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  • 周防大島を歩く──海と歴史が寄り添う瀬戸内の旅

    目次
    はじめに
    周防大島へ渡る
    周防大島の地理と歴史
    周防大島の海岸線を歩く
    真宮島
    立岩
    島の古刹を訪ねる
    帯石山 普門寺・帯石
    島の文化・歴史に触れる
    日本ハワイ移民資料館
    道の駅 サザンセトとうわ
    あとがき



    はじめに

    私は柑橘系の果物が好物で、なかでも温州みかんが昔から大好きである。温州みかんは、いわゆる「一般的なミカン」として日本の食卓に広く親しまれている。その産地といえば、和歌山県の「有田みかん」、愛媛県、静岡県がすぐに思い浮かぶ。九州を旅するようになってからは、熊本県、長崎県、佐賀県でも多く栽培されていることを知った。

    しかし、山口県の周防大島【すおうおおしま】を訪れた際、この島が山口県のミカン生産量の約八割を占める一大産地であることを初めて知った。「山口大島みかん」というブランドで出荷されているという。島を歩くと、潮風に混じってふわりと柑橘の香りが漂い、ミカンの島であることを自然と実感する。訪れた時期がちょうど収穫期だったこともあり、地元の方から新鮮なミカンをたくさん購入できたのは嬉しい思い出である。

    瀬戸内海に静かに浮かぶ周防大島は、古くから「瀬戸内のハワイ」と呼ばれるほど温暖な気候に恵まれ、海と山が寄り添う穏やかな風景が広がっている。島を包む潮風はどこか柔らかく、海岸線を歩けば、瀬戸内らしい多島美がゆっくりと視界に広がっていく。

    島には、開拓の歴史や海の文化が静かに息づいている。明治期にハワイへ渡った移民の記憶、瀬戸内の海を行き交った船の物語、そして島の人々が守り続けてきた暮らし──それらが風景の奥に重なり、歩くほどに深い時間が感じられる。今回の旅は、ただ名所を巡るだけではなく、海と歴史が寄り添う島の静けさを味わう時間となった。

    本稿では、そんな魅力に満ちた周防大島について、旅の記憶とともに学んだことを記していきたいと思う。


    周防大島へ渡る

    ──瀬戸内の海に抱かれた島へ

    本州から周防大島へ向かう道のりは、大島大橋を渡る瞬間から始まる。橋の上から眺める瀬戸内海は穏やかで、島々が連なる多島美がゆっくりと広がっていく。潮風が頬を撫で、どこか懐かしい気持ちが胸に宿る。周防大島は温暖な気候に恵まれ、古くから柑橘の栽培が盛んで「ミカンの島」と呼ばれてきた。海と山が近く、島全体が柔らかな光に包まれている。

    周防大島の大畠瀬戸と本州の柳井市とは大島大橋(国道437号)で結ばれている。島内の主な道路は、島の北側海岸線に沿って東端の伊保田から本州への大島大橋までを結ぶ国道437号である。主要地方道は、県道4号大島環状線と県道60号橘東和線、県道103号大島橘線、県道108号地家室白木港線、県道351号油田港線、県道362号白木漁港佐連線が島内を通っている。

    また島の山間部中腹を大島オレンジロード(大島広域農道)が走っている。周防大島は、自然豊かで、美しい景色を眺めながらのドライブを楽しむには最高の場所の一つである。


    周防大島の地理と歴史

    周防大島は山口県東南部に位置し、瀬戸内海に浮かぶ島々の中で三番目に大きな面積を持つ島である。一般には「周防大島」と呼ばれているが、国土地理院が定める正式名称は「屋代島」【やしろじま】であり、周辺の島々とともに周防大島諸島を構成している。

    屋代島という名称は地図上の正式名として残っているものの、歴史的には周防国(現在の山口県東部)の大島であったことから「周防大島」と呼ばれることが多く、現在もこの呼称が広く定着している。島全体と周辺の島々を合わせて「山口県大島郡周防大島町」を形成し、瀬戸内海の中でも独自の文化と歴史を育んできた。

