◆ はじめに
富士箱根伊豆国立公園は、神奈川・静岡・山梨の3県と東京都にまたがる国立公園で、富士山・箱根・伊豆半島・伊豆諸島の4つのエリアで構成される。
東京の南に連なる伊豆諸島は、海と火山がつくり出した島々の連なりだ。 富士箱根伊豆国立公園の中でも、伊豆諸島エリアは特にダイナミックな地形を持ち、 黒潮の流れと火山の息づかいが交差する独特の風景を描いている。
島に降り立つと、潮風が頬をかすめ、 火山の斜面を覆う緑がまぶしく揺れる。 海の青と火山の黒、そして島の静けさ── その対比が、歩く旅に深い余韻を与えてくれる。
本稿では、伊豆諸島の中でも代表的な島々を歩きながら、 海と火山が描く静かな風景を、シニアの旅目線で紹介していきたい。
伊豆諸島の成り立ち
──海と火山がつくった島々
伊豆諸島は、フィリピン海プレートの北上に伴い、 海底火山が次々と噴火し、島として姿を現した地域である。 そのため、島々はすべて火山島であり、 黒い溶岩、白い火山岩、急峻な斜面、深い森など、 火山活動の痕跡が随所に残っている。
黒潮が島々の周囲を流れ、 海の青さは驚くほど深く、透明度も高い。火山の大地と黒潮の海── この二つが伊豆諸島の自然を形づくっている。
歩く旅では、島の地形がそのまま体感できる。 海岸線の断崖、火口の縁、溶岩台地、森の静けさ── それぞれが島の個性を静かに語ってくれる。一般に伊豆七島というが、現在は九島ある。

大島──火山の島を歩く
伊豆大島は、伊豆諸島北部に位置する伊豆諸島最大の島である。伊豆諸島の玄関口ともいえる大島は、 火山の島としての魅力が最も分かりやすい島だ。
大島は、水深300〜400mほどの海底からそびえる火山の陸上部分であり、海底部分まで含めると1,000m程度の高さの火山となる。山頂部にはカルデラがあり、その中には中央火口丘の三原山がある。最高地点は三原山の三原新山(標高758m)と呼ばれる火口丘である。
三原山の火口周遊コースは、 黒い溶岩が広がる荒涼とした風景の中を歩く道で、 火山の息づかいを間近に感じられる。 火口の縁に立つと、地球の鼓動が静かに伝わってくるようだ。
海岸線では、黒い溶岩と青い海が強い対比を見せ、 歩くほどに風景が変化する。 大島の集落は素朴で静かで、 島時間がゆっくりと流れている。
火山と海が最も近い距離で出会う島── それが大島だ。
利島【としま】は、大島から南に27kmにある島である。伊豆七島のうち最も小さな島で、最高峰の宮塚山(標高508m)を中心とした、円錐形の火山の島(複成火山)である。島の周囲は、高さ200mの海食崖に囲まれている。
新島──白い石と海の青が描く風景
新島【にいじま】は、静岡県下田市から南東に36kmの位置にある島である。比較的本州に近い位置にありながら、美しい自然が残されている島である。 黒潮に乗って多くの海洋生物が島周囲には集まる。ミナミハンドウイルカやウミガメなどが見られる。
新島は、白いコーガ石の断崖が特徴的な島だ。 白い岩肌が太陽の光を反射し、 海の青さをいっそう際立たせる。
海岸線を歩くと、 白と青のコントラストが美しく、 まるで地中海のような雰囲気が漂う。 透明度の高い海は、足元まで見えるほど澄んでいる。
集落は静かで、島の暮らしが穏やかに続いている。 歩く旅に向く海岸線が多く、 島の素朴さと自然の美しさが調和している。
式根島【しきねじま】は、新島の南西に位置する島である。新島単成火山群の活動で噴出した単成火山である。式根島は岩で囲まれたイメージが強く、港周辺以外は絶壁になっている。
式根島は、かつては新島と地続きであったが、江戸時代の元禄大地震(1703年)の大津波によって新島から分離されたという。
神津島──水の島を歩く
