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【伊賀の国】街歩き「伊賀上野城下町のおひなさん」

はじめに

伊賀の国」は、かつての日本の地方行政区分で、現在の三重県西部、上野盆地一帯に該当する令制国の一つであり、東海道に属していた。「伊賀」は、現在でも三重県の伊賀地方を指す呼称として使われており、伊賀市と名張市を中心に構成されている。伊賀は、伊賀流忍者の発祥地として知られ、伊賀焼(陶器・炻器)や伊賀組紐の産地としても有名である。

雛人形【ひなにんぎょう】は、「ひな祭り」に飾る人形をである。「ひな祭り」は、古代中国の上巳節や日本の「人形流し」という厄払いの風習、平安時代の貴族の「ひいな遊び」などが融合したものと考えられている。

ひな祭りは、毎年3月3日(桃の節句)に行われる「女の子の節句」であるとの認識であるが、元々は男女問わず子どもの健康と成長を祈る行事であったらしい。それが江戸時代になって毎年5月5日(端午の節句)が「男の子の節句」という認識が広まり、「桃の節句は女の子の節句」として定着したという話である。

雛人形とひな祭りは、日本の伝統文化として受け継がれてきた素敵な行事であり、桃の節句の「ひな祭り」には、日本各地でさまざまな風習や行事が行われている。

伊賀市の旧城下町に残る武家屋敷や町家、商店でも新旧の雛人形を飾る「伊賀上野・城下町のおひなさん」と呼ばれるひな祭りイベントが約1カ月間(2月上旬~3月3日)にわたり開催される。ひな祭りイベントとして開催されているのは伊賀市の主として上野本町通り周辺である。

雛人形は、女の子の健やかな成長と幸せを願う象徴として、内裏雛(男雛と女雛)を中心に、三人官女、五人囃子、左右大臣、雛道具などが飾られるのが一般的である。「伊賀上野・城下町のおひなさん」で展示されている雛人形とはどんな雛人形であるのか非常に楽しみである。


<目次>
はじめに
白鳳プラザ
  • 雛人形展示
武家屋敷・赤井家住宅
  • Akaike Art Gallery 2024 硝子雛展Ⅷ
  • 赤井家住宅について
    • 主屋
    • 茶室
    • 庭園
  • 戦国武将・赤井時家
  • 赤井氏と伊賀国の関係
あとがき

白鳳プラザ

白鳳プラザは、三重県伊賀市上野東町に位置する施設で、地域活性化事業に取り組んでいるまちづくり伊賀上野(第三セクター)が運営している。この施設は、3階建ての雑居ビルの1階にあり、広さは約120m2である。

白鳳プラザは、地元の住民や観光客が集まる場所として、地域のコミュニティ形成に貢献しているという。

名 称白鳳プラザ
所在地三重県伊賀市上野東町
駐車場なし(道路を挟んで正面に有料駐車場がある)

雛人形展示

白鳳プラザでは、新旧さまざまな雛人形が展示されており、まさに雅【みやび】を感じさせてくれた。その一部を紹介する。

本格的な7段飾りの雛人形は圧巻である。人形一体ずつ、お道具の一つ一つにもこだわりを感じる。

雛飾りの主人公と言えば「おひなさま」と「お内裏様」に三人官女を加えたものであろうか。衣装も雅で、凝った作りであるが、雛人形の「お顔」も個性があって良い。

雛人形の「お顔」を眺めていると誰かに似ているような不思議な感覚を覚えてしまう。

衣装はどれも見事なので、雛人形は「お顔」で価値が決まるのではないかと思ってしまうほどに魅力的である。

いずれの雛人形も甲乙つけ難いものがあるが、個人的な好みというものがあるかも知れない。

一足早い「ひな祭り」を体験させてもらった気分になった。


武家屋敷・赤井家住宅

赤井家住宅は、三重県伊賀市上野忍町に位置する歴史的な建造物で、国の登録有形文化財に指定されている。現在は伊賀市の所有となり、市民の交流の場として、展示会や体験の場などに利用されているという。


