カテゴリー: 神社仏閣

  • 安芸の宮島・厳島神社を歩く──海に浮かぶ神域への旅

    目次
    はじめに
    宮島へ渡る
    厳島神社
    島内散策
    あとがき

    はじめに

    瀬戸内海に静かに浮かぶ宮島は、古くから「神の島」と呼ばれてきた。海上に立つ大鳥居は潮の満ち引きによって姿を変え、朝夕の光を受けてゆっくりと色を変えていく。厳島神社の社殿は海と一体となるように建てられ、潮の音がそのまま祈りの響きとなって心に届く。

    島を歩けば、海と森と社が重なり合い、どこか時の流れがゆっくりになる。今回の旅は、ただ名所を巡るだけではなく、海に抱かれた神域の静けさを味わう時間となった。潮風に包まれながら歩く宮島は、訪れるたびに新しい表情を見せてくれる。

    ずいぶん昔の話だが、私は「安芸の宮島」【あきのみやじま】を「秋の宮島」と誤って読み、宮島の観光シーズンは秋なのだと信じ込んでいた時期があった。ある日、観光ポスターを見て「安芸」であることを知り、人知れず赤面したことを今でも覚えている。こうした小さな勘違いも、旅の記憶の一部として懐かしく思い出される。

    私たちが「宮島」あるいは「安芸の宮島」と呼んでいる島は、本来「厳島【いつくしま】」の通称である。一般には宮島の名で親しまれているが、歴史の舞台としても知られ、毛利元就と陶晴賢【すえはるかた】が争った「厳島の戦い」(1555年)の地として有名である。

    私が初めて厳島神社を参拝したのは、広島で薬学会が開催された春のことだった。学会の帰りに友人と「せっかくの機会だから」と宮島へ渡ったが、そのときも観光客が多く、フェリーに乗るまでずいぶん待たされた記憶がある。人気の高さを改めて実感した瞬間だった。

    そして今回、再び厳島神社を参拝する機会を得た。島を歩けば、海と森と社が重なり合い、どこか時の流れがゆっくりになる。前回とは違う印象が心に残り、その変化を本稿に記しておきたいと思う。宮島は訪れるたびに新しい表情を見せてくれる──そのことを改めて感じた旅であった。


    宮島へ渡る

    ──海に浮かぶ島への第一歩

    フェリーがゆっくりと宮島へ向かうと、海上に立つ大鳥居が少しずつ姿を現す。潮の高さによって見える景色が変わり、満潮時には鳥居が海に浮かんでいるように見える。瀬戸内海の穏やかな水面に鳥居の朱色が映り、どこか凛とした空気が漂う。島に近づくにつれ、海と森が重なり合い、宮島が古くから「神の島」と呼ばれてきた理由が自然と伝わってくる。

    宮島は古来より神が宿る神聖な島として、自然崇拝の対象とされてきた。だから宮島には殆ど人の手が入っていない原生林が広がっている。島の最高峰は弥山【みせん】(標高535 m)という山であり、山頂への登山道が整備されている。

    安芸の宮島(中央の高い峰が標高535 mの弥山である)

    厳島神社【いつくしまじんじゃ】は、、平安時代末期に平清盛が厚く庇護したことで大きく発展したという。

    平安時代末期以降は、厳島神社の影響力の強さや海上交通の拠点としての重要性から、歴史の表舞台に登場するようになった。

    江戸時代中期以降、天橋立(京都府)や松島(宮城県)と共に日本三景と呼ばれ、日本を代表する景勝地として国内外に広く知られている。

    明治33年(1900年)に定期航路が開設されると、交通の利便性が改善し、島への参拝客や観光客が急増したという。今では人口1800人余りの島に国内外から年間300万人を超える参拝客や観光客が訪れており、日本屈指の観光地として栄えている。

    島全域は、瀬戸内海国立公園の一部であり、自然公園法が定める特別保護区域となっている。国の特別史跡及び特別名勝にも指定され、弥山の原始林は国の天然記念物に指定されている。

    厳島神社付近の町並みは「廿日市市宮島町伝統的建造物群保存地区」として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。

    名 称厳島(通称、安芸の宮島又は宮島
    所在地廿日市市宮島町
    Link安芸の宮島 観光ガイド

    厳島神社

    ──海とともにある社殿の美

    厳島神社【いつくしまじんじゃ】は、海上に浮かぶ朱塗の大鳥居と社殿で知られ、本殿、幣殿、拝殿、祓殿、廻廊などの主要な建造物はすべて国宝または国の重要文化財に指定されている。

