◆ はじめに
──冬の入り口に行われる、伊賀で最も遅い秋祭り
伊賀市島ヶ原の鸕宮神社では、毎年十二月二十日に秋祭りが行われる。 暦の上ではすでに冬へと向かう頃であり、「伊賀地方で最も遅い秋祭り」として知られている。
冷たい空気が里を包み始める中、 境内には祭り特有の熱気がふっと立ち上がり、 静かな山里に力強い掛け声が響く。
この祭りの最大の見どころは、 氏子たちが約五百六十キロの神輿を担ぎ、 参道の急な百二十五段の石段を一気に登る場面である。 冬の気配の中で行われるこの神事は、 島ヶ原の人々が古くから守り続けてきた祈りの形そのものだ。
獅子神楽、巫女神楽、子ども神輿── さまざまな奉納が重なり合い、 里の暮らしと信仰が静かに息づく一日となる。
本稿では、この「遅い秋祭り」の魅力と、 島ヶ原の里に流れる穏やかな時間を綴っていきたい。

鸕宮神社の由緒
鸕宮神社(うのみやじんじゃ)は、三重県伊賀市島ヶ原に鎮座する古社である。 主祭神として 事代主命(ことしろぬしのみこと) を祀り、さらに 菅原道真、大那牟遅命(おおなむちのみこと)、神倭磐余彦命(かむやまといわれひこのみこと/神武天皇)、木花咲耶比売命(このはなさくやひめ) など十四柱の神々を配祀している。
創建年代は明らかではないが、神護景雲年間(767〜770年)頃ではないかという説が伝わる。さらに、平安時代の『延喜式神名帳』には 「伊賀国山田郡 鳥坂神社」 として記載されており、 この地に古くから鎮座していた歴史の長い神社であることがわかる。
島ヶ原の里は古代から交通の要衝であり、周辺には古墳や遺跡も多い。 鸕宮神社の歴史が深いのは、こうした土地の性格とも重なっている。

● 菅原道真公が合祀された由来
天正11年(1583年)、大洪水によって 菅原道真公の御神体が流れ着いたと伝えられる。 里人が邸内社として祀ったところ、 その後、夢のお告げによって「雷除天神」として鸕宮神社に合祀されたという。
この伝承は、島ヶ原の人々が道真公を深く敬い、 災厄から里を守る神として大切に祀ってきたことを物語っている。
● 主祭神・事代主命のご利益
事代主命は、
- 海の神
- 山の神
- 農耕の神
として知られ、五穀豊穣・商売繁盛のご利益があるとされる。
また、合祀されている菅原道真公は 学問成就・厄除け・開運招福 の神として広く信仰されている。
そのため鸕宮神社は、 五穀豊穣、商売繁盛、厄除け、開運招福 といった幅広いご利益を授かる神社として、地域の人々に親しまれている。
● 島ヶ原の里に息づく古社
境内には、長い年月を経た木々が静かに立ち並び、 社殿の佇まいにも古社ならではの落ち着きが漂っている。 秋祭りでは、神輿が125段の石段を一気に駆け上がる勇壮な神事が行われ、 地域の人々の信仰と誇りが今も息づいている。
鸕宮神社は、島ヶ原の里の歴史とともに歩んできた、 静かで、しかし力強い存在感を持つ神社である。
| 名 称 | 鸕宮神社 |
| 所在地 | 三重県伊賀市島ヶ原4689 |
| TEL | 0595-59-2065 |
| アクセス | 名阪国道・大内ICより国道163号線を木津方面約20分 |
| 駐車場 | あり(無料)20台分 |
| Link | 鸕宮神社 – 伊賀忍者ゆかりの神社仏閣 鸕宮神社 | 観光スポット | 観光三重 |
鸕宮神社の秋祭り
鸕宮神社の秋祭り(例祭)は、毎年 12月20日 に行われる。 すでに師走に入った時期での「秋祭り」であるため、 “伊賀地方で最も遅い秋祭り” として知られている。
冬の気配が漂い始める頃、島ヶ原の里にだけは、 秋祭り特有の熱気と活気がふたたび立ち上がる。
● 560kgの神輿が125段の石段を登る
この祭り最大の見どころは、 約560kgの神輿が、参道の125段の急な石段を一気に登る場面である。
氏子たちは威勢の良い掛け声を響かせながら、 重い神輿を肩に担ぎ、石段を力強く踏みしめていく。 その姿はまさに圧巻で、境内に集まった人々から大きな歓声が上がる。
神輿渡御は、境内から氏子地域を巡行し、 最後にこの急な石段を登り切ることでクライマックスを迎える。 まさしく、この秋祭りの象徴ともいえる神事である。

● 子ども神輿──里の未来を担う声
子ども神輿では、子どもたちが小さな神輿を担ぎ、境内を巡行する。元気な掛け声が境内に響き渡り、 祭りに明るい彩りを添えてくれる。
● 伊賀市無形民俗文化財・獅子神楽
祭りでは、4頭の獅子による獅子神楽が奉納される。 この獅子神楽は 伊賀市の無形民俗文化財 に指定されており、 大広前、五段神楽、剣の舞、獅子踊り、鼻高、荒舞など、 多彩な演目が次々と披露される。
奉納が終わると、獅子は天狗やおかめ、ひょっとこを追いかけたり、 観客の頭を軽く噛んだりして場を盛り上げる。 そのユーモラスな動きに、子どもも大人も思わず笑顔になる。

● 巫女神楽──静けさの中の優雅な舞
巫女神楽では、巫女たちが優雅な舞を奉納し、 神々を慰め、祭りにしっとりとした気配を添える。 獅子神楽の躍動とは対照的に、 静かな美しさが境内に広がるひとときである。
● 秋祭りの流れ
鸕宮神社の秋祭りは、概ね次のような流れで進む。
| 8:30~ | 神輿渡御(氏子地域巡行) |
| 12:00~ | 子ども神輿渡御 |
| 14:30~ | 神輿還御・子ども神輿還御 |
| 14:45~ | 巫女神楽奉納 |
| 15:00~ | 例大祭斎行 |
| 15:15~ | 獅子神楽奉納 |
| 16:00~ | 奉納餅まき |
冬の入り口に行われるこの祭りは、 島ヶ原の里に古くから続く祈りと熱気を、 今も力強く伝えている。

◆ あとがき
──冬の気配の中で見つけた、里の祈り
祭りを見終えて参道を下ると、 山の空気はすでに冬の冷たさを帯びていた。 それでも、境内に響いた掛け声や太鼓の余韻が、 どこか温かく心に残っている。
百二十五段の石段を神輿が登る瞬間の迫力、 獅子神楽のユーモラスな動き、 巫女舞の静かな美しさ── それらがひとつの流れとなって、 島ヶ原の里に古くから続く祈りの深さを感じさせてくれた。
歩く旅は、華やかな景色だけでなく、 こうした土地の息遣いに触れることで、 より豊かなものになるのだと改めて思う。
冬の入り口に行われる小さな秋祭りは、 伊賀の里が静かに守り続けてきた時間そのものだった。 この日の記憶は、冷たい風とともに、 ゆっくりと心の奥に沈んでいく。