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ウェルネスツーリズム

室生龍穴神社・吉祥龍穴と女人高野の室生寺を旅する

はじめに

以前からパワースポットとしている龍穴【りゅうけつ】に興味を抱いていたが、その龍穴を御神体とする神社があることを知った。その神社が室生龍穴神社で、有名な室生寺にも近いという。

一方、女人高野で知られる室生寺は、シャクナゲ(石楠花)が境内に美しく咲き誇る寺院として有名である。しかし、室生寺は石楠花だけでなく、秋には紅葉が平安初期に建立されたという伽藍を彩り、室生寺独自の景観を創り出している。

本稿は、そんな室生龍穴神社とその奥宮である吉祥龍穴、さらには私の目で見た室生寺の魅力を伝えたいとの思いで書いたものである。


<目次>
はじめに
室生龍穴神社
  • 龍穴神社(本殿・拝殿)
  • 奥宮(吉祥龍穴)
女人高野・室生寺
  • 室生寺の由緒
  • 室生寺の主な伽藍
    • 仁王門
    • 金堂
    • 弥勒堂
    • 本堂(灌頂堂)
    • 五重塔
    • 奥之院・御影堂
  • 室生寺の紅葉
あとがき

室生龍穴神社

風水では、大きな山や山脈から大地のエネルギー(気)が放出すると考え、その強大なエネルギーの流れを龍に例えて「龍脈」と呼び、その龍脈上でエネルギーが留まる地形になっている場所を「龍穴」と呼ぶらしい。つまり「龍穴」というのは、風水でいう大地の気が吹き上がる場所であるということだ。

大地の気がみなぎる場所=パワースポットということで、この場所に建立された神社仏閣のような建造物は、それ自体がパワースポットになる。 龍穴のある場所では、樹木の生長も促進されるようで、古い神社仏閣の境内では、「神木」と呼ばれる杉、楠やイチョウなどの大木が悠久の年月をそこで生き続けているケースが多いとされる。室生龍穴神社は、そんな龍穴との関係が非常に深い神社である。

室生龍穴神社のご神体は、神社背後の渓谷に位置する奥宮にある「吉祥龍穴」【きっしょうりゅうけつ】とよばれる龍穴である。

室生龍穴神社は、女人高野で知られる室生寺よりも古い歴史をもつ神社である。事実、創建された年代が不明のままである。

しかしながら、水の神「龍神」が祀られており、すでに奈良時代から平安時代にかけて朝廷からの勅使によって雨乞いの神事が営まれて来たという歴史をもつ。

室生龍穴神社は、室生寺の東側に位置し、室生川に沿って約1㎞ほど遡った所に鎮座する。室生寺が龍穴神社の神宮寺(神社に付属した寺院で、寺の別当が神社の祭祀を執り行う)であった時代もあるらしい。その当時の室生寺は「龍王寺」と称していたという。

室生龍穴神社の鳥居前の両脇には樹齢600年超の杉の巨木が聳えており、拝殿や本殿も巨大な杉木立のなかに鎮座する。境内は広さよりも高さを感じる不思議さと静けさが相まって神聖な雰囲気が漂う。

室生龍穴神社・本殿

現在の室生龍穴神社本殿は、寛文11年(1671年)建立とされ、朱塗りの春日造りの一間社である。この本殿は、春日大社若宮社の旧社殿を譲られたものであると言われており、奈良県指定文化財にもなっている。

本殿前方の左右両脇には道主貴神社【みちぬしのむちじんじゃ】と手力男神社【たぢからおじんじゃ】が鎮座し、それぞれ市杵島姫命【いつきしまひめのみこと】と手力男命【たぢからおのみこと】を祀っている。手力男命は、天照大御神が天の岩戸へ隠れた際に腕を引っ張って外に連れ出したとされている神である。室生龍穴神社・奥宮への道中に「天の岩戸」と呼ばれる場所があり(後述)、「天岩戸神話」に関連した伝説も残されている。

