はじめに
天河大弁財天社【てんかわだいべんざいてんしゃ】(天河神社)は、奈良県天川村に位置し、飛鳥時代に創建されたと伝わる歴史の長い神社である。日本三大弁財天の宗家と称されている。
天河神社は、役行者【えんのぎょうじゃ】が大峰山脈の弥山【みせん】に弥山大明神を祀ったことが始まりとされている。壬申の乱の際、大海人皇子(後の天武天皇)が勝利を祈願し、天女が現れて舞を舞ったと伝えられている。この天女の加護に報いるために神殿が造営され、これが天河大弁財天社の始まりとされる。
また、弘法大師空海もこの地で修行を行い、彼にまつわる遺品が奉納されている。空海は、高野山の開山に先立って3年間、大峯山で修行を行っているが、その最大の行場が天河大弁財天社であったという。天河大弁財天社は、古来から高僧や修験者たちが集まる場所として知られ、空海もその一人であった。空海はこの地で修行を行い、密教の教えを深めたと伝わっている。
江戸時代までは「琵琶山白飯寺」と号し、弁財天(宇賀神王)を祀っていたが、明治の廃仏毀釈により市杵島姫命【いちきしまひめのみこと】に改められたという。
現在の御祭神は弁財天(市杵島姫命)、熊野権現(阿弥陀如来)、吉野権現(蔵王権現)で、神仏習合の形態を今も残している。
天河大弁財天社は、芸能の神としても知られ、多くの芸能人やアーティストが参拝に訪れるという。まさしく開運のパワースポットとして知られているわけである。また、「呼ばれた人でないと参拝できない」という伝説もあり、強く願うものだけがたどり着くとされている。なんともミステリアスで、好奇心をそそる神社でないか!
天河大弁財天社
天河大弁財天社(天河神社)は、役行者が弥山で修行中に弁財天を感得したことが始まりとされ、弘法大師空海も修行を行った場所とされるなど歴史的背景を有する神社である。
神社の正面に立つ大鳥居は、神社の重要なシンボルで、参拝者を迎える役割を果たしている。
拝殿へ向かう参道は石段になっている。この石段の途中の左手には五社殿(後述)が鎮座する。
拝殿は、桧材【ひのきざい】を使用した入母屋造【いりもやづくり】で、本殿を拝するための社殿である。この拝殿で祭典や御祈祷が行われる。拝殿前には五十鈴【いすず】が吊るされており、その音色は心身を清め、新たな活力を与えるとされている。五十鈴は古来から伝わる独自の神宝で、みむすびの精神を表しているという。この神社では、五十鈴を模したお守りや御朱印が授与されている。
本殿は、桧材を使用した流造【ながれづくり】で建てられている。この本殿には、弁財天像をはじめとする百柱余りの神々が祀られている。本殿は通常非公開であるが、例大祭(毎年7月16日~17日)の際には開帳されるという。
拝殿の向かい側には神楽殿あり、神楽や能楽、音楽の奉納などが行われている。特に、例祭などの際には能が奉納され、芸能の神としての弁財天を祀る神社ならではの特徴的なイベントとなっている。また、世阿弥も用いたとされる阿古父尉の面、能楽草創期からの価値の高い能面、能装束が多数奉納されているらしい。
参道石段手前の左手にある五社殿には、弁財天の化身である龍神大神をはじめ、大将軍大神、大日靈貴神、天神大御神、大地主大神が祀られている。
また、五社殿の前には「天石」と呼ばれる石があり、エネルギーを放つ石として話題になっている。
天河大弁財天社は、その長い歴史と美しい建築、そして神聖な雰囲気で訪れる私たちを魅了する。
参拝する際には、これらの見どころも是非、忘れずに楽しみたいものである。
名 称 | 天河大弁財天社(天河神社) |
所在地 | 奈良県吉野郡天川村坪内135 |
TEL | 0747-63-0334 or 0747-63-0558 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 大峯本宮天河大辨財天社̠ 天河神社 |
あとがき
かつて大海人皇子が皇位継承事件で窮地にたたされた折に、ヤマト王権を守護する神々の住まう吉野を訪れて勝利を祈願して琴を奏じると、その音に乗って唐玉緒を纏った天女が現れ、戦勝の祝福を示したという。
この天女が役行者が弥山山頂に祀ったとされる弥山大神であったらしい。大海人皇子は壬申の乱に勝利して天武天皇に即位すると、天女の加護に報いるために麓に神殿を造営し、天の安河の宮としたのが天河大辨財天社の始まりと伝えられている。この「天の安河」が「天川」の地名の由来となったとも云わっている。
天河大辨財天社は大峯修行の要の行場ともされ、古来より高僧や修験者たちが集まったとされる。弘法大師空海も高野山を開山するまで大峯修行を行い、天河大辨財天社で千日修行を行ったという記録があり、空海直筆の写経も残されているという。
弘法大師空海の参籠後は、大峯参り、高野詣とあわせて多くの人々が天河大辨財天社を訪れるところとなったという。
天河大辨財天社の大鳥居の真向かいには来迎院があり、この寺の境内には天河弁財天社で参籠していた弘法大師空海がお手植えしたとされる樹齢1200年超の大イチョウがある。
この来迎院の大イチョウは、奈良県の天然記念物に指定されていて、天河弁財天社を参拝した際の見どころの一つとなっている。
幹周りが2mを超える巨樹で、秋の黄葉は圧巻であるらしい。私たちが訪れたのは11月中旬を少し過ぎていたので、ほぼ落葉していたのは残念であった。しかし、黄色の絨毯は綺麗であった。
来迎院は、かつて天河大弁財天社の七堂伽藍の塔頭【たっちゅう】の一つとして、神社の一部を構成していた。弘法大師空海が天河大弁財天社で修行を行った際、来迎院もその修行の場の一つとして重要な役割を果たしたという。来迎院の境内には、空海が修行中に刻んだとされる仏像や、彼の教えを象徴する「阿字観の碑」が残されている。
名 称 | 来迎院の大イチョウ |
所在地 | 奈良県吉野郡天川村坪内 |
Link | 来迎院の大イチョウ | 奈良県 天川村 | 全国観光情報サイト |