はじめに
日本アルプスは、中部地方の3つの山脈(飛騨山脈・木曽山脈・赤石山脈)の総称であるが、各山脈はそれぞれ北アルプス・中央アルプス・南アルプスと呼ばれることが多くなっている。
南アルプス国立公園は、山梨、長野、静岡の3県にまたがる赤石山脈(南アルプス)に位置する国立公園である。
南アルプスは、標高3000m級の山々が南北に連なる日本屈指の山岳地帯である。最高峰は、北岳(3192m)で、富士山に次いで日本第二位の高峰である。
南アルプスの山々は、北アルプスの山々とは山容も雰囲気も異なる。南アルプスの山々への登山はひたすら樹林帯の中を登ることが多いのが特徴である。岩場が少ないので高山植物が生育するお花畑も多く、高山植物の種類も豊富である。そして、南アルプスは富士山に近いので、天候が良ければ富士山が良く見える。絶好のビューポイントも多い。
問題は、北アルプスに比較すると交通が不便なことである。しかし、交通が不便な分、北アルプスのように混雑することもほとんどない。静かに登山を楽しみたい者にとっては有難いというしかない。そんな不便な南アルプスへわざわざ登山をしに行く者は、山が本当に好きな人ではないかと私は思っている。
<目次> はじめに 南アルプスの主な山岳一覧 鋸岳 甲斐駒ヶ岳 アサヨ峰 鳳凰山 仙丈ヶ岳 北岳 間ノ岳 農鳥岳 広河内岳 塩見岳 荒川岳 赤石岳 兎岳 聖岳 上河内岳 光岳 南アルプスの峠 夜叉神峠 北沢峠 芦安温泉郷 芦安温泉 桃の木温泉 金山沢温泉 あとがき |
南アルプスの主な山岳一覧
南アルプス(赤石山脈)には標高が3,000mを超える山が9座もあり、その数は北アルプスをも上回る。北アルプスに比較すると交通が不便な分、北アルプスのように混雑することもほとんどない。山好きには山を独り占めにできる魅力的な場所であり、この大自然を後世にも残していきたいと願っている。
山名 | 標高(m) | 山系 |
---|---|---|
鋸岳【のこぎりだけ】 | 2,685 | 赤石山脈 |
甲斐駒ヶ岳【かいこまがだけ】 | 2,966 | 赤石山脈 |
アサヨ峰【あさよだけ】 | 2,799 | 赤石山脈 |
鳳凰山【ほうおうだけ】 | 2,840 | 赤石山脈 |
仙丈ヶ岳【せんじょうがだけ】 | 3,033 | 赤石山脈 |
北岳【きただけ】 | 3,193 | 赤石山脈 |
間ノ岳【あいのだけ】 | 3,189 | 赤石山脈 |
農鳥岳【のうとりだけ】 | 3,025 | 赤石山脈 |
西農鳥岳【にしのうとりだけ】 | 3,051 | 赤石山脈 |
広河内岳【ひろかうちだけ】 | 2,895 | 赤石山脈 |
塩見岳【しおみだけ】 | 3,047 | 赤石山脈 |
毛無山【けなしやま】 | 1,945 | 赤石山脈 |
荒川岳【あらかわだけ】 | 3,141 | 赤石山脈 |
赤石岳【あかいしだけ】 | 3,121 | 赤石山脈 |
兎岳【うさぎだけ】 | 2,738 | 赤石山脈 |
聖岳【ひじりだけ】 | 3,013 | 赤石山脈 |
上河内岳【かみかうちだけ】 | 2,803 | 赤石山脈 |
光岳【てかりだけ】 | 2,592 | 赤石山脈 |
鋸岳
鋸岳【のこぎりだけ】(標高2,685m)は赤石山脈(南アルプス)の北端に位置する山で、その名のごとく鋸状の急峻な山容をしている。鋸岳の南東には甲斐駒ヶ岳が隣接している。
甲斐駒ヶ岳
甲斐駒ヶ岳【かいこまがたけ】(標高2,967m)は、南アルプス北端に位置する、山梨県北杜市と長野県伊那市にまたがる山である。
独立峰のような峻険な山容をもつ南アルプス屈指の名峰である。日本各地には「駒ヶ岳」の名を冠する山が18あるが、甲斐駒ヶ岳が最高峰である。
アサヨ峰
アサヨ峰【アサヨみね】(標高2,799m)は、南アルプス稜線上の甲斐駒ヶ岳と鳳凰山とを結ぶ早川尾根上にある山である。
山名の由来は、「朝早くから日が当たる山」という意味であると言われている。
鳳凰山
鳳凰山【ほうおうざん】(標高2,841m)は南アルプス北東部(山梨県)に位置する、3つの山(地蔵ヶ岳・観音ヶ岳・薬師ヶ岳)の総称である。鳳凰三山とも呼ばれる。
地蔵ヶ岳と赤抜沢ノ頭との鞍部には「賽ノ河原」と呼ばれる、多くの石地蔵が安置されている。
鳳凰山は南アルプスの主稜線上からは離れているので、甲斐駒ヶ岳や白峰三山(後述)の眺望が良い。
