はじめに
磨崖仏【まがいぶつ】は、石仏の一種で、自然の岩壁や露出した岩層面に彫刻された仏像のことのことである。石仏の一種ではあるが、独立した石材に彫られた仏像や、石窟を掘ってその中に彫刻された石窟仏とは区別される。
磨崖仏は、自然の岩壁に直接彫られているため、周囲の自然環境と一体化しているのが特徴である。磨崖仏は、自然の中で仏教の精神を感じることができる貴重な文化遺産である。
日本の磨崖仏の造立は、奈良時代や平安時代初期に始まり、平安時代後期から鎌倉時代にかけて盛んに造立されたらしい。特に九州地方には多くの磨崖仏が集中していると言われている。
熊野磨崖仏は、大分県豊後高田市にある磨崖仏で、平安時代後期に造られたと推定されている。国の重要文化財および史跡に指定されている。
熊野磨崖仏
熊野磨崖仏は、国内最古にして最大級の磨崖仏として知られている。そこには平安時代末期の作と伝わる「大日如来」と「不動明王」の磨崖仏があり、国指定重要文化財となっている。
熊野磨崖仏への入口は、田原山(鋸山)山麓に位置している今熊野山胎蔵寺(豊後高田市田染)にある。
この寺の脇から急な山道を300 mほど登ると自然石を乱積にした石段に達する。
鳥居から磨崖仏までへ続く100段もの石段には、鬼が一夜にして築いたという伝説も残っている。
この急峻な石段を登ると左手が開け、岩壁に刻まれた巨大な磨崖仏2体が姿を現す。
石段を登りきった場所には熊野神社が鎮座する。
名 称 | 熊野磨崖仏 |
所在地 | 大分県豊後高田市田染平野 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 熊野磨崖仏 | 豊後高田市公式観光サイト |
不動明王二童子像
向かって左側に位置するのが半身像の不動明王像で、高さが約8mもある。作者は不明だが、鎌倉時代の作と考えられている。
安山岩質の礫混じりの硬い岩壁に彫られているため、彫り口がやや浅い。通常の明王像とは異なり、口元に柔和な笑みを浮かべているように見えなくもない。
仏像は、岩壁に直接彫られており、その迫力と美しさは圧巻である。
不動明王像の左右両脇には高さ約3 mの矜羯羅童子【こんがらどうじ】と制多迦童子【せいたかどうじ】の二像の痕跡も認められるという。
大日如来像
向かって右に位置するのが半身像の大日如来像で、高さが約6.7mもある。高さ約8mのくぼみ(龕【がん】)の中に彫り出されている。
螺髪等の造形的特徴から、不動明王像よりも制作年代が遡ると推定されている。光背上部の種子曼荼羅は鎌倉時代の追刻とされたものであると考えられている。
通常の大日如来像は菩薩形(髻を結い、装身具を着ける)に造形されるが、この大日如来像は頭髪を螺髪としており、本来の像名は不明である。そのために重要文化財指定名称は「如来形像」になっているという。
あとがき
摩崖仏は、自然の岩壁に彫られているため、周囲の自然環境と一体化している。そのため、私たちは、自然の中で仏像を拝むことになる。神社仏閣への参拝とは、また異なる雰囲気である。摩崖仏の神秘的な美しさと周囲の静寂さに心を打たれる。
平安時代末期に彫られたとされる熊野磨崖仏は、日本最古の磨崖仏の一つである。そのため、歴史的にも非常に貴重な文化財とされている。
熊野磨崖仏は、その巨大な仏像から感じられるエネルギーで、パワースポットとしても人気があるという。確かに、私たちの心身をリフレッシュしてくれそうな雰囲気が十分に漂っていた。