はじめに
日本各地の温泉についての情報は、すでに平安時代から貴族たちの間では情報共有されていたようだ。各種の文献に散見されるようになったと言われている。
特に、有名な話は清少納言の枕草子のなかで「湯は ななくりの湯 ありまの湯 たまつくりの湯」という一文の記載についてである。
平安時代、当時の人々に人気があったと思われる温泉地のベスト3が挙げられていると理解されている。これが日本三名泉の根拠になったとされるようだ。
清少納言が選んだトップの「ななくりの湯」はどこの温泉地かというと、現在の 榊原温泉(三重県)であるようだ。
かつて「ななくり(七栗)の湯」と呼ばれていた温泉地が「榊原温泉」に変わったのは、この一帯に自生する榊の木が伊勢の神宮の祭祀に使われ、いつしか「榊が原」と呼ばれるようになったからだと伝わる。
確かに榊原温泉は、京の都から伊勢の神宮への参拝の道中に立ち寄るのにちょうどよい位置にある。
交通の便がよくなった現代では、伊勢神宮参拝の際には鳥羽や賢島など伊勢志摩エリアの温泉地を選択するようになった旅行者が多いかも知れないが、現在、日本三名泉の中で最も静寂な温泉地である榊原温泉を選択肢にいれてもよいと思う。
勿論、伊勢神宮の行き帰りに榊原温泉に立ち寄ってもよいわけであるが、私は青山高原を散策する機会に榊原温泉をお勧めしたいと思う。本稿は、榊原温泉で宿泊して青山高原を散策する旅のプランを提案するものである。
榊原温泉の泉質
榊原温泉の泉質は無色透明なアルカリ性単純温泉である。源泉の温度は、31.2℃と低いので加温している。
清少納言が知っていたかどうかは分からないが、特に女性の美容に効能があるといわれ、ツルツルの美肌になれる「美肌の湯」という泉質の特徴を有している。
温泉成分に含まれる重曹成分やナトリウムイオンを多く含む高アルカリ成分の絶妙なバランスの温泉成分が古くなった皮膚の角質層を取り除くこと(洗浄作用)でつるつるスベスベの美肌を実現させていると考えられている。これも榊原温泉の魅力の一つである。
榊原温泉の旅館
榊原温泉にある温泉旅館は5~6軒ほどしかない。日本三名泉と呼ばれる他の二つの温泉地、有馬温泉や玉造温泉と比較すると、想像以上に少ないのに驚く。いわゆる温泉街と呼ばれるような街並みがない。どちらかというと秘湯っぽい雰囲気がある。より静寂な時間を過ごすには恰好の環境であると言える。
まろき湯の宿 湯元 榊原舘
湯の瀬川とも呼ばれる榊原川沿いに位置し、榊原温泉の源泉を館内に有する旅館である。泉質はアルカリ性単純温泉で、無色透明の美しいお湯である。大浴場の源泉かけ流し風呂(31.2℃)と加温風呂に交互に入れるのはココだけである。6階には展望露天風呂もある。美肌の湯である榊原温泉の中でもとりわけ上質のお湯で、天然の美容液とも呼ばれている。
名 称 | まろき湯の宿 湯元 榊原舘 |
所在地 | 三重県津市榊原町5970 |
Link | 【公式】お伊勢さん湯ごりの地 湯元 榊原舘 |
旅館 清少納言
榊原温泉を語る時には欠かせない清少納言の名をそのまま旅館名にしているのが「旅館 清少納言」である。湯元 榊原舘のすぐ隣に位置しており、榊原温泉きっての名旅館の一つとされている。
夕食には七栗会席や式部会席など会席料理が選べる。なかでも三重県特産の松阪牛のしゃぶしゃぶが食べられる式部会席が人気である。「式部」は紫式部からの命名とされる。勿論、清少納言ゆかりの七栗会席もおススメである。
名 称 | 旅館 清少納言 |
所在地 | 三重県津市榊原町6010 |
