◆ はじめに
巌立峡【がんだてきょう】は、下呂市小坂町落合を流れる濁河川【にごりがわ】と椹谷【さわらたに】が合流する付近に広がる渓谷である。合流地点にそびえる巨大な絶壁が「巌立」【がんだて】と呼ばれ、高さ約72m、幅約120mに及ぶ大岩壁は、岐阜県の天然記念物に指定されている。
この巌立は、約5万4千年前の御嶽山【おんたけさん】の噴火によって流れ出た溶岩が冷えて固まる際に形成された柱状節理が、長い年月を経て地表に姿を現したものである。溶岩流全体は「摩利支天山第六溶岩流」と呼ばれ、火山活動の壮大な痕跡を今に伝えている。
この溶岩流がつくった台地(溶岩台地)は、椹谷の上流へ約17kmにわたって続いており、「根尾の滝コース」にある「あまどり岩」は、巌立の約2倍にあたる高さ150mもの絶壁を見せているという。「御嶽パノラマライン」から望むと、上部が平らな“緑の帯”が延々と続き、溶岩台地の雄大な姿を実感できる。
また、巌立の下流に位置する「小巌立」は、かつて巌立とひと続きであったが、椹谷の急流によって溶岩流の一部が約300mほど流され、現在のように分断されたものと伝えられている。
巌立を象徴とする巌立峡は、「飛騨・美濃紅葉33選」にも選ばれる紅葉の名所として知られ、四季折々に自然の力強さと美しさを感じられる場所である。
巌立峡・巌立
巌立峡【がんだてきょう】は、下呂市小坂町落合を流れる濁河川と椹谷【さわらたに】が合流する付近の渓谷をいう。合流地点にある絶壁は、巌立【がんだて】と呼ばれ、岐阜県指定の天然記念物である。

巌立は、御嶽山から約17km下流に位置する、高さが72m、幅が120mの大岩壁である。岩石は「両輝石安山岩」であるという。

巌立は、約5万4千年前に御嶽山の噴火によって流れ出した溶岩流の先端部分であるという。この先端部分が冷えて固まったときに柱状節理ができ、太さが数十cmの柱が並んでいるように見える。渓谷による浸食によって断面が地表に現れたものであるという。

がんだて公園
巌立峡・巌立の周辺は「がんだて公園」として整備され、展望台や売店、駐車場などが完備されている。また、話好きの親切なボランティアのガイドさんからは巌立峡・巌立の詳しい歴史や地理を学ぶことができるので、時間が許せば、大いに勉強になる。

公園内にはいくつかの滝があり、特に「三ッ滝」までは距離にして約600mの滝見遊歩道が整備されている。

三ッ滝までの滝見遊歩道は一方通行であり、混雑することなく、快適な散策ができる。

朱色に塗られた橋を渡ると三ッ滝が見えてくるが、実は三ッ滝は三つの滝の総称である。最初に見えてくるのが「下段の滝」(落差約5m)と「中段の滝」(落差約11m)である。

下段の滝の位置からは上段の滝(落差6m)はまだ見えない。

中段の滝まで来ると上段の滝(落差6m)が見えてくる。

三ッ滝の全景、つまり上段の滝から下段の滝までを一枚の写真にすることは容易ではなかった。

(上段の滝、中段の滝と下段の滝)
三ッ滝の中段の滝近くには円空上人ゆかりの不動明王が祀られている。また「円空の座禅岩」と呼ばれる岩もある。

中段の滝を後にして、遊歩道を進むと上段の滝の滝壺が見えてくる。三ッ滝の滝壺の深さは3~5mと言われており、上段の滝が最も深いという。

(上段の滝と中段の滝の滝壺が見える)
上段の滝の滝壺の深さは約5mとされ、三ッ滝の中では最も深いためか、滝壺のエメラルドグリーンの色が一層鮮やかに見えた。

三ッ滝を巡る遊歩道は上段の滝を過ぎると林道に出るようになっている。途中に分岐があって、時間に余裕があれば、溶岩台地を歩くコースを選択することもできる。

(三ッ滝の上段の滝の上辺り)
遊歩道をさらに進み、「行者橋」を渡ると林道に出る。

そのまま「がんだて公園」に戻っても良いが、さらに林道を2kmほど奥に歩いて行くと、「あかがねとよ」と「からたに滝」を見ることができる。

(枯れることもあるという斜め滝)
あかがねとよは、椹谷【さわらたに】の支流・唐谷【からたに】にある斜め滝(落差14m)に付けられた名称である。「あかがね」とは「銅のような」という意味であり、「とよ」は「屋根の雨樋」を意味することから「あかがねとよ」とは「銅色の雨樋」という意味である。雨が降らず水量が減少するとこの滝は枯れ、それが長く続くと赤く苔むしていたことから名付けられたという。私が訪れたときには水量が豊富で、エメラルドグリーンの滝壺をもつ綺麗な滝であった。

からたに滝は、椹谷【さわらたに】本流にある滝(落差15m)であり、水量も多くて轟音が周辺に響き渡る豪快な直瀑である。滝の周辺が柱状節理の溶岩で出来ているのも特徴的である。この柱状節理も巌立と同様に御嶽山から流れ出した溶岩が冷えて固まったものであるという。

がんだて公園の周辺は紅葉の名所としても知られている。
| 名 称 | 巌立峡・巌立 |
| 所在地 | 岐阜県下呂市小坂町落合 |
| TEL | 0576-62-2570(飛騨小坂観光協会) |
| 駐車場 | あり(無料)(がんだて公園内) |
| 入園料 | 300円(環境維持協力金として) |
| Link | 巌立峡 – 飛騨小坂観光協会 |
◆ あとがき
巌立峡は、その圧倒的な自然美で訪れる人を魅了する場所である。なかでも、約5万4千年前の御嶽山の噴火によって流れ出た溶岩流の先端が地表に姿を現した「巌立」は、まさに大地の記憶そのもの。高さ72m、幅120mの巨大な断崖は「日本一の溶岩流の断面」と称されるにふさわしい迫力で、目の前に立つと自然の時間の深さに圧倒される。
今回の旅では、巌立の約2倍にあたる高さ150mの絶壁「あまどり岩」を見ることができなかったのは少し心残りである。事前の下調べ不足は否めないが、それもまた次の旅の楽しみとして取っておきたい。
一方で、「がんだて公園」内に整備された「滝見遊歩道」を歩いた時間は、心身が洗われるような心地よさに満ちていた。渓谷を吹き抜ける風、岩壁から伝わる大地のエネルギー、そして水の音。どれもが静かに心を整えてくれる。巌立峡が「ヒーリング・癒し・浄化」のスポットと呼ばれる理由を、鈍感な私でも確かに感じ取ることができた。
そして今回の旅では、巌立峡の散策と下呂温泉の湯を組み合わせることで、まさに スパツーリズムの本質 を味わうことができた。 巌立峡で自然の力強さに触れ、歩くことで心身を開放し、 下呂温泉のやわらかな湯に浸かって深く癒される──。 この「自然 × 温泉」の相乗効果は、旅人の心と体を静かに整え、再生へと導いてくれる。
巌立峡は、自然の造形美と大地のエネルギーを全身で感じられる、訪れる価値のある場所である。大自然の中を歩いた時間は、旅の記憶として深く刻まれ、これからも静かに心を支えてくれるだろう。
大地の力と名湯のぬくもりに包まれた今回の旅は、心の奥に静かな灯りをともしてくれたように思う。