投稿者: takaaki.nishioka

  • 信楽の里を歩く──緋色が映える信楽焼の伝統にふれる旅

    目次
    はじめに
    信楽焼とは
    信楽焼の歴史
    信楽の里へ
    信楽焼の源流
    窯元を訪ねて
    狸のまちを歩く
    信楽陶苑 たぬき村
    滋賀県立 陶芸の森
    信楽伝統産業会館
    歩き終えて感じる余韻
    あとがき

    はじめに

    滋賀県甲賀市にある信楽の里は、千年以上の歴史を持つ信楽焼のふるさとである。山々に囲まれた静かな土地で、 土と炎が育んできた器の文化が今も息づいている。

    信楽焼の特徴である「緋色」【ひいろ】は、 窯の中で炎が土に触れ、自然に生まれる色だ。人工的に作り出すことのできない、偶然と必然が重なり合った美しさ── その緋色が映える器を前にすると、 信楽の土地が持つ力をそっと感じる。

    本稿では、信楽の里を歩きながら、 緋色の美しさ、信楽焼の伝統、 そして山里の静けさにふれた旅を綴りたいと思う。


    信楽焼とは

    信楽焼は、日本六古窯の一つとして知られ、鎌倉時代から続く歴史ある焼き物である。信楽焼は、一般に素朴で温かみのあるデザインのものが多い。信楽焼には下記のような特徴的なデザインが知られている。

    素朴な風合い

    • 自然の素材を生かした素朴な風合いが特徴
    • 薪窯で焼かれるため、薪の灰が溶けて釉薬のような効果を生み出し、独特の色合いや質感が生まれる

    大型の陶器

    • 大型の陶器が多いことも特徴
    • 信楽の陶土は、コシが強く、大きな作品を作るのに適する
    • メダカ鉢や植木鉢などの大物が多く作られている

    なまこ釉

    • 「なまこ釉」と呼ばれる釉薬が使われることがある
    • 日本海の海の色に近い濃青色をしている
    • 植木鉢やメダカ鉢などに使用されることが多い

    緋色(スカーレット)

    • 薪窯で釉薬を使わずに焼き上げることで生まれる緋色(スカーレット)は信楽焼の代表的な特徴といえる
    • 独特な赤色は化学反応によって生まれるもの
    • スカーレットは信楽焼ならではの色合いである

    タヌキの置物

    • 信楽焼といえば、タヌキの置物が有名
    • このイメージは昭和天皇が1951年に信楽を訪れた際、タヌキの置物で迎えたことから広まったらしい

    信楽焼の歴史

    信楽焼は、日本六古窯の一つとして知られ、長い歴史を持つ陶磁器である。日本六古窯のなかでも信楽焼は最古のものの一つとされている。土味を生かした素朴な風合いが、長い年月を超えて多くの人々に愛されて来たからだと言われている。

    信楽焼の歴史は古く、鎌倉時代後期から、あるいは奈良時代の中頃に信楽に遷都した頃から始まったとも伝わる。紫香楽宮の屋根瓦を信楽で焼いたという。その長い信楽焼の歴史を知ることは、信楽焼の魅力を理解する一助になることだろう。

    鎌倉時代(1185~1333年)

    • 信楽焼の起源は、鎌倉時代にまで遡るという
    • 鎌倉時代に他の産地から技術が伝わる
    • 信楽でも焼き物の生産が始まる

    室町時代(1336~1573年)

    • 信楽焼は、主に水瓶や壺などの日用品として生産
    • 信楽焼の独自の風合いが確立

    安土桃山時代(1573~1603年)

    • 茶の湯の発展に伴い、信楽焼は茶道具としても評価される
    • 信楽焼の素朴な美しさが茶人たちに愛された
    • 茶道具として、特に茶器や花器などを生産

    江戸時代(1603~1868年)

    • 信楽焼はさらに多様な製品を生産するようになる
    • 徳利や土鍋、火鉢など、さまざまな生活用品が作られる
    • 信楽焼は、商業的にも発展した

    明治時代以降(1868年~現在)

    • 明治時代には、釉薬の研究が進んだ
    • 信楽焼の火鉢は国内販売の8割を占めるほどの人気を博した
    • 現代、花器や食器、置物やタイルなど、幅広い製品を生産

    信楽焼は、その素朴な風合いや温かみのある色合いが特徴で、現代でも多くの人々に愛されている。


    信楽の里へ

    ──山里の静けさに包まれる旅の始まり

    信楽の里は、滋賀県甲賀市信楽町に位置し、信楽焼の伝統と魅力を発信する施設である。信楽の里では、例えば、滋賀県立陶芸の森、信楽伝統産業会館、窯元散策路、陶芸体験といった施設や体験が一般観光客にも楽しめるようになっている。

