサステナビリティの共存を体現している。
夜になると建築美を際立たせるように、アーチやガラス面が柔らかな光で照らされる。ルネサンス建築を思わせる陰影のあるライトアップは、まるで美術館のような雰囲気である。大屋根リングの夜の散策にぴったりなロマンチックな風景を提供してくれる。
イタリア館は、芸術・デザイン・科学技術が融合した「美の体験空間」である。ルネサンスの精神を現代に再解釈し、医療技術や再生可能エネルギーの展示も充実している。まるでミラノサローネ国際家具見本市のような洗練された空間を提供してくれる。
見どころは、ダ・ヴィンチの発明を現代技術で再現や、イタリアンデザインのインタラクティブ展示などであろうか。
イタリア館に入館するために私は結局約5時間半も並んでしまった。いつものように西ゲートから入場し、すぐにイタリア館の列に並んだ。最後尾のプラカードを持っているスタッフに何時間待ちであるかを尋ねたところ『2時間以上!』という返事が返ってきた。確かに5時間半も2時間以上の範疇ではあるが、倍以上の開きがあるではないか! もしスタッフが『3時間以上!』と返答してくれていたなら、私は決して列に並ぶことはしなかっただろう。その日の大半は、大屋根リングの下の列で並ぶだけになってしまったのだから。
【フランス館】アートとサステナビリティの融合
フランス館では、芸術と環境技術が融合した展示が話題となっている。再生可能エネルギーを活用した建築と、未来の都市生活を描いたインスタレーションは必見である。フランス館は、まるでアートとラグジュアリーが手を取り合って旅するような、五感で楽しめるパビリオンと言えるかも知れない。
フランス館のテーマは、「愛の讃歌」 ということで、日本の「赤い糸」伝説にインスパイアされた、3つの愛(自分への愛・他者への愛・自然への愛)を探求する空間をイメージしたものになっているらしい。
主な魅力と見どころは、無粋な私でも名前ぐらいは知っている有名ブランドの展示である。
- ルイ・ヴィトン
- 84個のトランクを使った幻想的なインスタレーション
- ディオール
- 400点以上のドレス原型や香水展示、写真投影もある
- セリーヌ
- 日本の蒔絵とコラボしたアート作品(期間限定)
- ショーメ
- ミツバチをテーマにした没入型展示(9月から)
また、芸術との出会いとして、ロダンの彫刻や「もののけ姫」とノートルダム大聖堂の融合展示など、感性を刺激するアートがいっぱいである。
さらには、サステナブルな未来へのメッセージもある。樹齢1000年のオリーブの木が象徴する「奇跡の庭園」では、自然と共生する未来を感じられる。
人気の海外パビリオンの一つであるフランス館に入館するためには長蛇の列に並ばなければならない。だから私は入館するのを半ば諦めていた。しかし、幸いなことに次女が手配してくれたファストパスのおかげで「専用入口」から全く並ばずに入館することができた。
また、当日は別会場で「特別展示」のイベントも開催されていて、そこでの展示物やクリエーターたちとのコミュニケーションを楽しむことができたので、充実した万博見物を堪能することができたのラッキーであった。
【アメリカ館】ダイナミックな曲線と星条旗がモチーフの館内はイノベーション最前線
アメリカ館は、流線型のフォルムと星条旗をモチーフにしたファサードが印象的なパビリオンである。建物全体が「動き」を感じさせるデザインで、テクノロジーと自由を象徴するアメリカらしさが際立っている。屋外には宇宙船を模した展示もあり、写真映え抜群で、人気が高い。
夜になれば、星条旗をモチーフにしたファサードが、動きのあるライトと映像で演出され、まるでライブショーのような迫力である。宇宙船型の展示もライトアップされ、未来感満載の夜景を楽しむことができる。
アメリカ館は、宇宙開発、AI、バイオテクノロジーなど、最先端技術のショーケースと言える。NASAやMITとの連携展示もあり、未来の暮らしをリアルに感じられるインタラクティブ体験が満載である。
見どころは、宇宙探査シミュレーターやAIによる個別健康診断体験であろうか。「月の石」も忘れてはならない。
【TECH WORLD(台湾館)】テクノロジーと自然美が融合した、五感で楽しむ空間!
