カテゴリー: スパツーリズム

  • 心身を整える旅のすすめ──ウェルネスツーリズムが変える旅の目的とスタイル

    (2025年11月16日更新)

    目次
    はじめに
    ウェルネスツーリズムとは
    今、ウェルネスツーリズムが注目される理由
    どんな旅がウェルネスツーリズムに該当?
    スパツーリズムとの違い
    ヘルスツーリズムとの違い
    現代のウェルネスツーリズム
    日本のウェルネスツーリズム
    国立/国定公園の役割
    With/Afterコロナ時代の旅
    ウェルネスツーリズム市場
    あとがき

    はじめに

    私事で恐縮だが、最近とみに「旅に癒しを求めたい」「心も体もいったんリセットしたい」と感じることが増えてきました。 年齢を重ねるほど、旅に求めるものが“刺激”から“回復”へと静かに変わっていくのを実感しています。

    そんな思いに寄り添ってくれるのが、いま世界的に注目されている ウェルネスツーリズムです。単なる観光ではなく、健康・癒し・心身の再生を目的とした旅のスタイルで、欧米を中心に広がり、日本でも少しずつ耳にする機会が増えてきました。

    ウェルネスツーリズムは、スパや温泉、自然体験、瞑想、食養生、フィットネスなど、多様なアプローチを通じて「よりよく生きる」ことを支える旅だと言われています。 確かに、私自身も最近、こうした旅の価値をしみじみと感じるようになりました。


    ウェルネスツーリズムとは

    ウェルネスツーリズム(Wellness Tourism)とは、Wellness(心身の健康・よりよく生きる状態) と Tourism(旅) を組み合わせた概念です。

    ここでいう Wellness は、単なる病気の有無ではなく、心と体が生き生きと調和している状態を指します。 その「ウェルネス」を目的に旅をすることから、ウェルネスツーリズムとは 心身の健康を高め、回復し、維持するための旅 と定義されます。

    具体的には、ヨガリトリート、温泉療養、森林セラピー、瞑想体験、地元食材を活かしたヘルシーな食事など、心と体を“整える”ことに焦点を当てた旅 が中心となります。 観光そのものを楽しむだけでなく、「よりよく生きるための時間」を旅の中に組み込む点が特徴です。


    今、ウェルネスツーリズムが注目される理由

    ストレス社会の反動

    忙しすぎる日常から一歩離れ、心と体を落ち着かせる時間を求める人が増えています。「自分を見つめ直す旅」へのニーズが高まっていることが、ウェルネスツーリズムの追い風になっています。

    健康志向の高まり

    食事や運動だけでなく、旅そのものを健康づくりの一環として捉える人が増加しています。 心身のバランスを整える体験を旅に組み込むことが、自然な選択肢になりつつあります。

    サステナブルな価値観の広がり

    自然と調和しながら過ごす旅は、地球環境にも自分自身にも優しいです。 持続可能なライフスタイルを志向する人々にとって、ウェルネスツーリズムは理想的な旅の形となっています。


    どんな旅がウェルネスツーリズムに該当?

    森の中での瞑想リトリート

    静かな自然環境の中で呼吸を整え、心をクリアにしていく時間。 森林浴やマインドフルネスは、心身の回復効果が高いとされ、代表的なウェルネス体験のひとつです。

    温泉地でのデトックスステイ

    地元食材を使った薬膳料理や、湯治文化に根ざした温泉療養で体をゆっくりとリセットする滞在。 日本の温泉は、世界的にもウェルネスツーリズムの重要な資源と位置づけられています。

    海辺でのヨガ&サーフ体験

    波のリズムに身を委ねながら、ヨガや軽いアクティビティで心身を解放する時間。 自然のリズムと同調する体験は、精神的なリフレッシュ効果が高いとされます。

    農村でのウェルネス体験

    収穫や料理を通して、食と命のつながりを実感する滞在。 農村地域でのウェルビーイング体験は、近年「アグリウェルネス」として注目されています。


    スパツーリズムとの違い

    ウェルネスツーリズムという言葉と並んで、スパツーリズム(Spa Tourism) という用語もよく耳にします。 両者はしばしば同義語のように扱われますが、厳密には次のような関係にあります。

    まず、ウェルネスツーリズムの中にスパツーリズムが含まれます。 Global Wellness Institute の統計によれば、世界で行われているウェルネスツーリズムの約半数(47%)がスパ関連の旅行であり、両者が重なり合って見えるのはこのためです。 したがって、実態としては非常に近い概念ですが、ウェルネスの方がより広い上位概念と理解するのが正確です。

