◆ はじめに
秋の風物詩であるススキの穂を求めて、神戸から随分と足を延ばした先が上山高原であった。 今回の旅プランも、いつものように妻の提案である。 私一人では、たとえ計画したとしても実行には移せなかっただろう。 そう思うと、妻の行動力にはいつも助けられている。
そして今回も、妻に誘われて上山高原へ向かったことを心から良かったと思っている。 天候にも恵まれ、柔らかな秋風にそよぐススキの穂が一面に広がる光景は、まさに季節の贈り物であった。 ススキの穂が風に揺れる様子を見て、妻が「ススキの穂が踊る」と表現した。 私はこの描写がすっかり気に入り、ありがたく“拝借”することにした。
ススキの穂が踊る風景を満喫した私たちは、帰路に湯村温泉へ立ち寄った。 湯村温泉は上山高原から約25kmと近く、神戸へ戻る道中にあるためアクセスも良い。 上山高原の散策と温泉を組み合わせれば、まさにスパツーリズムの趣にかなった旅となる。 秋の高原と温泉の温もりを一度に味わえる、心地よい旅であった。
上山高原

上山高原【うえやまこうげん】は、鳥取との県境にある扇ノ山山麓に広がるススキの名所である。見頃は例年、9月中旬~10月下旬頃とされている。

上山三角点(標高943m)直下の登山口のすぐ手前の駐車場まで、ススキの群生地の間につけられた道をドライブできる。

道が狭いので対向車があると大変であるが、車窓からのススキもよい眺めである。

対向車を気にしなくてもよい助手席が勿論、特等席である。

上山三角点の付近にはススキの群落はほとんどない。しかし山頂から眺める景色は良いので、天候が良ければ登ってみることをお勧めしたい。ゆっくり登っても所要時間は20分ほどで、スニーカーでも楽に登れる。

上山三角点のある場所は開けていて葛の木で組まれたちょっと風変わりな展望台があり、そこからの360度の景色も爽快である。

上山高原には滝が多く存在しているようで、滝を観るための登山道がいくつも整備されている。しかし登山装備、特に登山靴が必要である。登山道には鎖場などがあり、スニーカーでは危険な道のようである。残念ながら滝を観に行くのは別の機会にするしかなかった。


| 名 称 | 上山高原 |
| 所在地 | 美方郡新温泉町海上 |
| Link | 上山高原(扇ノ山山麓) |
湯村温泉
湯村温泉は、兵庫県北西部、日本海側の山陰地方に位置し鳥取県に接する地域に立地する温泉地である。岸田川の支流、春来川のほとりに湧く日本屈指の高熱温泉で知られる。

湯村温泉は、嘉祥元年(848年)に天台宗第3世の座主であった慈覚大師によって発見されたと伝わる古湯であり、元湯は「荒湯」と呼ばれる。泉温は98℃の高温で、湧出量は毎分470リットルと豊富である。

泉質は、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉(低張性・中性・高温泉)、いわゆる弱アルカリ泉(pH7.29)である。無色透明な湯で、湯冷めもしにくい、肌に優しい温泉、いわゆる「美肌の湯」として効能もありそうだ。

温泉の効能としては、神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじきに効果があるとされ、飲用利用では、慢性消化器病・慢性便秘・痛風・肥満症に効果があるといわれている。

温泉は地下数メートルの深度から湧出しており、需要量に比べて湧出量が豊富なため、旅館だけでなく各家庭にも配湯され、湯村の生活には欠かせないものとなっているという。実に羨ましい。

その豊富な湯量を利用して、湯村温泉街の中心を流れる春来川沿いには「足湯」が設けられている。その「足湯」は贅沢にも天然かけ流しである。

この「足湯」は、かつて旅人や農作業の帰りに春来川に溢れ出た温泉で足をつけて一休みしながらおしゃべりした昔を懐かしんで作られたものらしい。疲れた足を浸すと確かに癒される。

また、湯村温泉は吉永小百合主演のNHKドラマ「夢千代日記」の舞台(ドラマでは「湯の里温泉」として登場)となったことでも有名である。温泉街には「夢千代日記」ゆかりの資料館や和菓子屋が軒を連ねている。


| 名 称 | 湯村温泉 |
| 所在地 | 美方郡新温泉町大字湯 |
| Link | 湯村温泉 – 湯けむり荒湯 吉永小百合ゆかりの湯村温泉 NHK「夢千代日記」の舞台 |
◆ あとがき
以前、妻に誘われて余部鉄橋「空の駅」の展望施設や猿尾滝、「和池の大カツラ」を訪ねたことがある。 その時に通った道のほど近くに、湯村温泉が静かに佇んでいたことを、私は今回の旅で初めて知った。 恥ずかしい話だが、上山高原に向かうまで、湯村温泉という素晴らしい温泉地の存在をまったく意識していなかったのである。
吉永小百合さんのファンである私は、NHKドラマ「夢千代日記」のことはよく知っていた。 しかし、その舞台となった“湯の里温泉”が、まさに湯村温泉で撮影されたロケ地であったとは、今日まで全く知らなかった。 今さら恥じても仕方がないが、知った瞬間には思わず苦笑してしまった。
「夢千代日記」が放送されたのは昭和56年(1981年)。 ちょうど私が大学を卒業し、社会人として歩み始めた年である。 そして偶然とはいえ、会社員生活を終えた年に、そのドラマゆかりの湯村温泉を訪ねることになったのだから、 これはもう“縁”と呼びたくなる。
上山高原のススキ原と湯村温泉へと誘ってくれた妻に、改めて感謝したい。 旅は景色だけでなく、こうした小さな偶然や気づきが重なって、静かに心に残っていくものだと実感した。