投稿者: takaaki.nishioka

  • 室生寺を歩く──女人高野に息づく五重塔と信仰の静けさ

    目次
    はじめに
    室生寺の由緒と歴史
    室生寺の伽藍
    国宝・五重塔
    奥の院への道
    奥の院・御影堂
    歩き終えて感じる余韻
    室生寺の紅葉
    あとがき

    はじめに

    奈良県宇陀市の山あいに佇む室生寺【むろうじ】は、「女人高野」として古くから親しまれてきた静かな名刹である。高野山が女人禁制であった時代、女性が安心して参拝できる寺として信仰を集め、その優しい佇まいは今も変わらず訪れる者を包み込んでくれる。

    境内に足を踏み入れると、木々のざわめきと山風がそっと肌に触れ、静かな時間がゆっくりと流れていく。国宝の五重塔をはじめ、室生寺の伽藍はどれも凛とした美しさを湛え、長い年月を経た信仰の深さを静かに物語っている。

    本稿では、室生寺を歩きながら出会った 五重塔の気品、女人高野の歴史、そして境内の静けさを綴りたいと思う。


    室生寺の由緒と歴史

    室生寺は、奈良県宇陀市室生に位置する、真言宗室生寺派の大本山の寺院である。山号は宀一山【べんいちさん】または檉生山【むろうさん】で、御本尊は如意輪観音である。

    天武天皇の勅願によって、役の行者【えんのぎょうじゃ】と呼ばれる修験道の祖、小角【おづぬ】がこの室生の地に初めて寺を建立したと伝わる。

    奈良時代末期、山部親王(後の桓武天皇)の延寿祈祷をきっかけに、興福寺の高僧・賢璟【けんけい】が勅命を受けて、弟子の修圓が平安遷都まもなくの頃に堂塔伽藍を建立したという。

    その後、弘法大師・空海の弟子であった真泰が真言密教を携えて入山し、灌頂堂や御影堂等が整えられた。真泰は修圓とも親交が深かったと伝わっている。

    弘法大師・空海が開山した高野山金剛峯寺は、昔は女人禁制の聖地であり、女性の参詣は許されていなかった。一方、室生寺は真言宗室生寺派大本山とされ、高野山金剛峯寺とは異なり、古から女性の参詣が許されていた。そのため室生寺は「女人高野」と呼ばれるようになったと言われている。


    室生寺の伽藍

    ──静けさに包まれた信仰の風景

    境内に入ると、 まず目に入るのは仁王門、金堂、弥勒堂や本堂などの伽藍である。どの建物も華美な装飾を持たず、 素朴でありながら凛とした佇まいを見せている。木々のざわめき、鳥の声、 山の湿った空気── それらが重なり合い、境内には静かな祈りの時間が流れている。

    室生寺にある現在の仁王門は、昭和40年(1965年)11月に再建されたものである。室生寺の仁王門は江戸時代中期の元禄年間(1688年~1704年)に焼失し、その後長らく再建されていなかったらしい。

    室生寺の仁王門は重層(二階建て)の楼門で、三間一戸【さんげんいっこ】八脚門【はっきゃくもん】(本柱四本の前後に控え柱四本が建つ門)の造りで、屋根は檜皮葺【ひわだぶき】である。

    仁王門には勿論、仁王像(金剛力士像)が安置されている。仁王門は、仏教・寺院を守護する金剛力士像を安置する門であり、二神一対で、口を開いた阿形【あぎょう】(右側)は怒りの表情を表し、口を閉じた吽形【うんぎょう】(左側)は怒りを内に秘めた表情を表しているものが多いと言われている。

    金剛力士像吽形

    阿形は、左手に仏敵を退散させる武器である金剛杵【こんごうしよ】を持ち、一喝するように口を開けている。一方、吽形は右手の指を開き、怒気を帯びて口を結んでいる。


    仁王門を通り過ごし、鎧坂の石段を一段一段登っていくと、屋根が柿葺【こけらぶき】の寄棟造りの金堂が次第に見えてくる。石段を登りきると金堂の全貌が見える前庭に出る。

    懸け造りの高床正面一間通りは、江戸時代に付加されたという礼堂【らいどう】(本尊を安置する正堂の前に建てられた礼拝のためのお堂)で、この部分が無かった時代には、堂内の仏像の姿が外からも拝むことができたという。

    特別拝観中の金堂には、中尊 釈迦如来立像、薬師如来立像、文殊菩薩立像、十二神将立像が安置されていた(撮影不可)。


    室生寺には平安時代の仏像が多数所蔵されており、特に金堂には国宝の釈迦如来立像や十一面観音菩薩立像が安置されている。時々、特別公開されており、これらの仏像を目にすることができる。仏像の美しさと歴史的価値が多くの参拝者を魅了する。


