城ヶ崎海岸を歩く──伊豆の海と温泉に癒される旅

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目次
はじめに
伊豆半島の成り立ちと火山地形の魅力
城ヶ崎海岸を歩く
大室山
伊豆高原の森を歩く
伊豆温泉郷
海と火山と湯がつなぐ旅
あとがき

はじめに

富士箱根伊豆国立公園は、神奈川・静岡・山梨の3県と東京都にまたがる広大な国立公園で、 富士山・箱根・伊豆半島・伊豆諸島の4つのエリアから構成されている。 火山活動によって生まれた山々、湖、温泉、島々など、多様な自然景観がこの公園の核となっている。

伊豆半島の海岸線には、火山がつくり出した独特の風景が静かに広がっている。 富士箱根伊豆国立公園の中でも城ヶ崎海岸は、溶岩が海へ流れ込んで固まり、 長い年月の波の浸食によって削られた断崖絶壁が続く、伊豆を象徴する景勝地だ。

潮風が頬をかすめ、波が岩に砕ける音が響く。 その荒々しさの向こうに、どこか懐かしい静けさが漂っている。 歩くほどに海の表情が変わり、火山がつくった大地の力強さが伝わってくる。

そして、この海岸線のすぐ近くには、火山の恵みである温泉が湧き出している。 海と火山と温泉── 伊豆半島の魅力が一つの旅の中で自然につながっていく。

本稿では、城ヶ崎海岸と伊豆温泉郷を歩く旅を、 シニアの視点で静かに味わっていきたい。


伊豆半島の成り立ちと火山地形の魅力

伊豆半島は、フィリピン海プレートに載った島弧が本州側のプレートに衝突し、 隆起しながら現在の半島の形を成してきた特異な地域である。 そのため、半島内には多くの火山が点在し、地形の成り立ちを知ると、 伊豆の風景がより立体的に感じられる。

多賀火山【たがかざん】、天城山【あまぎさん】、大室山【おおむろやま】、達磨山【だるまやま】── いずれも伊豆半島の地形を形づくった重要な火山であり、 噴火と浸食の歴史が現在の山容をつくり出している。

火山が多いということは、温泉が多いということでもある。 伊豆半島は日本有数の温泉地が集まる地域として知られ、 海岸線の絶景と温泉の恵みを同時に味わえる稀有な場所だ。

この火山地形が、城ヶ崎海岸の断崖絶壁や溶岩台地を生み、 伊豆温泉郷の豊かな湯を育んできた。 歩く旅の中で、この地形の成り立ちを感じられることが、伊豆の魅力の一つである。


多賀火山は、伊豆半島北東部に位置する大型火山で、 伊豆半島が本州に衝突しつつあった時期に形成されたとされる。 天城山は、万三郎岳(標高1,406m)を最高峰とする連山で、 80万〜20万年前の噴火で形成された後、長い年月の浸食によって現在の穏やかな山容となった。 天城連山は、伊豆の山々の中心的存在であり、半島の地形を象徴している。

達磨山(標高982m)は、伊豆半島北西部に位置し、 天城山と並ぶ大型火山の一つである。 100万〜50万年前の噴火で形成されたと推測され、 かつては標高1,300mほどの山であったが、浸食によって大きく削られ、 現在の丸みを帯びた山容となった。

井田火山と大瀬崎火山は達磨山の北西側に隣接し、 いずれも古い火山活動の痕跡を残している。 井田火山は80万〜40万年前の噴火とされるが、浸食が激しく、元の山体はほとんど残っていない。 大瀬崎火山はさらに古く、噴出物の分布が限られているため、 元の山体の規模は定かではないが、井田火山の噴出物に覆われていることから、 より古い火山であると考えられている。

棚場山【たなばやま】(標高753m)もまた古い火山で、 百数十万〜80万年前に形成されたと推測される。 西側の大半が浸食によって失われており、 伊豆半島の火山地形の変遷を物語る存在である。


城ヶ崎海岸を歩く

──断崖と潮風の道

城ヶ崎海岸【じょうがさきかいがん】は、伊豆半島中部の東岸に位置する海岸である。海岸の大部分が荒々しい断崖で、小さな岬と入り江が連続する。

城ヶ崎海岸は、大室山ができた約4000年前の噴火で溶岩が流れ、海岸線を2km近くにわたって埋め立てた後、波の浸食によって削られてできた断崖海岸である。 黒々とした溶岩の岩壁が続き、海の青との対比が美しい。