Link | 旅館 清少納言【公式】三大名泉|湯治にも最適の湯宿 榊原温泉|清少納言|旅館 清少納言【公式】 |
神湯館
湯の瀬川(榊原川)沿いにある数寄屋風の佇まいをした純和風日本旅館で、全18室のこじんまりした旅館である。日本庭園に囲まれた風雅な東屋「清原亭」も館内にある。
落ち着いた和の趣のある、どこか風格を感じさせる客室が魅力的である。お風呂は内湯のみであるが、美肌の湯を満喫できる十分な広さを保っている。夕食も松阪牛のしゃぶしゃぶプランが人気で、食事も堪能できる。
名 称 | 神湯館 |
所在地 | 三重県津市榊原町5079 |
Link | 枕草子に謳われた美人の湯 榊原温泉 神湯館 |
榊原温泉の観光イベント
例年、ゲンジボタルが飛翔する6月上旬から6月下旬まで蛍灯【ほたるび】と称してホタル観賞のイベントが開催される。
まさに夏の風物詩を堪能できそうだ。私はまだこの季節に行ったことがないが来年の初夏には訪れてみたいものだ。
名 称 | 蛍灯【ほたるび】 |
所在地 | 三重県津市榊原町内 |
Link | 蛍の季節到来! 蛍灯をご覧になりませんか。 | 榊原温泉振興協会公式サイト |
蛍灯のイベントと同時に源氏灯路と称するイルミネーションも射山神社境内に点灯される。そして7月7日の七夕の夜に、御霊を移した「短冊」を空高く焚き上げる「お焚き上げ神事」が執り行われるという。
名 称 | 源氏灯路(イルミネーション) |
所在地 | 射山神社(三重県津市榊原町5073) |
Link | 蛍の季節到来! 蛍灯をご覧になりませんか。 | 榊原温泉振興協会公式サイト |
青山高原の散策
青山高原は、津市と伊賀市の境にある笠取山から南北約15kmに渡って広がる高原である。標高756mにある三角点は、伊勢湾を一望できる絶景スポットとなっている。
また、山頂付近は風力発電基地にもなっていて、89基の風車が建ち並ぶ様子は迫力満点である。何十年ぶりかで青山高原を訪ねて、風車の数が増えていることに率直に驚いた。ススキの群生地の数よりも風車の数の方が多いのではないかと思う。
青山高原公園線と東海自然遊歩道が整備されているのでアクセスも良く、春はアセビやツツジの群生、秋はススキの白い穂が風に揺れてハイキングを楽しむには最適の場所である。
特に、9月下旬~10月下旬頃はススキの穂と迫力満点の風車とを一緒に写真に収められるのが嬉しい。遊歩道をゆっくりと散策するもよいし、ベストアングルを探して高原を歩き回るのもよい。
青山高原は、星空が綺麗に見れる場所としても知られている。
名 称 | 青山高原三角点駐車場 |
所在地 | 三重県伊賀市勝地1852-63 |
Link | 青山高原|津市観光協会公式サイト レッ津ゴー旅ガイド 青山高原|観る・体験する|津市観光協会公式サイト 青山高原〜風わたる南伊賀〜 – 青山観光振興会・青山高原周辺の施設と観光 |
あとがき
久し振りに訪れた榊原温泉は、以前よりも寂れている感じがしたが、それは多分、他の温泉地と比較してしまったからであろう。榊原温泉には榊原温泉の良さがあり、本来、他と比較すべきものではない。
榊原温泉は、古来より伊勢神宮ゆかりの「湯ごり」の温泉地として知られているが、青山高原の散策と組み合わせた旅行プランがあってもよいと思う。青山高原を散策した後で、榊原温泉で汗を流し、松坂牛のしゃぶしゃぶに舌鼓を打てば、大抵のストレスは解消されるのではなかろうか?
勿論、スパツーリズムの観点からも榊原温泉のぬるめのお湯は体に優しいと思う。伊勢で海水浴をして日焼けした肌にもきっと優しいはずである。