TECH WORLD(台湾館)は、まるで未来の台湾を旅するような体験型パビリオンとして人気を博している。
パビリオンの建築コンセプトは、「心の山」ということで、 台湾の最高峰・玉山をモチーフにした外観が印象的である。
館内は「自然」「未来」「生命」の3テーマで構成されてる。
入館時に渡されるスマートブレスレットで心拍数を計測して、どの展示で心がときめいたかを分析して、私たちにぴったりな台湾旅行プランを提案してくれるのも粋な計らいである。
TECH WORLD(台湾館)の見どころは多いが、中でも圧巻の映像空間は外せないだろう。巨木を囲む「ライフ劇場」では、560台のタブレットが連動して幻想的な映像を演出している。「ネイチャー劇場」では360度スクリーンと香り・スモーク演出で没入体験ができる。さらには、「フューチャー劇場」では半導体技術と未来の物語が展開される。
台湾の画家の技法をAIに学習させた「動くアートギャラリー」も必見である。
台湾産の蘭(ラン)をナノスプレーで染色した展示は、色鮮やかで寿命も長いという。まさに、胡蝶蘭とナノ技術の融合である。
来場者には限定グッズのプレゼントが用意されており、これも人気の秘密となっている。また、台湾茶や魯肉飯、かき氷などの本場グルメも楽しめる。
【中国館】文明の継承と未来技術の融合
中国館は、伝統と革新が共存する壮大なスケールのパビリオンである。館内では古代から未来へタイムトラベルするような体験ができる。伝統文化と最先端技術が凝縮された空間になっている。
パビリオンの外観は竹簡がモチーフになっている。古代の書物「竹簡」をイメージした外壁には、119の漢詩が5種類の書体で刻まれていて、入館を待つ列に並びながら漢字探しも楽しめる。
中国館のテーマは「人と自然の生命共同体」ということで、「天人合一」・「緑水青山」・「生生不息」の3ゾーンで、自然との共生や未来社会を体感できる展示が広がってる。
館内の映像体験では、二十四節気の巨大スクリーンで中国の四季を没入体験できるほか、環状シアターでは中国各地の人々の暮らしを映像で紹介している。
三星堆の青銅神樹や良渚遺跡など、古代文明の展示が充実しており、古琴や木彫り回廊で無形文化遺産にも触れられる。まさに、歴史と文化の宝庫と言えるかも知れない。
一方で、宇宙開発、AI、グリーンテクノロジーなど中国の先端技術を紹介する展示もある。
そのため、中国館は中国の歴史・文化と科学技術のすべてを一度に味わえる場となっている。
パンダグッズも人気で、特に公式マスコット「悠悠(ヨウヨウ)」のぬいぐるみは大人気であり、お土産ショップは購入客で混雑していた。
【大韓民国館】テクノロジーと感情が融合した未来を提案
韓国館は、テクノロジーと感情が融合した「心で感じる」パビリオンであると言えるかも知れない。まるで「心でつながる未来」を旅するような、感動と没入感たっぷりの体験型展示が特徴的である。
パビリオンの外観は、巨大なメディアファサードである。高さ10m×幅27mのLE建物全体を高さ10m×幅27mの巨大LEDスクリーンが包み込み、パビリオンの外観は、巨大なメディアファサードである。建物全体を巨大LEDスクリーン(高さ10m×幅27m)が包み込み、まるで建物自体が呼吸してるかのように映像が映し出される演出である。このLEDを駆使した動的なデザインの外観は、夜には音楽と連動したライトショーを展開する。
韓国館は、3つの展示ゾーンで構成されている。
- 展示1:音と光のアート体験
- 自分の声を録音すると、AIが音楽と光に変換してくれる。132個の照明とスピーカーで幻想的なショーが展開される。
- 展示2:未来技術とサステナビリティ
- 息を吹き込むと水素が反応して水が生成されるエコ技術を体験できる。シャボン玉が舞い降りる演出も美しい。
