◆ はじめに
京都の神社仏閣は国際的にも有名であり、世界文化遺産「古都京都の文化財」の構成資産として17か所が登録されている。世界文化遺産に登録されていない寺社にも素晴らしい名刹があり、むしろそちらの方が多いくらいだ。大覚寺【だいかくじ】もその一つである。
京都・嵯峨野の西にひっそりと佇む大覚寺は、かつて嵯峨天皇の離宮を起源とする門跡寺院である。御所の気配がいまも淡く漂い、伽藍を包む空気にはどこか雅やかな静けさが宿っている。
その境内を抜けると広がるのが、大沢池――日本最古の人工林泉と伝わる水面である。風が渡るたび、池に映る空と伽藍がゆるやかに揺れ、千年の時間がふっと近くなるような感覚を覚える。
本稿では、この大覚寺と大沢池をゆっくり歩きながら、その風景に息づく“御所の余香”をたどってみた。
大覚寺
大覚寺は、京都市右京区嵯峨大沢町にある真言宗大覚寺派大本山の寺院である。山号は嵯峨山で、御本尊は不動明王を中心とする五大明王である。
開山は恒寂入道親王とされるが、嵯峨天皇の信任を得ていた弘法大師空海が離宮内に五大明王を安置する持仏堂の五覚院を建て、修法を行ったのがそもそもの起源とされる。だから嵯峨天皇によって実質的に創建され、その後、皇族や貴族に信仰されてきたと言ってよい。
平安時代初期、嵯峨天皇がここに離宮を営んでいた。その嵯峨天皇の離宮を寺に改めたのが大覚寺である。

また、後宇多法皇がここで院政を行ったため、嵯峨御所とも呼ばれたという。皇室ゆかりの寺院であるが、残念なことに1336年の大火で大半の堂舎が焼失したらしい。再建された堂宇も1468年の応仁の乱で焼失したという。
1589年になり、門跡になった空性が復興にとりかかり、寛永年間(1624年~1644年)にようやく寺観が整えられたという。皇室ゆかりの寺院であり、代々法親王が住職となった門跡寺院であるため、現在でも御所風の雰囲気が漂う。

大覚寺の魅力は、かつて「嵯峨御所」とも呼ばれた歴史ある寺院であることから、多くの国宝や重要文化財を所蔵している点である。敷地内には大沢池があるので、ゆっくり散策するにも良い。
大覚寺は、嵐山エリアに位置しており、観光地へのアクセスも便利である。嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車や、渡月橋からの散策が楽しめる。
| 名 称 | 大覚寺 |
| 所在地 | 京都市右京区嵯峨大沢町4 |
| Link | 旧嵯峨御所 大本山 大覚寺 |
大沢池
大沢池は、日本最古の人工の庭池とされ、唐の洞庭湖を模して嵯峨天皇が築造したと伝わっている。当時の唐風文化の面影を今に残す園地は、国の名勝に指定されている。四季折々の風景が楽しめる場所となっている。

大沢池の外周は約1 kmあり、面積は約6.4万平方メートルで甲子園球場がすっぽり入る広さである。大沢池は、周辺にある水田の灌漑用水としても重要な役割を果たしてきたという。
◆ あとがき
大覚寺の伽藍を包む静けさと、大沢池のひろびろとした水面。そのどちらにも、宮廷文化の気品と、嵯峨野らしい素朴な風景美がやわらかく溶け合っていた。歩みを止めて耳を澄ませば、千年前の人々も同じ景色に心を寄せたのだろうと想像が広がる。旅の途中でふと立ち寄るだけでも、心の奥に静かな余韻が残る場所――それが大覚寺と大沢池である。また季節を変えて、この風景に会いに来たくなる、そんなひとときであった。