| <目次> はじめに 黒川温泉 泉質・効能 温泉街 黒川温泉の人気旅館 ふもと旅館 旅館 こうの湯 旅館 山河 瀬の本館 夢龍胆 黒川温泉の楽しみ方 入湯手形で湯めぐり 共同浴場 地蔵湯 穴湯 周辺の観光スポット 鍋ヶ滝 下城の大イチョウ 平野台高原展望所(恋人たちの丘) 押戸ノ石 阿蘇山 菊池渓谷 白川水源 あとがき |
◆ はじめに
黒川温泉は、熊本県北東部・阿蘇山の北側、標高700メートルの山あいに佇む温泉地である。決してアクセスが良いとは言えない立地ながら、いまや全国的に名を知られる人気温泉地となっている。私もその魅力に惹かれ、何度も足を運んでいる一人だ。
もっとも、黒川温泉が現在のように全国屈指の温泉地として知られるようになったのは比較的最近のことである。2000年代以前は、いまほどの知名度はなく、どちらかといえば“秘湯”の趣が強かったという。 転機となったのは、「温泉街全体を一つの宿に見立てる」という独自のコンセプトを掲げ、露天風呂と田舎情緒を核に温泉街全体を再構築したことだ。統一感のある景観づくりや入湯手形の導入など、地域一体となった取り組みが実を結び、黒川温泉は全国的な人気を獲得した。そこに至るまでの関係者の努力は、想像に難くない。
この落ち着いた景観と温かい雰囲気に包まれた黒川温泉は、私にとって“スパツーリズム”を語るうえで欠かすことのできない場所である。遠方でありながら何度も訪れたくなる魅力が、ここには確かに息づいている。
黒川温泉
黒川温泉は、熊本県阿蘇郡南小国町、阿蘇山北麓の標高700メートルに位置する山あいの温泉地である。深い森と渓流に抱かれた静かな温泉街は、派手さこそないものの、どこか懐かしく、心をそっとほどいてくれるような温もりに満ちている。
黒川温泉の魅力は、何よりも“温泉街全体の統一感”にある。 黒塗りの木造建築、控えめな看板、自然と調和した露天風呂──街全体が一つの宿であるかのように景観が整えられ、歩くだけで心が落ち着く。 名物の「入湯手形」を手に、複数の宿の露天風呂を巡る楽しみも黒川温泉ならではで、湯めぐりを通して温泉街の魅力をより深く味わうことができる。

かつては“秘湯”の趣が強かった黒川温泉だが、地域一体となった景観づくりと温泉文化の再生によって、いまでは全国屈指の人気温泉地となった。それでも、観光地化の喧騒とは無縁で、訪れるたびに「静けさ」と「やさしさ」が変わらず迎えてくれる。
黒川温泉は、華やかさよりも“しみじみとした癒し”を求める旅人にこそふさわしい場所である。 阿蘇の雄大な自然とともに、心と体をゆっくりと整えてくれる、そんな温泉地である。
◆ 泉質・効能
黒川温泉の泉質は、硫黄泉・炭酸水素塩泉・塩化物泉をはじめとする多様な種類があり、宿ごとに湯の色・香り・肌ざわりが異なるのが大きな魅力である。 川沿いの露天風呂では、せせらぎの音と湯けむりが溶け合い、まるで自然の懐に抱かれているような心地よさが広がる。
黒川温泉には24本もの源泉があり、多くの旅館が源泉かけ流しで湯を提供している。泉温は65〜94℃と高めで、露天風呂に引いても湯の力強さがしっかりと感じられる。