    スパ(SPA)は一般に、「心・身体・精神の再生を促すための専門的サービスを提供し、心身の調和を目指す施設」と定義されます。そのため、スパツーリズムは「スパ施設を中心とした健康・美容・癒しの旅」を指します。

    スパツーリズムの起源は古く、紀元前の古代ローマにまで遡ります。戦士たちが傷や病を癒すために温泉へ赴いたことや、郊外に広がった公衆浴場文化がその源流とされます。 中世には温泉の医学的効果が研究され、18世紀には王侯貴族が滞在する高級保養地として発展しました。

    日本でも温泉湯治の歴史は長いです。『枕草子』にも温泉の記述が見られ、古くから貴族が病気治療や療養のために湯治を行っていたことが分かります。 江戸時代に入ると、参詣や名所巡りと湯治が結びつき、娯楽を兼ねた旅として庶民にも広がっていきました。

    このように、スパツーリズムは国内外で長い歴史を持ちます。 現代では、旅先でのスパ体験に加え、ヨガ、フィットネス、レクリエーションなどを通じて心身を整え、より健康に、より美しく、より豊かな人生を送るための“明日への活力を養う旅” へと発展してきたと言えます。


    ヘルスツーリズムとの違い

    ウェルネスツーリズムとよく似た概念に、ヘルスツーリズム(Health Tourism) があります。 一見すると同じように見えますが、両者には明確な違いがあります。

    ヘルスツーリズムとは、旅行という非日常の体験を通じて、健康の維持・増進・回復・疾病予防を図る取り組みを指します。 旅をきっかけに、旅行後も健康的な行動を継続し、より豊かな日常生活につなげることを目的としています。

    NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構は、ヘルスツーリズムを次のように定義しています。「すべての人々に対し、科学的根拠(EBH: Evidence Based Health)に基づく健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する旅」 この定義からも分かるように、ヘルスツーリズムは医療・健康分野の専門家が関与するケースが多く、健康診断や指導、治療行為を含むこともあります(メディカルツーリズムに近い領域)。

    そのため、従来のヘルスツーリズムは「旅の楽しさ」よりも、医療的な効果や健康指導が中心となり、参加者から見ると旅の魅力がやや見えにくい側面があったと言えます。

    一方、ウェルネスツーリズムは、診断や治療を一切行わないません。 目的はあくまで、

    • 病気の予防
    • 心身の調和
    • 生きがいの向上
    • 生活の質(QOL)の向上

    といった“よりよく生きるための体験”にあります。つまり、

    • ヘルスツーリズム:
      • 医療・健康指導を含む広い概念(治療・回復も対象)
    • ウェルネスツーリズム:
      • その中の「予防・心身の調和・QOL向上」に特化した領域

    という関係になります。ウェルネスツーリズムの構成要素は、休暇中のヘルスケア、運動、リラクゼーション、美容、食事療法などであり、温泉、スパ、ヨガ、森林療法などが代表例です。 対して、高度医療機器による診断や治療はウェルネスツーリズムには含まれません


    現代のウェルネスツーリズム

    現代のウェルネスツーリズムは、かつてのような医療色の強い「治療中心」の旅ではなく、 健康増進・リラクゼーション・食養生・運動・美容 といった幅広い要素を組み合わせた旅として定義されるようになりました(N. Wolfgang ら、2004)。

    現在「ウェルネスツーリズム」を掲げて実施されている旅行プランは、食、運動、保養、温泉、スパ(SPA)、スポーツ、レクリエーション、文化体験など多岐にわたります。 心身の健康に寄与すると考えられる体験であれば、ほとんどがウェルネスツーリズムの範囲に含まれると言ってよいほどです。

    一方、琉球大学の荒川教授らは、日本独自のウェルネスツーリズムモデルを提唱しています。 四季の情緒、豊かな自然、世界有数の温泉資源、海洋資源、和食文化、精神風土、伝統文化、そして世界一の長寿という統計的事実と知恵──こうした日本固有の地域資源を「ウェルネス資源」として再構成し、心身のバランス調整、新しい発見、自己開発、そして“原点回帰”を促す旅 として提供するという考え方です(出典:ウィキペディア)。

    従来の旅行では、つい食べ過ぎたり飲みすぎたりして、日頃の生活リズムが乱れがちでした。 しかし今は、旅そのものを健康的に楽しむ「ウェルネスツーリズム」へと転換する時代が訪れています。

