◆ はじめに
三重県の山深い奥香肌峡。その静かな谷間に寄り添うように流れる宮の谷渓谷は、訪れる者をそっと包み込むような穏やかな気配を湛えている。森の奥へと歩みを進めると、木々の間から水音が響きはじめ、やがて高滝の白い流れが姿を現す。
豪快な名瀑とは異なり、高滝は静けさの中に凛とした美しさを宿した滝である。岩肌を滑り落ちる水の白さ、谷を満たすひんやりとした空気、苔むした岩の緑──そのすべてが、心をゆっくりと整えてくれる。
人生の後半を歩む私たちシニア世代にとって、こうした“静かな絶景”は、派手さよりも深い癒しを与えてくれるもの。本稿では、宮の谷渓谷の魅力と高滝が描く奥香肌峡の風景を、ゆっくりと辿っていきたいと思う。
香肌峡県立自然公園とは
──深い森と清流が育む、静けさの聖域
三重県松阪市の山間に広がる 香肌峡県立自然公園 は、櫛田川【くしだがわ】の上流域に沿って続く深い峡谷と、豊かな森が織りなす静かな自然公園である。 派手な観光地ではないが、谷を満たす清流の音、苔むした岩、木々の香り──そのすべてが、訪れる者の心をゆっくりと整えてくれる“静寂の聖域”である。
香肌峡【かはだきょう】は、櫛田川の三重県松阪市大石町付近より上流約40kmにわたる区間を指す峡谷である。
奥香肌峡とは
──深い森と清流が守り続ける、静寂の渓谷美
一方、奥香肌峡【おくかはだきょう】は櫛田川の源流部に位置する峡谷で、三重県松阪市飯高町に所属する。古くから「奥香肌」と呼ばれ、山深い渓谷美が残る地域として知られてきた。
奥香肌峡は、櫛田川の上流域に沿って続く深い渓谷と、原生的な森が織りなす静かな自然景観が魅力の峡谷である。 観光地としての華やかさはないが、谷を満たす清流の音、苔むした岩、木々の香り──そのすべてが、訪れる者の心をゆっくりと整えてくれる“静寂の聖域”である。
奥香肌峡は、古くから「香肌峡」と呼ばれる広い峡谷群の中でも、特に山深く、自然のままの姿が色濃く残る地域である。 櫛田川が長い年月をかけて刻んだ谷は場所によって表情が異なり、
- 宮の谷渓谷のしっとりとした森
- 高滝の凛とした白い流れ
- 霧が立ち込める早朝の渓谷美
など、歩くほどに静かな絶景が現れる。谷を流れる水は透明度が高く、川面に映る木々の緑が季節ごとに違う表情を見せてくれる。 春は新緑が谷を包み、柔らかな光が渓谷を照らす。 夏は深い緑と清流の涼しさが心地よく、秋には紅葉が渓谷を彩り、冬は静寂がいっそう深まる。 どの季節に訪れても、奥香肌峡は“静けさの美しさ”を教えてくれる場所である。
遊歩道は比較的歩きやすく、私たちシニア世代でも無理なく楽しめるのが魅力である。 谷を歩くと、足音が土に吸い込まれ、周囲の音が少しずつ静かになっていく。 鳥の声、風のざわめき、葉が触れ合う音──自然の音だけが残り、心のリズムがゆっくりと整っていく。
奥香肌峡は、観光地としての賑わいよりも、 自然の静けさと、歩く旅の深い癒し を求める旅人にこそふさわしい場所である。 人生の後半を歩む私たちにとって、この谷の静寂は、心をそっと整えてくれる大切な時間になるはずである。
宮の谷渓谷・高滝を見に行く
宮の谷渓谷【みやのたにけいこく】は、奥香肌峡と呼ばれる一帯に属し、蓮ダム【はちすダム】のさらに上流に位置する。
蓮ダムは、三重県松阪市飯高町に位置する、櫛田川水系の蓮川【はちすがわ】に建設されたダムのことであり、ダム湖は奥香肌湖【おくかはだこ】と呼ばれることもある。

蓮ダムから先は道路は細くなっているが、注意しながら運転すれば、車で訪れることができる。細い道をしばらく進めば、突き当たりに何台かの車が停められるスペースがあるので、そこに駐車して遊歩道を進んでいく。

整備された遊歩道を歩く!
遊歩道の途中にはいくつか梯子が架かった場所があるので、足元に気をつけながら進んでいく。

鳶岩と呼ばれる奇岩を眺める
遊歩道の途中に「鳶岩」【とびいわ】と呼ばれる奇岩を目にすることができる。「鳶岩」と言われれば、確かに鳶のくちばしに見えなくもない。足元ばかりを気にしている見過ごしてしまうこともある。往路よりも帰路で気付くことが多いと思う。

名無しの滝も素晴らしい!
遊歩道を進んでいくと名前の付けられていない「名無し」の立派な滝が現れる。落差が10m以下の滝は名前も付けてもらえないのであろうか。

宮の谷渓谷の自然は美しい!
渓谷に来ると、当り前かもしれないが水が綺麗である。浅瀬は川底がくっきり見えるほどの透明感があり、深い淵はエメラルドグリーンの美しい色を創出している。