黒川温泉では、6種類の泉質が確認されており、それぞれ効能が異なる。中心となるのは 含食塩芒硝硫化水素泉 で、硫黄分や鉄分の含有量が旅館ごとに異なるため、同じ泉質でも湯の個性が豊かに変化する。 硫黄の香りがほのかに漂う湯もあれば、鉄分を含んで色味が変わる湯もあり、湯めぐりをするほど違いが楽しめる。 含食塩芒硝硫化水素泉は、一般に 神経痛・リウマチ・冷え性 などに効果があるとされている。そのほか、
- 弱アルカリ性単純温泉
- 弱酸性単純温泉(比較的珍しい)
- 炭酸水素塩泉
- 塩化物泉
- 硫酸塩泉
といった泉質も存在する。弱酸性の単純温泉は無色透明で、肌にやさしい湯ざわりが特徴である。 泉質ごとの詳しい効能については、別記事を参考にしていただきたい。
黒川温泉発祥とされる「入湯手形」で露天風呂を巡れば、旅館ごとに異なる泉質を楽しむことができ、その価値は一層高まる。 湯めぐりの順番によっては、肌がしっとりしたり、すべすべになったりと仕上がりが変わると言われており、自分なりの“湯の組み合わせ”を探してみるのも一興である。
◆ 温泉街
黒川温泉は、筑後川の支流・田の原川の両岸に、どこか懐かしさを感じさせる和風旅館が立ち並ぶ温泉街である。川のせせらぎと木造建築が調和し、歩くだけで心が落ち着くような情緒が漂っている。
黒川温泉の最大の特徴は、「街全体が一つの宿、通りは廊下、旅館は客室」という独自のコンセプトに基づいた街づくりにある。 この考え方のもと、温泉街全体を一つの大きな宿に見立て、旅館同士が協力しながら統一感のある景観を守り続けてきた。
名物の「入湯手形」で宿泊先以外の露天風呂にも入れる湯めぐりは、その象徴的な取り組みのひとつだろう。 しかし黒川温泉の魅力はそれだけではない。派手な看板や歓楽街的な要素を徹底的に排し、自然と調和した落ち着いた街並みを維持している点こそ、黒川温泉を特別な温泉地にしている理由である。
静けさと風情を大切にしたこの温泉街は、訪れるたびに「また来たい」と思わせる力を持っている。
黒川温泉の人気旅館
黒川温泉には約30軒の旅館があり、どの宿も「黒川調」と呼ばれる民芸調の落ち着いた外観と、個性豊かな露天風呂を備えている。 それぞれに魅力があるため単純な比較は難しく、どの宿を選んでも“外れがない”と言われるゆえんである。
渓谷沿いに広がる温泉地であるため、旅館の規模は大きくない。 しかし、旅館組合が中心となって派手な看板や歓楽街的な要素を排し、統一感のある町並みを守り続けてきたことで、黒川温泉全体に静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。
私自身、妻とともに黒川温泉を訪れたのはまだ二度だが、そのたびに宿を変えてみたところ、どの旅館も期待を裏切らない素晴らしい滞在となった。 露天風呂の趣、食事の質、接客の温かさ──いずれも大満足で、当たり外れという言葉とは無縁であった。
まだ泊まったことのない旅館もきっと同じように魅力的なのだろう。 それこそが、黒川温泉が長く愛される理由のひとつなのかもしれない。
| 名 称 | 黒川温泉観光旅館協同組合 |
| 所在地 | 南小国町黒川さくら通り |
| Link | 黒川温泉公式サイト |
ふもと旅館
ふもと旅館は、黒川温泉街のほぼ中央に位置する老舗旅館で、個性的な内風呂が多いことで知られている。なかでも印象的だったのが、名物の貸切風呂「立ち湯」である。 最大水深は約150cmと深く、湯舟の上に渡された丸太につかまりながら足を伸ばすと、ふわりと身体が浮くような独特の浮遊感が味わえる。非常にユニークな造りで、一度入ると忘れられない体験となる。
ふもと旅館には 11ヶ所の貸切風呂 と、男女別にそれぞれ1ヶ所ずつの露天風呂があり、合計13ヶ所もの湯処を楽しめる。 このバリエーションの豊富さは黒川温泉でも随一で、宿にいながら“湯めぐり”ができてしまうほどである。
私にとってふもと旅館は、黒川温泉で最初に泊まった宿でもあり、その分思い出深い。もちろん印象は非常に良く、心からおすすめできる旅館である。
| 名 称 | ふもと旅館 |
| 所在地 | 南小国町満願寺6697 |
| 駐車場 | あり |
| Link | 熊本 黒川温泉−ふもと旅館 |
旅館 こうの湯
旅館 こうの湯は、ふもと旅館の別邸として、温泉街を見下ろす丘の上の広大な敷地に建つ静かな宿である。喧騒から離れた環境にあり、誰にも気兼ねすることなく、ゆったりとしたプライベートな時間を過ごせるのが魅力だ。