山名 | 標高 | 備考 |
---|---|---|
地蔵ヶ岳 じぞうがたけ | 2,764m | 山頂にオベリスクがある |
観音ヶ岳 かんのんがたけ | 2,841m | 鳳凰山の最高点 |
薬師ヶ岳 やくしがたけ | 2,780m | 南峰と北峰の双耳峰で、 標高は北峰の方が高い |
仙丈ヶ岳
仙丈ヶ岳【せんじょうがたけ】(標高3,033m)は、南アルプスに位置する、長野県伊那市と山梨県南アルプス市にまたがる山である。北東側に小仙丈岳、南西側に大仙丈岳の小ピークを従え、大仙丈岳の南側には、塩見岳に至る長大な仙塩尾根が連なる。
東側に小仙丈沢カール、北側に藪沢カール、南東側に大仙丈沢カールと三つのカール(圏谷)があるほか、高山植物が豊富な山として知られている。
仙丈ヶ岳は雄大な山で、登山口にあたる北沢峠から登り始めたが頂上が非常に遠くに感じた想い出がある。その雄大さは、主峰の北岳に勝るとも劣らないイメージとして私の脳裏に残る。
北岳
北岳【きただけ】(標高3,193m)は、南アルプス北部(山梨県南アルプス市)に位置する日本第2位の高峰である。火山でない山としては日本最高峰である。頂上付近にしか生息していない高山植物の固有種「キタダケソウ」も登山者の間では有名である。
東側斜面には「北岳バットレス」と呼ばれる岩壁があり、ロッククライミングの対象である。北岳から中白根山を経て間ノ岳への約3km余りの稜線は標高3,000m超のため「天上の散歩道」とも呼ばれる人気の高い縦走路である。高山植物の豊富な山域でもある。
北岳は「南アルプスの盟主」とも呼ばれる名峰であり、間ノ岳と農鳥岳とともに「白根三山」と呼ばれる。
夜叉神峠から展望する雪をまとった白根三山の姿は圧巻の素晴らしさである。私が北岳が大好きになったきっかけでもある。
間ノ岳
間ノ岳【あいのだけ】(標高3,190m)は、南アルプス北部に位置する、山梨県と静岡県にまたがる日本第3位の高峰である。北アルプスの最高峰・奥穂高岳に並ぶ標高であり、南アルプスでは北岳に次ぐ標高を誇る。山頂の東側には細沢カールがある。
間ノ岳は、北岳と農鳥岳とともに白根三山と呼ばれるが、北岳(北側)と農鳥岳(南側)の真ん中に位置するため「間ノ岳」と名付けられたという。
農鳥岳
農鳥岳【のうとりだけ】(標高3,026m)は、南アルプス北部に位置する、山梨県と静岡県にまたがる山である。白根三山の一角を占める。
山頂は東西に分かれ、南東側は農鳥岳(本峰)と呼ばれ、北西側は西農鳥岳(標高3,051m)と呼ばれる。標高は西農鳥岳の方が高いが、三角点があるのは農鳥岳の方である。
山名の由来は、春に山頂東面に白鳥の形の残雪(雪形)が現れることかららしい。
広河内岳
広河内岳【ひろごうちだけ】(標高2,895m)は、南アルプスに位置する、山梨県と静岡県にまたがる山である。農鳥岳の南側約2kmほどのところに位置し、この広河内岳より南側を白峰南嶺【しらねなんれい】と呼ぶ。
塩見岳
塩見岳【しおみだけ】(標高3,052m)は、南アルプス中央部に位置する、長野県伊那市と静岡県静岡市にまたがる山である。山頂は東峰(3,052m)と西峰(3,047m)に分かれ、東峰の方が高いが、三角点は西峰に設置されている。
仙丈ヶ岳から続く長大な仙塩尾根の南端に位置し、鉄兜にも似たドーム形の独特な姿で、一見すると独立峰のような山容を誇る。
山名の由来は、山頂から駿河湾(潮)が見えるからという説や、山麓に塩の産地があるからという説、あるいは製塩作業の煙が山頂から見えたことに由来するという説などがあり、定かでない。
荒川岳
荒川岳【あらかわだけ】(標高3,141m)は、南アルプス中央部に位置する3つの山(前岳・中岳・悪沢岳)の総称である。別名、荒川三山とも呼ばれる。「荒川三山」と呼ぶ場合はそれぞれの山は次のような山名で呼ばれる。
- 前岳(荒川前岳) 標高3,068m
- 中岳(荒川中岳) 標高3,084m
- 悪沢岳(荒川東岳)標高3,141m (最高峰)
荒川岳一帯には氷河によって削られた地形であるカール(圏谷)が数多く見られる。カールの中腹や底は、いずれも大規模な高山植物のお花畑となっており、特に中岳、前岳から荒川小屋に下る斜面では大規模のお花畑の中を登山道が通っているため登山を楽しむことができる。
赤石岳