また、周囲の樹木も綺麗である。特に秋は紅葉が美しい。

陽光に照らされて紅葉のグラデーションが何とも言えないくらい美しい。腕の未熟さのために写真で表現できないのが口惜しい。

自然はなんと美しいものなのだろうか実感せざるを得ない。

アップダウン連続の遊歩道!
川岸へ降りたり、階段を登ったりと、渓谷沿いの遊歩道はアップダウンが結構多い。頑張って自らの足で歩いていくしかない。

遊歩道とはいえ、決してハイヒールなどで来てはダメである。むしろ山道を登山できるような靴を履いて来るべきである。

歩きやすい渓谷沿いの山道や少し危険な梯子道を登っていくと、遊歩道の途中にはいくつもの「名無し」の滝が現れ、私たちの目を楽しませてくれる。

「蛇滝」は本当に滝なのか?
谷沿いの道を進んだりして行くと、蛇滝【じゃたに】と呼ばれる滝が現れる。滝と呼ぶには落差がない。この滝に名前を付けるのなら、途中で見た滝にも名前を付けてほしいと思う。

しかしながら、岩場を蛇行しながら白い水しぶきを上げて流れていく急流・蛇滝は、写真では分かりづらいかも知れないが、実際はとても美しい。名前が付いているのはそうした点が考慮されているのかも知れない。それとも看板がないと滝とは気づかないからかも知れない。自分の感性で大自然の造形物を愛でている以上は、名前の有無によって評価するのはやめることにしよう。

道草で時間が足りなくなる!
渓谷沿いには「名無し」の滝が至る所に顔を出している。それらを一つ一つじっくりと眺めていたいが、時間が足りなくなるのは辛い。

紅葉と滝のコントラストは本当に綺麗である。時を忘れて、じっと眺めていたいものである。

絶壁に造られた遊歩道を歩く
渓谷が狭くなってくると遊歩道が設置できないため、絶壁に直接遊歩道が造られている場所がある。

足元は格子状のグレーチングのため、当たり前のことだが下が見える。足下に川の流れを見ながら絶壁の横を歩く。高い所が苦手な私には避けたいところだが他に道がないので仕方がない。

私の妻はこのようなスリルのある所が大好きとみえて、余裕の表情で手すりに寄り掛かかったりする。全くその気が知れない。くれぐれも落ちないように注意して歩いて欲しいものだ。
水越谷出合分岐点に到達する

絶壁横の道を突破し、手すりが朱色に塗られた橋を渡る。

しばらく行くと水越谷出合分岐点に到達する。右側に行けば「高滝」で、左側に行けば「風折滝」という標識が出ているので、右側の「高滝」への道を選択する。

ゴールの「高滝」は近い!
少し険しい道を歩くが、ほどなくゴールの「高滝」が谷の奥に見えてくる。滝の轟音が聞こえるので、滝が近いことが分かる。

最後の登りを頑張って歩くと、高滝まではもうすぐである。

宮の谷渓谷の高滝に到着!
渓谷沿いの山道を登った先のゴールにあるのは、落差約60mの名瀑、高滝【たかたき】である。直瀑で、迫力もあり、綺麗な滝である。滝壺まで行けなくはないが、行っても写真が撮れずに、滝のしぶきでびしょ濡れになるだけであろう。

大自然による造形は、さながら芸術品である。この自然の芸術品を楽しんだ後は、足元に気をつけながら帰路に着くことにする。

高滝の下流も小さな滝が連続していて結構、見応えがある。写真では分かりづらいかも知れないが、実際には素晴らしい!

宮の谷渓谷の入口から高滝までの距離は約2.2kmである。ゆっくりと休憩しながら歩くと往復約3時間ほど道のりとなる。
宮の谷渓谷には他にも名瀑が存在!

時間に余裕があれば、高滝の上流にある猫滝や、途中の水越谷出合分岐点まで戻って、風折の滝(落差約70m)を見に行くこともできる。
しかし、今回は高滝がゴールであったので引き返すことにした。風折の滝に行くのは次の機会にしたいと思う。もし、高滝と風折の滝の両方を一日で見ようとするなら、早朝に宮の谷渓谷の入口に到着しておく必要があるであろう。高滝コースよりはずっと危険な箇所もあって、沢登りの技術が必要になるかも知れない。予想以上に時間を要することになるのは間違いない。秋は日没が早くなっている。余裕のある計画で、安全な登山を心がけたい。
| 名 称 | 宮の谷渓谷・高滝 |
| 所在地 | 三重県松阪市飯高町蓮 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 宮の谷渓谷 | 観光三重 |
◆ あとがき
私は自然公園に興味があり、三重県名張市で一人暮らしを始めるようになってから三重県内の自然公園についても調べてみた。その結果、三重県の一部が指定区域に含まれる国立公園または国定公園の指定区域に含まれる自然公園には下記の4つがあることが分かった。
さらに三重県には上記の国立・国定公園以外にも次のような5つの県立の自然公園があることが分かった。
- 水郷県立自然公園(桑名市・木曽岬町)
- 伊勢の海県立自然公園(鈴鹿市・津市)
- 赤目一志峡県立自然公園(松阪市・津市・名張市)
- 奥伊勢宮川峡県立自然公園(大台町・大紀町)
- 香肌峡県立自然公園(松阪市・多気町)
今回は、香肌峡県立自然公園に注目し、特に、奥香肌峡【おくかはだきょう】を代表する宮の谷渓谷【みやのたにけいこく】を選んだ。その選択理由は、落差60mの高滝【たかたき】を実際に自分の眼で見てみたいと思ったからである。
宮の谷渓谷と高滝は、派手な観光地ではない。しかし、深い森の静けさと、滝の白い流れが描く穏やかな風景は、心の奥にそっと染み込むような癒しを与えてくれる。
滝の前に立つと、谷を満たすひんやりとした空気が肌を撫で、耳に届く水音がゆっくりと心を整えてくれる。 人生の後半を歩む私たちにとって、この静かな絶景は、日々の疲れをそっとほどいてくれる大切な時間になる。次に奥香肌峡を訪れるとき、また違う光と水音が、違う癒しを静かに導いてくれることだろう。