投稿者: takaaki.nishioka

  • 御在所岳・鎌ヶ岳・綿向山を歩く──岩峰の静けさと湯の山温泉の旅

    目次
    はじめに
    鈴鹿の山旅のはじまり
    御在所岳
    鎌が岳
    綿向山
    湯の山温泉
    あとがき

    はじめに

    鈴鹿国定公園は、滋賀県と三重県の県境に連なる鈴鹿山脈一帯を中心とした国定公園である。 私が社会人になったばかりの頃、滋賀県甲賀郡甲賀町(現在の甲賀市甲賀町)に住んでいたことがあり、御在所岳や鎌ヶ岳へは車で気軽に向かうことができた。 特に鎌ヶ岳の山頂は、休日の私の“憩いの場所”だった。 現在と違って登山者もほとんどおらず、山頂でただ一人、風の音だけを聞きながら過ごす時間は、若い私にとってかけがえのない静けさだった。

    鈴鹿山脈には、岩峰が連なる険しさと、森が包み込む静けさが同居する独特の風景がある。 御在所岳、鎌ヶ岳、綿向山──それぞれが異なる表情を持ちながら、どこか共通して“岩と森の静けさ”を感じさせる山々だ。 そして山麓には、古くから旅人を癒やしてきた湯の山温泉が湧き、山の旅をやさしく締めくくってくれる。

    本稿では、鈴鹿国定公園を代表する三つの山を歩き、岩峰の風景と温泉のぬくもりをゆっくり味わっていきたい。 険しさの中にある静けさ、そして山の時間がもたらす深い余韻──年齢を重ねた今だからこそ、心に響く旅になる。


    鈴鹿の山旅のはじまり

    ──岩峰の静けさに出会う

    鈴鹿山脈は、岩峰が連なる険しさと、森が包み込む静けさが共存する山域である。 御在所岳の岩壁、鎌ヶ岳の鋭い山容、綿向山の穏やかな森──三つの山はそれぞれ異なる表情を持ちながら、どこか共通して“鈴鹿らしい静けさ”を感じさせる。

    山を歩くと、岩の影が深く、風が静かに通り抜ける。 その時間は、日常の喧騒から離れ、心がゆっくり整っていくような感覚をもたらしてくれる。


    御在所岳

    ──岩壁と展望が描く雄大な風景

    御在所岳【ございしょだけ】(標高1,212m)は、三重県菰野町と滋賀県東近江市の境にある山である。


    ロープウェイから眺める岩峰の迫力

    御在所岳は、鈴鹿山脈の中でも特に岩壁が発達した山で、ロープウェイから眺める岩峰の迫力は圧巻である。 岩肌が間近に迫り、谷の深さが静かに伝わってくる。急峻な岩壁を持ち、四季折々の花(例えば春の桜やツツジ)や紅葉で美しい山である。そのため、登山の対象としても魅力的な山である。

    三重県側の湯の山温泉から山頂直下まで御在所ロープウェイが通じているので、簡単に登れる山でもある。そのため多くの観光客も訪れる。広い山頂部は御在所スキー場となっている。

    名 称御在所岳
    所在地三重県三重郡菰野町
    Link御在所岳 | 観光三重
    山頂 | 御在所ロープウエイ

    山上の散策路で感じる鈴鹿の風

    山上公園に着くと、岩峰の険しさとは対照的に、穏やかな散策路が広がる。 風が通り抜け、遠くの山並みが静かに続く。 歩くほどに、御在所岳が持つ“岩と風の山”という印象が深まっていく。


    山頂から望む伊勢湾の広がり

    山頂からは伊勢湾が望め、海と山が寄り添う風景が広がる。 鈴鹿の山々の奥行きが一望でき、旅の始まりにふさわしい雄大な景色である。

    かつては御在所ロープウェイの山上公園駅近くに日本カモシカセンターがあり、世界で唯一のカモシカ専門の動物園として存在したが、2006年11月30日に閉園したのは残念である。


    鎌ヶ岳

    ──円錐形の美しい山容を歩く

    鎌ヶ岳【かまがたけ】(標高1,161m)は、鈴鹿山脈南部に位置する、三重県菰野町と滋賀県甲賀市にまたがる山である。山全体が花崗岩からなり、鈴鹿山脈で最もアルペン的な鋭く尖った山容の山である。北側と南側からは均整のとれた三角形の山容であるが、東の一角から均整が崩れて湾曲した形に見えることが山名の由来とされている。鎌が岳のその鋭く尖った姿の山容から「鈴鹿のマッターホルン」と呼ぶ人もいる。南側の水沢岳へと続く痩せ尾根は、鎌尾根と呼ばれている。


    鋭い山容が象徴する“鈴鹿の岩峰”

    鎌ヶ岳は、円錐形の美しい山容が特徴で、鈴鹿の岩峰を象徴する山である。 山頂に近づくほど岩が増え、山の輪郭がくっきりと浮かび上がる。


    山頂から眺める御在所岳との対話

    山頂に立つと、すぐ隣に御在所岳が見える。 二つの山が向かい合うように並び、鈴鹿の山々が静かに対話しているような風景が広がる。


    シニアでも無理なく歩けるルート選び

    鎌ヶ岳は険しい印象があるが、ルートを選べばシニアでも無理なく歩ける。 無理をせず、ゆっくり歩くことで、岩峰の美しさがより深く心に伝わってくる。

    鎌が岳への登山道はいくつかあるようだが、鈴鹿スカイラインのつづら折りの山道を車で登って武平トンネルの出口(三重県側)近くの武平峠駐車場に駐車し、「鎌ヶ岳・御在所岳登山口」から登ると山頂はすこぶる近い。その登山口からなら往復2時間程度で登れるので、私は鎌が岳へは何度も登山している。