室生龍穴神社・拝殿

本殿の前方には拝殿があり、拝殿の神額には「善女龍王社」【ぜんにょりゅうおうしゃ】と書かれている。善女龍王【ぜんにょりゅうおう】とは、雨乞いの際に祈祷される雨や水を司る龍王のうちの一尊とされ、「善如龍王」とも表記される龍神である。

八大龍王【はちだいりゅうおう】の一尊、沙掲羅龍王【しゃかつらりゅうおう】の三女であるとされ、京都の神泉苑【しんせんえん】や高野山金剛峯寺の鎮守社(善女龍王社)にも祀られている。その理由は、善女龍王は仏教における龍を統率する女神で、弘法大師・空海が神仙苑で雨乞いを行った時に現れたとされる龍王であるからである(引用:ウィキペディア)。

尚、室生龍穴神社の主祭神は高龗神【たかおかみのかみ】となっているが、これは高龗神が「水を司る神」なので龍神と同一視されたためだと思われる。

名 称室生龍穴神社
所在地奈良県宇陀市室生1297
駐車場なし(路上駐車)
Link龍穴神社|奈良県観光[公式サイト]

奥宮(吉祥龍穴)

室生龍穴神社の奥宮は、吉祥龍穴【きっしょうりゅうけつ】と呼ばれ、古来からパワースポット中のパワースポットとして知られる場所である。

吉祥龍穴周辺の地は、古代から神聖な「磐境」【いわさか】(神が鎮座する場所、あるいは祭祀に際し神が降臨する場所を中心にした神域)とされてきた。実際に訪れると厳粛な雰囲気があたりに漂う。

吉祥龍穴に向かう林道を歩いていると鳥居が見えてくる。この鳥居をくぐり、川のせせらぎを聞きながら参道の山道を数分ほど下っていくと「遥拝所」が見えてくる。

この拝殿は土足厳禁であるので、用意されているスリッパに履きかえてあがる。そして遥拝所から見える、注連縄【しめなわ】が張られた龍穴に向かって祈願する。吉祥龍穴は、岩盤に口を開けたような洞穴である。

吉祥龍穴の右側の大きな一枚岩には招雨瀑【しょううばく】と称される滝が流れており、この水はやがて木津川(奈良県)や淀川(大阪府)にも注ぎ込まれることから源流の一つに数えられる。

古くから雨乞いの神事が多く執り行われてきたのも納得できる場所である。

室生龍穴神社から奥宮・吉祥龍穴に参拝するには、車で行くこともできるが、参道となっている林道は1車線で道幅も狭く、対向車が来た場合には道幅がある場所までどちらかが下がって道を譲らないといけない。対向車がいつ来るかも分からないので、運転に神経を使う。林道であるので路面も決して良いわけではない。さらに吉祥龍穴周辺には駐車場自体がない。道幅が広めになっているので、車道端に車を停めて(路上駐車)参拝することになるが、何台も停められる広さではない。だから健脚者の方には徒歩での参拝を推奨したい。

道順は、室生龍穴神社から県道28号を室生川上流に沿って500mほど行くと、左側に案内板が出てくるので迷うことはない。その案内板の所を左折して林道を登っていく。この林道を500mほど登って行くと先述した「天の岩戸」が右側にある。

「天の岩戸」は、2つに割れたかの様な高さ5mくらいもある一対の巨岩で、注連縄【しめなわ】が張られて鎮座している。

「天の岩戸」の前には鳥居があり、その鳥居の近くには祠【ほこら】もある。

この「天の岩戸」からさらに300mほど先に進むと左側に「吉祥龍穴」と書いた看板と白い鳥居が見えてくるので場所を迷うことはない。


女人高野 室生寺

室生寺の由緒

天武天皇の勅願によって、役の行者【えんのぎょうじゃ】・小角【おづぬ】(修験道の祖)がこの室生の地に初めて寺を建立したと伝わる。

奈良時代末期、山部親王(後の桓武天皇)の延寿祈祷をきっかけに、興福寺の高僧・賢璟【けんけい】が勅命を受けて、弟子の修圓が平安遷都まもなくの頃に堂塔伽藍を建立したという。