- 展示3:世代を超える物語
- 2040年を舞台にした祖父と孫娘の感動ストーリーを三面パノラマスクリーンで鑑賞できる。
【インド館】伝統とテクノロジーの融合
インド館は、蓮の花が開くように、精神性と未来技術が融合した壮大な空間を創り出している。インド館のテーマは「いのちを救う(Saving Lives)」で、インドの叡智と革新が凝縮されている。
インド館の外観は、蓮の花がモチーフとなっており、インドの国花「ロータス」をイメージした曲線美が特徴的である。
夜にはライトアップされて幻想的な雰囲気になる。
館内の展示では、宇宙技術の展示が圧巻である。月面探査機「チャンドラヤーン3号」の実物大模型や、衛星打ち上げのシミュレーター体験もできる。
医療や製薬技術を紹介する展示もあり、インドが「世界の薬局」と呼ばれる理由が分かる気がする。最先端医療の取り組みを学べる機会にもなる。
また、インドと言えば、仏教・ヒンズー教と精神性の世界が知られている。菩薩像と時間の輪(タイムホイール)が入口に展示されており、ハヌマーン神話をモチーフにした空間演出も見逃せない。
インド館は、文化・科学・精神性のすべてを体感できる、まさに「命の旅」みたいなパビリオンと言えるかも知れない。
【インドネシア館】多様性と自然の宝庫
インドネシア館は、まるで熱帯の森を旅するような、自然と文化が融合した癒しと発見のパビリオンになっている。
インドネシア館のテーマは「船」で、世界最大の群島国家インドネシアの多様性と未来への航海を象徴しているらしい。
インドネシア館の外観は、「船」がモチーフで、竹材や木材など再生可能素材を使った建物である。太陽光や自然換気を活かしたエコ設計となっているという。
このバリ建築を取り入れた外観は、木材と自然素材を活かした温もりあるデザインとなっている。また、船をイメージしたユニークなデザインが船旅の始まりを感じさせてくれる。
館内にはミニチュアのジャングル、つまり熱帯雨林の再現空間が広がっていて、動物オブジェや自然映像でインドネシアの豊かな生態系を体感できるような展示となっている。
また、伝統文化の展示も充実している。美しいバティック模様の映像演出、幻想的な影絵芝居、籐家具や織物など、職人技が光る工芸品の展示も見どころとなっている。
インドネシア館には、熱帯雨林をイメージした緑豊かな自然と、民族文化と環境保護のメッセージが込められているように思う。
【マレーシア館】自然素材を活かした建築美
マレーシア館の外観は、竹や木材などの自然素材をふんだんに使用した有機的なデザインのパビリオンである。熱帯雨林をイメージした緑豊かな空間は、訪れるだけで癒される「都市のオアシス」のような存在でもある。
建築物は再生可能資源を活用し、環境負荷を最小限にしているという。屋根は伝統的な「リンプン(葉葺き)」を現代風にアレンジしている。自然光と風を取り入れる「パッシブデザイン」であるとされる。
マレーシア館は、「多様性と調和」「自然との共生」「持続可能な未来」をテーマにした、東南アジアらしい温かみと革新性が融合したパビリオンである。派手さよりも「深い癒しと気づき」を与えてくれるパビリオンでもある。文化・環境・未来への思いが丁寧に編み込まれた空間は、私たちの心に響くはずである。
マレーシア館では、多民族国家ならではの文化体験ができる。マレー系・中華系・インド系など多様な民族が共存するマレーシアの文化を、展示・音楽・料理で体感できる。
マレーシアが推進する「グリーン経済」や「スマート農業」「エコツーリズム」など、環境と経済の両立を目指す取り組みが紹介されている。熱帯雨林保護プロジェクトのVR体験、パーム油産業のサステナブル化への挑戦やマングローブ植林活動が紹介されている。
