| <目次> はじめに ススキの種類 シマススキ イトススキ タカハノススキ 三重県のススキ群生地 青山高原 奈良県のススキ群生地 曽爾高原 葛城高原 和歌山県のススキ群生地 生石高原 兵庫県のススキ群生地 砥峰高原 上山高原 あとがき |
◆ はじめに
季節の移り変わりは早いもので、寝苦しい熱帯夜にエアコンを頼っていた日々は過ぎ、気がつけば九月の風が吹き始めた。 庭の草むらに耳を澄ませば、コオロギやマツムシ、そしてキリギリスの澄んだ音色が聞こえてくる。 日中はまだ残暑が厳しいものの、虫の声に秋の気配がそっと混じり、季節が確実に次の段階へ歩み始めていることを感じさせる。
秋の風物詩と言えば、モミジの紅葉やイチョウの黄葉とともに、私は高原に広がるススキの穂を思い浮かべる。 ススキはイネ科ススキ属の植物で、俳句ではその姿から「尾花」とも呼ばれる。 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉があるように、枯れた穂が“何物でもないもの”の例えに使われることもあるが、実際のススキは秋の野に立つと、むしろ凛とした美しさを放つ。
ススキは八〜九月頃に開花し、十〜十一月頃には穂が銀色の綿毛へと変わる。 やがて茎が枯れ、全体が金色に染まり始める頃が、ススキを観賞する最も美しい季節だ。 特に高原の野原で、夕暮れの光を受けて穂が柔らかく靡く光景は、秋の風物詩の中でも格別の美しさを持つ。
本来は雑草の一種にすぎないススキだが、その群生がつくり出す風景は古くから人々を魅了してきた。 夕暮れ時の幻想的な雰囲気は、言葉ではとても言い尽くせない。 ならば写真なら、その“言葉にできない美しさ”を少しでも伝えられるのではないか──そう思い、私はススキが群生する高原を訪ねることにした。
ススキの種類
ススキは、高原、草原、道端、空き地など至る所で目にすることができる。頑丈な根を周囲に伸ばし、多数の茎が群がって大きな株となる。日当たりのよい場所に群生して草原の主要構成種となっている。
ススキの穂は15cm程度の長さで、銀色に光る毛は芒【のぎ】と呼ばれ、これが風に乗ってタネを遠くに運んでいく。
ススキは秋を象徴する植物として日本文化の中では重要な役割を果たして来た。例えば、十五夜の飾り、花鳥画や、蒔絵などの秋草紋様などである。
また、ススキはかつて家屋の屋根をふく材料としても重要であった時代があり、人里近くには必ず萱場【かやば】と呼ばれるススキを採集するための場所があったという。つまり、ススキは、茅葺(萱葺)【かやぶき】の屋根の材料にも使用される有用植物ではある。
しかし、個人の庭に生えられては非常に困る多年性草本である。個人の庭にススキが茂っていたら、それは管理を放棄した庭に等しい。ススキの葉の縁は鋭く、触ったまま手を動かすと皮膚を切ってしまうことがある。不用意に素手で引き抜こうとして指を切った経験は数え切れないほど私にもある。
また、花粉症のアレルゲン植物の一つでもあるので、イネ科植物にアレルギーをもち、症状が出る人は秋は要注意である。
ススキは野原で自然のままに生息すべき植物である。ススキの穂は高原の野原で眺めたい。私たちが高原でよく見かけるススキの大半は、シマススキ、イトススキおよびタカハノススキの3種類のうちのどれか、あるいは複数である。
シマススキ
草丈は100〜200cmほどでススキの中では最も背が高く、葉に縦の白い斑が入っているのが特徴である。
非常に強健な性質である。真夏の暑さや強い日差しでも縞斑は焼けず、きれいに保たれる。
ススキが群生する高原で最も見応えのある種類と言えよう。私が写真に撮るのはこのシマススキであることが多い。
イトススキ
草丈は80cmほどの小ぶりなススキで、葉の幅が5mm程度しかなく非常に細いのが特徴的である。
葉が立ち上がって株幅があまり広がらないススキである。葉に白い斑が入る品種もあるという。
タカハノススキ
草丈はかなり小ぶりで50〜80cm程度のススキである。細い葉に縦の白い斑が入るのが特徴である。
ススキの穂ばかりに目がいき、葉の方までは注目することは今までほとんどなかった。これからは葉にも注目し、どんな種類のススキが生育しているのかをよく観察しようと思う。
◆ 三重県のススキ群生地
青山高原

青山高原は、津市と伊賀市の境にある笠取山から南北約15kmに渡って広がる高原である。標高756mにある三角点は、伊勢湾を一望できる絶景スポットとなっている。

また、山頂付近は風力発電基地にもなっていて、89基の風車が建ち並ぶ様子は迫力満点である。何十年ぶりかで青山高原を訪ねて、風車の数が増えていることに率直に驚いた。ススキの群生地の数よりも風車の数の方が多いのではないかと思う。

