はじめに
北長門海岸【きたながとかいがん】国定公園は、山口県北部の萩市から長門市を経て下関市に至る海岸線を中心に指定された国定公園である。
秋吉台【あきよしだい】国定公園は、山口県中央部に広がるカルスト台地の秋吉台を中心に、秋芳洞など約200の洞窟(鍾乳洞)を指定地域に加えた国定公園である。カルスト台地という独特の性質のために比較的指定面積が狭い公園(45.02km2)である。
これらの自然公園はともに山口県にあるが、海岸部と内陸部に分かれており、お互いに特徴が異なる。だから両者のエリアを訪ねることは、目にする風景がバリエーションに富んでいて、きっと楽しい旅になるはずである。
北長門海岸国定公園
須佐湾
須佐湾【すさわん】は、山口県萩市に位置し、日本海に面する小さな湾である。国の名勝及び天然記念物に指定されている。
湾内には七つの入り江があり、海上には大小合わせて70以上の岩礁がある。このような非常に変化に富んだ入り江を形成している理由は、須佐湾の一帯は元々はなだらかな平地であったものが、沈降によって窪地は入り江となり、丘陵や山地部分は溺れ谷となったからである。
湾の内側は穏やかな入り江であるが、海上に浮かぶ雄島(別名、天神島)や中島(別名、弁天島)などは日本海の荒波による激しい浸食を受けて、険峻な崖となっている。湾の外縁部も険峻な断崖が見られ、中でも屏風岩は高さ100m級にも達する断崖絶壁である。
名 称 | 須佐湾・須佐湾遊覧 |
所在地 | 山口県萩市須佐 須佐湾 (乗船場所:須佐漁港旧市場) |
Link | 須佐湾遊覧船【公式】山口県観光/旅行サイト |
ホルンフェルス大断層
須佐ホルンフェルスは、山口県萩市須佐の北方に位置する高山(標高533m)とその山麓一帯にかけて露出している変成岩地形を指す。本来は変成岩地形全体を指すが、観光ガイド等では「須佐ホルンフェルス大断層」や「須佐ホルンフェルス大断崖」などと呼ばれ、須佐ホルンフェルスの一部で海食崖である畳岩を指して、須佐ホルンフェルスと紹介されていることが多い。
確かに、畳岩は砂岩【さがん】と頁岩【けつがん】が互いに層をなして、灰白色と黒色の縞模様が美しい海食崖である。しかしながら、畳岩は変成作用の程度は弱く、須佐ホルンフェルスの最外縁部に過ぎない。
ちなみに「ホルンフェルス」の語源はドイツ語で「角の岩」を意味し、硬く緻密な組織をもち、割るとガラスのように角ばって割れることから名付けられたという。
名 称 | 須佐ホルンフェルス |
所在地 | 山口県萩市須佐高山北海岸 |
Link | 須佐ホルンフェルス【公式】山口県観光/旅行サイト |
笠山
笠山【かさやま】は、萩市の北東部海岸より日本海に突き出た陸繋島で、火山(標高112m)がある。
本州と笠山を繋ぐ砂州には海跡湖の明神池があり、越ヶ浜漁港もある。
名 称 | 笠山 |
所在地 | 山口県萩市椿東越ヶ浜 |
Link | 笠山|萩市観光協会公式サイト|山口県萩市 |
菊ヶ浜
菊ヶ浜【きくがはま】は、三角州に形成された萩市街地の海側の大部分を占めている。西側には萩城跡と指月山があり、東側は萩港で、北側には笠山を望むなど風光明媚な場所である。
菊ヶ浜は夕陽が美しい場所としても知られる。
名 称 | 菊ヶ浜 |
所在地 | 山口県萩市大字堀内2区 |
Link | 菊ヶ浜|萩市観光協会公式サイト|山口県萩市 |
青海島
青海島【おおみじま】は、山口県長門市の北側・日本海にある島である。本土とは青海大橋で繋がっている。
島の北岸は日本海の荒波を受けた浸食地形となっており、その奇岩の並び立つ景観は素晴らしく、国の名勝および天然記念物に指定されている。
名 称 | 青海島 |
所在地 | 山口県長門市仙崎 |
Link | 青海島|【公式】山口県観光/旅行サイト |
角島
角島【つのしま】は、山口県の北西端に位置し、海士ヶ瀬戸【あまがせと】に架かる角島大橋で本土と繋がっている島である。
牧崎【まきざき】と夢崎【ゆめざき】の2つの岬がウシの角のように突き出している様から角島と名付けられたという。
角島には牧場もあって、黒毛和牛にも出会えた。
名 称 | 角島 |
所在地 | 山口県下関市豊北町角島 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 角島|【公式】山口県観光/旅行サイト |
角島砲台跡