全客室には専用の露天風呂が備えられ、いずれも源泉かけ流しで楽しめる。さらに、男女別の露天風呂に加えて宿泊者専用の貸切露天風呂も用意されており、外湯(湯めぐり)に出かけなくても、宿の中だけで十分に湯を堪能できる。

温泉だけでなく、料理やサービスの質も高く、滞在全体を通して満足度が非常に高い宿である。 私自身、安心しておすすめできる黒川温泉の一軒だと感じている。
| 名 称 | 旅館 こうの湯 |
| 所在地 | 南小国町大字満願寺6784 |
| 駐車場 | あり |
| Link | 黒川温泉 旅館 こうの湯 |
旅館 山河
旅館 山河は、黒川温泉街の中心部から少し離れた静かな場所に佇む人気の宿で、その落ち着いた風情と自然に溶け込む佇まいで知られている。温泉街の喧騒から離れている分、より深い静寂と趣が味わえるのが魅力だ。
私たちが予定より大幅に遅れて到着した際にも、変わらぬ温かさで迎えてくれたのがこの旅館である。丁寧で心のこもったホスピタリティは、今も強く印象に残っている。
旅館 山河には 7種類の温泉があり、本来であれば湯めぐりを存分に楽しめる宿である。しかし、今回は時間の都合で十分に堪能できなかったのが心残りだ。次に訪れる際には、ぜひ余裕をもって滞在し、山河の湯をじっくり味わいたいと思う。
静けさ、風情、温泉の質、そしておもてなし──どれをとってもおすすめできるお宿である。
| 名 称 | 旅館 山河 |
| 所在地 | 南小国町大字満願寺6961-1 |
| 駐車場 | あり |
| Link | 黒川温泉 旅館 山河 |
瀬の本館 夢龍胆
瀬の本館 夢龍胆【ゆめりんどう】は、黒川温泉街の入口にあたる黒川温泉バス停の近くに建つ旅館で、アクセスの良さと落ち着いた雰囲気を兼ね備えた宿である。 名物の露天風呂「龍胆の湯」と「天女の湯」は、開放感と趣のある造りで、旅館の大きな魅力となっている。
この和風旅館には立派な日本庭園がある。その庭園のなかに、私は水車を見つけ、写真を撮らせてもらった。旅館のすぐそばを流れる田の原川の心地よいせせらぎと、庭でゆっくり回る水車が妙に調和しているように思えた。