マレーシア館は、EXPO 2025のテーマに深く共鳴し、「人と自然が共に生きる未来社会」のビジョンを、温かく包み込むような空間で表現していると言えよう。
バティック(ろうけつ染め)や影絵「ワヤン・クリ」の実演や、民族舞踊やガムラン音楽のライブパフォーマンスも楽しめる。ハラル料理やニョニャ料理などが楽しめるフード体験コーナーもある。
【ウズベキスタン館】伝統・革新・持続可能性の融合
ウズベキスタン館のテーマは、「知識の庭」で、伝統・革新・持続可能性が融合した空間を演出するため、「知識の種が芽吹く庭」を旅するような、静かで深い感動に満ちたパビリオンとなっている。
ウズベキスタン館の建築コンセプトは「種から芽へ」ということで、入り口は土の中をイメージした暗い空間で、来場者自身が「種」として知識を吸収する設定らしい。そして、上階に進むと「芽が出る」ように視界が開け、木の柱に囲まれた明るい空間が広がるようになっているのだという。
地下の展示からシアターへ進むと、360度映像と昇降ステージでサマルカンドの青の都を体感できるようになったいる。映像とともに上昇する演出は、まるで空へ芽吹くような感覚を抱かせる。
未来社会への取り組みを展示したものとしては、再生可能エネルギーやゼロエネルギー住宅の模型展示、「ニュー・タシケント・シティ」など都市開発のビジョンの紹介が挙げられるかも知れない。
ウズベキスタン館は、サマルカンドやブハラのモスクに見られる青いタイル装飾や幾何学模様をモチーフにしたデザインとなっている。昼間はタイルの輝き、夜間はライトアップで幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして、屋上部の屋外テラスは高さ約8メートルの杉の柱が林立する「神殿空間」を形作っている。屋根は複数層の三角形梁で構成されていて、敷地いっぱいに広がる幾何学的な美しさが圧巻だ!
ウズベキスタン館は、中央アジアの歴史的深みと未来への挑戦が融合した、非常に魅力的なパビリオンである。
古代の交易路「シルクロード」の要所として栄えた歴史・文化的遺産と、現代の経済・技術・文化の発展を繋ぐ展示が、持続可能な発展への取り組みと相まって見事なまでに調和していると言えよう。
【アラブ首長国連邦(UAE)館】未来都市ドバイの次なる挑戦
UAE館のテーマは、EARTH TO ETHER(大地から天空へ)であるという。伝統と革新が融合した空間を演出し、まるで「砂漠から宇宙へ」へと旅するような壮大で美しい体験型パビリオンとなっている。
館内に高さ16mのナツメヤシの柱が90本も林立する空間は圧巻であり、まるで「聖なる森」と呼ぶに相応しい。この柱には約200万本のナツメヤシの枝が使用されており、UAEと日本の職人が共同制作したものであるらしい。
柱の間を自由に歩ける構造で、まるで宝探しみたいな展示体験ができる演出となっている。
館内には、宇宙・医療・サステナ展示が充実しており、例えば、火星探査機「ホープ」や宇宙飛行士スルタン・アル・ネヤディ氏の紹介、AIを活用した遺伝子解析による医療予測技術、水資源確保や砂漠緑化など、環境技術についても展示されている。
UAE館では、スマートシティやAI技術を駆使した未来の暮らしへのヒントが得られる。砂漠の国が描く持続可能な未来像にきっと驚かされることだろう。
夜になれば、建物全体をLEDの光が星空のように覆い、まるでアラビアの夜に迷い込んだような感覚を醸し出す。静かで神秘的な雰囲気が魅力の夜景を是非、楽しみたい。
【カタール館】砂漠と未来が融合した建築美
カタール館は、砂漠の風紋や伝統的なスーク(市場)のアーチ構造をモチーフにしたデザインのパビリオンである。曲線美と幾何学模様が融合された、昼は砂漠の静けさ、夜は光の幻想が楽しめる建築美を表現している。