その後、弘法大師・空海の弟子であった真泰が真言密教を携えて入山し、灌頂堂や御影堂等が整えられた。真泰は修圓とも親交が深かったと伝わっている。

弘法大師・空海が開山した高野山金剛峯寺は、昔は女人禁制の聖地であり、女性の参詣は許されていなかった。一方、室生寺は真言宗室生寺派大本山とされ、高野山金剛峯寺とは異なり、古から女性の参詣が許されていた。そのため室生寺は「女人高野」と呼ばれるようになったのである。

名 称室生寺
所在地奈良県宇陀市室生78
駐車場あり(有料:600円)、
室生寺前駐車場(さかや):500円
Link女人高野 室生寺 (murouji.or.jp)

室生寺の主な伽藍


仁王門

室生寺にある現在の仁王門は、昭和40年(1965年)11月に再建されたものである。室生寺の仁王門は江戸時代中期の元禄年間(1688年~1704年)に焼失し、その後長らく再建されていなかったらしい。

室生寺の仁王門は重層(二階建て)の楼門で、三間一戸【さんげんいっこ】八脚門【はっきゃくもん】(本柱四本の前後に控え柱四本が建つ門)の造りで、屋根は檜皮葺【ひわだぶき】である。

仁王門には勿論、仁王像(金剛力士像)が安置されている。仁王門は、仏教・寺院を守護する金剛力士像を安置する門であり、二神一対で、口を開いた阿形【あぎょう】(右側)は怒りの表情を表し、口を閉じた吽形【うんぎょう】(左側)は怒りを内に秘めた表情を表しているものが多いと言われている。

金剛力士像吽形

阿形は、左手に仏敵を退散させる武器である金剛杵【こんごうしよ】を持ち、一喝するように口を開けている。一方、吽形は右手の指を開き、怒気を帯びて口を結んでいる。


金堂

仁王門を通り過ごし、鎧坂の石段を一段一段登っていくと、屋根が柿葺【こけらぶき】の寄棟造りの金堂が次第に見えてくる。石段を登りきると金堂の全貌が見える前庭に出る。

懸け造りの高床正面一間通りは、江戸時代に付加されたという礼堂【らいどう】(本尊を安置する正堂の前に建てられた礼拝のためのお堂)で、この部分が無かった時代には、堂内の仏像の姿が外からも拝むことができたという。

特別拝観中の金堂には、中尊 釈迦如来立像、薬師如来立像、文殊菩薩立像、十二神将立像が安置されていた(撮影不可)。


弥勒堂

弥勒堂【みろくどう】は金堂【こんどう】の前庭左手(西側)に位置する三間四方のお堂である。僧・修圓が興福寺に創設した伝法院を室生寺に移設したと伝えられている。

鎌倉時代の「宀一山図」【べんいちさんず】には「伝法院」と堂名が記されており、元は南向きであったのを室町時代に東向きに改修され、江戸時代初期にも改造されているという。

内部の四本柱の中に須弥壇【しゅみだん】を据え、厨子に収められた弥勒菩薩像を安置している。


本堂(灌頂堂)

本堂(灌頂堂)は、金堂からさらに石段を登ったところに位置する。この本堂は真言密教で最も大切な法儀である灌頂【かんじょう】を修するためのお堂で、寺院の中心である。

鎌倉時代後期の延慶元年(1308年)の建立と伝えられ、五間四方入母屋造りの大きな堂である。国宝に指定されている。和様【わよう】と呼ばれる従来からの寺院建築様式と大仏様【だいぶつよう】と呼ばれる寺院建築様式の折衷建築様式を示していると言われているが、私にはその違いが分からない。

本堂の内陣中央の厨子には如意輪観音坐像が安置されている。この如意輪観音坐像は、平安時代の作と伝えられ、重要文化財に指定されている。

如意輪観音坐像の両脇には両界曼荼羅(金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅)が配置されている。