青山高原公園線と東海自然遊歩道が整備されているのでアクセスも良く、春はアセビやツツジの群生、秋はススキの白い穂が風に揺れてハイキングを楽しむには最適の場所である。

特に、9月下旬~10月下旬頃はススキの穂と迫力満点の風車とを一緒に写真に収められるのが嬉しい。遊歩道をゆっくりと散策するもよいし、ベストアングルを探して高原を歩き回るのもよい。

青山高原は、星空が綺麗に見れる場所としても知られている。尚、青山高原は室生赤目青山国定公園の指定区域に含まれている。
| 名 称 | 青山高原三角点駐車場 |
| 所在地 | 三重県伊賀市勝地1852-63 |
| Link | 青山高原|津市観光協会 青山高原|津市観光協会 青山高原〜風わたる南伊賀〜 青山観光振興会・青山高原 |
◆ 奈良県のススキ群生地
曽爾高原

曽爾高原【そにこうげん】は、奈良県東北端の曽爾村に位置し、日本三百名山の一つ倶留尊山【くろそやま】(標高1,037m)の麓に広がる約40haの草原である。

曾爾高原や俱留尊山は、室生赤目青山国定公園の指定区域に含まれている。

亀山峠からの眺望を求めて曽爾高原を春から秋にかけてハイキングを楽しむ人が多い。

曽爾高原は、亀池の周辺を中心にススキの群生地であり、関西有数のススキの名所として知られる。

特に夕暮れ時のススキが美しいことでも有名である。

ススキが見頃となる10~11月の夕暮れ時に夕陽を浴びて黄金色に輝くススキは、確かに一度見ると忘れられない美しさである。

この景色を一目観ようと全国各地から多くの観光客が訪れる。

| 名 称 | 曽爾高原 |
| 所在地 | 奈良県宇陀郡曽爾村太良路 |
| Link | 奈良県曽爾村 -ぬるべの郷- 曽爾高原の温泉「お亀の湯」 |
葛城高原

葛城高原【かつらぎこうげん】は、奈良県と大阪府の県境に位置する大和葛城山(標高959m)の山頂付近に広がる高原である。

葛城高原・山頂からは大和盆地や大阪平野を一望できる。

葛城高原は、ツツジの大群落(見頃は5月)で知られているが、ススキの大群生もあるので10月中旬~下旬頃に見頃を迎えるススキの穂の美しさを楽しめる。

ススキの穂の美しさは天候にかなり影響されるが、陽光を浴びて銀色に輝くススキの穂は本当に美しい。筆舌に尽くしがたい。

ススキの穂は日中と夕暮れ時では全く違った表情を見せる。

葛城山ロープウェイの運行は午後5時が最終発であるので日没時の夕陽に輝くを黄金色のススキの穂を観ることができないのは残念である。


葛城高原は、金剛生駒紀泉国定公園の指定区域に含まれている。
| 名 称 | 葛城高原 |
| 所在地 | 奈良県御所市櫛羅 |
| Link | 葛城高原| あをによし |
◆ 和歌山県のススキ群生地
生石高原

生石高原【おいしこうげん】は、有田川町と紀美野町の境にある生石ヶ峰(標高870m)の山頂付近に広がっている草原である。和歌山県が指定する生石高原県立自然公園の中核でもある。

晴天の日の生石ヶ峰山頂からの360度の眺望は大変素晴らしく、和泉山脈や淡路島などを望むことができる。

生石高原は、四季折々の草花に彩られ、特に秋はススキの名所として有名である。

(三角点はトイプードルに占拠されていた!?)
生石高原のなだらかな山肌にはススキの群落が大海原のように広がり、その光景は関西随一と言われる。

ススキは、9月中旬から開花し始め、9月下旬から10月下旬頃にかけては綿毛をつけた銀色のススキが広がる。

夕日で金色に染まって見えるススキの群落の美しい光景は筆舌では語れない。

山の斜面にせり出した「火上げ岩」は大人気の撮影スポットであり、インスタ映え抜群とSNSで話題になっている場所でもある。

高所が苦手な私には絶対に立てない場所でもある。写真を撮るだけでもハラハラドキドキで心拍数が高まっているのが分かる。

ススキの穂を観に来るのは私のようなシニアだけかと思っていたら結構若者のカップルも多かった。中にはメモリアルフォトを撮影するカップルも複数いたのには正直驚いた。昭和の時代の古い価値観で若者を判断してはいけないという証左だろう。
◆ 兵庫県のススキ群生地
砥峰高原