温泉だけでなく、料理の質やスタッフの丁寧なサービスにも定評があり、滞在全体を通して満足度の高い時間を過ごすことができる。 黒川温泉を訪れる際には、安心しておすすめできる旅館の一つである。
| 名 称 | 瀬の本館 夢龍胆 |
| 所在地 | 南小国町満願寺6430-1 |
| 駐車場 | あり |
| Link | 黒川温泉夢龍胆別館花泊まり |
黒川温泉の楽しみ方
◆ 入湯手形で湯めぐり
黒川温泉は、露天風呂めぐりが楽しめる「入湯手形」で一躍有名になった温泉地である。1,200円の入湯手形を購入すると、温泉街に点在する露天風呂の中から好きな3か所を選んで入浴できる。 杉材で作られた手形は、温泉街の中心にある旅館組合の事務所兼案内所で手に入る。
この湯めぐり文化は、現在では全国の温泉地に広まっているが、発祥は黒川温泉とされている。 かつて黒川温泉では「すべての旅館に露天風呂を造る」という方針を掲げたものの、地形の制約で露天風呂を造れない旅館があった。 その課題を解決するために、「旅館同士で露天風呂を開放し合う」という画期的な仕組みが生まれ、それが入湯手形の始まりである。
この取り組みは全国の温泉関係者から注目され、多くの旅館組合が視察に訪れた結果、各地で同様の湯めぐり文化が広まっていった。
黒川温泉の湯めぐりは、温泉街全体がひとつの温泉テーマパークのように感じられるが、その雰囲気は決して人工的ではない。 「黒川調」と呼ばれる民芸調の統一された街並みが、古き良き温泉街の風格を今に伝えている。
私たち夫婦は、黒川温泉で入湯手形を使った湯めぐりをまだ経験していない。 というのも、宿泊した旅館の露天風呂や内風呂がどれも素晴らしく、宿の中だけで十分に湯めぐりが楽しめてしまったからである。
とはいえ、黒川温泉の醍醐味のひとつがこの「湯めぐり」であることは間違いない。 次に訪れる際には、ぜひ入湯手形を手に、温泉街全体の湯を巡ってみたいと思う。
共同浴場
黒川温泉には、共同浴場(公衆浴場)が2つある。ひとつは「地蔵湯」、もうひとつは「穴湯」である。
共同浴場は本来、地元の人々が日常的に利用する生活の湯であるが、黒川温泉では観光客も利用できる。 私はこれまで温泉地の共同浴場に入った経験がないが、地元の方々との交流の場にもなっていると聞く。
これまでの旅は、限られた時間で効率よく回る“せっかちな旅”が多かった。しかし、シニアとなり会社勤めを終えた今なら、温泉地でゆっくりと時間を過ごす旅もできるだろう。 共同浴場に浸かるという選択肢も、これからの旅の楽しみのひとつに加えてみたい。
◆ 地蔵湯
地蔵湯は、温泉街の地蔵堂の近くにある共同浴場で、黒川温泉発祥の湯とも言われている。 素朴で小さな湯屋だが、黒川温泉の歴史を感じられる場所として、地元の人々に長く親しまれてきた。
| 名 称 | 地蔵湯共同浴場 |
| 所在地 | 南小国町6606 |
| 駐車場 | なし |
◆ 穴湯
黒川温泉の象徴的な共同浴場であった「穴湯」は、令和2年(2020年)7月の豪雨災害により大きな被害を受け、休止を余儀なくされた。その「穴湯」を再建するため、黒川温泉自治会を中心にクラウドファンディングによる復活プロジェクトが立ち上がり、多くの支援が寄せられた。目標額にも到達し、現在は再建に向けた取り組みが進められている。長年愛されてきた共同浴場の風景が再び戻る日を、心待ちにしたい。
| 名 称 | 穴湯共同浴場 |
| 所在地 | 南小国満願寺6541 |
| 駐車場 | なし |
黒川温泉周辺の観光
黒川温泉では、まずは宿でゆっくりと湯に浸かり、時間に余裕があれば温泉街を散策するだけでも十分に満喫できる。 実のところ、私たちはその“ゆっくりとした過ごし方”をしなかったため、今では少し後悔している。
とはいえ、天候に恵まれた日には、温泉街を離れて熊本の雄大な自然を楽しみたいと思うのも自然な気持ちだろう。 そんな方におすすめしたいのが、私たちが実際に訪れた周辺の観光スポットである。 車さえ利用できれば、黒川温泉から短時間でアクセスでき、気軽に立ち寄ることができる。
鍋ケ滝
鍋ケ滝は、落差約10m、幅約20mと小規模な滝ではあるが、静かな流れと周辺の自然と調和した様子がとても美しい。

阿蘇のカルデラをつくった約9万年前の巨大噴火でできたとされ、カーテンのように幅広く流れ落ちるさまがとても優雅である。

鍋ケ滝公園内にあり、アクセスが容易で、絶景スポットとして人気が高いのも理解できる。

鍋ヶ滝は、「裏見の滝」とも呼ばれ、滝裏に回って滝の裏側から景色を眺めることができる。

滝越しの景色は自然のパワーを十分に感じさせてくれる。

妻もこの滝が殊の外、気に入ったようだ。何度でも訪れたい滝である。
| 名 称 | 鍋ケ滝 |
| 所在地 | 小国町黒渕下滴水 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 鍋ヶ滝公園 | 熊本県観光 |
下城の大イチョウ
小国町下城にある県下最大の銀杏の木は「下城の大イチョウ」と呼ばれ、幹まわり約12m、高さ約25mもある巨樹である。国の天然記念物に指定されている。

