はじめに
磨崖仏【まがいぶつ】は、石仏の一種で、自然の岩壁や露出した岩層面に彫刻された仏像のことのことである。石仏の一種ではあるが、独立した石材に彫られた仏像や、石窟を掘ってその中に彫刻された石窟仏とは区別される。
磨崖仏は、自然の岩壁に直接彫られているため、周囲の自然環境と一体化しているのが特徴である。磨崖仏は、自然の中で仏教の精神を感じることができる貴重な文化遺産である。
日本の磨崖仏の造立は、奈良時代や平安時代初期に始まり、平安時代後期から鎌倉時代にかけて盛んに造立されたらしい。特に九州地方には多くの磨崖仏が集中していると言われている。
臼杵磨崖仏は、大分県臼杵市に位置し、日本を代表する磨崖仏群である。臼杵磨崖仏は、ホキ石仏第一群、ホキ石仏第二群、古園石仏群、山王山石仏群の4つの石仏群に分かれており、それぞれの石仏群には異なる特徴がある。
臼杵磨崖仏
臼杵磨崖仏は、彫刻の規模・質の高さ・数量においてわが国を代表する石仏群であり、61体すべてが国宝に指定されている。
平安時代後期から鎌倉時代にかけて彫刻されたと伝わるが、何の目的で、誰が造営したのかは十分に解明されておらず、現在でも多くの謎に包まれているという。
磨崖仏造営の時期や事情を証する史料が一切残っていないという。石仏群は、地名により、ホキ石仏第一群、ホキ石仏第二群、山王山石仏および古園石仏の4群に分かれている。
名 称 | 臼杵磨崖仏 |
所在地 | 大分県臼杵市深田 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 国宝臼杵石仏【公式サイト】 国宝 臼杵石仏“見どころマップ“ |
ホキ石仏第二群
ホキ石仏第二群は、向かって左の第一龕【がん】と右の第二龕からなる。
第一龕は、定印の阿弥陀如来坐像を中心に、左右に脇侍菩薩立像を配置している。向かって左にはほとんど原形をとどめない菩薩形立像2躯がある。
第二龕は、九体の阿弥陀如来像を中心とする。中央に阿弥陀如来坐像、その左右に4躯ずつの阿弥陀如来立像を配置している。
これらの左右に1躯ずつの菩薩立像を配置するが、向かって左の菩薩像は原形をとどめていない。
ホキ石仏第一群(堂ヶ迫石仏)
ホキ石仏第一群は、4つの龕【がん】に分かれる。向かって左より第一龕、第二龕、第三龕、第四龕と名付けられている。
第三龕と第四龕は、鎌倉時代の追刻とみられている。
第一龕と第二龕は、ともに如来坐像3体を配置し、第一龕はさらに脇侍菩薩立像2体を配置している。
第一三龕と第二龕の間には愛染明王坐像がある。
第三龕は、金剛界大日如来坐像を中心に、その左右に1体ずつの如来坐像、さらに左右に1体ずつの菩薩立像を配置している。
第四龕は、左脚を踏み下げて坐す地蔵菩薩像を中心に、その左右に十王像を配置している。
山王山石仏群
山王山石仏群は、全3体で、一丈六尺(約4.8 m)の如来坐像を中心に、その左右に小さめの如来坐像1体ずつを配置している。
古園石仏群
古園石仏群は、臼杵磨崖仏の中でも特に注目される石仏群で、その歴史的価値と美しさから多くの人々を魅了している。
古園石仏群には、13体の仏像がある。金剛界大日如来坐像を中心として、その左右にそれぞれ如来像2体、菩薩像2体、明王像1体、天部像1体を配置している。諸説あるが、金剛界曼荼羅を表したものとする説がある。
古園石仏群の中心に鎮座する、丈六の金剛界大日如来像は、日本の石仏の中でも最高傑作の一つとされている。その端正な顔立ちと細部にわたる彫刻は見事というしかない。
大日如来像を中心に仏・菩薩・天部を左右六体ずつ並べるといった整然とした配置は、訪れる私たちに深い感動を与える。
古園石仏群の彫刻は、岩から完全に頭部を離して丸彫りにする技法や、岩層の足りない部分を別材で補う技法など、非常に高度な技術が用いられているという。
古園石仏群は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて彫刻されたものと考えられており、その歴史的価値は非常に高い。誰がどのような目的で造営したのかは不明であるというが、その謎もまたこの摩崖仏の魅力の一つとなっている。
古園石仏群は、長い年月の間に崩壊や破損が進んでいたが、昭和33年(1958年)から開始された修復工事により、平成5年(1993年)に大日如来の仏頭が復位されて、かつての荘厳な姿に復旧したという。
古園石仏群は、その歴史的価値と彫刻の美しさを兼ね備えた素晴らしい摩崖仏であることがわかった。訪れた際には、その歴史的背景や技術に思いを馳せながら、じっくりと鑑賞したいと思う。
あとがき
臼杵磨崖仏は、ホキ石仏第一群、ホキ石仏第二群、古園石仏群、山王山石仏群の4つの石仏群に分かれていて、それぞれの石仏群には異なる特徴があるので、訪れた私たちを飽きさせない。
臼杵磨崖仏は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて彫刻されたものと推定されている。全部で61体の石仏が確認されているが、その全ての石仏が国宝に指定されているというから驚きである。
臼杵磨崖仏は、その彫刻技術の高さでも知られている。特に古園石仏群の金剛界大日如来坐像は、日本の石仏の中でも最高傑作と称され、その端正な顔立ちと細部にわたる彫刻が高く評価されている。
こんなにも素晴らしい摩崖仏ではあるが、臼杵磨崖仏は、誰がどのような目的で造営したのか明確には分かっていないらしい。そのため、今なお多くの謎に包まれているという。この歴史的背景や伝説も、確かに臼杵磨崖仏の魅力の一つではあるが、誰か優秀な研究者がその謎を解明してくれないものだろうか。
臼杵磨崖仏は、熊野磨崖仏とは違った雰囲気の摩崖仏である。両者の甲乙をつけるつもりは私には全くない。摩崖仏は、自然の岩壁に直接彫られているため、周囲の自然環境と一体化しているのは共通している。石造の数では臼杵磨崖仏の方に軍配が挙がるが、大きさでは熊野磨崖仏の方に分がある。両者には、それぞれの特徴があるので、訪れる私たちを魅了するのは当然の帰結と言えるかも知れない。