伝統建築と現代素材(ガラス・金属)が融合した建造物であり、「風と光の彫刻」のような存在感がある。夜間は幾何学模様が浮かび上がるライトアップが見どころにもなっている。
カタールは。教育・医療・環境分野への投資が非常に活発な国であるようで、パビリオンでは未来の学びや医療技術、グリーン都市構想などが紹介されている。
Education City(カタールの学術都市)の紹介、スマート医療と遠隔診断技術の体験展示、カタールが推進するカーボンニュートラル都市の模型などが見どころとなっている。
湾岸文化の魅力を五感で体験できる空間も充実している。伝統音楽、香料文化、アラビア書道など、カタールならではの文化が現代的に再構成されている。
カタール館は、文化的深みと未来志向が絶妙に融合したパビリオンであると言えよう。
【バーレーン王国館】真珠の国が描く持続可能な未来
バーレーン館の外観は、伝統的な木造船「ダウ船」をモチーフしており、曲線美が際立つ建築はまるで海に浮かぶ方舟のようである。夜のライトアップも幻想的で、私のような建築好きにはたまらないパビリオンである。
館内は、映像と香りで海洋文化を体感できるような演出になっている。壁一面の海の映像と、潮風を思わせる香りの演出で、バーレーンの海洋国家としての歴史を感じられるようになっている。
バーレーン館では触って学べる展示が充実しているのも特徴的である。 古代のサンゴ石や真珠、石灰岩などを実際に触れることで、文化の重みをリアルに体感できるのも魅力的である。
バーレーン館は、伝統的な真珠産業と現代の環境技術を融合した展示が特徴となっている。小国ながらも、海洋保護や水資源管理の先進的な取り組みを紹介する展示は印象に残るものである。
【トルクメニスタン館】シルクロードの記憶とエネルギーの未来
トルクメニスタン館の外観は、荘厳な白亜の宮殿風である。中央アジアの伝統建築を現代風にアレンジしたもので、幾何学模様とタイル装飾が施されている。
大理石調の建物に八芒星のモチーフがちりばめられているのが印象的である。
館内の1階では、曲面スクリーンで、自然・都市・文化・観光地を一気にバーチャル体験できる。力強くて印象的な映像演出が魅力的である。
館内2階では、産業とイノベーションが展示されている。特に、天然ガス・石油などの資源、医療・教育・科学技術の取り組み、鉱物や工業製品の実物展示もあって勉強になる。
トルクメニスタン館は、シルクロードの歴史と天然資源をテーマにした展示が中心ではあるが、他では味わえない異文化の濃密な体験ができると言えだろう。
【セルビア館】童心に帰れる遊び心満載のパビリオン
セルビア館のテーマは、Society of Play(遊びの社会)で、「遊び心が未来を創る」魔法の森みたいなパビリオンとなっている。
館内は、木漏れ日のような光と影の演出が幻想的で、まるで森の中を漂ってるみたいな空間が演出されている。
自分の影がスクリーンに映って、踊ったり動いたりすると映像が変化する。創造性と繋がりが感じられる演出である。
特筆したいのは、ビー玉を転がすと映像と連動して美しい絵が描かれる仕掛けである。ピタゴラスイッチみたいで、大人も子どももつい夢中になってしまう。
自分だけのオリジナルキャラクターを作ることができるコーナーもある。
遊びを通じて未来とつながる「創造の森」みたいなセルビア館で童心に帰って時間を過ごすのも悪くない。
【スペイン館】情熱と革新が交差する空間
スペイン館は、「海と太陽に包まれた旅」を体験するような、色彩と感動に満ちたパビリオンとなっている。
スペイン館のテーマは、スペインと日本を何世紀にもわたって結んできた海流「黒潮」であり、両国の歴史的な繋がりが映像と空間演出で体感できるようになっている。
スペイン館の外観は、波のようなデザインで、うねるような外壁が「海流」を表現しているという。昼は太陽光でキラキラと輝き、夜はライトアップで幻想的に変化する。