神津島【こうづしま】は、伊豆諸島の最も西に位置する活火山の火山島である。島の形はひょうたん型をしており、天上山(標高572m)を中心とした北部と、秩父山のある南部とに大きく分けられる。天上山は、9世紀の噴火で形成された溶岩ドームで、神津島のシンボル的存在である。
天上山の白砂の台地は、 火山島とは思えないほど明るい風景を描き、 歩くほどに視界が広がっていく。 山頂からは島々が連なる海が一望でき、 その静けさは心に深く響く。
伊豆諸島には断崖絶壁に囲まれた島が多い中で、神津島は比較的平坦で砂浜海岸が多い。また、神津島は「水の島」と呼ばれるほど湧水が豊かである。島の集落は落ち着いた雰囲気で、 海と山の距離が近く、 自然と人の暮らしが静かに共存している。
八丈島──火山と森が描く深い緑
八丈島【はちじょうじま】は、御蔵島【みくらじま】の南南東約75kmに位置する、ひょうたん型をした火山島である。気象庁は、火山活動度ランクCの活火山に指定している。
八丈小島【はちじょうこじま】と区別するため、八丈島は八丈本島もしくは八丈大島とも呼ばれることがある。
八丈島は、伊豆諸島の中でも特に緑が深い島だ。 八丈富士の火山地形が島の中心にあり、 その周囲には亜熱帯の森が広がっている。
湿潤な空気が森を包み、 歩くと植物の香りが静かに漂う。 火山の斜面を歩くと、 島の成り立ちがそのまま足元に感じられる。
温泉も豊富で、 歩いた後に湯に浸かると、 島の静けさが体の奥まで染み込んでいく。八丈島は、火山と森が描く「深い静けさ」の島だ。
八丈小島は、八丈島の西約7.5kmに位置する、無人島である。島の周辺は海食崖に囲まれている。
島には大平山【おおたいらさん】(標高617m)がそびえ、全域(周辺の岩礁域を含む)が東京都鳥獣保護区特別保護地区(希少鳥獣生息地)となっている。10月下旬から翌年6月下旬にかけては、準絶滅危惧種のクロアシアホウドリが子育てをしている。
海と火山がつなぐ島旅
三宅島【みやけじま】は、雄山【おやま】を中心とした活火山の島である。大島の南57kmに位置する、直径8kmのほぼ円形をした島である。
三宅島は、雄山を最高峰(標高775m)とする水深300~400mの海底からそびえる火山体で、玄武岩質の成層火山である。
雄山は、しばしば激しく噴火をすることで知られ、火山噴火予知連絡会によって常時観測火山(火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山)に指定されている。また、気象庁によって火山活動度ランクAの活火山に指定されている。
御蔵島【みくらじま】は、三宅島の南南東19kmに位置する、ほぼ円形の島である。島の中央には御山【おやま】(標高851m)が聳えている。
御蔵島は、気象庁によって火山活動度ランクCの活火山に指定されている。火山としては、伊豆諸島の中では比較的古い時代に活動を停止しており、約7,000~約5,000年前に活動を終了していると考えられている。そのため海食崖が発達し、最大500mにもなる絶壁がある。
伊豆諸島の島々は、それぞれに個性がありながら、 海と火山という共通の根を持っている。
歩くほどに、島の静けさが心に染み込み、 海の広がりと火山の大地が、 旅人の心をゆっくりと整えてくれる。
次に訪れる島では、 また違う表情の海や山に出会えるだろう。 その静かな変化を楽しみにしながら、 歩く旅を続けていきたい。
◆ あとがき
伊豆諸島を歩く旅は、 海と火山が描く風景を静かに味わう時間だ。島に吹く潮風、火山の斜面、森の静けさ── それらがゆっくりと心を整えてくれる。 人生の歩みを重ねた今、 島の風景は若い頃とは違う深さで響いてくる。
次にこの島々を訪れるとき、 また新しい表情の海と火山に出会えるだろう。 その静かな変化を楽しみにしている。