砥峰高原【とのみねこうげん】は、兵庫県のほぼ中央に位置する神河町にある高原で、ススキの群生地として知られている。

高原の広さは約90haで、西日本有数のスケールを誇る。

砥峰高原は、映画「ノルウェイの森」や「燃えよ剣」、大河ドラマ「平清盛」や「軍師官兵衛」のロケ地に使用されたことでも有名である。

9月下旬~11月上旬頃にはススキの穂が眼前に広がり、圧巻の風景を楽しむことができる。天候が良ければもっと綺麗であろう。

私たちが訪れた日は、あいにくの天候で、高原の頂上付近、ちょうど展望台付近は風が強く吹いていて防寒具を羽織っていても非常に寒かった。

展望台から早々に下山したら、空の合間に青空が覗き始めた。しかし、終始晴れることはなかった。

晴れた日に砥峰高原に来れなかったのは少し残念であった。朝は晴れていたというが、山の天気と同じで、高原の天気も変わりやすい。

高原の気温は、平地よりも低いのが普通である。防寒具は忘れずに持参すべきである。防寒具を持っていない観光客は早々に引き上げていた。

砥峰高原が映画のロケ地に選ばれるのは広大な敷地面積もさることながら、バリエーションの豊富さであるかも知れない。展望台から眺めるとそれがよく分かる。

砥峰高原も再び訪れたいと思わせる高原であることに間違いはない。尚、砥峰高原は雪彦峰山県立自然公園の指定区域に含まれている。
| 名 称 | 砥峰高原 |
| 所在地 | 兵庫県神河町川上801 |
| Link | 砥峰高原 | 兵庫県神河町 |
上山高原

上山高原は、鳥取との県境にある扇ノ山山麓に広がるススキの名所である。見頃は例年、9月中旬~10月下旬頃とされている。

上山三角点(標高943m)直下の登山口のすぐ手前の駐車場まで、ススキの群生地の間につけられた道をドライブできる。

道が狭いので対向車があると大変であるが、車窓からのススキもよい眺めである。

対向車を気にしなくてもよい助手席が勿論、特等席である。

上山三角点の付近にはススキの群落はほとんどない。しかし山頂から眺める景色は良いので、天候が良ければ登ってみることをお勧めしたい。ゆっくり登っても所要時間は20分ほどで、スニーカーでも楽に登れる。

上山三角点のある場所は開けていて葛の木で組まれたちょっと風変わりな展望台があり、そこからの360度の景色も爽快である。

上山高原には滝が多く存在しているようで、滝を観るための登山道がいくつも整備されている。しかし登山装備、特に登山靴が必要である。登山道には鎖場などがあり、スニーカーでは危険な道のようである。残念ながら滝を観に行くのは別の機会にするしかなかった。


上山高原は、氷ノ山後山那岐山国定公園の指定区域に含まれている。
| 名 称 | 上山高原 |
| 所在地 | 兵庫県新温泉町海上 |
| Link | 上山高原(扇ノ山山麓) |
◆ あとがき
ススキの穂は秋の風物詩として昔から親しまれてきたが、リタイアしてシニア生活を送るようになるまでは、正直なところ私自身あまり関心を持っていなかった。ススキは雑草であり、晩秋の「枯れ尾花」という言葉のイメージが強く、艶やかなイロハモミジの紅葉と比べれば見劣りする──そんなふうに思っていた。 現役時代には、休暇を取ってまでススキの穂を観に行くなど考えもしなかった。
ところが、いつの間にか自分自身が「枯れ尾花」に近い年齢になったからだろうか、ススキの穂を眺めたいという気持ちがふと芽生えた。 実際に写真を撮ってみると、ススキの穂は陽光の当たり方によって驚くほど表情を変える。 朝の光を受ければ銀色に輝き、夕陽に染まれば黄金色に変わる。その繊細な変化は、雑草という言葉ではとても収まりきらないほど美しく、魅力的な被写体であることを改めて知った。
ススキの穂の美しさに気づくと、自然と「群生地をもっと訪ねてみたい」という思いが湧いてきた。 昨年(2022年)は、比較的遠方の高原にも毎週のように出かけており、気がつけば一か月余りの間に六か所ものススキの名所を巡っていた。 毎日が日曜日のような身とはいえ、出不精の私がこれほど軽やかに動けたのは、私の車に“本来のエンジン”とは別に、妻というパワフルな無双エンジンが搭載されているからにほかならない。
訪れた高原はいずれも魅力的で、甲乙をつけることなど到底できない。 写真の出来映えは陽光の具合──つまり天候の影響によるものであって、ススキや群生地の立地に責任はない。 写真を眺めながら構図を考えていると、「次はどんな光の中でススキに出会えるだろう」と自然に心が動き始める。
さて、今年はどこの高原を歩こうか。 秋風に揺れるススキの穂を求めて、また新しい高原へと足を運びたくなる。





