◆ はじめに
和歌山県には、吉野熊野国立公園と瀬戸内海国立公園の二つの国立公園と、金剛生駒紀泉国定公園と高野龍神国定公園の二つの国定公園が設定されている。さらに、これら以外にも十二の県立自然公園が指定されており、県内には多様な自然景観と歴史文化が息づいている。
本稿で取り上げる 高野山町石道玉川峡県立自然公園 は、その名のとおり、高野参詣道の一つである町石道【ちょういしみち】と、渓谷美で知られる玉川峡【たまがわきょう】を中心に指定された自然公園である。
高野参詣道とは、弘法大師・空海が開いた真言密教の聖地・高野山へ徒歩で参拝するための古道の総称である。高野山へ通じる主要な七つの参詣道は「高野七口」と呼ばれ、 町石道・黒河道・京大坂道・小辺路・大峰道・有田・龍神道・相ノ浦道 がその代表である。これらの参詣道の一部は国の史跡に指定され、さらにユネスコ世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産にも含まれている。

一方、玉川峡はかつて「秘境」と呼ばれた渓谷で、国道371号の整備によって一般の観光客も訪れやすくなった景勝地である。現在はボランティア団体「玉川峡を守る会」による自然保護活動が続けられ、清流には鮎が棲み、初夏には蛍が舞う豊かな自然が守られている。
この玉川峡の近くには、高野七口の一つである黒河道【くろこみち】が通っている。黒河道は高野山町石道玉川峡県立自然公園の指定区域には含まれないものの、ほぼ全域が公園に隣接しており、町石道・玉川峡とともに高野参詣の歴史と自然を体感できる道である。
以上の理由から、本稿では 町石道・黒河道・玉川峡 の三つを取り上げ、それぞれが持つ歴史的背景と自然の魅力について記述したいと思う。
高野参詣道・町石道
町石道【ちょういしみち】は、慈尊院【じそんいん】(和歌山県九度山町)を起点に高野山に至る表参道である。

国の史跡に指定されているほか、ユネスコの世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』にも登録されている。

「町石道」の名の由来は、参道に沿って1町(約109m)ごとに町石【ちょういし】と呼ばれる高さ約3m弱の五輪卒塔婆形の石柱が道標(道しるべ)として建てられたことによる。町石は御影(兵庫県)で切り出された花崗岩(御影石)で造られている。

慈尊院を起点として高野山・壇上伽藍の根本大塔までの距離は約22kmあるが、この道中に180基の町石が設置されている。町石は、鎌倉時代の頃に約20年の歳月をかけて完成したとされる。

根本大塔から高野山・奥之院にある弘法大師御廟までの約4kmの道中にも36基の町石が設置されている。

したがって、合計216基の町石が慈尊院から弘法大師御廟までの間に置かれたことになる。

町石道の町石は、単なる道標ではなく、町石自体が一体の仏を表しているとされ、かつては高野巡礼の人々が町石の一つ一つに合掌し、礼拝しながら登ったと言われている。


216基の町石のうち179基については建立当時のままで残こされているという。



さらに1里(36町)ごとに里石【りいし】も併設されたので、慈尊院から根本大塔までの道中には合計4基の里石が置かれていたわけである。
| 名 称 | 高野参詣道・町石道 |
| Link | 高野参詣道町石道 | 和歌山県 高野山町石道 | 和歌山県 高野参詣道町石道 | かつらぎ 世界遺産 高野山町石道 高野参詣道|和歌山県 |
高野参詣道・黒河道
黒河道【くろこみち】は、定福寺【じょうふくじ】(和歌山県橋本市)を起点にして高野山に至る参詣道である。ユネスコの世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』にも登録されている。

黒河道は、定福寺を起点に、五軒畑岩掛観音【ごけんばたいわかけかんのん】、明神ヶ田和【みょうじんがたわ】、市平橋、市平春日神社のカツラの木、美砂子峠【びしゃことうげ】、太閤坂、久保田和の石仏、茶堂跡、子継峠【こつぎとうげ】(粉撞峠)を経由して、黒河口女人堂跡に至る約16kmの参詣道を指す。


黒河道の沿道には世界遺産道標が定福寺前の1番から子継峠(粉撞峠)の26番まで整備されており、現在は健脚者向きのハイキングコースとしての利用が多いという。

橋本から高野山への近道(最短距離)であったらしいが、結構な急坂が多い難所道であった。坂道が険しい黒河道を避け、当時の多くの一般参詣客は西側の別の参詣道である京大坂道を好んで利用したという。尚、子継峠(粉撞峠)から黒河口女人堂跡までの区間は女人道(参詣道)と重なる。

黒河道は、高野山への近道であることから、周辺の村々の産物を高野山に届けることを指す「雑事【ぞうじ】のぼり」や、高野山参詣後の下山路として機能していたとも考えられている。

| 名 称 | 高野参詣道・黒河道 |
| Link | 世界遺産 高野参詣道 黒河道 高野参詣道 黒河道 | 橋本市 黒河道のマップ/橋本市 高野参詣道 黒河道/橋本市 |
玉川峡
玉川峡【たまがわきょう】は、紀ノ川の支流である一級河川・丹生川【にゅうがわ】に位置する峡谷である。

玉川峡は四季折々の美しい風景が楽しめる場所で、特に春の桜や秋の紅葉は見逃せない名所にもなる。

清流には鮎が棲み、夏には蛍が飛び交うなど豊かな自然が現在にも残されている。

玉川峡一帯は森林が鬱蒼と生い茂り、長らく秘境とされてきた。しかし、近年は交通の便が良くなり、観光客も多く訪れるようになったという。

ハイキングコースやキャンプ地としても人気があるらしい。ハイキングやキャンプ、川遊びなどのアクティビティが楽しめるために、特に家族連れやアウトドア好きの人たちには人気が高い。

都会から離れた静かな環境で、自然の中でリラックスすることができる。心を落ち着かせる場所としても人気であるという。

玉川峡は、自然の恵みを感じることができる素晴らしい場所であることが分かったので、是非、ゆとりのあるスケジュールで再訪したいと思う。
| 名 称 | 玉川峡 |
| 所在地 | 和歌山県橋本市彦屋 和歌山県伊都郡九度山町 |
| Link | 玉川峡 | 和歌山県観光 玉川峡|九度山町の観光 玉川峡 | 和歌山県橋本市 |
◆ あとがき
高野山は、弘法大師・空海が開いた真言密教の聖地であり、その高野山へと続く参詣道(古道)には、以前から強い関心を抱いてきた。しかし、実際に歩こうとすると、いわゆる「遊歩道」とは程遠く、むしろ本格的な登山道と呼ぶ方がふさわしい険しさがあるため、これまで踏み出すことに躊躇してきた。せめて町石道だけでも踏破したい──その思いはずっと胸の内にあった。
今は、残された人生が秒読み段階に入ったと感じることもあり、できるだけ早く脚力と体力を回復させ、挑戦したいという気持ちが日に日に強くなっている。若い頃のような歩き方はできなくても、シニアなりの歩みで町石道を踏破できるだけの力を取り戻したい。現在は、そのための準備として、少しずつ体力づくりに励んでいるところである。
近い将来、本稿をアップデートする日が来れば、それは私が高野参詣道──とりわけ町石道──を実際に歩いた証となるはずだ。 その日を静かに、しかし確かな決意をもって待ちたいと思う。