この特異な風景を目当てにして多くの観光客が訪れ、伊豆半島の観光スポットとなっている。絶壁の海岸に沿って城ヶ崎自然研究路と城ヶ崎ピクニカルコースが整備されており、散策ができる。

歩き始めると、潮風が心地よく頬を撫で、 波が岩に砕ける音が絶えず耳に届く。 荒々しい海岸線でありながら、どこか静けさが漂っているのは、 火山がつくった大地の力強さが背景にあるからだろう。

城ヶ崎ピクニカルコースは歩きやすく、 海を眺めながらゆっくり進むことができる。 途中に現れる門脇吊橋は、断崖の上に架かる迫力ある橋で、 海の広がりと断崖の深さを同時に感じられる場所だ。門脇埼灯台も観光スポットとして人気が高い。

歩くほどに海の表情が変わり、 光の角度によって岩肌の色も微妙に変化する。 シニアの旅にとって、無理なく歩ける距離でありながら、 自然の迫力と静けさを同時に味わえる絶好の散策路である。


大室山

──火山の成り立ちを眺める場所

城ヶ崎海岸の成り立ちを語るうえで欠かせないのが、大室山【おおむろやま】である。 約4,000年前に噴火した単成火山のスコリア丘で、 山体全体が国の天然記念物に指定されている。伊東市および伊豆高原のシンボル的存在でもある。

大室山の標高は580mで、山頂には周囲約1kmの円形の火口がある。リフトで容易にアクセスできるため、 火山地形を間近に感じながら散策できる。

山頂からは伊豆高原が眼下に広がり、 遠くには伊豆大島、そして富士山まで望むことができる。 火山がつくった大地の広がりを一望できるこの場所は、 城ヶ崎海岸の断崖と地形的につながっている。

火山の成り立ちを「歩いて理解する」ことができる場所として、 大室山は伊豆の旅に欠かせない存在だ。


伊豆高原の森を歩く

──静けさに包まれる散策路

城ヶ崎海岸の荒々しさとは対照的に、 伊豆高原の森は静けさに満ちている。

自然歩道を歩くと、 木々の間から差し込む光が揺れ、 鳥の声が森の奥から聞こえてくる。 海風と森の空気が交差するこの場所は、 歩くほどに心が整っていくような感覚がある。

四季の植物が静かに咲き、 森の中にある小さなベンチに座ると、 時間の流れがゆっくりとほどけていく。

海と森── この対比が伊豆高原の魅力であり、 歩く旅に深い癒しを与えてくれる。


伊豆温泉郷

──湯の恵みが旅を締めくくる

伊豆半島は火山性の地熱が豊富で、 伊東温泉、伊豆高原温泉、熱川温泉など、 多様な泉質の温泉が点在している。

歩いた後に温泉に浸かると、 体の疲れがゆっくりとほどけていき、 心まで温かくなる。 シニアの旅にとって、温泉はただの休息ではなく、 「旅の締めくくり」としての大切な時間だ。

湯の香り、湯の色、湯の肌触り── 場所によって異なる温泉の個性を味わうのも、 伊豆温泉郷の楽しみである。海と火山の恵みが、 この温泉に静かに宿っている。

熱海温泉【あたみおんせん】は、静岡県熱海市に位置する温泉である。熱海温泉は、南紀白浜温泉(和歌山県白浜町)と別府温泉(大分県別府市)と共に日本の三大温泉の一つに数えられる。

泉質としては、ナトリウム・カルシウム―塩化物温泉が大半である。硫酸塩の成分が多く入っていることから液性が弱アルカリ性となり、肌触りが滑らかなのが特徴とされる。熱海温泉には源泉が約410本もあり、湧出量は毎分18トンと言われている。源泉温度も98℃とかなりの高温である。

熱海駅の北東から南東にかけて、相模灘に面する海沿いに旅館やホテルが立ち並んで温泉街を形作っている。熱海駅は、伊豆観光の東の玄関口的な役割を担っている。


伊東温泉【いとうおんせん】は、静岡県伊東市に位置する温泉である。開湯は平安時代とされ、江戸時代には将軍家への献上湯を行い、湯治場としても栄えたという。

泉質は無味・無臭の単純温泉がほとんどであるが、海沿いの旅館やホテルでは塩化物泉の所もある。源泉数は、国内第3位の780本を誇る。源泉温度は50℃前後であるため加水しなくてもよいのが利点となっている。湧出量も毎分34トンと豊富で、別府温泉・由布院温泉(大分県)に次ぐ国内第3位を誇る。源泉掛け流しの所が大半である。

