椿山湖を歩く──山彦が響く湖畔とレイクブリッジの風景

目次
はじめに
湖畔の風景
椿山レイクブリッジ
山彦が響く場所
湖畔で過ごす時間
あとがき

はじめに

山間の道を進むにつれて、空気がゆっくりと澄んでいく。 木々の香りが深まり、風の音が静かに耳に届く頃、 椿山湖の穏やかな水面が姿を現す。

湖の周囲は人の気配が少なく、 自然の静けさがそのまま残されている。 水面に映る空の色、鳥の声、風の揺らぎ── そのすべてが旅人の心をゆっくりと整えてくれる。

椿山湖【つばやまこ】は、ただの湖ではない。声を発すると、山々に反射して返ってくる“山彦”(こだま)が有名で、 自然が持つ響きの力を体感できる場所でもある。 ここから始まる旅は、静けさと音の余韻を味わう時間である。


湖畔の風景

──水面が描く穏やかな広がり

椿山ダム【つばやまダム】は、和歌山県日高川町を流れる日高川にある多目的ダムで、和歌山県下では最大のダムある。椿山ダム湖(愛称、椿山湖)は、ダム湖百選にも選ばれている美しいダム湖である。

椿山湖の水面は、風がないときには鏡のように静まり返り、 周囲の山々をそのまま映し出す。 光の角度によって湖の色が変わり、 朝は淡い青、昼は深い緑、夕方には柔らかな金色へと移ろう。

湖畔を歩くと、 水面の揺らぎがわずかに音を立て、 その音が旅人の歩みと静かに重なる。 湖の周囲には遊歩道が整備されており、 ゆっくりと歩きながら自然の気配を味わうことができる。

椿山湖の魅力は、派手な景観ではなく、 静けさの中に潜む“水の表情”である。

名 称椿山ダム
所在地和歌山県日高郡日高川町初湯川1874(管理事務所)
TEL0738-57-0400
駐車場あり(無料)20台
Link椿山ダム | 和歌山県

椿山レイクブリッジ

──湖に浮かぶ優美な橋

椿山湖に架かるのが椿山レイクブリッジと呼ばれる吊橋である。1995年10月に完成した人道吊橋歩行者吊橋)である。この吊橋は、 湖の静けさに溶け込むような優美な橋である。 白いアーチが水面に映り、 風景全体に柔らかなアクセントを添えている。

橋の上から眺める湖は格別で、 水面の広がりと山々の連なりが一望できる。 光が変わるたびに橋の影が水面に落ち、 その陰影が風景に奥行きを与える。歩いて渡ると、 湖の静けさがより深く感じられ、 旅の時間がゆっくりと流れていく。

椿山レイクブリッジは、湖面からの高さが約16mで、長さが約200mもある。人道吊橋であるので、幅が約1.2mとなっている。

吊橋の両側がグレーチング(grating;主に鉄などの金属で作られた格子状のフタ)になっているので、足元を見れば否応なしに湖面が目に飛び込んでくる。湖面から約16mという高さは、恐怖を味わうには十分な要素を含んでいる。

高所が苦手な私は渡るのを躊躇するが、スリルが味わえる吊橋が大好きな私の妻のテンションは上がったままである。予想どおりなので、私は驚かないが、気が気でない。

私は引き返したいと思ったが、「ヤッホーポイント」はこの吊橋を渡った先にある。仕方がないので、勇気を振り絞って真ん中の部分をゆっくりと這うように進むことにした。帰りのことを考えると憂鬱であり、全く楽しくない。

面白がって橋を揺らす妻が悪魔のように思えた。自分では気づいていなかったが、妻が揺らすのをすぐ止めたのは、私の顔からは血の気が引いて蒼白になっていたからであろう。

この吊橋を景色を楽しみながら渡れるのは、私の妻のような吊橋愛好家だけであろう。私のような高い所が苦手な者には苦痛以外のなにものでもない。

名 称椿山レイクブリッジ
所在地和歌山県日高郡日高川町初湯川
駐車場あり(無料)20台
(椿山レイクブリッジ・ヤッホーポイント駐車場)
Linkヤッホーポイント | 日高川町観光協会