赤石岳【あかいしだけ】(標高3,121m)は、南アルプス(赤石山脈)に位置する、長野県と静岡県にまたがる山で、山頂には一等三角点が設置されている。稜線の東側斜面にはいくつかのカール(圏谷)が見られる。一方、南斜面は大井川支流の赤石沢の源流になっている。
兎岳
兎岳【うさぎだけ】(標高2,818m)は、南アルプス南部に位置する、長野県飯田市と静岡県静岡市にまたがる山である。兎岳の東南東の稜線上(尾根)には聖岳がある。
聖岳
聖岳【ひじりだけ】(標高3,013m)は、南アルプス南部に位置する、静岡県静岡市と長野県飯田市にまたがる山である。南アルプスの中で標高3,000 m超の山としては最南端に位置する。
上河内岳
上河内岳【かみこうちだけ】(標高2,803m)は、南アルプスに位置する、静岡県静岡市と長野県飯田市にまたがる山である。
光岳
光岳【てかりだけ】(標高2,592m)は、南アルプス最南部に位置する山である。山名の由来は、静岡県西部から遠望した時に山頂の南西直下に夕日に照らされて白く光って見える光岩【てかりいわ】と呼ばれる石灰岩の岩峰があることだと言われている。
夜叉神峠
夜叉神峠【やしゃじんとうげ】(標高1,770m)は、鳳凰三山の南端に位置に位置する、南アルプス前衛の山にある峠である。
夜叉神峠は、鳳凰三山への登山口であることに加え、白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳の総称)の展望台として知られる。
私も大学1年の春に「新歓山行」(新入生歓迎登山)と称する初めての登山で夜叉神峠に行ったことがある。そしてその年の夏合宿で南アルプス縦走で、白根三山にも登山をした経験がある。夜叉神峠から見上げた残雪の白根三山は本当に綺麗であった。登ってみたいと心から思った記憶が蘇ってくる。
名 称 | 夜叉神峠 |
所在地 | 山梨県南アルプス市 |
駐車場 | あり(有料) |
Link | 夜叉神峠 | 南アルプス市観光協会 |
北沢峠
北沢峠【きたざわとうげ】(標高2,032m)は、山梨県南アルプス市と長野県伊那市との境界にある峠である。甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳などへの登山拠点となっている。
私は、大学1年のときワンゲル部の夏合宿で南アルプス北部縦走のために北沢峠から仙丈ヶ岳に登った経験がある。
名 称 | 北沢峠 |
所在地 | 山梨県南アルプス市、長野県伊那市 |
駐車場 | あり(有料) |
Link | 南アルプス林道バス:伊那市公式ホームページ 南アルプス北沢峠へのアクセス/南アルプス登山ルートガイド |
芦安温泉郷
芦安温泉郷は、芦安温泉を中心に桃の木温泉と金山沢温泉を加えた温泉地の総称である。
芦安温泉
芦安温泉【あしやすおんせん】は、夜叉神峠への登山口に向かう途中にある温泉地で、宿泊施設は10軒ほどで温泉街を作る。
泉質は、ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉で、源泉の温度は25〜43℃であるという。
名 称 | 芦安温泉 |
所在地 | 山梨県南アルプス市芦安芦倉 |
Link | 芦安温泉郷 | 一般社団法人 南アルプス市観光協会 |
桃の木温泉
桃の木温泉【もものきおんせん】は、山間の一軒宿として、登山者は勿論、ペット愛好家にも愛されているという。日本秘湯を守る会会員の宿であり、秘湯とは言え、自噴温泉で湯量が豊富なため源泉かけ流しの湯が提供されている。泉質は、アルカリ性単純泉である。四季折々の山の表情と眺めながら温泉に浸かる醍醐味は格別であると言わざるを得ない。
名 称 | 桃の木温泉 |
所在地 | 山梨県南アルプス市芦安芦倉1672 |
Link | 桃の木温泉 さんわそう|公式サイト |
金山沢温泉
金山沢温泉【かなやまさわおんせん】は、南アルプスへの玄関口に設置された共同入浴施設である。内風呂と露天風呂が備えられており、登山帰りの登山者をはじめ、家族連れ観光客にも人気が高いという。子ども向けの遊具やバーキュー施設も充実しているからであろう。
名 称 | 金山沢温泉 |
所在地 | 山梨県南アルプス市芦安芦倉1525 |
Link | 金山沢温泉 – 山梨県 南アルプス市 |
あとがき
