投稿者: takaaki.nishioka

  • 石鎚国定公園を走る──UFOラインと面河渓の渓谷美を訪ねて

    目次
    はじめに
    石鎚国定公園という広大な自然
    石鎚山
    天空の瓶ヶ森林道「UFOライン」を走る
    面河渓を歩く
    陰性植物の宝庫としての面河渓
    あとがき

    はじめに

    四国の中央部にそびえる石鎚山【いしづちさん】は、日本七霊山のひとつとして知られ、その周辺は石鎚国定公園として雄大な自然が広がっている。 今回の旅では、この国定公園を車で走りながら、 標高1,300mの稜線を走る絶景道路「UFOライン」と、 深い渓谷美を誇る「面河渓」を訪れた。

    UFOライン(雄峰ライン)は、天空を走るような爽快感があり、 面河渓は、石と水が織りなす静かな渓谷美が魅力である。 動と静──まったく異なる風景を一度の旅で味わえるのが、 石鎚国定公園の大きな魅力だ。

    車を走らせながら、風景が少しずつ変わっていく時間は、 旅の中でも特に心に残るひとときとなった。


    石鎚国定公園という広大な自然

    石鎚国定公園は、愛媛県に位置する石鎚山とその近辺の山嶺を包含する自然公園である。指定区域のほとんどを愛媛県が占めるが、一部高知県も含まれる。石鎚山を始め、瓶ヶ森、伊予富士、二ノ森などが含まれる。石鎚山の西麓には面河渓があり、この渓谷も同国定公園に含まれる。

    標高差が大きく、山岳・渓谷・森林・高原と、 多様な風景が連続して現れるのが特徴だ。四国の中央部に位置するため、 太平洋側の明るい気候と、内陸の静かな山岳気候が入り混じり、 季節ごとにまったく違う表情を見せる。

    今回の旅では、車でこの広い公園を横断するように走り、 その中で「UFOライン」と「面河渓」という、 対照的な二つの風景を訪れた。


    石鎚山

    石鎚山(標高1,982m)は、愛媛県西条市と久万高原町にまたがる西日本最高峰の山である。古くから山岳信仰(修験道)の山として知られる。山容が石でできた剣である「石鎚」に似ていることが名前の由来になったとの伝承も残る。石鎚山は、正確には最高峰の天狗岳(標高1,982 m)、石鎚神社山頂社のある弥山【みせん】(1,974 m)、南尖峰【なんせんぽう】(1,982 m)からなる山塊全体を指す山名である。

    石鎚山は、古くから「日本七霊山」の一つとして信仰を集めてきた名峰である。 山容は険しく、切り立った岩壁と深い谷が連なり、 その姿は遠くから眺めても圧倒的な存在感を放っている。

    山頂部には天狗岳・弥山・南尖峰などの峰が連なり、 晴れた日には瀬戸内海から四国山地まで見渡せる雄大な展望が広がる。 特に弥山山頂に鎮座する石鎚神社頂上社は、 古来より修験道の聖地として知られ、 多くの登山者や参拝者が訪れる場所となっている。

    石鎚山は、標高差が大きいことから植生が豊かで、 山麓には暖帯性の照葉樹林、 中腹にはブナやミズナラの広葉樹林、 山頂付近には亜高山帯のコメツガやシコクシラベが広がる。 季節によってまったく違う表情を見せ、 新緑、紅葉、冬の霧氷など、 どの季節に訪れても美しい自然を楽しむことができる。

    登山道は複数あり、鎖場を登る「表参道」は修験道の伝統を色濃く残し、 初心者向けの「土小屋ルート」は比較的歩きやすく、 家族連れでも山頂を目指すことができる。 険しさと優しさ── その両方を併せ持つのが石鎚山の魅力である。

    石鎚山は、自然・信仰・文化が重なり合う「四国の精神的な象徴」といえる。 山を眺めるだけでも心が静まり、 歩けばその霊性をそっと感じ取ることができる。 石鎚国定公園を訪れる旅の中で、 この山は常に中心にあり、 周囲の風景に深い意味を与えてくれる存在である。

    名 称石鎚山
    所在地愛媛県久万高原町若山
    Link石鎚山 | 石鎚山系

    天空の瓶ヶ森林道UFOラインを走る

    UFOライン(雄峰ライン)とは、瓶ヶ森林道の愛称で、瓶ヶ森【かめがもり】の稜線を走る絶景道路である。 道路は細く、曲がりくねっているが、 その分、視界が開けた瞬間の風景は圧巻であり、標高1,300m前後の高さから石鎚山系を一望できる。

