◆ はじめに
南紀白浜といえば、真っ白な砂浜が広がる「白良浜」を思い浮かべる方が多いでしょう。夏になれば海水浴客でにぎわい、関西屈指のビーチリゾートとして知られています。また、人気のテーマパーク「アドベンチャーワールド」を訪れる観光客も多く、かつては愛らしいパンダたちが多くの人々を楽しませていました。鳥インフルエンザの影響で休園となった際には、特に家族連れの旅行者にとって大きな落胆となったに違いありません。
しかし、私たちシニアの旅は、そうした喧騒とは少し距離を置き、落ち着いた景勝地をめぐる旅です。南紀白浜は和歌山でも屈指の観光地であり、いわゆる“穴場”はほとんど存在しません。それならば、あえて王道の名所を訪ねる旅にしようと考えました。
そこで今回は、南紀白浜を代表する三つの景勝地──三段壁、千畳敷、円月島──を中心に巡ることにしました。かつて訪れたことのある場所でも、年齢を重ねた今なら、きっと景色の受け取り方も変わっているはずだと思ったからです。
白浜温泉
白浜温泉の歴史は古く、その起源は飛鳥時代(593〜710年)にまで遡るといわれています。1350年以上の歴史をもつ名湯であり、道後温泉(愛媛県)、有馬温泉(兵庫県)と並んで「日本三古湯」の一つに数えられています。
飛鳥時代には、斉明天皇【さいめいてんのう】(594〜661年)をはじめ、天智天皇【てんちてんのう】(626〜672年)、持統天皇【じとうてんのう】(645〜703年)、文武天皇【もんむてんのう】(683〜707年)といった歴代の天皇が湯治のために白浜温泉を訪れたと伝えられています。『日本書紀』にも白浜温泉(当時は「牟婁の湯」)に関する記述が残されており、古代から特別な湯治場として重んじられてきたことがうかがえます。
当時の都である飛鳥(現在の奈良県明日香村周辺)から、熊野古道を通ってはるばる白浜まで湯治に向かった人々の姿を思い浮かべると、温泉がいかに貴重で、癒しと再生の場として大切にされてきたかを改めて感じさせられます。
| 名 称 | 白浜温泉 |
| 所在地 | 西牟婁郡白浜町 |
| Link | 南紀白浜源泉のご案内 |
◆ 泉質
湯量が豊富な白浜温泉には、多様な泉質をもつ源泉が数多く存在します。主な泉質は 塩化物泉・硫黄泉・炭酸水素塩泉・単純温泉 の4種類で、これに加えて 含硫黄ナトリウム塩化物泉 や ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉 といった複合泉質も見られます。さらに、同じ泉質でも pHや浸透圧の違い によって湯ざわりは大きく変わります。
白浜温泉には 15ヶ所の源泉 があるとされ、多彩な泉質を楽しめるのが魅力です。持病のある方は泉質を選ぶ必要がありますが、そうでなければ過度に神経質になる必要はないでしょう。
私は利用したことはありませんが、白浜には日帰りで利用できる温泉施設が 足湯を含めて25ヶ所以上 あるといいます。温泉地としての懐の深さを感じさせる数字です。
◆ 効能
泉質が多様であれば、当然ながら効能や湯ざわりもさまざまです。自分の体調や好みに合った湯を見つけてゆっくり浸かれば、まさに至福の時間となります。白浜温泉が古来より湯治場として親しまれてきた理由も、こうした泉質の豊かさにあるのでしょう。
◆ 温泉街
白良浜【しららはま】から千畳敷へと続く太平洋沿いには、大規模ホテルや旅館が立ち並び、白浜温泉の中心的な温泉街を形成しています。

白良浜は、その名の通り 驚くほど白い砂浜 が広がる美しいビーチです。砂の約90%が珪酸を含む石英砂で、サラサラとした触感が特徴です。夏には多くの海水浴客で埋め尽くされ、メディアでも毎年のように取り上げられるほどの人気ぶりです。白良浜と温泉街の立地は、観光地としての白浜の魅力を支える重要な要素となっています。

近年では、景勝地と並んで 「アドベンチャーワールド」 の人気が非常に高いです。動物園・水族館・遊園地が一体となったテーマパークで、白浜観光の大きな柱となっています。そのため、この周辺に位置するホテルや旅館の人気も高いです。
JR白浜駅から白良浜やアドベンチャーワールドまではやや距離があり、徒歩で向かうにはためらわれる距離です。多くの旅行者はバスやタクシーを利用することになります。私の場合は自家用車での移動が多いですが、公共交通機関を利用する場合は移動手段を事前に確認しておくと安心です。
| 起点 | 終点 | 距離 |
|---|---|---|
| JR白浜駅 | 白浜アドベンチャーワールド | 約3km |
| JR白浜駅 | 白良浜海水浴場 | 約5km |
| アドベンチャーワールド | 白良浜海水浴場 | 約5km |
三段壁
南紀白浜を象徴する断崖絶壁・三段壁は、高さ約50メートルの大岩壁が太平洋に向かって切り立つ迫力満点の景勝地です。古くは熊野水軍が船を隠した「船隠し」として利用したと伝えられ、荒々しい岩肌と打ち寄せる白波が、紀伊半島の海の厳しさを物語っています。展望台からは黒潮が流れ込む雄大な海原が広がり、晴れた日には水平線がくっきりと見えます。地下には海蝕洞窟「三段壁洞窟」もあり、自然の力が刻んだ壮大な造形を間近に感じられます。