    これからの旅では、日常よりも栄養バランスの良い朝食をとったり、観光地を歩いて巡ったりすることで、健康的な生活習慣を整え、日々の暮らしにウェルネスを取り入れるきっかけにしたいものです。


    日本のウェルネスツーリズム

    日本は世界有数の温泉資源を持ち、古来より温泉を身体的・精神的な癒しの場として活用してきた歴史があります。海外では温泉を “Hot Spring” や “Spa” と呼びますが、日本の温泉文化は独自性が高く、いまや “ONSEN” として国際的に認知されています。

    この日本固有の温泉文化は、海外のスパとは異なる魅力を持ち、ウェルネスツーリズムにおける大きな強みとなります。 さらに、日本は温泉医学の研究でも世界をリードしており、温泉はまさに日本型ウェルネスツーリズムの中心資源になり得る存在です。

    また、日本には四季折々の風景、伝統文化、和食、海洋資源、精神文化、そして世界一の長寿という統計的事実があります。 琉球大学の荒川教授らは、これらの地域資源を「ウェルネス資源」として再構成し、心身のバランス調整、新たな気づき、自己開発、そして“原点回帰”を促す旅 として提供する日本独自のウェルネスツーリズムモデルを提唱しています(出典:ウィキペディア)。

    観光庁も近年、これまで十分に活用されてこなかった観光資源を掘り起こす方針を掲げており、その中にはウェルネスツーリズムも含まれています。 欧米では行政支援のもと、高級スパや自然療法施設が整備され、ウェルネス旅行が生活に根づきつつありますが、日本ではまだ認知度が高いとは言えません。

    しかし、温泉、和食、自然、文化といった豊かな資源を持つ日本は、ウェルネスツーリズムに最も適した国のひとつであることは間違いありません。今後は、単に観光地を紹介するだけでなく、ウェルネスという視点から独自のサービスを開発し、旅行者に新しい価値を提供していくことが求められています。


    国立/国定公園の役割

    (2023年1月22日追記)

    温泉地に加えて、国立公園や国定公園もウェルネスツーリズムの重要な対象になると私は考えています。 日本の自然公園には手つかずの大自然が残されており、そこに身を置くだけで「転地効果(環境の変化による心身のリフレッシュ)」が得られます。

    日本の国立公園は、「国を代表するに足る傑出した自然の風景地で、自然公園法に基づき環境大臣が指定し、国が直接管理する公園」 と定義されています。現在、国立公園は 34カ所

    一方、国定公園は、「国立公園に準ずる自然の風景地で、環境大臣が指定し、所在する都道府県が管理する公園」 とされ、現在 58カ所 が指定されています。

    両者はどちらも自然公園法に基づき環境大臣が指定する点では同じで、管理主体が国か都道府県かという違いがあるだけです。 また、指定基準の差は明確ではなく、特段の変化がなくても国定公園が国立公園へ昇格する例も珍しくありません。

    したがって、国立公園・国定公園のいずれも、日本を代表する自然の宝庫であることに変わりはありません。 両者を合わせると、全国には 92カ所 の自然公園が存在し、ウェルネスツーリズムの観点から見ても非常に魅力的な資源と言えます。

    全国の国立公園・国定公園一覧表」を見ると、北海道が特に多い印象を受けますが、他の地域にも自然公園は広く点在しています。 住まいの近くの国立公園や国定公園に足を運び、大自然に触れるだけでもウェルネスツーリズムの理念に合致していると感じます。

    国立公園・国定公園の魅力」はこちらから


    With/Afterコロナ時代の旅

    新型コロナウイルスの流行を経験したことで、私たちはあらためて 免疫力や基礎体力の大切さを実感するようになりました。その意味で、心身の健康を整えるウェルネスツーリズムの価値は、これまで以上に高まっていくと考えられます。 非日常の環境に身を置くことで得られる「転地効果」も、心身のリフレッシュに大きく寄与するとされています。

    With/After コロナ時代の観光は、従来のように「観光地を巡るだけの旅」から大きく変化していくことでしょう。 密を避け、開放的な自然の中で過ごし、健康的な体験を求める旅行者が確実に増えています。 実際、国内外の観光トレンドでも、自然・健康・癒し をキーワードとする旅が注目されています。

    ウェルネス関連のコンテンツ──森林浴、温泉、ヨガ、瞑想、ヘルシーな食事、自然散策など──は、まさにこの時代のニーズに合致しています。 With/After コロナの旅は、単なる観光ではなく、心身を整え、生活の質を高めるための旅へと進化していくことでしょう。