    車を走らせると、 雲がすぐ近くに見え、 風が車体を軽く揺らすほど強く吹くこともある。 まるで空の上を走っているような感覚になり、「天空のドライブ」という言葉が自然と浮かぶ。

    晴れた日は遠くの山々まで見渡せるが、 曇りの日は雲海が広がり、 幻想的な風景が現れることもある。 どんな天候でも美しいのがUFOラインの魅力だ。

    瓶ヶ森(標高1,897m)は、石鎚山脈に属する山である。「瓶ヶ森」の山名は山頂西側の湧水のたまる瓶壺【かめつぼ】に由来するという。

    瓶ヶ森

    瓶ヶ森の最高峰は女山【めやま】と呼ばれ、山頂には蔵王権現の祠が祀られている。 女山の南側のなだらかな稜線上にある山頂が男山【おやま】と呼ばれ、石土古権現の祠が祀られている。

    瓶ヶ森山頂近くの駐車場にある登山口から笹原の続く稜線を通り、男山(標高1830m)から女山(最高峰1897m)の2つのピークを越え、氷見二千石原などを巡って駐車場に戻るコースが一般的で、比較的楽なハイキングコースである。瓶ヶ森山頂近くには避難小屋やキャンプ場が整備されている。瓶ヶ森へは車を利用すれば、松山道伊予西条ICより国道194号、UFOライン経由で約1時間30分ほどで到着できる。

    瓶ヶ森林道UFOライン

    瓶ヶ森は吉野川の源流域にあたり、直下を瓶ヶ森林道が走っている。瓶ヶ森林道は、高知県いの町の町道(瓶ヶ森線)で、地元では「UFOライン(雄峰ライン)」 とも称されている。

    瓶ヶ森林道

    石鎚スカイラインの東側に位置し、石鎚スカイラインの終点から旧寒風山トンネル高知県側出口までの瓶ヶ森沿いの尾根を走る舗装道(延長27km)である。石鎚山近郊の標高1300~1700 mの尾根沿いを縫うように走る、絶景のドライブルートとして人気がある。

    瓶ヶ森林道UFOライン

    道路は舗装されているが、決して道幅が広いわけではないので対向車には気をつけなければならない。冬季にあたる11月末~4月上旬は閉鎖されている。

    瓶ヶ森林道UFOライン

    伊予富士(標高1,756m)は、石鎚山脈に属する山である。伊予富士は独立峰ではないが、西側になだらかな裾野を有し、見る方向によっては富士山のような秀麗な山容に見えるらしい。

    二ノ森(標高1,930m)は、石鎚山脈に属する山である。愛媛県第二の高峰であり、山名もこれに由来する。

    秋には山頂から南側の面河渓まで紅葉前線が下る。山頂には一等三角点面河山」(標高1,929.6m)が設置されているという。

    名 称瓶ヶ森林道UFOライン
    所在地高知県吾川郡いの町寺川
    Link瓶ヶ森 | 石鎚山・石鎚山系
    瓶ヶ森|愛媛県
    UFOライン(町道瓶ヶ森線)
    伊予富士 | 石鎚山・石鎚山系
    四国地方の主な山の高さ

    面河渓を歩く

    ──石と水がつくる静かな渓谷美

    面河渓【おもごけい】は、愛媛県久万高原町(旧面河村)にある渓谷で、仁淀川上流の面河川に至る渓谷である。周囲を高峻な山々に囲まれてV字谷となっており、 早瀬、深淵、瀑布が連続する名勝地にもなっている。

    名所には関門、相思渓、五色河原、亀腹、蓬莱峡、紅葉河原、御来光の滝などがあり、紅葉の名所にもなっている。そのため、面河渓に通じる県道12号西条久万線は「もみじライン」と呼ばれる。

    UFOラインの雄大な風景とは対照的に、 面河渓は静けさが支配する渓谷である。 石鎚山の麓に広がるこの渓谷は、 巨大な岩壁と透明度の高い水が特徴で、「石と水の芸術」と呼びたくなるほど美しい。

    渓谷を流れる面河川は、 水が澄み切っており、 川底の石がはっきりと見えるほど透明だ。 水の色は季節や光によって変わり、 青緑、翡翠色、深い青── その変化を眺めるだけでも心が落ち着く。

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    面河渓 五色橋上流付近の川底は滑らかな岩底。「面河」の由来になったのでは?