    弥勒堂【みろくどう】は、金堂【こんどう】の前庭左手(西側)に位置する三間四方のお堂である。僧・修圓が興福寺に創設した伝法院を室生寺に移設したと伝えられている。

    鎌倉時代の「宀一山図」【べんいちさんず】には「伝法院」と堂名が記されており、元は南向きであったのを室町時代に東向きに改修され、江戸時代初期にも改造されているという。

    内部の四本柱の中に須弥壇【しゅみだん】を据え、厨子に収められた弥勒菩薩像を安置している。


    本堂(灌頂堂)は、金堂からさらに石段を登ったところに位置する。この本堂は真言密教で最も大切な法儀である灌頂【かんじょう】を修するためのお堂で、寺院の中心である。

    鎌倉時代後期の延慶元年(1308年)の建立と伝えられ、五間四方入母屋造りの大きな堂である。国宝に指定されている。和様【わよう】と呼ばれる従来からの寺院建築様式と大仏様【だいぶつよう】と呼ばれる寺院建築様式の折衷建築様式を示していると言われているが、私にはその違いが分からない。

    本堂の内陣中央の厨子には如意輪観音坐像が安置されている。この如意輪観音坐像は、平安時代の作と伝えられ、重要文化財に指定されている。

    如意輪観音坐像の両脇には両界曼荼羅(金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅)が配置されている。


    国宝・五重塔

    ──山の緑に映える気品ある姿

    室生寺の象徴ともいえる国宝・五重塔は、本堂の西側、奥之院への参道を兼ねる急な石段の最上段の広場に建っている。高さは約16メートルと小ぶりだが、その気品ある姿は、山の緑に美しく映える。

    五重塔の朱色は、 周囲の木々の緑と調和し、まるで自然の中に溶け込むような佇まいを見せている。 塔の前に立つと、 長い年月を経た信仰の深さが静かに伝わってくる。

    この五重塔は、平安時代初期の延暦19年(800年)頃に造られたもので、法隆寺の五重塔に次ぐ古塔であるという。

    この五重塔の高さは16m、一層目の一辺が2.5mほどで、屋外に立つ五重塔としては国内最小であるらしい。檜皮葺【ひわだぶき】の屋根が樹林に包まれて格別の風情を醸し出している。この五重塔は国宝にも指定されている。

    平成10年(1998年)の台風によって境内の杉が倒れた影響で損壊したが、現在は見事に修復されている。この五重塔は、 室生寺の象徴であると同時に、 女人高野としての優しさと気品を体現しているように感じられる。

    私は、この五重塔が好きで、修復されて本当に良かったと思っている。その一方で、以前の年季の入った風情の五重塔が懐かしい。


    奥の院への道

    ──山の気配にふれる静かな時間

    五重塔のさらに奥には「奥の院」があり、720段の石段を登った先に御影堂が建っている。ここに真言宗の開祖である弘法大師・空海が祀られており、参拝者にとっては特別な場所となっている。周囲の空気が他とは異なっているように感じるのは決して私だけではあるまい。

    五重塔の左脇を通りすぎた先には、 奥の院へと続く山道がある。 石段は急で、 山の気配が濃くなるにつれて、 歩くほどに心が静かに整っていく。奥の院への参道は急な石段が長く続いて険しいが、 歩き終えたときの清々しさは格別である。


    奥の院御影堂

    奥の院には静かな祈りの空間が広がっている。 山の風、木々のざわめき、 湿った空気── それらが重なり合い、この地が古くから信仰の場として守られてきた理由が そっと伝わってくる。

    奥の院には弘法大師・空海像を祀る御影堂【みえどう】(大師堂ともいう)がある。御影堂は、板葺き二段屋根の宝形造りで、屋根の頂には露盤宝珠が据えられている。

    この御影堂は、各地にある大師堂の中でも最古のお堂の一つであると言われている。

    御影堂の隣の絶壁の前には舞台が組まれ、その上に常燈堂(位牌堂)が建っている。御影堂を拝むための礼堂であったらしい。

    弘法大師・空海は、承和2年(835年)3月21日に入定【にゅうじょう】されているが、室生寺では毎年4月21日(旧暦の3月21日)に、法会『正御影供』【しょうみえく】を執り行っているという。