戦前は下関要塞地帯の一角として島の東側の元山集落に旧日本陸軍の角島砲台陣地が置かれ、観測所、弾薬庫、兵舎、照明所なども置かれていたという。砲台跡と弾薬庫の一部は残るが、海岸近くの遺構の一部は道路建設のために撤去されている。
名 称 | 角島砲台跡 |
所在地 | 山口県下関市豊北町大字角島 |
Link | 角島 砲台 (big.or.jp) |
角島灯台
角島灯台は、角島の北西に位置する夢ヶ岬に建ち、高さが43mもあるので、島のシンボルとなっている。
角島灯台は、明治9年(1876年)にイギリス人技師の設計により建設された日本海側初の西洋式灯台であるという。今日でも現役の灯台である。塔高は30 m、灯高は45mであり、光達距離は18.5海里(約34km)に及ぶという。竣工時には石造の灯台としては最も高い灯台であったと言われている。
名 称 | 角島・角島灯台 |
所在地 | 山口県下関市豊北町角島2343-2 |
駐車場 | あり(有料) |
Link | 角島灯台【公式サイト】 |
阿武火山群
阿武火山群【あぶかざんぐん】は、山口県萩市に位置する、約40の小規模の単成火山が点在する独立単性火山群である。
山ごとに玄武岩、安山岩、デイサイト質など多様な性質の岩質で形成されている。
名 称 | 阿武火山群 |
Link | 火山地形が見られる活火山-阿武火山群 – 萩市HP 阿武火山群の火山情報 – 日本気象協会 |
東後畑棚田
長門市油谷東後畑地区には棚田がある。
ここの棚田は、山間部で見かける棚田とは風景が異なっていて、棚田と一緒に眼下に日本海を望むことができる。その理由は、棚田のある丘陵地が海岸近くまで迫っているためである。
日が沈むと漁火を灯した漁船が棚田の向こうに見える。
この景色を求めプロアマを問わず多くの写真家がここに集まってくる。私もチャレンジしたが、三脚なしではやはり難しかった。
この地に棚田があることに気付いたのは私の妻である。妻は棚田のある風景が好きで、私は彼女に同行するだけであった。しかしながら、このような棚田の景色を見せられれば、興味を持たずにはいられなくなる。
名 称 | 東後畑棚田 |
所在地 | 山口県長門市油谷東後畑 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 東後畑棚田【公式】山口県観光/旅行サイト 東後畑棚田 | 山口県長門市観光サイト ななび |
千畳敷
千畳敷【せんじょうじき】は、向津具半島【むかつくはんとう】付け根部分に位置し、その頂上部(標高333m)に広がっている草原で、北側が日本海に面しているため風光明媚な草原となっている。
この一帯では常時強風が吹いているため、中国電力をはじめとする風力発電用風車が複数設置されている。
名 称 | 千畳敷 |
所在地 | 山口県長門市日置中1138-1 |
駐車場 | |
Link | 千畳敷 | 山口県長門市観光サイト ななび |
龍宮の潮吹
山口県油谷町にある津黄漁港の北西端の岬には、日本海の荒波で岸壁がけずられてできた地形(海食崖)がある。地元ではそれらの海食崖を「龍宮」と呼ぶらしい。そして自然にできた穴(海蝕洞)から空気を含み霧状になった海水を高く噴き上げる現象を「潮吹」と呼ぶ。
津黄集落の北西約500mにある海食崖には「龍宮の潮吹」と呼ばれる場所がある。近くにある元乃隅神社から日本海側を見下ろした先である。
断崖下の海蝕洞に荒波が打ち付ける度に海水が中の空気と一緒に吹き上がる現象から「潮吹」と名付けられたものである。
「龍宮の潮吹」を見下ろす場所には展望台がある。そこからの眺めも格別である。
名 称 | 龍宮の潮吹 |
所在地 | 山口県長門市油谷津黄498 |
駐車場 | あり(有料) |
Link | 龍宮の潮吹|【公式】山口県観光/旅行サイト |
秋吉台国定公園
秋吉台
秋吉台【あきよしだい】は、北東方向に約16km、北西方向に約6kmの広がる日本最大のカルスト台地でとして知られている。
厚東川【ことうがわ】によって東西二つの台地(東台と西台)に分けられ、東側地域が狭義の秋吉台で、特別天然記念物と国定公園に指定されている。
秋吉台の魅力の一つは、地表(石灰岩の台地;秋吉台)と地下(鍾乳洞;秋芳洞)が協働して壮大な石灰岩の世界を作り上げていることだと思う。
秋吉台を南北に縦断する 県道242号線(秋吉台カルストロード)のドライブは景色もよく快適である。急がず、ゆっくりと走りたい。