    明治時代の周防大島には約7万人もの人々が暮らしていた。しかし、当時の日本は食糧不足や経済的困窮が深刻であり、島民の中には海外へ移民として渡航する者も多かった。日本政府が斡旋したハワイ王国への官約移民(総数約2万9000人)のうち、屋代島出身者は約13.5%(3913人)を占めていたという。この数字は、島がいかに移民と深い関わりを持っていたかを物語っている。

    こうした縁から、1963年にはアメリカ合衆国ハワイ州カウアイ島と姉妹縁組が結ばれた。周防大島が「瀬戸内のハワイ」と呼ばれる理由の一つは、この歴史的背景にある。ハワイでの出稼ぎを終えて帰国した人々が、現地の文化や風習を島に持ち帰り、生活の中に自然と溶け込ませたと伝わる。また、周防大島は瀬戸内海の中でも特に温暖な気候に恵まれており、冬でも過ごしやすいことから、この愛称がより広く使われるようになった。

    島内に「日本ハワイ移民資料館」が設置されているのも、こうした歴史を後世に伝えるためである。周防大島を歩くと、海と山の穏やかな風景の奥に、移民の記憶や海運の文化、島の人々が守り続けてきた暮らしが静かに息づいていることを感じられる。


    周防大島の海岸線を歩く

    ──瀬戸内の多島美と静けさ

    片添ヶ浜をはじめ、周防大島の海岸線はどこも静かで、瀬戸内らしい穏やかな波が寄せては返す。海の青と山の緑が重なり合い、光の具合によって景色がゆっくりと変わっていく。海辺を歩くと、潮風に混じって柑橘の香りがふわりと漂い、島ならではの空気が感じられる。観光地の喧騒とは無縁で、ただ海と風の音だけが耳に届く時間が続く。


    真宮島

    真宮島【しんぐうじま】は、道の駅サザンセトとうわから約100mの沖合いに浮かぶ無人島である。真宮島は、干潮時にだけ現れる「海の道」で本島とつながる不思議な地形を持つ。潮の満ち引きによって姿を変えるこの道は、まるで海がそっと島を抱き寄せたり離したりしているかのようで、瀬戸内の穏やかな海の表情を静かに映し出している。

    島へ渡る道は、干潮の時間帯になると砂浜がゆっくりと姿を現し、歩いて渡ることができる。潮風がやわらかく吹き、海面に光が揺れる中を歩くと、どこか時の流れがゆっくりになる。満潮時には道が海に沈み、島は再び静かに海に浮かぶ姿へと戻る。この変化を眺めているだけでも、瀬戸内の海が持つ優しさと力強さを感じられる。

    真宮島(干潮前)

    干潮時刻の前後3時間だけ現れる海の中道を歩いて本島(屋代島)から真宮島へ渡ることができる。その道は「エンジェルロード」と呼ばれている。

    真宮島(干潮が始まる)

    エメラルドグリーンの海に現れる、真宮島へと伸びる一本の道は自然の神秘が作り出すゆるやかなカーブで美しい。

    真宮島(干潮時) 真宮島へと伸びる一本の道「エンジェルロード」

    真宮島は観光地として大きく開発されているわけではなく、島全体が静けさに包まれている。島に渡ると、波の音と風の音だけが耳に届き、瀬戸内らしい穏やかな時間が流れる。街の賑わいから少し離れ、海と向き合うひとときを過ごすには最適の場所である。

    干潮と満潮がつくる「海の道」は、自然が描く美しい瞬間であり、訪れるたびに違った表情を見せてくれる。真宮島は、周防大島の旅の中でそっと心に残る、小さな静けさの名所である。

    名 称真宮島
    所在地周防大島町西方西方 
    道の駅サザンセトとうわ裏
    名 称道の駅サザンセトとうわ
    所在地周防大島町西方1958-77
    駐車場あり(無料)
    Link真宮島/山口県観光

    立岩

    立岩【たちいわ】は、県道4号沿いの海岸にそそり立つ高さ約40mの安山岩でできた奇岩ある。馬頭観音【ばとうかんのん】が祀られている。立岩は、周防大島の自然が持つ「素朴な美しさ」を象徴する景勝地であり、島の静けさを深く味わえる小さな名所である。海に向かって真っ直ぐ立つその姿は、まるで島を静かに見守る守り岩のようで、瀬戸内の穏やかな海と空の中に凛とした存在感を放っている。