    信楽の里は、山々に囲まれた静かな土地だ。 車を走らせていると、緑の稜線がゆるやかに続き、 どこか懐かしい風景が広がっていく。信楽駅に近づくと、 大きな狸の焼き物が出迎えてくれる。 信楽焼の象徴として知られる狸は、 この土地の温かさとユーモアを表しているようだ。

    駅から少し歩くと、 窯元やギャラリーが点在し、 土の香りと薪の気配が漂ってくる。 山里の静けさの中で、 信楽焼の文化が自然に息づいていることを感じる。

    信楽の里は、信楽焼の伝統と魅力を体感できる素晴らしい場所である。滞在時間の許す限り、窯元散策路を散策したりして陶器のショッピングを楽しんだり、陶芸品の見学や陶芸体験などを楽しんで貰いたい。


    信楽焼の源流

    ──土と炎が育む緋色の美

    信楽焼の最大の魅力は、 窯の中で自然に生まれる「スカーレット」と呼ばれる緋色である。 炎が器の表面をなでるように走り、 土の成分と反応して生まれる赤みがかった色── それは人工的に作り出すことのできない、 自然の力が生んだ美しさである。

    信楽の丘陵から掘り出される良質の陶土は、ケイ石や長石が多く混じっているという。そのため、耐火性に富み、可塑性とともに腰(粘性)が強いといわれる。土の粒子が粗く、素朴で力強い質感を持つ。その土が炎と出会い、非常に温かみのあるスカーレット(緋色)や焦げ、窯変【ようへん】と呼ばれる表情を生む。窯の中で何が起こるかは、職人にも完全には予測できないという。だからこそ、信楽焼は「自然と人が共に作る器」と言われる。その偶然性が、信楽焼の魅力をより深いものにしている。

    また、信楽の陶土は、大物づくりに適し、かつ、小物づくりにおいても細工しやすいという特徴があるという。

    高価なのでなかなか手が届かないが、美術品のような花瓶や壺には素人でも素晴らしいと分かる逸品が多い。


    窯元を訪ねて

    ──職人の技と器の表情にふれる

    信楽の里には多くの窯元があり、それぞれが独自の技と表現を持っている。窯元を訪ねると、 土をこねる音、轆轤【ろくろ】が回る音が静かに響いてくる。職人の手は、長年の経験によって鍛えられ、土の状態や湿度、炎の気配を敏感に感じ取っている。器の形が生まれ、 窯に入れられ、炎と向き合う時間を経て、 ひとつの作品が完成する。

    窯から出された器は、 ひとつとして同じ表情を持たない。 緋色が強く出るもの、 焦げが深く刻まれたもの、 柔らかな色合いのもの── それぞれが自然の力と職人の技の結晶だ。


    狸のまちを歩く

    ──信楽焼が育んだ文化と風景

    信楽のまちを歩くと、至るところに狸の焼き物(信楽狸)が並んでいる。 大きなものから小さなものまで、表情も姿もさまざまで、 見ているだけで楽しい気持ちになる。信楽狸は商売繁盛の象徴として親しまれ、信楽焼の文化を広く伝える存在となった。まちの風景に自然に溶け込み、信楽の温かさを象徴している。

    信楽狸は、なんとも愛嬌のある狸の造形であるが、実はその造形は「八相縁起」と呼ばれる縁起を体現しているものであるという。

    八相縁起とは:

    • ──思いがけない災難から身を守る
    • 笑顔──お客様にはいつも笑顔で応対する
    • 大きな目──周囲をよく見渡して気配りと正しい判断を行う
    • 大きな腹──冷静さと大胆さの象徴
    • 徳利──人徳に通じる
    • 通帳──信用の象徴
    • 太い尻尾──終わりよければ全てよし
    • 金袋──金運の象徴

    「信楽=狸」というイメージが定着した理由は、昭和26年(1951年)に昭和天皇が信楽を行幸された際に、天皇陛下を歓迎するために信楽狸に小旗を持たせ沿道に延々と並べたのが全国に報道されて人々が知るきっかけになったためと言われている。

    信楽狸にはいろいろなバリエーションがあるので見ていてまったく飽きない。

    大阪の通天閣展望台にいる「ビリケンさん」にどこか似ているようなタヌキや、個人的推しの「福狸」と呼ばれる愛嬌のあるタヌキもいる。

    しかし、信楽焼は狸の置物だけでない。信楽の陶器店に行けば、茶器や食器などの日用品の他、めだか鉢・睡蓮鉢や傘立て、植木鉢など、あらゆる製品が手に入る。

    私は「信楽ブルー」と呼ばれる海鼠釉【なまこゆう】の植木鉢(化粧鉢)を趣味のガーデニング用として愛用している。信楽の里に行くたびに、気に入った植木鉢を購入して帰ってくる。おそらくコーヒーカップや食器よりも多くの数を購入しているはずである。庭に設置している陶器のテーブルや椅子、玄関の傘立ても信楽焼である。最近は、伊賀焼にも関心を持っているが、過去に購入した品は信楽焼が圧倒的に多い。