    面河渓にはいくつかの見どころがある。特に印象的なのは「五色河原」と呼ばれる場所で、川底の石が光を受けて五色に輝くように見える。

    渓谷沿いには遊歩道が整備されており、川の音を聞きながらゆっくり歩くことができる。巨大な岩壁が迫る場所では、自然の力強さを感じ、水が静かに流れる場所では、心がすっと静まる。

    散策は無理のない距離で、シニアにも歩きやすいコースである。

    名 称面河渓
    所在地愛媛県久万高原町
    駐車場あり(無料)
    Link面河渓|愛媛県

    陰性植物の宝庫としての面河渓

    私が面河渓について改めて書いておきたいと思った理由の一つは、 この渓谷が「21世紀に残したい日本の自然百選」に選ばれていることを、 訪れた後になって知ったからである。

    選定理由には、「陰性植物の宝庫であり、奇岩と渓流、周辺の自然林も美しい」 と記されている。 面河渓を歩いたとき、その静けさと透明度の高い水の美しさには心を奪われたが、 陰性植物の宝庫であるという事実を事前に知っていれば、 もっと注意深く植物を観察できたのではないか── そう思うと、少し悔しい気持ちが残る。

    なお、陰性植物(陰生植物)とは、 日陰や森林内部など、光の弱い環境でも十分に生育できる植物の総称である。 シダ類、コケ類、低木の一部などが代表的で、湿度が高く、直射日光が届きにくい環境を好む。面河渓のような深い渓谷は、まさに陰性植物にとって理想的な環境である。

    面河渓は、複雑に入り組んだ地形と多様な気象条件を持ち、 植物の水平分布は暖帯性のものから温帯性のものまで幅広い。そのため、渓谷内には極めて多くの種類の植物が生育し、「植物の宝庫」と呼ばれるほど豊かな生態系が広がっている。

    渓谷を歩いていると、 岩壁の陰にひっそりと生えるシダ類、 水辺に群生するコケ類、 湿った岩肌に張り付く苔の緑── どれも面河渓の静けさを象徴する風景であり、この渓谷が持つ“陰性植物の聖域”としての魅力を静かに物語っている。


    あとがき

    瓶ヶ森の山頂を目指して車を進めていたが、 駐車場近くに差しかかったところで突然濃霧に包まれ、 視界が一気に白く閉ざされてしまった。 周囲の景色はまったく見えず、 狭い林道を運転するのも危険な状況だったため、 今回は瓶ヶ森への登山を断念することにした。 山の天気は変わりやすい──その言葉の意味を改めて実感した瞬間だった。

    しかし、UFOラインと呼ばれる瓶ヶ森林道を走っていると、 幸いにも急に霧が晴れ、青空がのぞき始めた。 その変化はまるで劇的な幕開けのようで、 思わず車を停めて写真を撮った。 「もう少し早く晴れてくれれば瓶ヶ森にも登れたのに」と 少し残念な気持ちもあったが、 それは山旅における贅沢な願いなのだろう。 自然は人の都合では動かない── その潔さもまた、山の魅力のひとつである。

    石鎚国定公園は広大で、 車で走ることで風景の変化を連続して味わえる。 標高の高いUFOラインでは空に近い風景が広がり、 面河渓では地表の深い静けさが広がる。 車旅はまさに「風景の移ろいを体験する旅」であり、 走るたびに景色が変わる時間は、旅の醍醐味そのものだった。

    今回の旅では、 雄大な山岳風景と静かな渓谷美を同時に味わうことができた。 UFOラインの爽快な稜線の風景、 面河渓の透明な水と陰性植物がつくる静かな渓谷美── その対比が旅に深みを与えてくれた。 どちらも心に深く残る景色であり、 石鎚国定公園という広大な自然の多様性を改めて感じることができた。

    車を走らせ、歩き、眺める── その一つひとつの動作が、 自然と心をゆっくり整えてくれるようだった。 また季節を変えて訪れれば、 石鎚国定公園はきっと違った表情で迎えてくれるだろう。 次こそは瓶ヶ森の山頂からの景色を見たい── そんな静かな期待を胸に、旅を締めくくることにした。


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