館内では、海中に潜ったような360度スクリーンの映像が広がり、サンゴ礁や海洋生物の世界にどっぷりと浸れる。
また、海上風力発電やブルーエコノミーの技術を、ホログラムと音楽で立体的に紹介している。未来の海洋活用が見えてくるような展示である。
スペイン館は、五感で「地中海の風」を感じるような癒しと発見の開放的な空間デザインが特徴的でもある。
【ドイツ館】テクノロジーと環境の先進モデル
ドイツ館は、「循環する未来」を旅するような、遊び心と学びが凝縮したパビリオンである。
ドイツ館のテーマは、循環経済(サーキュラーエコノミー)で、環境・技術・文化が融合した体験型展示が魅力となっている。
ドイツ館は、7つの円筒形木造建築で構成されていて、解体後も再利用可能な素材で造られているという。建築はモジュール型で、エネルギー効率に優れた設計となっている。外観はシンプルながらも機能美が際立つ。建物自体が循環の象徴となっていると言えよう。
ドイツ館では、炭素循環(カーボンニュートラル)、生物多様性、再生素材など、環境との共生をテーマにした展示が多い。つまり、環境技術とデジタル社会の融合をテーマにした未来志向の展示が中心となっている。
ドイツ16州の特色を紹介する庭園(ガーデンエリア)では、草花に囲まれてリラックスできるようになっている。そのため、入場のために常に長蛇の列ができているのは残念である。
【オーストラリア館】自然・文化・科学技術の融合
オーストラリア館は、「太陽の大地」を旅するような、自然・文化・テクノロジーが融合した体験型パビリオンとなっている。
オーストラリア館の外観は、赤い砂岩をイメージしたデザインで、昼は力強く、夜はライトアップで幻想的に変化する。
オーストラリア館のテーマは Diversity and Harmony(多様性と調和)であり、 アボリジニ文化、自然との共生、そして未来へのメッセージが込められた展示となっている。
館内では没入型シアターで絶景体験ができるようになっている。360度スクリーンで、グレートバリアリーフやウルル、タスマニアの森など、オーストラリアの大自然を旅するような映像が楽しめる。
また、アボリジニ文化の展示もある。点描画(ドットアート)や伝統楽器ディジュリドゥの展示で、先住民の知恵や自然とのつながりを学ぶことができる。
あとがき
EXPO 2025は、決してただの展示会ではない。世界の課題に向き合い、未来を共に創るための「対話の場」である。そのことは、特に海外パビリオンを巡ることで実感できる。文化の違いを超えた共感や発見がきっとあるはずでる。世界を体感する絶好のチャンスを決して逃してはならない。
是非、このグローバルな祭典に足を運んで、世界とつながる体験をしてほしい。私たちの世代が1970年の大阪万博で体験したことが、少なからずその後の人生に影響を与えたと実感している。この2025年の大阪・関西万博で初めて万博を体験した若い世代の人たちは未来社会に対して大いなる希望を抱いたのではあるまいか。私はそう願ってやまない。
夜の万博を楽しむ
大阪・関西万博の会期も終盤を迎え、駆け込み需要の入場者数激増のため、午前中に入場することが困難になっている。それならば、割り切って「夜の万博」を楽しんでみては如何であろうか。
ライトアップは日没後すぐが狙い目である。空がまだ少し明るい時間帯は、パビリオンと光のコントラストが美しく、写真映えが抜群であるように思う。
照度が高めのパビリオンも多く、スマホでも綺麗に撮影可能である。つまり、三脚なしでも撮れる撮影スポットが多く存在しているということである。
一部パビリオンでは、夜だけのプロジェクションマッピングや音楽演出が行われることもある。この夜限定の演出を楽しむのも一興であると私は思う。