樹齢は1000年以上と言われており、枝からは多数のこぶが下がっている。女性のお乳のように見えることから「ちちこぶ」さんとも呼ばれている。

また、乳の出が少ない女性が、この大イチョウに乳の出が良くなるように祈ったところ、願いが叶ったという伝説もあるという。

| 名 称 | 下城の大イチョウ |
| 所在地 | 小国町下城坂下地内 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 下城の大イチョウ | 熊本観光 下城の大イチョウ | 黒川温泉 |
平野台高原展望所(恋人たちの丘)
平野台高原展望所は、黒川温泉から車でほど近い高原に位置し、阿蘇五岳をはじめとする雄大な阿蘇の山並みを一望できる絶景スポットである。標高約800メートルの開けた丘に立つと、広々とした草原と大空が視界いっぱいに広がり、まさに“阿蘇のスケール”を体感できる場所だ。

この展望所は「恋人たちの丘」とも呼ばれ、夕暮れ時には空が茜色に染まり、静かな高原にやわらかな風が吹き抜ける。昼間の爽快な眺望とはまた違った、ロマンチックで落ち着いた時間が流れる。ベンチに腰掛けてゆっくりと景色を眺めていると、日常の喧騒が遠のき、心が自然とほどけていくような感覚に包まれる。

天気が良ければ、南に阿蘇五岳、東にはくじゅう連山が見える大パノラマの撮影スポットである。

「清流の森」を登ったところには展望所がある。この展望所には鐘が設置されていて、二人で鳴らすと幸せになれるらしい。

そのため、平野台高原展望所は別名「恋人たちの丘」と呼ばれ、若いカップルに人気のスポットとなっているらしいが、私たちが訪ねたときの先客は、若い男性が一人だけであった。

黒川温泉からのアクセスも良く、温泉滞在の合間に立ち寄るには最適の場所である。阿蘇の雄大な自然を静かに味わいたい方に、ぜひ訪れてほしい展望スポットである。
| 名 称 | 平野台高原展望所(恋人たちの丘) |
| 所在地 | 南小国町満願寺火焼輪智 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 平野台高原展望所 |
押戸ノ石
押戸ノ石【おしとのいし】は、阿蘇外輪山の北側、黒川温泉から車で気軽に訪れることができる高原に位置する、古代の巨石群である。標高845メートルの草原に点在する巨石は、約4,000年前の縄文時代に祭祀の場として使われていたと考えられており、阿蘇の大自然と太古のロマンが交差する神秘的なスポットだ。
押戸ノ石は、巨石群の中心をなす高さ5.5m、周囲15.3mの最大のものは高さ5.5メートル、周囲15.3メートルのピラミッド型をした巨岩であり、頂点の真北には北極星があるという。

最大の見どころは、中心にそびえる高さ約5.5メートルの巨石「押戸石」。この石には磁気を帯びた部分があり、方位磁石が狂う現象が確認されている。古代の人々が天体観測や祭祀に利用したのではないかと推測され、訪れる者の想像をかき立てる。

不思議なことに、この石の周囲では磁気の働きが正常ではなく、コンパス(方位磁針)を近づけるとぐるっと回る。また「石に登ると雨が降る」という伝承と共に、鬼達が夜な夜なこの山でいしなご(お手玉)をして遊んだ石「鬼のお手玉」とも伝えられ、古くから人々の信仰を集めてきた。

大岩には約4,000年前のシュメール文字がペトログラフ(岩刻文字)として刻まれていて他の石群とともに興味深い謎を秘めている。人為とも思われる石の配置から太古の遺跡ではないかと推定されているが、すべてが解明されているわけではない。

周囲には「鏡石」「太陽石」などの名を持つ石が点在し、晴れた日には阿蘇五岳や九重連山まで見渡せる。風が吹き抜ける草原の中で巨石を巡って歩くと、自然の雄大さと古代の気配が静かに心に染み込んでくる。