日本で一番好きな山はどれかと尋ねられれば、私は「北岳」と答えたい。そう、富士山に次ぐ標高(3,193m)を誇る、南アルプスの主峰、北岳である。小説家・高村薫の傑作の一つである「マークスの山」(早川書房;1993年3月発行)にも登場した山である。
多くの登山愛好家に人気のあり、常に人気ランキングの上位にくる穂高岳や槍ヶ岳も勿論、私は好きである。しかし、私にとっては何故か北岳の方が上位に来る。
その理由を考えてみた。私は高山植物が好きである。キタダケソウは固有種で、北岳の山頂部でのみ見ることができる。先端に直径約2cmほどの白い花をつける。開花期は6月下旬前後であり、他の高山植物よりも早くに咲く。だから登山最盛期の7~8月頃に登山してもその姿を見ることができない。
恥ずかしい話だが、最初、チングルマをキタダケソウと間違えてしまったため、私はキタダケソウだけをみるために再度、登頂した経験もあるほどである。
さらに、北岳には、当時クライマー達の練習場であったバットレスと呼ばれる北壁があり、ヨーロッパアルプスの一つ、アイガーの北壁のようにも感じていた。
しかし、キタダケソウや北面バットレスだけが私を引き付けていたわけではないことは分かっていた。大学でワンダーフォーゲル部に入部して初めての山行で、夜叉神峠から眺めた、残雪に輝く白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)は印象的であった。その強烈な印象のためか、あるいはその年の夏合宿で南アルプスの主稜線を縦走した経験があるためであろうか。確かに初めての夏合宿はきつかったが、今では良き想い出になっているのも事実である。
人に理由を尋ねられたときには、上記のようなことを話していたのも事実であり、決して嘘をついているわけではない。しかし、私には本当の理由は、それだけではない、釈然としない気が何となくしていた。
学生時代は勿論、社会人となってからも北岳には何度も登頂した。何故、それほど好きなのかもよく分からないままに。
何年ぶりだろうか? おそらく40年以上の歳月が過ぎ去っているはずだ。『日本百名山』(深田久弥著)の第80章、北岳(P.174-175)を開き、読み返してみた。 そして、わずか2ページの短い文章の中に、次のような記述があることを再発見した。
『そんなに古くから名の聞えた山であり、わが国第二の高峰でありながら、あまり人に知られていないのは、一つにはこの山が謙虚だからである。どうだおれは、といったような、抜きん出て人の眼を引こうとするところがない。奇矯な形態で、その存在を誇ろうとするところもない。それでいて高い気品をそなえている。いつも前山のうしろに、つつましく、しかし凛とした気概をもって立っている。奥ゆかしい山である。』
『この北岳の高潔な気品は、本当に山を見ることの好きな人だけが知っていよう。白根三山の中でも、北岳は形がスッキリしていて、清秀な高士のおもかげがある。南の間ノ岳や農鳥岳から見ても立派であるが、少し近すぎる。むしろ北の駒ヶ岳やアサヨ峰まで退いて望んだ時の北岳の姿は、まさに絶品である。俊と天を突くような鋭い頭角をあげ、飄爽として軽薄でなく、ピラミッドでありながら俗っぽくない。惚れ惚れするくらい高等な美しさである。富士山の大通俗に対して、こちらは鉄人的である。』
『しかもその肩から上の秀抜さを支えている、下半身の腰廻りの大きいことはどうだろう。これほどドッシリした土台を踏まえた峰は稀である。野呂川が大きくこの山を巻いているが、それに流れ込む多くの沢、その沢のどの一筋を遡るのも容易でないことを思えば、そのみごとな大きい根の張りかたが察しられよう。』
私は、青年期に、深田久弥の著書を読んだだけで、洗脳されていたのだろうか。私が北岳が好きな理由の根源はこの著書によるところが大きいように今さらではあるが思い出したのである。
【参考資料】
ヤマケイアルペンガイド 南アルプス(山と渓谷社、2020.06.17発行) |
南アルプス(山と渓谷社、2009.06.27発行) |
夜叉神峠 | 南アルプス市観光協会 |
南アルプス林道バス:伊那市公式ホームページ |
南アルプス北沢峠へのアクセス/南アルプス登山ルートガイド |
芦安温泉郷 | 一般社団法人 南アルプス市観光協会 |
桃の木温泉 さんわそう|公式サイト |
金山沢温泉 – 山梨県 南アルプス市 |