    歩き終えて感じる余韻

    ──室生寺が心に残すもの

    室生寺を歩き終えるころ、 五重塔の気品と、 女人高野としての優しさが 心の中に静かに残っていた。伽藍の佇まい、山の風、 奥の院への道── それらがひとつの物語として重なり、 深い余韻を生む。室生寺は、ただの名刹ではない。 自然と信仰が重なり合い、 訪れる者の心をそっと整えてくれる特別な場所だ。また季節を変えて、 この静かな山里を歩きたくなる── そんな思いを抱きながら、室生寺を後にした。


    室生寺の紅葉

    室生寺は、シャクナゲ(石楠花)が美しいことで有名であるが、境内に植栽されているカエデの紅葉も美しい。紅葉の見頃は例年11月中旬から12月上旬までであり、特に太鼓橋から金堂までの参道が美しい。そんな秋の紅葉に染まる室生寺境内の写真を撮ってみた。

    室生寺の紅葉は、奈良の山里に秋の深まりを告げる静かな風景である。境内を包むモミジやカエデが色づき始めると、伽藍の素朴な佇まいと山の緑が、赤・橙・黄の鮮やかな色彩にそっと染め上げられていく。

    春のシャクナゲが有名な室生寺だが、秋の紅葉はそれに勝るとも劣らない美しさを持ち、静けさの中で色づく風景は、訪れる者の心をそっと整えてくれる。

    室生寺の紅葉は、華やかさよりも「静かな美しさ」が際立つ。山里の空気、伽藍の佇まい、五重塔の気品──それらが紅葉と重なり合い、秋だけの特別な時間を生み出している。

    紅葉の季節には静かな彩りに包まれるが、石段に落ちたモミジが風に舞い、木々のざわめきとともに、秋の深まりを肌で感じる。

    紅葉の見頃は短く、最近は例年どおりに見頃を迎えないことが多い。だからこそ、紅葉の見頃に参拝できたことが率直に嬉しい。

    室生寺は、山と渓谷に囲まれた自然豊かな場所に位置しており、四季折々の美しい風景が楽しめる。特に春の桜やシャクナゲ、秋の紅葉は絶景である。

    室生寺の参道には「よもぎ餅」を売る店が立ち並んでいる。名物の「草もち」は、参拝者にも人気が高い。私も参拝の折には、食させて貰っている。お茶はサービスとして提供されるので嬉しい。

    室生寺は、その歴史、素晴らしい建築、貴重な仏像、美しい自然など、多くの魅力に溢れている場所である。是非、一度は訪れてみて頂きたい。

    名 称 室生寺
    所在地奈良県宇陀市室生78
    駐車場あり(有料:600円)、
    室生寺前駐車場(さかや):500円
    Link女人高野 室生寺

    あとがき

    室生寺は、 女人高野として長い年月を歩んできた静かな名刹であり、五重塔の気品と山里の静けさが 訪れる者の心をゆっくりと整えてくれる。伽藍の佇まい、山の風、 奥の院への道── そのすべてが、 室生寺が育んできた信仰の深さを静かに物語っている。

    また季節を変えて、室生寺を歩き、 五重塔の前に立ちたくなる── そんな余韻を残す旅となった。


    関連記事

    最強パワースポットの龍穴「室生龍穴神社」
    一言の願いを叶える神様「葛城一言主神社」
    千体石仏と彼岸花で有名「九品寺」
    金剛山の麓に仏頭の発掘伝説が残る「佛頭山極楽寺」
    歴史と共に歩む、癒しの寺「高天寺橋本院」
    四季折々の花が美しい奈良大和路の花の寺「長谷寺」
    「山の辺の道」道中にある花と文化財の寺「長岳寺」
    【低山登山】曾爾高原から倶留尊山、そして曾爾三山
    日本武尊を祀る和泉国一宮「大鳥大社」
    甲賀の総社「油日神社」
    忍びの里に坐ます丈六仏の「大池寺」と「蓬莱庭園」
    日本最大の十一面観音坐像と甲賀三大仏の「櫟野寺」
    日本最大級の丈六阿弥陀如来坐像で有名な「十楽寺」
    大原ぎおん(祇園祭)で知られる「大鳥神社」
    厄除の神となった坂上田村麻呂を祀る「田村神社」
    【信楽の里】信楽焼、その伝統と魅力を発信する施設
    雲仙温泉のシンボル的存在「温泉神社」
    神仏混淆の信仰形態を残す「高塚愛宕地蔵尊」
    学問成就と厄除けの天神様「太宰府天満宮」
    毎年二度、光の道が観れる「宮地嶽神社」
    宮地嶽神社の奥之宮八社詣りで大願成就を叶えてみよう!