    ウェルネスツーリズムの市場

    世界のウェルネスツーリズム市場は、2022年から2026年の間に3,275億6,000万米ドル拡大し、年平均成長率(CAGR)は7.55% と予測されています(出典:市場調査レポート: ウェルネスツーリズムの世界市場:2022年~2026年)。 健康志向の高まりやコロナ後の価値観の変化を背景に、今後も堅調な成長が見込まれています。

    ウェルネスツーリズムを利用する旅行者は、一般的な観光客に比べて旅行支出が多い傾向があります。そのため、経済波及効果も大きく、旅行・観光業界だけでなく、関連産業にも広く恩恵が及ぶと考えられます。

    では、具体的にどのような施設や業種がウェルネスツーリズムの担い手となるのか。 調べてみると、ウェルネスアクティビティを提供する分野は多岐にわたり、以下のように整理できます。

    ウェルネスツーリズムを支える主な業種・施設

    温泉旅館・ホテル

    • 宿泊
    • 温泉(療養泉)
    • サウナ
    • マッサージ
    • 美容・エステ
    • 健康食の提供

    ヨガ・フィットネス関連施設

    • ヨガ
    • フィットネス
    • ボディワーク

    自然体験・アウトドア施設

    • キャンプ場
    • 自然体験プログラム
    • 森林浴/森林セラピー

    レストラン・食関連施設

    • 健康食・地産地消メニュー
    • 食養生・発酵食の提供

    寺院・宿坊

    • 瞑想
    • 禅体験
    • 精進料理
    • 宿泊

    自治体・観光協会

    • 地域資源を活かしたウェルネス観光の企画・推進

    旅行会社・代理店

    • ウェルネスプログラムを組み込んだ旅行商品の企画・販売

    旅行・ライフスタイルメディア

    • 旅行情報誌
    • ポータルサイト
    • 健康・美容・フィットネス系メディア

    あとがき

    これからの旅は、ただ移動し観光地を巡るだけではなく、「自分と向き合う時間をどう過ごすかがより大切になっていきます。 ウェルネスツーリズムは、旅を通して心と体を整え、生活の質を高めるための新しい選択肢です。

    日本でウェルネスツーリズムを広く浸透させるには、個々の企業が単独で努力するだけでは限界があります。 温泉、宿泊、食、自然体験、文化施設、自治体、旅行会社など、関連業界が連携し、ひとつの“ウェルネス体験パッケージ”として提供する仕組みが必要になるでしょう。

    従来の「観光地直行型」の旅行だけでなく、心身の回復や気づきを促す旅がもっと増えてよいと思います。世界の旅行需要を牽引しているのは富裕層やミレニアル世代と言われていますが、シニア世代にも、自分の価値観に合う“本物の体験”には惜しまず投資する人が多いはずです。これは観光庁や旅行業界の調査とも一致しており、決して特殊な傾向ではありません。

    もちろん、富裕層向けの高級ウェルネスリゾートも重要ですが、 シニア世代が無理なく参加できる、手頃で質の高いウェルネスツーリズムも同時に必要です。 健康づくりや心の安定は、所得に関係なくすべての人にとって大切なテーマだからです。

    ウェルネスツーリズムは、非日常の環境に身を置き、静かな自然の中で自分自身と向き合う「原点回帰」の機会を提供してくれます。 情報にあふれた現代社会で暮らす私たちにとって、周囲を気にせず心と体の声に耳を澄ませる時間は、何よりの癒しとなります。

    普段は質素に暮らすシニア世代にとっても、無理なく参加できるウェルネス志向の旅がもっと増えてほしいと思います。 そして、このサイトが、そんな旅のヒントを見つけるための“ウェルネスのポータル”になれたら──そんな思いを胸に、これからも情報を発信していきたいと思います。


    参考資料

    iWT (国際 ウェルネスツーリズム EXPO)|世界中の旅コンテンツが集結
    自然・地域・人との”つながり”をつくる旅が、豊かで輝く人生へと繋がる ~ 荒川教授インタビュー
    SPA/スパマネジメント論 | 国立大学法人琉球大学 ウェルネス研究分野
    ヘルスツーリズムとは|日本ヘルスツーリズム振興機構
    観光庁が提唱しているウェルネスツーリズムとは?日本でも事例はある?
    環境省_国立公園_国立公園一覧 (env.go.jp)
    国定公園一覧 | 国立公園に、行ってみよう! | 環境省 (env.go.jp)

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