山彦が響く場所

──自然が返す音の不思議

椿山湖が「日本一の山彦」と呼ばれる理由は、 湖を囲む山々の形状が音を美しく反射するためだ。 湖畔の特定の場所で声を発すると、その声が山に跳ね返り、まるで誰かが応えてくれたかのように響き返ってくる。人工的な仕掛けではなく、 自然の地形がつくり出した音の現象であることが、この場所の特別さを際立たせている。山彦は、ただの音ではない。 自然が持つ静かな力を感じさせ、 旅人の心に深い余韻を残す。

椿山レイクブリッジを渡った向こう岸にはグリーンパーク椿山と呼ばれる自然公園があり、「日本一のヤッホーポイント」と呼ばれる山彦(反響)がよく聞こえるスポットがある。

確かに明瞭なやまびこが帰ってくるから驚きであり、他人の眼を気にしないでよいなら何度でもやりたくなる楽しさがあった。

この場所で、毎年「ヤッホー全日本選手権」が行われている。

名 称日本一のヤッホーポイント
所在地和歌山県日高郡日高川町初湯川
Linkヤッホーポイント | 日高川町観光協会
【開催中】R6.10月〜第8回ヤッホー全日本選手権
日高川町観光協会

湖畔で過ごす時間

──心がほどける静けさ

椿山湖では、歩く時間以上に「佇む時間」が豊かだ。 湖畔のベンチに腰を下ろし、 水面を眺めていると、 風の音と鳥の声が静かに寄り添ってくる。自然の中で過ごす静かな時間は、 日常では気づけない感覚を呼び起こし、 心の奥にある緊張をゆっくりとほどいてくれる。椿山湖は、 “静けさの力”を感じられる場所である。

グリーンパーク椿山は、椿山レイクブリッジを渡り切った先に位置する自然公園である。散策路が整備されており、四季折々の自然が堪能できるようになっている。桜の木が多く植栽されているので、春の桜の開花時期には美しい景色が見られるはずである。

公園内には、ピクニックエリアや遊歩道があるので、自然と触れ合いながらリフレッシュする場所として適していると思う。

名 称グリーンパーク椿山
所在地和歌山県日高郡日高川町初湯川
Linkヤッホーポイント | 日高川町観光協会

あとがき

妻と一緒に旅をすると吊橋に行く機会が多いが、高い所が苦手な私は吊橋の傍まで行くだけで渡ることは皆無である。私の記憶の中で私が自分の意志で渡ったことがあるのは九重“夢”大吊橋(大分県)ぐらいかも知れない。

その経験に図らずも椿山レイクブリッジが加わることになってしまった。当初は、渡るつもりが全くなかったが、この吊橋を渡らないと「日本一のヤッホーポイント」と呼ばれる山彦(反響)がよく聞こえるスポットには行けないことが分かり、止む無く渡ったわけである。その甲斐があり、妻以外に誰もいない場所で久し振りに大声を出してやまびこを楽しむことができたのは良い経験であった。

吊橋を渡らないと駐車場に戻れないことを思うと憂鬱ではあったが、好奇心と一時の楽しみのために勇気を出して恐怖と戦ったわけである。少しは自分を褒めてやりたい! 何を大げさに言っているのよと妻は笑うが怖いものは怖い。この気持ちは妻には永遠に理解してもらないだろうと諦めるしかない。

椿山湖の湖畔を歩き、 山彦の響きに耳を澄まし、 レイクブリッジから水面を眺める時間は、 ただの観光ではなく、 自然の静けさにふれる旅である。湖に返る音は、 自然が持つ優しさと力をそっと伝えてくれる。 その響きは、旅を終えたあとも心に残り続ける。

次の旅でもまた、歩く速度を少し落とし、 静けさの中にある美しさを探してみたい。 椿山湖は、その歩みをそっと後押ししてくれる場所である。


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