三段壁は、かつて東尋坊(福井県坂井市)と共に「自殺の名所」と不名誉な呼ばれ方をしたこともある断崖絶壁です。

高さ50m、長さ2kmにわたる大断崖であり、近くに寄ればかなりのスケール感があります。

高所が苦手な私からすれば、ここから落下すれば助からないだろうなあと思う前に、断崖の先に立つことすらできません。昔はこれほど怖いと感じなかったように思いますが、今は全くダメです。

三段壁は有名な観光スポットでもあり、重要な地質研究の場でもあります。「三段壁洞窟」の中にエレベーターで降りるとその地層が水平でないことに驚嘆します。

垂直に変動した地層の上に水平の地層が入り込んで重なるというかなり複雑な地殻変動が起きたことを物語っています。

三段壁洞窟は海に繋がっているので、波が洞窟内部深くにも押し寄せてきます。

三段壁洞窟の開口部は結構大きいとの印象を持ちました。

三段壁洞窟の開口部からの景色も素晴らしかった。何よりも高所ではないのが良い!
| 名 称 | 三段壁 |
| 所在地 | 和歌山県西牟婁郡白浜町 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 三段壁|南紀白浜観光協会 観光名所 | 三段壁洞窟 わかやま観光 三段壁 |
千畳敷
千畳敷【せんじょうじき】は、畳を千枚敷いたように広がる大岩盤が特徴の海岸景勝地で、約2,000万年前の砂岩が波と風に削られてできた自然の造形美です。広々とした岩盤は歩きやすく、海風を感じながら散策できるのが魅力です。夕暮れ時には、太平洋に沈む夕日が岩肌を黄金色に染め、幻想的な景色を生み出すといいます。白浜の雄大な海と地層の歴史を同時に味わえる、まさに“自然のステージ”と呼ぶにふさわしい場所です。

千畳敷は、瀬戸崎の先端から太平洋に向けて突きだしたスロープ状の大岩盤です。かなり広い岩盤なので「千畳敷」の名が付いています。

この大岩盤は、第3紀層の砂岩からなる白くて柔らかい岩盤であり、太平洋の打ち寄せる荒波に浸食され、悠久の時を経て壮大な景観を形成したといいます。
| 名 称 | 千畳敷 |
| 所在地 | 西牟婁郡白浜町594 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | わかやま観光 千畳敷 |
円月島
白浜の象徴的な風景として知られる円月島は、中央にぽっかりと丸い海蝕洞が開いた奇岩です。この丸い穴が満月のように見えることから「円月島」と呼ばれるようになりました。特に夕日が洞窟の中央に重なる瞬間は圧巻で、白浜随一のサンセットスポットとして人気が高いです。季節や天候によって表情が変わり、訪れるたびに違った美しさを見せてくれます。

円月島は、臨海浦に位置し、南北130m、東西35m、高さ25mの小島で、白浜のシンボルとして親しまれています。正式には高嶋【たかしま】といいます。

島の中央に円月形の海蝕洞がぽっかり開いていることから「円月島」と呼ばれるようになったのが通称の由来らしいです。

円月島に沈む夕陽は「和歌山県の夕日100選」に選ばれており、日の沈む夕景の美しさは格別で、春分・秋分の時期には、中心部の穴を通して夕日が見えるらしい。少なくとも一度は撮影にチャレンジしたいものです。
| 名 称 | 円月島(高嶋) |
| 所在地 | 西牟婁郡白浜町3740 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 円月島 | 和歌山県 |
◆ あとがき
白浜温泉の魅力を書こうとしたものの、ふと立ち止まって考えてしまいました。 古くから名湯として知られ、すでに多くの人が語り尽くしてきた温泉の魅力を、今さらどう表現すればよいのか──。泉質は申し分なく、湯に浸かれば心身ともに満たされる。しかし、それは古代から変わらぬ白浜温泉の本質であり、特別に私が付け加えることはないのかもしません。
では、欠点はあるのかと考えてみると、個人的な好みですが、情緒ある昔ながらの日本旅館が少ないことが思い浮びました。 もちろん、現代の旅行者の多くはモダンなホテルを好むだろうし、子ども連れの家族や若いカップルには、その方が気兼ねなく過ごせるに違いありません。子どもが襖や障子を破る心配もないです。
南紀白浜で見かける観光客の中心は、やはり若い世代や家族連れです。私たちのようなシニア夫婦は、どちらかといえば少数派かもしれません。観光の主流は、景勝地よりも“インスタ映え”する場所へと移りつつあり、若者たちが求める価値観は、私には少し理解しづらいところもあります。
そのためか、景勝地には比較的ゆったりとした空気が流れていました。三段壁、千畳敷、円月島といった白浜を代表する名所でさえ、他の観光客と十分な距離を保ちながら歩くことができました。人気の三段壁洞窟へ向かうエレベーターも、並ぶことなくすぐに乗れたほどです。気が短くなりがちなシニアには、これが何よりありがたいです。
こうして多くの観光客とは異なるリズムで景勝地を巡ってみると、改めて思います。 景勝地は、何度訪れても良いものだ。 その場所が景勝地と呼ばれるのは、そこに変わらぬ魅力があるからでしょう。感じ方は人それぞれですが、景色は季節や天候によって大きく表情を変えます。今回の旅は珍しく天候にも恵まれ、その幸運が旅の満足度をさらに高めてくれました。