駅前から海側に向かって温泉街が広がっている。旅館や大型ホテルなどが広範囲に数多く存在するのが特徴となっている。戦後は歓楽街温泉として栄えたため、昔ながらの歓楽街的温泉の要素も数多く現存しているのも伊東温泉の特徴とされる。


伊豆高原温泉【いずこうげんおんせん】は、伊豆半島東岸の静岡県伊東市対島地区の伊豆高原別荘地に位置する温泉である。

伊豆高原は、伊豆東部火山群の溶岩流などで形成された丘陵地に別荘地として造成されているため、温泉自体は、東伊豆町の片瀬(湯の沢)からの引湯である。


熱川温泉【あたがわおんせん】は、静岡県賀茂郡東伊豆町に位置する温泉である。江戸城を築城したことで知られる太田道灌が川底から温泉が湧いている場所で傷を癒している猿を見て、温泉を発見したという開湯伝説が残されている。

泉質は、塩化物泉である。源泉温度はほぼ100℃であることから、源泉井の上部からは湯気が多く出ており、湯煙に包まれた温泉街の光景が特徴的である。その温泉街には約19軒の旅館やホテルが存在する。


稲取温泉【いなとりおんせん】は、静岡県賀茂郡東伊豆町稲取に位置する温泉である。開湯は、昭和31年(1956年)と比較的新しい温泉地である。泉質は、硫酸塩泉である。

伊豆半島から突き出た岬に温泉街があり、30数軒の旅館、ホテル、民宿が存在する。また、温泉地には東伊豆町役場があって同町の中心地となり、市街地となっている。


下田温泉【しもだおんせん】は、静岡県下田市にある温泉地の総称であり、蓮台寺温泉河内温泉白浜温泉観音温泉相玉温泉で構成される。

泉質は、当り前かも知れないが各温泉地で異なる。蓮台寺温泉・河内温泉・白浜温泉では単純温泉、観音温泉では強アルカリ性単純温泉(pH9.5)、相玉温泉ではアルカリ性単純温泉(pH8.6~9.2)である。

蓮台寺温泉と白浜温泉は温泉街を形成されているが、それ以外の温泉地は一軒宿または二軒の宿があるだけで秘湯的な雰囲気を感じる。


伊豆長岡温泉【いずながおかおんせん】は、静岡県伊豆の国市に位置する温泉である。

泉質は、アルカリ性単純温泉である。約40本の源泉と集湯管によって一方通行循環供給を行っている。自家源泉が無い施設は、その宿泊施設の規模に応じて配湯館の共同源泉を引湯している。配湯管の総延長は13km、集湯管の総延長は3.8kmというからその規模は壮大である。

温泉街は低山に囲まれており、山あいの温泉という雰囲気がして落ち着く。近年、女性客や家族連れが楽しめる「源氏山七福神巡り」「芸妓まつり」「まゆ玉飾り」などを開催するなど、地域の文化や伝統芸能を残した観光へ力を注いでいるという。


修善寺温泉【しゅぜんじおんせん】は、静岡県伊豆市修善寺に位置する温泉で、伊豆半島で最も歴史がある温泉として知られる。修善寺温泉の歴史は、平安時代(807年)に弘法大師・空海が開基したと伝わる古刹・修禅寺の歴史とともにある。地名の由来もこの修禅寺にある。

病気の父親の体を川原で洗う少年のために弘法大師・空海が独鈷杵【とっこしょ】を用いて川中の岩を砕き、温泉を湧出させたとの開湯の伝説が修善寺温泉には残されている。修善寺川(通称は桂川)の川中の四阿【あずまや】には、弘法大師・空海が霊泉を噴出させ、修善寺温泉発祥の湯となった「独鈷の湯」がある。今日では、独鈷の湯は修善寺温泉のシンボル的存在であり、無料で足湯を楽しむことができるようになっている。泉質は、アルカリ性単純泉である。