黒川温泉からのアクセスも良く、温泉滞在の合間に立ち寄るには最適の場所である。阿蘇の大地が育んだスケールの大きな風景と、太古の人々の営みを感じられる、心に残る観光スポットである。
| 名 称 | 押戸ノ石 |
| 所在地 | 南小国町中 |
| 駐車場 | あり(有料) |
| Link | 押戸石の丘|熊本県南小国町 |
阿蘇山
阿蘇山【あそざん】は、「火の国」と呼ばれる熊本県のシンボル的な存在である。阿蘇山は、世界でも有数の大型カルデラと雄大な外輪山を持ち、現在もなお噴火を続けている活火山である。

記録が残る噴火の大部分が中岳で発生している。火山活動が平穏な時期には火口に近づいて見学できるが、活動が活発化したり、有毒ガスが発生した場合は火口付近の立入りが規制される。

阿蘇山のカルデラ内部に出来た中央火口丘群のうち、ほぼ東西に一列に並ぶ根子岳【ねこだけ】(標高1,433m)、高岳【たかだけ】(1,592m)、中岳【なかだけ】(1,506m)、杵島岳【きしまだけ】(1,326m)、烏帽子岳【えぼしだけ】(1,337m)の五峰を阿蘇五岳【あそごがく】と呼ぶ。

大観峰【だいかんぼう】(標高936m)は、阿蘇山の北外輪山の最高峰であり、阿蘇カルデラ壁や阿蘇五岳をはじめ九重連山を一望できる。阿蘇観光では人気の展望スポットとして知られる。


| 名 称 | 阿蘇山・大観峰 |
| 所在地 | 阿蘇市山田 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 大観峰 | 阿蘇市観光協会 阿蘇山 – 阿蘇市 阿蘇山上一帯 | 熊本県観光 |
阿蘇西麓の大津付近の県道339号から12号、45号を経由し、阿蘇外輪山の北東部へと至る美しい一般道は、「ミルクロード」とも呼ばれ、秋には陽光に輝くススキ野原が一面に広がり、絶好のドライブルートとなる。

大草原に永遠と伸びているようなこの道は、全長約45kmもあるという。阿蘇外輪山のスケールの大きな素晴らしい風景をしっかりと目に焼き付けておきたい。


阿蘇山のシンボル・中岳へ続く「阿蘇パノラマライン」は標高1150mの山上広場を終点とし、北の坊中線・西の下野線・南の吉田線の3ルートによって構成される山岳道路である。

阿蘇山・中岳とその一帯に広がる草千里ヶ浜の雄大な景観は、阿蘇ならではの迫力がある。そして坊中線と合流する付近の名所はかつては火山だった「米塚」の風景である。

国内で最も均整の取れた火砕丘であり、阿蘇の象徴的な風景の一つとされている。風景写真では円錐形の丘陵を美しい緑が覆う景観として紹介されることが多い米塚であるが、私が訪れたのは秋であったためイメージしていた姿とは異なっていた。もう少しで見逃してしまうところであった。

菊池渓谷
菊池渓谷【きくちけいこく】は、阿蘇外輪山の北西部に広がる原生林に包まれた渓谷で、黒川温泉から車で気軽に訪れることができる自然景勝地である。標高500〜800メートルの山あいを流れる菊池川の源流域に位置し、透明度の高い清流と深い森が織りなす景観は、まさに“天然の涼”そのもの。夏でもひんやりとした空気が漂い、歩くだけで心身がすっと軽くなるような心地よさがある。