    周防大島立岩

    周防大島は海岸線の変化が豊かで、場所ごとにまったく異なる表情を見せるが、立岩はその中でも特に「静かな迫力」を感じられる名所である。観光地として大きく整備されているわけではなく、自然のままの姿が残されているため、訪れる人は海と岩と風だけがつくる素朴な風景をゆっくりと味わうことができる。

    周防大島立岩

    海岸は立岩海水浴場として整備されている。岩の周辺には波が静かに寄せては返し、潮風がやわらかく吹き抜ける。晴れた日には岩肌が陽光を受けてゆっくりと色を変え、夕暮れ時には海と空のグラデーションの中に黒い影となって浮かび上がる。立岩の前に立つと、瀬戸内の海が持つ静けさと力強さが同時に感じられ、どこか心が整っていく。立岩の周辺には小さな入り江や岩場が続き、海岸散策にも適している。波の音を聞きながら歩くと、瀬戸内の柔らかな光が岩肌に反射し、静かな時間が流れていく。周防大島の旅の中で、海と向き合うひとときを過ごすには最適の場所である。

    名称立岩
    所在地周防大島町東安下庄鹿家
    Link周防大島町 立岩

    島の古刹に訪ねる

    帯石山の中腹に佇む普門寺は、周防大島の自然と歴史が静かに重なり合う古刹である。境内は深い緑に包まれ、山の気配とともに静けさがゆっくりと広がっていく。寺の周辺には古くから「帯石」と呼ばれる巨石があり、周防大島の信仰と伝承を象徴する場所として知られている。

    普門寺は真言宗の寺院で、山の斜面に沿って建つ伽藍はどこか素朴でありながら、長い年月を経た落ち着きを感じさせる。境内に足を踏み入れると、木々の間を抜ける風がやわらかく響き、山寺ならではの静かな空気が心を整えてくれる。周防大島の海辺の風景とは対照的に、ここでは「山の静けさ」が旅人を迎えてくれる。

    本堂には観音信仰が息づき、地域の人々が長く守り続けてきた祈りの場として大切にされている。寺の周辺には古い石段や小道が残り、歩くほどに山寺の歴史がゆっくりと立ち上がってくる。


    帯石山 普門寺帯石

    帯石山 普門寺は、弘法大師・空海による開基であると伝わる。弘仁二年(811年)、弘法大師は千手観音、脇士として不動明王毘沙門天の三尊を自らの手で彫刻し、観音堂に安置されたという(この三尊は、戦火に遭い現存しない)。

    奇石「帯石」には「南無阿弥陀仏」の名号を投筆し、その下に子安の地蔵尊を自ら刻って安置したという。

    この名号は、金色に輝き、昼夜を問わず遠く伊予路からも見え、船人達の指針となって礼拝されたという。摩滅を恐れた石工が名号を彫ったので、その光は消えてしまったという伝説が残る。

    帯石山 普門寺帯石(妻がiPhoneで撮影)

    弘法大師は、この岩に帯の形を刻まれ、「懐胎の者がこの岩の図を帯にして信心なる時は、その産安し。」と後世の女人安産を祈願されたという。この大師入魂の因縁により、かつては岩の苔をお守りとした。今日でも安産のお守り、安産岩田帯祈願の観音様として信仰され続けている。

    このように「帯石」は、周防大島の伝承に深く関わる巨石であり、古くから安産祈願や子どもの成長を願う信仰の対象とされてきた。巨石の前に立つと、山の静けさと岩の存在感が重なり合い、どこか神秘的な空気が漂う。周防大島の海辺の景勝地とは異なる「山の祈りの風景」がここにはある。島の人々が代々守り続けてきた信仰の痕跡が、静かに息づいている。

    帯石山 普門寺と帯石は、周防大島の「山の顔」を象徴する場所である。海の風景が印象的な島だが、山に入るとまた違った静けさが広がり、旅の時間に深みを与えてくれる。海と山、自然と祈り──それらが重なり合う周防大島の魅力を感じられる名所である。