    御在所岳山頂や御在所ロープウェイからは勿論、三重県側の濃尾平野からも鎌ヶ岳の三角錐の山容が望める。

    名 称鎌ヶ岳
    所在地三重県三重郡菰野町(武平峠駐車場)
    駐車場あり(無料)
    Link鈴鹿セブンマウンテン鎌ヶ岳

    綿向山

    ──静かな森と山頂の展望

    綿向山【わたむきやま】(標高1,110m)は、鈴鹿山脈の南西に位置する山である。7世紀頃から山岳信仰の対象として崇拝されてきた山として知られる。頂上には天穂日命が祀られた大嵩神社が鎮座する。さらには綿向神社の奥宮も鎮座する。


    鈴鹿の中でも穏やかな山の時間

    綿向山は、御在所岳や鎌ヶ岳と比べると穏やかな山で、静かな森が続く。 歩くほどに、森の深さと静けさが心に染み込んでくる。

    綿向山の山頂には「青年の塔」が建てられている。


    七合目の“御幸の道”が語る歴史

    七合目には「御幸の道」があり、古くから信仰の山として歩かれてきた歴史が残る。 道標の佇まいが、山の時間の長さを静かに語ってくれる。


    山頂から望む近江の風景

    山頂に立つと、近江の風景が広がり、鈴鹿の山々とはまた違った穏やかな景色が楽しめる。

    天候が良ければ、山頂からの眺めは素晴らしいはずである。東側に雨乞岳から鎌ヶ岳に連なる鈴鹿山脈や伊勢湾が眺望できる。

    西側には眼下に近江盆地がひらけ、琵琶湖の対岸には比叡山や比良山地の山並みが見えるはずである。

    眺望は天候次第であるのは仕方がないとはいえ、折角、登山したからにはその眺めを期待するのは人情というものだ。

    山頂の西側付近には綿向山麓接触変質地帯があり、国の天然記念物に指定されている。

    名 称綿向山
    所在地滋賀県蒲生郡日野町北畑
    Link綿向山 – 滋賀・びわ湖

    湯の山温泉

    ──山旅を締めくくる名湯

    湯の山温泉は、御在所岳の東側山麓(三重県側)に位置する温泉地で、四季折々の景観に富んでいる。泉質は、アルカリ性ラジウム泉である。


    古くから旅人を癒やしてきた温泉街

    湯の山温泉は、御在所岳の麓に湧く名湯で、古くから山を歩く人々を癒やしてきた。 温泉街は静かで、山の旅の余韻をゆっくり味わえる。

    三滝川河畔の斜面に建てられた20軒ほどのホテルと旅館で温泉街を形成している。ホテルと旅館の多くは設備の整った大型宿泊施設で、収容人数も多い。温泉街の一角からは御在所岳へと登る御在所ロープウェイが運行している。

    名 称湯の山温泉
    所在地三重県三重郡菰野町菰野
    Link湯の山温泉公式HP

    山の疲れをそっとほどく湯のぬくもり

    湯に浸かると、岩峰を歩いた疲れがふっとほどけていく。 山の風景を思い返しながら湯に浸かる時間は、旅の中でも特に心が落ち着く瞬間である。


    温泉と山が寄り添う鈴鹿の風景

    山と温泉が近いことは、鈴鹿の旅の大きな魅力である。 岩峰の険しさと温泉のやさしさ──その対比が旅の印象を深くしてくれる。


    あとがき

    御在所岳へはロープウェイで登れるため、娘たちが幼かった頃は家族でよく出かけたものだ。 山上公園駅の近くには、かつて世界で唯一のカモシカ専門動物園「日本カモシカセンター」があり、娘たちは珍しい動物を興味深そうに眺めていた。 静かな山の上で、家族で過ごしたあの時間は、今思い返しても温かい記憶として心に残っている。 残念ながら、この動物園は2006年11月30日に閉園し、今ではもう見ることができない。

    本稿を書きながら、あれから随分と年月が経ったことを改めて実感した。リタイアして時間の余裕もでき、想い出の場所をもう一度訪ねてみたい気持ちがふっと湧いてくる。 しかし同時に、体力の衰えが気がかりでもある。「情けないことだ」と苦笑しつつも、こうして自分の変化を素直に受け止められるのも、年齢を重ねた今だからこそなのだろう。

    岩峰の御在所岳、鋭い鎌ヶ岳、静かな綿向山──三つの山を歩く旅は、鈴鹿の自然が持つ奥行きを静かに感じる時間だった。 険しさの中にある静けさ、そして山の風がそっと心を整えてくれる。

    湯の山温泉で湯に浸かりながら山々を思い返すと、歩いた時間がゆっくりと心に沈んでいく。 岩峰と名湯──この組み合わせは、年齢を重ねた今だからこそ、より深く響くものがある。

    今回の旅が、次の旅への小さなきっかけとなれば嬉しい。 静かな風景に身を委ねる時間は、これからの旅にもきっと続いていく。


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