名 称 | 秋吉台 |
所在地 | 山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 秋吉台【公式サイト】 特別天然記念物 秋吉台 | 山口県美祢市【公式サイト】 |
秋芳洞
秋芳洞【あきよしどう】は、秋吉台の地下100~200mにある鍾乳洞である。鍾乳洞としては日本最大級の規模を誇り、洞奥の琴ヶ淵より洞口までの約1kmにわたって流れる地下川に沿って観光路が整備されている。琴ヶ淵から奥への潜水調査の結果によると、東方約2.5kmにある葛ヶ穴に連結し、さらに総延長は10kmほどに達するという。
石灰岩の造形美が地表面(秋吉台)だけでなく、地下世界に広がっている。秋芳洞は、国の特別天然記念物に指定されている。
秋芳洞は、10数万年前から存在した地下を流れる川に、石灰岩の岩盤が崩れ落ち、長い年月をかけてその岩盤を浸食することで、形成されたと考えられている。
秋吉台の地下水系である秋芳洞の内部は、通年17度ほどの気温に保たれていて、特に真夏の暑い日には天然の冷房空間となるという。自然が作った「芸術品」を鑑賞するには快適な「博物館」である。
名 称 | 秋芳洞 |
所在地 | 山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 特別天然記念物 秋芳洞 | 秋吉台 |
景清穴
景清穴【かげきよあな】は、秋吉台国定公園の最も北東に位置する鍾乳洞で、天然記念物に指定されている。かつて「壇ノ浦の戦い」で敗れた平家の武将・平景清がこの洞窟に潜んでいたという伝説があるためこの名が付いたという。
洞内には、景清が戦いで負傷した目を洗って治したと伝わる生目八幡や、景清の緞帳【どんちょう】・景清明神・兜かけなど景清にちなんだ鍾乳石を多く見ることができる。
一般に開放されている約700mの「観光コース」は、バリアフリー化されており、生目八幡宮があるほか、サンゴ天井やカスリ天井などの石灰岩が見られる。
一方、探検用の装備が必要な約400mの「探検コース」には照明はない。そのため、ヘルメット、ヘッドライトや長靴の貸し出しを受けて入ることになる(所要時間は約60分)。
名 称 | 景清洞 |
所在地 | 山口県美祢市美東町赤3108 |
Link | 天然記念物 景清洞 | 秋吉台 公式HP |
大正洞
大正洞【たいしょうどう】は、秋吉台国定公園の東北部に位置する鍾乳洞で、天然記念物に指定されている。名の由来は、大正10年(1921年)に発見されたからであるという。
立体的な石灰洞であり、5層の洞窟が竪穴でつながっている。5層の洞窟は高天原2層と、残り3層は極楽・地獄・奈落とそれぞれ名が付けられている。
約1kmの観光コース(所要時間約40分)で、「仁王門」や「獅子岩」などと名付けられた多くの鍾乳石や石筍【せきじゅん】を見ることができるという。
名 称 | 大正洞 |
所在地 | 山口県美祢市美東町赤2666-1 |
Link | 牛隠しの鍾乳洞『大正洞』/山口県美祢市 |
中尾洞
中尾洞【なかおどう】は、青景中尾台の頂上にあるドリーネに入り口を持つ竪横複合洞窟である。ドリーネとは、石灰岩地域にあるすり鉢状の凹地のことをいう。
中尾洞は、大正10年(1921年)に青景小学校の校長と生徒たちによって深部洞窟部が発見されたという。深部洞窟部には目を見張るほどに美しい鐘乳石がつらら状、カーテン状、あるいはストロー状になっているらしい。石筍やフローストーンなどと共に貴重な鐘乳石の景観は、天然記念物に指定されているという。
名 称 | 中尾洞 |
所在地 | 山口県美祢市秋芳町青景 |
Link | 中尾洞/美祢市HP |
あとがき
北長門海岸国定公園は海岸の景色が素晴らしい自然公園であり、日本海の荒波によって浸食された海食崖が特徴的である。一方で菊ヶ浜のように穏やかな浜もあって心が安らぐ。宿への到着が遅くなったが、夕日に間に合って良かった。ここが夕日の名所であることを直前になって知り、焦ったことを想い出す。
秋吉台の地下には秋芳洞以外にも景清穴・大正洞・中尾洞といった鍾乳洞が一般公開されている。せっかく秋吉台に行ったものの秋芳洞しか見学せずに帰ったのは今から思えば非常に残念なことをしたと思う。次に秋吉台を訪ねた際には是非、立ち寄りたいものだ。