はじめに
天孫降臨【てんそんこうりん】は、天照大御神の孫である瓊瓊杵尊【ニニギノミコト】が、高天原から地上に降り立ち、地上世界を治めるために派遣される物語である。この天孫降臨によって、天皇家の祖神が天照大御神であることを示す特別な物語となっている。
高千穂神社は、この日本神話の天孫降臨と深い関係がある。瓊瓊杵尊が降臨した場所(天孫降臨の地)として、高千穂の地が知られている。そして、高千穂神社は、この天孫降臨の地に建てられた神社であると伝えられている。高千穂神社は、天岩戸神社から車で約15分ほど離れた場所に位置している。
天孫降臨
葦原中津国の統治権を得ると高天原の神々は天孫・ニニギを日向の高千穂に降臨させる(天孫降臨)。
高千穂峰(標高1,574m)は、その秀麗な山容から霊峰の印象を人々に与える。天孫降臨の神話が生まれて当然の山々の姿は、わが国最初の国立公園として指定されている(1934年)。
記紀にも、葦原中国【あしはらのなかつくに】を平定した後に、瓊瓊杵尊【ニニギノミコト】が三種の神器を授けられ、神々を率いて降臨したと書かれている。
瓊瓊杵尊は、天照大御神【アマテラスオオミカミ】の孫に当たる神であることから「天孫」と呼ばれる。
瓊瓊杵尊が降臨したとされる場所が、 古事記には「筑紫の日向の高千穂のくじふるたけ」と記されている。
一方、 日本書紀には「日向の襲の高千穂の峰」、「日向のくじひの高千穂の峰」、 「日向の襲の高千穂くじひ二上峰」、あるいは「日向の襲の高千穂そほりの山峰」と記されている。
いずれにせよ天孫降臨の地は高千穂の何処かであると考えて間違いはなさそうだ。
天照大御神は、太陽神・農耕神・機織神など多様な神格を持つ最も偉大な神である。
瓊瓊杵尊は、「アマツヒコホノニニギノミコト」といい、「アマツヒコ」は天津神の子の意味であるが、「ホノニニギ 」は「稲穂が豊かに実ったこと」を意味しているという。
天孫降臨に際し、天照大御神が「高天原にある斎庭(ゆにわ)の穂(稲穂)を与えよ」と述べたことが日本書紀に出てくる。
瓊瓊杵尊が降臨の際、稲作をこの地上にもたらし、産業における農業の神としての性格も強い。そして豊かに実った稲を高く積んだところ(=高千穂)に、農業の神(=豊穣の神)が降臨したことの意味は、稲作が展開する弥生時代を意識して記紀が編纂されたからであろう。
高天原での須佐之男命(スサノオノミコト)の乱暴な行動に、田の畔を踏み壊したり、田に水を引く溝を埋めたりする記述があるが、これも稲作と関係しているのだろう。
高千穂神社
高千穂神社の御祭神は、高千穂皇神(たかちほすめがみ)と十社大明神であり、特に農産業・厄祓・縁結びの神として広く信仰を集めている。
高千穂皇神は、次の6柱の神の総称である。
- 瓊瓊杵尊【ににぎのみこと】
- 木花開耶姫命【このはなさくやひめ】
- 彦火火出見尊【ひこほほでみのみこと】
- 豊玉姫命【とよたまひめのみこと】
- 鵜鵝草葦不合尊【うがやふきあえずのみこと】
- 玉依姫命【たまよりひめのみこと】
いずれの神も古事記や日本書記に記された日本神話に登場する神々である。この機会に是非、名前を覚えておきたいと思う。
一方、十社大明神は、下記の10柱の神の総称とされる。高千穂神社は、三毛入野命【みけぬのみこと】が祖神の日向三代とその配偶神を祀ったことに始まるとされている。
- 三毛入野命【みけぬのみこと】
- 鵜目姫命【うのめひめのみこと】
- 御子太郎命【みこたろうのみこと】
- 二郎命【じろうのみこと】
- 三郎命【さぶろうのみこと】
- 畝見命【うねみのみこと】
- 照野命【てるののみこと】
- 大戸命【おおとのみこと】
- 霊社命 【れいしゃのみこと】
- 浅良部命【あさらべのみこと】
高千穂神社は、約1900年前の垂仁天皇時代に創建された、高千穂郷八十八社の総社である。
神社本殿と所蔵品の鉄造狛犬一対は国の重要文化財に指定されている。
鎮石(しずめいし)は、垂仁天皇の命により伊勢神宮と高千穂神社に設置された石であり、願いを込めて祈ることで、世の中の乱れや人の悩みが鎮められるといわれている。
また、鎌倉幕府をひらいた源頼朝は、畠山重忠を代参として天下泰平の祈願をし、皇室発祥の聖地に対する尊皇のまことを表した。畠山重忠の手植えとされる樹齢約800年の「秩父杉」や、二本の杉の幹が一つになった「夫婦杉」が境内で生長している。
名 称 | 高千穂神社 |
所在地 | 宮崎県高千穂町 |
駐車場 | あり(無料) |
Link | 高千穂神社( 高千穂町観光協会) |
あとがき
天岩戸神社と高千穂神社は、どちらも宮崎県高千穂町に位置し、日本神話と深い関わりを持つ神社である。
天岩戸神社は、天照大御神が隠れたとされる「天岩戸」を御神体とする神社である。天岩戸神社は、岩戸川を挟んで西本宮と東本宮の二つの社殿からなり、西本宮は天岩戸を御神体とし、東本宮は天照大神が天岩戸から出た後に最初に住んだとされる場所を祀っている。つまり、天岩戸神社は「天岩戸神話」の舞台である。
一方、高千穂神社は、天孫降臨の地として知られている。つまり、高千穂神社と天岩戸神社は、どちらも日本神話の重要な舞台となっている。
面白いのは、両神社は共に高千穂町内に位置しており、高千穂神社から天岩戸神社までは車でわずか約15分という近い距離にある。天と地は、案外近いのかも知れない。
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