    名称帯石山 普門寺帯石
    所在地大島郡周防大島町日前
    Link帯石山 帯石観音(普門寺)

    島の文化・歴史に触れる

    周防大島は、明治期に多くの島民がハワイへ移民として渡った歴史を持つ。島にはその記憶を伝える資料館や記念碑が残され、当時の人々の暮らしや思いが静かに語られている。また、島の各地には古い港町の面影が残り、瀬戸内の海運文化を感じさせる。柑橘畑が広がる丘を歩けば、島の人々が守り続けてきた暮らしの温かさが伝わってくる。


    日本ハワイ移民資料館

    日本ハワイ移民資料館は、周防大島の歴史の中でも特に重要な「ハワイ移民」の記憶を伝える施設である。資料館には、当時の移民船の写真、渡航に必要だった書類、ハワイでの生活の様子を伝える資料、家族の手紙などが丁寧に展示されている。ひとつひとつの資料には、海を渡った人々の不安や希望、そして新天地で懸命に生きた日々が静かに刻まれている。展示を見ていると、移民が単なる歴史上の出来事ではなく、島の人々の人生そのものだったことが深く伝わってくる。

    館内には、ハワイでの労働環境や生活文化、移民が持ち帰った風習なども紹介されており、周防大島が「瀬戸内のハワイ」と呼ばれる背景がよく理解できる。ハワイから帰国した人々が島に持ち帰った文化は、現在も祭りや生活の中に静かに息づいている。

    このように日本ハワイ移民資料館では、周防大島町からハワイへ移住した移民たちの歴史や彼らの労働の様子、移民先での生活などが展示された資料や写真などを通して知ることができる。

    日本ハワイ移民資料館は、周防大島の歴史を深く理解するための重要な場所であり、島の旅に静かな厚みを与えてくれる。海と歴史が寄り添う周防大島の魅力を感じるうえで、ぜひ訪れておきたい名所である。

    名 称日本ハワイ移民資料館
    所在地周防大島町西屋代上片山2144
    駐車場あり(無料)
    Link日本ハワイ移民資料館

    道の駅 サザンセトとうわ

    周防大島でお土産や特産品を購入するなら、おすすめは道の駅 サザンセトとうわに立ち寄ることである。周防大島で栽培されている新鮮な野菜や果物などが販売されている。

    周防大島は「みかんの島」といわれているので、ミカンも勿論、販売されている他、ミカンの加工品もある。周防大島産のミカンを使ったソフトクリームやスイーツなどもある。

    道の駅 サザンセトとうわへは、大島大橋を渡り、左折して、国道437号を進むと到着する。

    名 称道の駅サザンセトとうわ
    所在地周防大島町西方1958-77
    駐車場あり(無料)
    Link道の駅サザンセトとうわ

    あとがき

    周防大島は、訪れる前に想像していた以上に広く、見どころも多い島であることを実感した。海岸線の穏やかな風景だけでなく、山の祈りの場、移民の記憶を伝える資料館、干潮時にだけ現れる海の道──島のあちこちに、静かな魅力が点在している。周防大島の風景は、ただ美しいだけではなく、どこか心の奥に触れる静けさを持っている。海に寄り添う島の暮らし、移民の記憶、柑橘の香り、穏やかな海岸線──それらが重なり合い、旅の時間をゆっくりと深めてくれる。

    瀬戸内の柔らかな光に包まれた周防大島は、海と歴史が静かに寄り添う島である。観光地としての賑わいよりも、島がもつ“静かな時間”が心に残る。今回の旅で出会った景色は、これからの日々に穏やかな力を与えてくれるだろう。

    私たちシニアの旅は、「どこへ行くか」よりも「どう感じるか」が大切になっていく。周防大島を歩きながら、そのことを改めて思い出した。日帰りではどうしても駆け足になってしまうため、次回は少なくとも一泊は島内で過ごし、ゆっくりと風景と向き合いたいと思う。そのときには、また違った光と風が迎えてくれるはずだ。周防大島は、何度訪れても新しい静けさを教えてくれる島である。




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