五重塔

本堂の西側、奥之院への参道を兼ねる急な石段の最上段の広場に五重塔が建っている。

この五重塔は、平安時代初期の延暦19年(800年)頃に造られたもので、法隆寺の五重塔に次ぐ古塔であるという。この五重塔の高さは16m、一層目の一辺が2.5mほどで、屋外に立つ五重塔としては国内最小であるらしい。檜皮葺【ひわだぶき】の屋根が樹林に包まれて格別の風情を醸し出している。この五重塔は国宝にも指定されている。

平成10年(1998年)の台風によって境内の杉が倒れた影響で損壊したが、現在は見事に修復されている。


奥之院・御影堂

五重塔の左脇を通りすぎて、一旦下り、急な石段を登り切ると奥之院がある。

奥の院には弘法大師・空海像を祀る御影堂【みえどう】(大師堂ともいう)がある。御影堂は、板葺き二段屋根の宝形造りで、屋根の頂には露盤宝珠が据えられている。

この御影堂は、各地にある大師堂の中でも最古のお堂の一つであると言われている。

御影堂の隣の絶壁の前には舞台が組まれ、その上に常燈堂(位牌堂)が建っている。御影堂を拝むための礼堂であったらしい。

弘法大師・空海は、承和2年(835年)3月21日に入定【にゅうじょう】されているが、室生寺では毎年4月21日(旧暦の3月21日)に、法会『正御影供』【しょうみえく】を執り行っているという。


室生寺の紅葉

室生寺の境内のシャクナゲ(石楠花)は美しいことで有名であるが、境内に植栽されているカエデの紅葉も美しい。紅葉の見頃は例年11月中旬から12月上旬までであり、特に太鼓橋から金堂までの参道が美しい。

そんな秋の紅葉に染まる室生寺境内の写真を見て頂き、室生寺の秋の魅力を知って頂きたいと思う。


あとがき

室生龍穴神社とその奥宮である吉祥龍穴を訪ねて思ったことは、「龍穴」を「龍神」が住んだ洞穴のように記載されているがそれは誤りであろうということである。私が想像する「龍神」が住んだにしては規模が小さすぎるからである。

やはり「龍穴」は風水でいうところの大きな山や山脈から大地のエネルギー(気)が放出される場所と考えるのが妥当である。

その強大なエネルギーの流れを龍に例えて「龍脈」と呼び、その龍脈上でエネルギーが留まる地形になっている場所を「龍穴」と呼ぶが、吉祥龍穴もそのような「龍穴」の一つであり、決して龍神様が身を潜めていた場所ではないだろう。どの時代に伝承が混乱したのだろうか。

尤も強大なエネルギーの流れを龍に例えて「龍脈」と呼んだとするならば、その強大なエネルギーの流れ自体を古の人々は「龍神」として感じており、崇拝したのかも知れない。

「龍穴」は、風水でいう大地の気が吹き上がる場所であるから、大地の気がみなぎった場所であるのでパワースポットであることには違いない。そこに龍神信仰が加わり、室生龍穴神社は龍神様を祀る神社になったのではないかと推察する。

奈良時代から平安時代にかけて雨乞い神事のために奈良や京都の都からわざわざ勅使が来ていたことを考えると霊験あらたかな神社であったことが容易に推察できる。

一方、室生寺は「女人高野」で全国に知られるように真言宗の寺院である印象が強いが(実際にそうではあるが)、室生寺が室生龍穴神社の神宮寺であった時代があることからも室生寺を参拝した際には是非、室生龍穴神社にも足を運ぶべきと思う。私の場合は、室生龍穴神社を参拝した後に、室生寺に参拝した。

室生寺には国宝の建造物である伽藍が立ち並び、境内も広い。奥の院への山道は結構きついがすがすがしい気分にもなれる。今度はシャクナゲが咲く春の終り頃(見頃は4月中旬~5月上旬)に是非参拝し、秋とは違った景色を眺めてみたいものだ。


【参考資料】
龍穴神社|奈良県観光[公式サイト]
女人高野 室生寺 (murouji.or.jp)