修善寺川(通称は桂川)が温泉街の中心を流れ、河岸に旅館やホテルなどが建ち並ぶ。「竹林の小径」と呼ばれる桂川沿いの遊歩道も整備され、修善寺とともに人気のスポットとなっている。

また、温泉街付近には源氏に関する史跡が多く、鎌倉幕府第2代将軍の源頼家の墓や、頼家の冥福を祈って母の北条政子が建てた指月殿などがある。指月殿は伊豆最古の木造建築物として知られる。それらの史跡は「源氏公園」として公開されている。


天城湯ヶ島温泉【あまぎゆがしまおんせん】は、静岡県伊豆市湯ケ島の天城山中に位置する温泉である。泉質は、含芒硝石膏泉・重炭酸土類泉である。

狩野川【かのがわ】とその支流の猫越川周辺に旅館や共同浴場が立ち並び温泉街を形作っている。旅館「湯本館」は、川端康成が長く逗留して執筆活動を行い、『伊豆の踊子』を執筆したことで知られる。湯本館には川端康成が逗留したという部屋が今も残されているという。


戸田温泉【へだおんせん】は、静岡県沼津市戸田に位置する温泉である。「へだ」という読み方は近くの部田神社に由来しているという。昭和61年(1986年)に開湯された新しい温泉である。

泉質はナトリウム・カルシウム – 硫酸塩泉であり、源泉の温度は52℃と言われている。戸田漁港近辺に温泉街があり、15軒の旅館やホテルが営業している。


土肥温泉【といおんせん】は、静岡県伊豆市に位置する温泉である。伊豆半島の西岸に位置し、夏季は海水浴客で賑わうという。海岸沿いにホテルや旅館が立ち並んで温泉街を形作っている。

土肥温泉は江戸時代に土肥金山で栄えた所であり、坑道跡が観光スポットになっている。1611年、土肥金山の開発中に安楽寺境内の坑口から温泉が湧出したのが土肥温泉の始まりとされるが、近代の土肥温泉は、明治33年(1900年)に馬場【ばんば】地区で飲料用の井戸を掘ったところ、温泉が湧出したのが始まりとされる。

泉質、源泉温度、湧出量の異なる下記6本の源泉の湯を混合して各旅館やホテルに配湯しているという。

  • 下庄田源泉(含もう硝石膏泉、61℃、443L/min)
  • 山ノ神源泉(含塩化土類弱塩泉、56℃、167L/min)
  • 水口源泉(含塩化土類弱塩泉、59℃、175L/min)
  • 水口洞源泉(含食塩石膏泉、64℃、730L/min)
  • 中村源泉(含塩化土類もう硝泉、60℃、526L/min)
  • 三原源泉(含もう硝塩化土類泉、44℃、696L/min)

堂ヶ島温泉【どうがしまおんせん】は、静岡県賀茂郡西伊豆町にある温泉である。伊豆半島西岸に位置する。開湯は昭和37年(1962年)で、比較的新しい温泉である。泉質は、硫酸塩泉で、源泉の温度は30~45℃とされている。

旅館11軒が営業する温泉街を形作っているほか、西伊豆町町営の源泉を引き湯した民宿施設なども点在する。天然記念物に指定されている「天窓洞」や「堂ヶ島のトンボロ」は観光名所として有名である。


海と火山と湯がつなぐ旅

城ヶ崎海岸の断崖は、火山の歴史を静かに語り、 伊豆高原の森は心を落ち着かせ、 温泉は旅の疲れを優しく癒してくれる。

歩くほどに、伊豆の自然が自分の中に染み込んでいくような感覚がある。 海と火山と温泉── この三つが一つの旅の中で自然につながることが、 伊豆半島の魅力の深さだ。

次に伊豆を訪れるとき、 また違う表情の海や森に出会えるだろう。その静かな変化を楽しみにしながら、 歩く旅を続けていきたい。


あとがき

城ヶ崎海岸を歩く旅は、 ただ海を眺めるだけの旅ではなかった。 火山がつくった断崖の力強さ、 森の静けさ、 温泉のぬくもり── それらがゆっくりと心を整えてくれる。

人生の歩みを重ねた今、 伊豆の風景は若い頃とは違う深さで響いてくる。 自然の中を歩く時間が、 こんなにも自分を癒してくれるものなのか── そのことを改めて感じた旅だった。

次にこの海岸を歩くとき、 また違う表情の海に出会えるだろう。 その静かな変化を楽しみにしている。


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