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【女人高野】古から女性の参詣が許された「室生寺」

はじめに

室生赤目青山国定公園は、三重・奈良の両県にまたがる山間部が指定地域の国定公園である。

室生寺周辺の室生高原、赤目四十八滝香落渓といった山峡部を中心とした赤目渓谷、そして青山高原及び高見山地を包括した自然公園である。

これらのエリアでは単に山岳的景観だけでなく、文化的景観も観られる。その理由は、古代文化発生の地である奈良盆地に接しており、さらに伊勢神宮に到る交通の要所であったためである。

宇陀市にある室生寺はその典型である。ほかにも奈良県側では墨坂神社、宗祐寺、仏隆寺などがある。三重県側では、石造の灯籠(文化財指定)で有名な延寿院、北畠神社や真福院などが知られている。本稿では、室生寺の魅力ついて書いてみたいと思う。

目次
はじめに
室生寺
仁王門
金堂
弥勒堂
本堂(灌頂堂)
五重塔
奥之院・御影堂
あとがき

室生寺

室生寺【むろうじ】は、奈良県宇陀市室生に位置する、真言宗室生寺派の大本山の寺院である。山号は宀一山【べんいちさん】または檉生山【むろうさん】で、御本尊は如意輪観音である。

天武天皇の勅願によって、役の行者【えんのぎょうじゃ】と呼ばれる修験道の祖、小角【おづぬ】がこの室生の地に初めて寺を建立したと伝わる。

奈良時代末期、山部親王(後の桓武天皇)の延寿祈祷をきっかけに、興福寺の高僧・賢璟【けんけい】が勅命を受けて、弟子の修圓が平安遷都まもなくの頃に堂塔伽藍を建立したという。

その後、弘法大師・空海の弟子であった真泰が真言密教を携えて入山し、灌頂堂や御影堂等が整えられた。真泰は修圓とも親交が深かったと伝わっている。

弘法大師・空海が開山した高野山金剛峯寺は、昔は女人禁制の聖地であり、女性の参詣は許されていなかった。一方、室生寺は真言宗室生寺派大本山とされ、高野山金剛峯寺とは異なり、古から女性の参詣が許されていた。そのため室生寺は「女人高野」と呼ばれるようになったと言われている。


仁王門

室生寺にある現在の仁王門は、昭和40年(1965年)11月に再建されたものである。室生寺の仁王門は江戸時代中期の元禄年間(1688年~1704年)に焼失し、その後長らく再建されていなかったらしい。

室生寺の仁王門は重層(二階建て)の楼門で、三間一戸【さんげんいっこ】八脚門【はっきゃくもん】(本柱四本の前後に控え柱四本が建つ門)の造りで、屋根は檜皮葺【ひわだぶき】である。

仁王門には勿論、仁王像(金剛力士像)が安置されている。仁王門は、仏教・寺院を守護する金剛力士像を安置する門であり、二神一対で、口を開いた阿形【あぎょう】(右側)は怒りの表情を表し、口を閉じた吽形【うんぎょう】(左側)は怒りを内に秘めた表情を表しているものが多いと言われている。

金剛力士像吽形

阿形は、左手に仏敵を退散させる武器である金剛杵【こんごうしよ】を持ち、一喝するように口を開けている。一方、吽形は右手の指を開き、怒気を帯びて口を結んでいる。


金堂

仁王門を通り過ごし、鎧坂の石段を一段一段登っていくと、屋根が柿葺【こけらぶき】の寄棟造りの金堂が次第に見えてくる。石段を登りきると金堂の全貌が見える前庭に出る。

懸け造りの高床正面一間通りは、江戸時代に付加されたという礼堂【らいどう】(本尊を安置する正堂の前に建てられた礼拝のためのお堂)で、この部分が無かった時代には、堂内の仏像の姿が外からも拝むことができたという。

特別拝観中の金堂には、中尊 釈迦如来立像、薬師如来立像、文殊菩薩立像、十二神将立像が安置されていた(撮影不可)。


弥勒堂

弥勒堂【みろくどう】は、金堂【こんどう】の前庭左手(西側)に位置する三間四方のお堂である。僧・修圓が興福寺に創設した伝法院を室生寺に移設したと伝えられている。

鎌倉時代の「宀一山図」【べんいちさんず】には「伝法院」と堂名が記されており、元は南向きであったのを室町時代に東向きに改修され、江戸時代初期にも改造されているという。

内部の四本柱の中に須弥壇【しゅみだん】を据え、厨子に収められた弥勒菩薩像を安置している。


本堂(灌頂堂)