広大な面積(約1,193ha)からなる菊池渓谷は「憩いの森」と称され、人々の心をなごませてくれる。

菊池渓谷は、大小さまざまな滝と瀬をつくり、渓谷の周囲は天然の広葉樹で覆われている。清流と広葉樹が織りなす渓谷美は絶景である。


渓谷内には「四十三万滝」「黎明の滝」「天狗滝」などの滝が点在し、遊歩道を歩くたびに表情の異なる水の美しさに出会える。

夏でも平均水温は13℃と低く、避暑地として最適であるという。私たちが訪れた時は、秋で、ちょうど紅葉の季節でもあり、広葉樹が色づいていた。

決して派手さがあるわけではないが、自然のままの風景が訪れる者の心を癒してくれる。

年老いて朽ちゆく樹木、その樹木から新しい生命が誕生している風景は、シニアになった今の私には感動的に映る。

自然の音に耳を澄ませながらゆっくりと歩いていると、日常の喧騒が遠のき、森の時間に包まれていくような感覚に浸れる。


春は新緑、夏は清涼、秋は紅葉、冬は静寂──四季折々の魅力があり、訪れるたびに違った表情を見せてくれるという。

苔むした岩肌を滑るように流れる清流は、季節や天候によって色合いが変わり、晴れた日にはエメラルドグリーンに輝くこともある。

黒川温泉からのアクセスも良く、温泉滞在と組み合わせて訪れるには最適のスポットである。阿蘇の自然の奥深さを感じたい方に、ぜひ足を運んでほしい渓谷である。

| 名 称 | 菊池渓谷 |
| 所在地 | 菊池市原 |
| 駐車場 | あり(有料) |
| Link | 熊本県 菊池渓谷 |
白川水源
白川水源は、南阿蘇村に位置する九州随一の湧水地で、毎分60トンもの清水がこんこんと湧き出す名水の地として知られている。
水温は年間を通して約14℃と一定で、澄みきった水面をのぞき込むと、砂がふわりと舞い上がりながら湧き出す様子が見える。まさに“水が生まれる瞬間”を目の当たりにできる、貴重な場所である。

湧水池の周囲には木々が生い茂り、静けさと清涼感に満ちた空気が漂う。水面は天候や光の角度によって青や緑に輝き、訪れるたびに違った表情を見せてくれる。その美しさから「日本名水百選」にも選ばれており、南阿蘇の自然の豊かさを象徴する景勝地である。

私が湧水に関心を持つようになったきっかけは白川水源である。これほど多くの湧水量(毎分60トン)を誇る湧水場(水源)を見学したのは初めての経験であった。

何か不思議なパワーを得たような心持ちになった。旅から戻って、調べた結果、熊本県には 白川水源の他にも多くの湧水場があることを知った。熊本を旅した際には是非、他の湧水場(水源)も訪ねてみたいと思った次第である。

人が生きていくためには飲料水は不可欠だ。文字通り「命の水」と言ってよい。日本各地に湧水の名所があり、古の人は引用できる湧水場を神からの授かりものだと感謝した。湧水場の傍には神社や祠が祀られているのはその証左であるに違いない。

水源の水はそのまま飲むこともでき、手ですくって口に含むと、驚くほどまろやかでやさしい味わいが広がる。散策路も整備されているため、ゆっくりと歩きながら湧水の音や森の気配を楽しむのも心地よい。
黒川温泉からのアクセスも良く、温泉滞在と組み合わせて訪れるには最適のスポットである。阿蘇の大地が育んだ“清らかな命の水”に触れたい方に、ぜひ足を運んでほしい場所である。
| 名 称 | 白川水源 |
| 所在地 | 南阿蘇村白川2040 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 白川水源 | 熊本観光 白川水源 / 南阿蘇村HP |
◆ あとがき
私はこれまで、黒川温泉を訪れたのは紅葉の季節だけである。だからこそ、秋以外の黒川温泉にも強く惹かれている。 たとえば、冬の風物詩として知られる名物イベント「湯あかり」を実際に眺め、カメラに収めてみたい──そんな思いが年々募っている。
黒川温泉は渓谷に抱かれた温泉郷であり、四季の移ろいによってまったく違う表情を見せるという。 大自然の中で季節の気配を感じながら湯に浸かる醍醐味は、言葉ではとても言い尽くせない。
次はどの季節に訪れようか──そう考えると、嬉しい悩みが増える。 紅葉の黒川温泉は何度訪れても飽きることがないが、まだ見ぬ季節の黒川温泉にも、きっと新しい感動が待っているはずだ。