    ギャラリーや工房を巡ると、 現代的な作品や新しい表現にも出会える。 伝統を守りながら、 新しい挑戦を続ける信楽焼の姿がそこにある。


    信楽陶苑 たぬき村

    珍しいタヌキの焼物(信楽狸)を入手したい方におすすめなのが信楽陶苑【しがらきとうえん】たぬき村である。本館・たぬき館・作陶館と、BBQなどができる食事処が集まるPonpoko Factoryから成る観光施設である。

    本館の出入口脇には巨大なたぬきの親子三体があり、たぬき村のシンボルとなっている。

    施設内には信楽焼の販売所、陶芸教室やレストランがあり、観光バスも立ち寄る人気の観光施設となっている。

    たぬき村は、とにかくタヌキの置物(陶器)の種類が多いのでそれらを眺めていると全く飽きない。ちょっと見かけないようなタヌキ(信楽狸)もいて実に楽しい。

    勿論、ご当地の甲賀流忍者に扮したタヌキもいる。

    コロナ禍では疫病を退散させる力を秘めた「アマビエ」に注目が集まったことがあったが、そのアマビエを手にするタヌキに出会うとは予期すらできなかった。

    時事を取り扱ったタヌキもいる。阪神タイガースの選手とファンの皆様、改めて優勝おめでとうございます!

    切りがないので、タヌキ(陶器の置物)の紹介はこれくらいにしておこう。あとは実際に自分の眼で確かめに訪ねてほしい。思わず笑みがこぼれるはずである。

    名 称信楽陶苑 たぬき村
    所在地滋賀県甲賀市信楽町牧1293-2
    電 話0748-83-0126
    駐車場あり(無料)
    Link信楽陶苑たぬき村

    滋賀県立 陶芸の森

    滋賀県立 陶芸の森は、信楽焼の産地として有名な信楽の市街地を見下ろす丘陵地(信楽高原)に、焼き物を素材に創造・研修・展示など多彩な機能をもった文化施設が集積する都市公園である。

    公園内に信楽焼の歴史や技法を紹介する美術館(陶芸館)、信楽産業展示館、創作研修館を備え、信楽焼の情報発信と文化・産業の振興、人材育成、文化創造の環境を提供している。

    陶芸体験ができる工房や現代アートの作品が展示された広場(野外展示場「星の広場」)などもある。公園内には遊歩道も整備されており、季節が良ければ散策には最適であるので、県民のレクリエーションの場にもなっている。

    名 称滋賀県立 陶芸の森
    所在地甲賀市信楽町勅旨2188-7
    電 話0748-83-0909
    入園料無料(陶芸館のみ有料)
    開 園午前9時30分~午後5時00分
    休園日:毎週 月曜日
    駐車場あり(無料)
    Link滋賀県立陶芸の森

    信楽伝統産業会館

    信楽伝統産業会館は、甲賀市信楽町に位置し、信楽焼の伝統と魅力を発信する施設である。

    • 常設展「信楽ミュージアム」
      • 鎌倉時代から近世までの信楽焼の作品を年代別に展示
    • 企画展示室
      • 現代の陶芸家たちの作品や、特別なテーマに基づいた展示
    • 観光案内所
      • 信楽の観光情報を提供する案内所を併設
    • 広い駐車場
      • 観光客に便利なように広い駐車場が完備されている
    名 称信楽伝統産業会館
    所在地甲賀市信楽町長野1203
    開館時間午前9時から午後5時まで
    休館日毎週木曜日(木曜日が祝日の場合は翌日が休館)
    年末年始
    入館料無料
    駐車場あり(無料)
    Link信楽伝統産業会館

    歩き終えて感じる余韻

    ──信楽焼の伝統が心に残すもの

    信楽の里を歩き終えるころ、 スカーレット(緋色)の美しさと、 土と炎が育んできた伝統が 心の中に静かに残っていた。器の表情、職人の技、 山里の風景── それらがひとつの物語として重なり、 深い余韻を生む。

    信楽焼は、ただの陶器ではない。 自然と人が共に作り上げた文化であり、 土地の記憶が宿る存在だ── そんな思いを抱きながら、信楽のまちを後にした。


    あとがき

    信楽の里は、スカーレット(緋色)が映える信楽焼の伝統が今も息づく場所であった。土と炎が生む器の美しさにふれ、 職人の技と山里の静けさに包まれる時間は、心をゆっくりと整えてくれるものだった。

    信楽焼の器を手に取ると、 その緋色の奥に、 この土地の歴史と自然の力が静かに宿っていることを感じる。また季節を変えて、 信楽の里を歩きたくなる── そんな余韻を残す旅となった。


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