Akaike Art Gallery 2024 硝子雛展Ⅷ

AKAIKE ART GALLERY 硝子雛展は、赤井家住宅で毎年、2月上旬から中旬にかけて開催されるイベントで、今年(2024年2月9日~2月18日)の開催は第8回目であるという。

全国で活躍する30数名のガラスアーティストによって、様々な技法を駆使して一つ一つ丁寧に作り上げた硝子雛約100点がこの展示会に集結する。美しいガラスの「おひなさま」が赤井家住宅の主屋の「和の空間」を艶やかに彩る。

入場・見学は無料で、美しいガラスの「おひなさま」の展示作品は販売されていた。全出品作品を観賞するには初日に出向く必要がありそうだ。

どの展示作品も作家の個性が出ていて素晴らしいものばかりである。硝子雛の魅力は光の当たり具合で表情を変えることかも知れない。

全ての展示作品を紹介するのは控えるが、どれも本当に素晴らしいものばかりであるのは事実である。作家の技量とアイデアが随所に表現されている。

ここに写真で紹介したのは展示作品のごく一部である。選択理由は、単純に私自身の好みによる選択であり、優劣をつけるつもりは毛頭ない。写真の撮り方によっても表情は異なるであろう。


赤井家住宅について

赤井家住宅は、三重県伊賀市上野忍町にある武家屋敷で、歴史的な建造物であると認められ、国の登録有形文化財に指定されている。この建物は、かつて丹波国の戦国大名であった丹波赤井氏の邸宅であり、江戸時代末期の建築の長屋門をはじめ、近代に建築された主屋土蔵茶室などの5棟が保存されている。

現在は伊賀市の所有となり、市民の交流の場、展示や体験の場として利用されている。また、庭園も整備されており、自由に観覧することができる。

名 称赤井家住宅
所在地三重県伊賀市上野忍町2491-1
電話番号0595-51-7578
休館日毎週水曜日と12月29日~翌年1月3日
駐車場あり(無料)8台分
Link登録有形文化財『赤井家住宅』 | 伊賀市 (iga.lg.jp)

主屋

主屋は、木造瓦葺平屋建、切妻造で東西棟とし、門に妻面を向けて妻入りとなっている。間取りは、武家屋敷であった前身建物を継承しているらしい。明治11年(1878)生まれの家人が子どもの頃に建て替えたと伝わっている。


茶室

主屋の東南角にある土蔵と主庭の間には茶室が位置している。赤井家住宅の茶室は、昭和前期の建築であると言われている。木造平屋建で、切妻造銅板葺である。外壁は土壁中塗仕上、輿は化粧板張である。

主庭に面した西面を貴人口として軒を差し出し、北面に勝手口が設けられている。間取りは三畳ほどで、南面に円窓を穿ち、その東側に煤竹を床柱とする「床の間」を備える。天井は網代天井である。端正な佇まいを持ち、豊かな露地空間を演出している。


庭園

赤井家住宅の庭園は、主屋の南と北に位置している。南側の主庭には石灯籠が6基もあった。北庭にも2基がある。いずれの石灯籠も年代物のようである。

これらの庭園は、武家屋敷時代からのものらしく、苔むした姿が昭和初期に建てられた茶室への露地庭としての雰囲気を醸し出すしている。このように庭園はその歴史と美しさから訪れる人々に深い印象を与えていることだろう。

この庭園には珍しい植物が植栽されており、私の興味を大いに掻き立ててくれた。キンギョツバキロウヤガキである。それらは北庭の隅に並んで植えられていた。

キンギョツバキ(金魚椿)は、キンギョバツバキ(錦魚葉椿)とも呼ばれ、ツバキ科ツバキ属であるヤブツバキの突然変異種である。名前の由来は、葉の先端が金魚の尾ひれのように見えることから来ている。

