はじめに
出雲大社【いずもおおやしろ】は、島根県出雲市にある日本を代表する神社の一つである。主祭神は大国主大神【おおくにぬしのおおかみ】で、「縁結びの神様」として広く知られている。
出雲大社の創建は神代とされ、日本神話においても重要な役割を果たしている。特に「国譲り」の神話に関連しており、大国主大神が天照大御神に国を譲る際の条件として立てられた宮とされている。本殿は「大社造」という独特の建築様式で、国宝に指定されている。本殿の高さは24mもあり、古代の出雲大社の壮大さを今に伝えている(実際はもっと大きかったとの報告もある)。
毎年10月には「神在祭」が行われ、全国の神々が出雲大社に集合するとされる。10月は「神無月」と呼ばれるが、出雲地方だけは「神在月」と呼ばれる。実に納得の面白い呼び方である。
ところで、大国主大神にかかわる神話と言えば、「因幡の白兎」や「国造り」・「国譲り」など多くの有名なエピソードがある。しかしながら、私は古事記だけに描かれた「根の国への訪問」というエピソードが好きである。
根の国【ねのくに】とは、古事記に登場する「地下の世界」で、須佐之男命【すさのおのみこと】(スサノオ)が住む場所とされている。大国主大神は、スサノオの試練を受けるため(本当は、執拗な八十神の兄弟神による迫害から逃れるため)に根の国を訪れた。
大国主大神は、訪れた根の国でスサノオの娘である須勢理毘売命【すせりびめのみこと】と結婚することになるが、同時にスサノオから数々の試練を課されることになる。須勢理毘売命の助けを借りながら試練を乗り越え、最終的に、大国主大神はスサノオから認められ、須勢理毘売命と婚姻することができた。
大国主大神は、根の国での試練を乗り越えた後、出雲の地で「国造り」を行い、出雲大社を建立したことになっているため、出雲大社は大国主大神の神話と深く結びついており、縁結びや国造りの象徴として広く信仰されることになる。
この「根の国への訪問」という神話は、古事記にだけ描かれ、日本書紀には描かれていない。ヤマト王国よりの日本書紀に描かれていないエピソードであるからこそ、逆に私はこの神話により一層興味を惹かれ、好きになったわけである。出雲大社の成り立ちは、決して「国譲り」後ではなく、「根の国への訪問」後であるとの説を私は採りたいのである。
根の国への訪問
大国主神は、「因幡の白兎」の一件を経て、因幡国の八上比売【ヤガミヒメ】と結婚したことから、二度も八十神の兄弟神に殺されることになる。
母神の助けもあって蘇生するも、執拗な兄弟神による迫害から逃れるためにスサノオが治める根の国を訪問することにした。そこで、スサノオの娘であるスセリビメと出会い、お互いに一目ぼれで結婚することになる。
根の国ではスサノオの数々の試練を受けるがスセリビメの助けで乗り切ることができた。原っぱでは火責めにもされるがネズミの助けで九死に一生を得て生還できた。
大国主神は、執拗な試練に耐えられなくなり、スサノオの隙をついてスセリビメと共にスサノオの元を脱出することを試みる。何とか脱出に成功した大国主神を追い掛けて来たスサノオは、大国主神を叱咤激励して、国造りを指南する。つまり、娘のスセリビメとの婚姻を許したわけである。それと同時に、神さま特有の悠久の時空を経て、スサノオは大国主神の義父になったというわけである。
大国主神は、スサノオの教えに従い、八十神の兄弟神を服従させた。そしてスセリビメを正妻にして、出雲に大社を築いて国造りに着手するという物語(神話)である。
出雲大社
出雲大社の参拝方法は、2礼4拍手1礼が決まりである。一般的には2礼2拍手1礼であるが、出雲大社は他とは違うのである。この参拝方法と作法に注意して、出雲大社の各社を参拝した。
大社【たいしゃ】 という社号は、格式の高い地域信仰の中核をなす大きな神社を指す社号として知られている。かつては単に大社【おおやしろ】といえば出雲大社のことを指していたという。
奈良時代・平安時代の昔から大社と銘記されてきた神社は、出雲大社が唯一であり、大社といえば「いづもおおやしろ」のことを指していたという。主祭神である大国主命の住居が「ミヤシロ」と呼ばれていたのが由縁である。大社の本家・本元は出雲大社であることは神話の時代から歴史的に相違なさそうである。
出雲国(現島根県)が「神の国・神話の国」として知られているのは、神々を祀る古い神社が、現代においても至る処に鎮座しているからであるという。その中心が大国主命をお祀りする出雲大社であるのは誰もが納得することであろう。