本堂(灌頂堂)は、金堂からさらに石段を登ったところに位置する。この本堂は真言密教で最も大切な法儀である灌頂【かんじょう】を修するためのお堂で、寺院の中心である。

鎌倉時代後期の延慶元年(1308年)の建立と伝えられ、五間四方入母屋造りの大きな堂である。国宝に指定されている。和様【わよう】と呼ばれる従来からの寺院建築様式と大仏様【だいぶつよう】と呼ばれる寺院建築様式の折衷建築様式を示していると言われているが、私にはその違いが分からない。

本堂の内陣中央の厨子には如意輪観音坐像が安置されている。この如意輪観音坐像は、平安時代の作と伝えられ、重要文化財に指定されている。

如意輪観音坐像の両脇には両界曼荼羅(金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅)が配置されている。


五重塔

本堂の西側、奥之院への参道を兼ねる急な石段の最上段の広場に五重塔が建っている。

この五重塔は、平安時代初期の延暦19年(800年)頃に造られたもので、法隆寺の五重塔に次ぐ古塔であるという。この五重塔の高さは16m、一層目の一辺が2.5mほどで、屋外に立つ五重塔としては国内最小であるらしい。檜皮葺【ひわだぶき】の屋根が樹林に包まれて格別の風情を醸し出している。この五重塔は国宝にも指定されている。

平成10年(1998年)の台風によって境内の杉が倒れた影響で損壊したが、現在は見事に修復されている。


奥之院・御影堂

五重塔の左脇を通りすぎて、一旦下り、急な石段を登り切ると奥之院がある。

奥の院には弘法大師・空海像を祀る御影堂【みえどう】(大師堂ともいう)がある。御影堂は、板葺き二段屋根の宝形造りで、屋根の頂には露盤宝珠が据えられている。

この御影堂は、各地にある大師堂の中でも最古のお堂の一つであると言われている。

御影堂の隣の絶壁の前には舞台が組まれ、その上に常燈堂(位牌堂)が建っている。御影堂を拝むための礼堂であったらしい。

弘法大師・空海は、承和2年(835年)3月21日に入定【にゅうじょう】されているが、室生寺では毎年4月21日(旧暦の3月21日)に、法会『正御影供』【しょうみえく】を執り行っているという。

名 称室生寺
所在地奈良県宇陀市室生78
駐車場あり(有料:600円)、
室生寺前駐車場(さかや):500円
Link女人高野 室生寺 (murouji.or.jp)

あとがき

室生寺は、シャクナゲ(石楠花)が美しいことで有名であるが、境内に植栽されているカエデの紅葉も美しい。紅葉の見頃は例年11月中旬から12月上旬までであり、特に太鼓橋から金堂までの参道が美しい。そんな秋の紅葉に染まる室生寺境内の写真を眺めながら、室生寺についての話にもう少しお付き合い願いたい。

室生寺は、奈良時代に創建され、長い歴史を持つ真言宗の寺院である。特に「女人高野」として知られ、高野山にある真言宗の寺院とは異なり、古くから女性の参拝が許されていたことが特徴的である。

室生寺には国宝に指定されている美しい建築物である五重塔がある。この五重塔の高さは、約16 mと小ぶりであるが、その優美な姿は「日本一小さく、美しい五重塔」と言われるように素晴らしいものである。私は、個人的にもこの五重塔が好きである。1998年に台風によって境内の杉が倒れた影響で損壊したが、修復されて本当に良かったと思っている。ただ、以前の年季の入った風情の五重塔が懐かしい。

五重塔のさらに奥には「奥の院」があり、720段の石段を登った先に建っている。ここに真言宗の開祖である弘法大師・空海が祀られており、参拝者にとっては特別な場所となっている。周囲の空気が他とは異なっているように感じるのは決して私だけではあるまい。

室生寺には平安時代の仏像が多数所蔵されており、特に金堂には国宝の釈迦如来立像や十一面観音菩薩立像が安置されている。時々、特別公開されており、これらの仏像を目にすることができる。仏像の美しさと歴史的価値に多くの参拝者を魅了される。

室生寺は、山と渓谷に囲まれた自然豊かな場所に位置しており、四季折々の美しい風景が楽しめる。特に春の桜やシャクナゲ、秋の紅葉は絶景である。

室生寺の参道には「よもぎ餅」を売る店が立ち並んでいる。名物の「草もち」は、参拝者にも人気が高い。私も参拝の折には、必ず、食させて貰っている。お茶はサービスとして提供されるので嬉しい。

室生寺は、その歴史、素晴らしい建築、貴重な仏像、美しい自然など、多くの魅力に溢れている場所である。是非、一度は訪れてみて頂きたい。


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