キンギョツバキは、常緑の小高木で、白色の一重の侘助系の花を咲かせるという。一般的には花期は1月から2月頃とされる。ここの椿は、蕾【つぼみ】が膨らんでいたが開花までにはもう少し時間がかかりそうであった。

一方、ロウヤガキは、中国原産のカキノキ科カキノキ属の落葉小高木で、別名をツクバネガキ(衝羽根柿)という。ツクバネガキの名の由来は、その実の先端に4枚の大きな苞【ほう】が残り、その姿が羽根つきの衝羽根【つくばね】に似ていることから来ているという。

特徴的な葉は丸味を帯びた菱形で、3月から4月頃に花を咲かせるという。液果は小さく尖った楕円形状で、熟すと橙に色付く。

ロウヤガキは渋柿で食用には向かないが、盆栽や庭木として広く用いられているらしい。幹は樹皮がないようにも見え、綺麗だ。株は、雌雄異株で、着果には雄株が必要であるとされる。


戦国武将・赤井時家

赤井氏は清和源氏の流れをくむ一族で、管領であった細川氏や丹波守護代の内藤氏の勢力下にあった。赤井時家は、赤井忠家の長男として生まれ、細川高国に対して反乱を起こした波多野元清に加勢して、細川氏との戦いに勝利した。つまり、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、丹波赤井氏の頭領として、氷上郡を中心に丹波国で勢力を誇った国人であった。

永禄7年(1564年)頃には氷上郡と天田郡の境の烏帽子山に黒井城を築城し、天田・何鹿両郡を掌握していたらしい。

その赤井時家は、織田信長の家臣・明智光秀の丹波侵攻によって、天正7年(1579年)8月9日に本拠地の黒井城を落とされたため、遠江国二俣に逃れたという。

赤井時家には家清(長男)と直正(次男)らの息子がいたがいずれも戦で負傷し、それが元で彼よりも先に亡くなっていた。黒井城を失った赤井氏は没落し、赤井時家は、天正9年(1581年)5月8日、88歳で死去したとされている。


赤井氏と伊賀国の関係

その後、赤井氏は藤堂高虎に召し抱えられて伊賀国に来住したという。1,000石の禄高で足軽大将に任じられたらしい。「関ヶ原の戦い」では藤堂高虎と共に東軍として参加したという。

戦後、大和国十市郡に1,000石を賜り、戦前に与えられていた領地と合わせて2,000石の旗本となったと言われている。寛永年間(1624年~1644年)に赤井悪右衛門が伊賀上野の丸之内の西にあった鉄砲場に屋敷を構えたとする記録が残されている。


あとがき

私には娘が二人いる。長女が生まれたときに岳父が立派な雛人形を買ってくれたが、雛飾りをしなくなって久しいので申し訳なく思っている。次女にも立派な市松人形(雛人形)を買ってくれたので、こちらの方は目にする機会はある。いずれの雛人形たちからも岳父の孫たちへの愛情を感じる。

自宅で雛飾りをしなくなったので「伊賀上野・城下町のおひなさん」を観賞に行ってみたわけである。白鳳プラザでは十分に雛飾りを堪能できたし、赤井家住宅では美しい硝子雛の展示を観賞できたのは良かった。赤井家住宅には庭園もあり、期待以上に大満足であった。スタッフも親切で、赤井家や赤井家住宅について詳しく教えてくれたので勉強になった。喫茶室で頂いた抹茶と桜餅も美味しかった。

2024年における「伊賀上野・城下町のおひなさん」の開催期間は、2月9日(金)から3月3日(日)までであるらしい。伊賀上野の旧城下町の風情とひな人形の華やかさが見事に調和した素敵なイベントであり、伊賀上野の歴史や文化に触れることができるイベントでもある。是非、自分の足で歩き、自分の目で確認して頂きたい。


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