荘厳な社は、古来、天日隅宮を始め、様々な名称で称えられてきたが、現在は出雲大社【いづもおおやしろ】と呼ばれている。尚、出雲大社から分社した他の出雲大社は「いずもたいしゃ」と読むが、ここの出雲大社(島根県)だけは「いずもおおやしろ」と称することだけはしっかりと覚えておこう。
出雲大社の御祭神は、勿論、大国主命である(出雲大社のHPでは大国主大神【オオクニヌシノオオカミ】と表記されているが、ここでは大国主命で統一する)。 大国主命は、広く「だいこくさま」としても慕われ、全国各地でお祀りされている。
大国主命は、今日では広く「えんむすびの神」として人々に慕われているが、この「縁」は「男女の縁」だけではなく、生きとし生けるものが共に豊かに栄えていくための貴い「結びつき」であるという。そして、日本の悠久なる歴史の中で、代々の祖先の歩みを常に見守られ、目に見えない「ご縁」を結んでくれているのが大国主命だと信じられてきた。
大国主命が「国づくり」によって築いた国は豊葦原の瑞穂国と呼ばれ、あらゆるものが豊かに、力強く在る国であったという。
記紀による伝承では、大国主命は「国づくり」で自ら築いた国をヤマト王国の皇祖である天照大御神に還した(国譲り)したことになっている。
天照大御神は、国を譲り受けた代わりに高天原の諸神に命じて宇迦山の麓に壮大なる宮殿を造営させ、その宮殿を天日隅宮【あめのひすみのみや】と称して大国主命の住居として与えたことになっている。この神話が出雲大社の起源とされる。
大国主命には異なる神名が多くある。その一つに所造天下大神【あめのしたつくらししおおかみ】があるが、それは神代に日本人の遠い祖先たちと、喜びや悲しみを共にしながら、国土を開拓された事に由来しており、これが「国づくり」の大業と呼ばれているものである。
大国主命は「国づくり」の作業のなかで、農耕・漁業・殖産から医薬の道まで、私たちが生きていくために必要な様々な知恵を授けられ、多くの救いを与えたことになっている。この慈愛ある御心への感謝の顕れが、それぞれの神名の由来になっていると伝えられている。
名 称 | 出雲大社 |
所在地 | 島根県出雲市大社町杵築東195 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 出雲大社 (izumooyashiro.or.jp) |
あとがき
大国主命【オオクニヌシノミコト】には多くの別名があることが知られている。このことを知らないと、私のように別の神さまと誤解してしまうことがあるので気をつけたい。主な別名を挙げると下記のようになる。
- 大国主大神【オオクニヌシノオオカミ】(出雲大社祭神)
- 大穴牟遅神【オオナムチ】
- 大己貴命【オホナムチノミコト】
- 大名持神【オオナモチノカミ】(玉作湯神社祭神)
- 大物主大神【オオモノヌシオオカミ】
- 大國魂大神【オホクニタマオオカミ】
- 八千矛神【ヤチホコ】
- 葦原醜男【アシハラシコヲ】
- 葦原色許男神【アシハラシコヲ】
- 宇都志国玉神【ウツシクニタマノカミ】
- 幽冥主宰大神【カクリゴトシロシメスオオカミ】
- 杵築大神【キヅキノオオカミ】
大国主命にかかわる神話には、例えば、「因幡の白兎」や「根の国への訪問」、そして「国造り」・「国譲り」など多くの有名なエピソードがあることは、冒頭でも述べた。そして、これらの神話が主祭神として大国主命を祀る出雲大社への信仰の根源になっていることに相違はないはずである。
大国主命は、「縁結びの神様」として知られているが、主祭神たる大国主命にかかわる多くのエピソードによって、出雲大社のご利益は多岐にわたっている。例えば、主なご利益としては下記のようなものが知られている。これらのご利益を求め、出雲大社へは多くの参拝者や観光客が訪れる。
- 縁結び: 恋愛成就や結婚を祈願することが多いが、男女の縁だけでなく、仕事や人間関係などあらゆる縁を結んでくれると信じられている
- 家内安全: 家族の健康や幸福を祈願する
- 商売繁盛: 事業の成功や繁栄を祈願する
- 病気平癒: 病気の回復や健康を祈願する
- 五穀豊穣: 農業の豊作を祈願する
上記のような有難いご利益を求めなくとも、出雲大社では悠久の歴史と神聖な雰囲気を参拝した私たちには感じられる。それだけでも参拝する価値は十分にあると言ってよい。
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