◆ はじめに
大峯山と高野山を結ぶ古道――大峯高野街道。 その一部にあたる「すずかけの道」は、かつて修験者たちが往来し、祈りを胸に歩いた霊験ゆたかな道である。弘法大師・空海もまた、この山深い道を歩き、修行の足跡を刻んだと伝えられている。
天川村の山あいを縫うように続く道を進むと、天ノ川の対岸に白い糸を引くように落ちる不動滝が姿を現す。滝の上の岩穴には、空海が刻んだと伝わる自然石の「お不動さん」が祀られ、今も静かに旅人を見守っている。
深い森の気配、澄んだ水の音、そして修験者たちの祈りの残響。 この古道には、時を超えて息づく「祈りの風景」がある。
今回は、空海ゆかりのすずかけの道と不動滝を訪ね、その静かな魅力に触れた旅の記録を綴りたい。
大峯高野街道・すずかけの道
すずかけの道は、大峯山から高野山へと続く古道で、修験者が往来した「祈りの道」として知られている。その名は、修験者が衣服の上に羽織る法衣「すずかけ」に由来すると伝えられる。
弘法大師・空海や円空をはじめ、多くの修行者がこの道を通って修行に励んだとされ、とくに天川村西部には空海ゆかりの伝承が数多く残っている。
現在、天川村ではすずかけの道を巡るモデルコースが整備されており、観光客にも人気がある。道中には菩提樹や滝などの名所が点在し、歩くほどに自然と歴史が交差する独特の雰囲気を味わえる。
県道53号(大峯高野街道)は、かつて修験者が行き交ったこの古道に沿っており、今も「すずかけの道」の名で親しまれている。天川村西部は空海の足跡が色濃く残る地域であり、古来より祈りの道として大切にされてきた。
不動滝
すずかけの道(県道53号)を車で走っていると、天ノ川の対岸に姿を現すのが不動滝である。落差は約40メートル。道路脇には案内板が立っているため、見落とすことはない。

滝の上部の岩穴には、弘法大師空海が彫ったと伝わる仏像の形をした自然石があり、地元では親しみを込めて「お不動さん」と呼ばれている。滝の名「不動滝」も、ここに由来するといわれる。

かつて、高野山から大峯山へ向かう修験者たちは、この「お不動さん」に参拝して旅の安全と行の成就を祈ったと伝えられている。

| 名 称 | 不動滝 |
| 所在地 | 奈良県吉野郡天川村広瀬 |
| 駐車場 | なし |
| Link | 不動滝 | 天川村 すずかけの道 | 天川村 |
◆ あとがき
天川村では、すずかけの道を巡るモデルコースが紹介されており、次のような順路で歩くことができる。
伊波多神社【いはたじんじゃ】は、すずかけの道(県道53号)を下った天ノ川のほとりに建つ、1100年以上の歴史をもつ古社である。この神社には、次のような伝説が伝わっている。
かつて、神社裏の明神淵で村人が光るものを見つけ、引き上げてみると一口の剣であった。村人たちはその剣を氏神の御神体として祀ってきたが、後にそれが後醍醐天皇の御用剣であったと伝えられている。 しかし幕末の天誅組の変の際、この地域でも武具の徴発が行われ、御神体の剣も徴発されてしまい、現在は失われているという。まことに惜しい話である。
また、すずかけの道沿いには「菩提樹」の案内板があり、それを目印に進むと一本の菩提樹【ぼだいじゅ】に出会う。地元では、この木の実で数珠を作ったことから「ジュズの木」とも呼ばれている。この菩提樹にも、弘法大師空海にまつわる伝説が残されている。
弘法大師が持っていた杖を地面に突き立てたところ根付いて成長したとも、落とした数珠から芽が出て菩提樹になったとも言われており、いずれも空海ゆかりの地らしい物語である。
私はまだ伊波多神社と菩提樹を訪ねていない。次にすずかけの道(県道53号)を走る機会があれば、ぜひ立ち寄ってみたいと思っている。