    厳島神社の社殿は、平安時代の寝殿造を海上に展開した独特の構造を持つ。回廊を歩くと、潮の音がそのまま祈りの響きとなって耳に届き、海と社が一体となるような感覚がある。社殿の朱色は海の青と森の緑に映え、どこを切り取っても絵になる美しさがある。大鳥居を正面に望む位置に立つと、潮風がそっと頬を撫で、心が静かに整っていくのを感じた。

    貴族や武将、商人たちが奉納した美術工芸品・武具類には貴重な品が多く、中でも平清盛が奉納した「平家納経」は豪華絢爛の装飾が施されており、平家の栄華を天下に示すものとして日本美術史上特筆すべき作品の一つとされている。

    嚴島神社は、1168年に平清盛の厚い信仰のもと現在の規模に造営された。 海をも含む敷地内には本社を中心に大小の各神社、舞台や楽房などが設置され、そのそれぞれは延長108間に及ぶ廻廊で結ばれ、独創的な配置構成を見せる。

    厳島神社は、島全体が神の島として崇められていたので、陸地では畏れ多いと潮の満ち引きする所に社殿が建てられたという。

    厳島神社および弥山原始林は、平成8年(1996年)にユネスコ世界遺産に登録されている。

    名 称厳島神社
    所在地廿日市市宮島町1-1
    Link国宝・世界遺産 嚴島神社

    島内散策

    ──海と森がつなぐ静かな時間

    厳島神社を後にし、島内を歩くと、海辺の道に鹿がゆったりと佇んでいる。表参道商店街の賑わいを抜けると、海の匂いと森の気配が混じり合う静かな道が続く。千畳閣・豊国神社は広々とした空間が印象的で、風が柱の間を抜ける音だけが響く。海と森と社が重なり合う宮島は、歩くほどに心がゆっくりとほどけていくような場所である。

    厳島神社多宝塔
    厳島神社多宝塔

    多宝塔は、大永3年(1523年)に建立され(総高は15.6m)、薬師如来像が祀られていたが、明治維新の神仏分離令で大願寺に移されたという。仏塔自体は、現在、嚴島神社に帰属している。


    厳島神社五重塔
    厳島神社五重塔

    応永14年(1407年)建立の五重塔は、桧皮葺で和様・唐様を融合した壮麗な建造物(総高27.6m)である。心柱が2層目で止まっているのが特徴で、風に対して強い構造となっているという。


    豊国神社・本殿千畳閣は、元々は豊臣秀吉によって戦歿将兵の慰霊のために建立された大経堂であった建造物である。秀吉の没後に建築工事はなぜか中止されたため、今も天井が張られておらず未完成のままになっている。

    明治政府による神仏分離政策により、明治5年(1872年)に大経堂を千畳閣と改称し、本尊・釈迦如来座像などの仏像を大願寺に移した。現在は豊国神社【とよくにじんじゃ】の本殿となっている。

    宮島の景色は、ただ美しいだけではなく、どこか「心の奥に触れる静けさ」を持っている。海に浮かぶ社殿、潮風に揺れる松、森に抱かれた伽藍──それらがゆっくりと心を整えてくれる。シニアになってからの旅は「どこへ行くか」よりも「どう感じるか」が大切になっていく。今回の旅は、そのことを改めて思い出させてくれる時間となった。


    あとがき

    厳島神社は、平清盛をはじめ、戦国期には毛利元就の信仰と戦略にも深く関わった神社であることを、今回の参拝で改めて理解することができた。宮島という一つの島の中に、神道と武家の歴史が重なり合い、静かな佇まいの奥に豊かな物語が息づいている。

    明治政府による神仏分離政策が、この厳島神社にも大きな影響を与えたことを知ると、やはり残念な気持ちになる。多くの寺院が廃され、仏像や仏具が失われた時代である。しかし、厳島神社では多宝塔や五重塔といった仏教建築が神社の管理下で残され、今日まで守られてきたことには深い安堵を覚える。海上の社殿と山上の塔が同じ島に共存している姿は、日本の宗教文化の重層性を静かに物語っている。

    海と森と社が重なり合う宮島は、訪れるたびに新しい静けさを教えてくれる。厳島神社の朱色が海に映る景色は、ただの観光ではなく、心をそっと整えてくれる祈りの時間でもある。今回の旅で出会った静かな景色は、これからの日々に静かな力を与えてくれるだろう。

    次に宮島を訪ねる際には、ぜひ弥山【みせん】に登りたいと思う。古くから霊山として知られ、山頂から望む瀬戸内海の多島美は「日本三景・安芸の宮島」の名にふさわしい絶景だという。海と島々が重なり合うその眺めを、自分の足で登り、自分の目で確かめてみたい。宮島は、何度訪れても新しい発見を与えてくれる場所である。


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