タグ: 宝剣岳

  • 中央アルプスと御嶽山を歩く──雲上の静けさに出会う旅

    目次
    はじめに
    中央アルプス国定公園の魅力
    木曽駒ヶ岳・宝剣岳・空木岳を歩く
    御嶽山の気配
    山麓の湯けむり
    歩き方のポイント
    中央アルプスの山岳一覧
    寝覚の床
    赤沢自然休養林
    田立の滝
    あとがき

    はじめに

    日本アルプスは、中部地方の3つの山脈(飛騨山脈・木曽山脈・赤石山脈)の総称であるが、各山脈はそれぞれ北アルプス中央アルプス南アルプスと呼ばれることが多くなっている。

    中央アルプス国定公園は、長野県南部に位置する国定公園である。長野県の南部、木曽谷と伊那谷の間に位置し、北は大棚入山から南は恵那山に至る南北延長約50kmの木曽山脈のほぼ全域を領域とする。最高峰は木曽駒ヶ岳(2,956 m)である。

    御嶽山は、飛騨山脈(北アルプス)や木曽山脈(中央アルプス)に属さない独立峰であるが、かつて私は御嶽山が中央アルプスの山であると思っていた。確かに中央アルプスの近くに位置しており、独立峰としてのその雄大な姿から中央アルプスの盟主的な存在と勘違いされても仕方がないかも知れない。

    中央アルプスと御嶽山は、どちらも「静けさ」が魅力の山域である。木曽谷を挟んで向かい合う二つの山は、古くから人々の信仰を集め、山岳文化を育んできた。本稿では、中央アルプスの稜線を歩き、御嶽山を望む絶景に出会い、山麓の温泉で心を整える──そんな大人の山旅を紹介したい。


    中央アルプス国定公園の魅力

    ──稜線に広がる天空の世界

    中央アルプスは、花崗岩の白い岩肌が美しい山域で、稜線に出ると一気に「天空の世界」が広がる。 木曽駒ヶ岳や宝剣岳は、標高こそ3000mに満たないが、展望の広さは北アルプスにも引けを取らない。 特に、御嶽山を正面に望む稜線は、雲海の向こうに霊峰が浮かび上がるような、静かで雄大な風景が続く。


    木曽駒ヶ岳・宝剣岳・空木岳を歩く

    ──中央アルプスの核心部へ

    千畳敷カールからの登り

    標高2,600m付近の千畳敷カール付近には高山植物のお花畑が広がる。千畳敷までは駒ヶ岳ロープウェイで簡単に行くができ、遊歩道も整備されている。

    ロープウェイで一気に高度を上げると、目の前に広がるのは千畳敷カールの大景観。 花崗岩の白い岩肌と高山植物の群落が美しく、初夏にはお花畑が広がる。

    名 称中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイ
    所在地駒ヶ根市赤穂759-489
    Link駒ヶ岳ロープウェイ

    中岳・木曽駒ヶ岳へ

    中岳を越えると、木曽駒ヶ岳の広い山頂が見えてくる。 山頂からは御嶽山が大きく姿を現し、雲海の向こうに霊峰が浮かぶような展望が広がる。

    木曽駒ヶ岳(標高2,956m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、将棊頭山の南側に位置する、中央アルプス最高峰の山である。

    木曽駒ヶ岳には、雪解けの時期にはいくつかの雪形【ゆきがた】(残雪模様)が見られ、昔から農業の目安にされてきた。中岳には山名の由来にもなっている駒(馬)の形が現れるという。

    また、極楽平の南側には島田娘と種蒔き爺なども現れるという。


    宝剣岳の岩稜

    宝剣岳【ほうけんだけ】は中央アルプスを象徴する岩峰で、迫力ある岩稜が続く。 慎重な歩行が求められるが、山頂からの展望は格別で、御嶽山・南アルプス・八ヶ岳が一望できる。

    宝剣岳(標高2,931m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、木曽駒ヶ岳の南側に位置する山である。宝剣岳は、古から信仰登山の対象であった。山名は、山岳信仰によるものとされている。その南側の主稜線の先は空木岳へと続く。

    国内有数の圏谷である東麓の千畳敷カールから見上げると、宝剣岳は大きく急峻な岩峰として望むことができる。中央アルプスの代表的な風景として観光ポスターによく載せられて構図である。


    宝剣岳から檜尾岳へ

    檜尾岳【ひのきおだけ】(標高2,728m)は、木曽駒ヶ岳から空木岳への主稜線の中間に位置する山である。山頂付近は、森林限界のハイマツ帯で、高山植物が見られる。


    檜尾岳から熊沢岳へ

    熊沢岳【くまざわだけ】(標高2,778m)は、木曽駒ヶ岳から空木岳への主稜線に位置する山である。山頂付近は森林限界のハイマツ帯で、山頂には大きな花崗岩の尖った岩がある。そして東側斜面には池の平カールがある。

    かつては檜尾岳、熊沢岳、濁澤岳(濁沢大峰)を総称して「前駒ヶ岳」と呼んだ時代がある。


    熊沢岳から東川岳へ

    東川岳【ひがしかわだけ】(標高2,671m)は、木曽駒ヶ岳から空木岳への主稜線にあり、空木岳の北側に位置する山である。東川岳の東側(伊那側)は岩陵帯で、西側(木曽側)はハイマツ帯が広がり、対照的な姿になっている。


    東川岳から空木岳へ

    空木岳【うつぎだけ】(標高2,864m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、宝剣岳の南側に位置する山である。山名は、春に山麓の伊那谷から見上げた時、空木岳頂上の残雪模様(雪形)が卯木【ウツギ】に似ていたことに由来するとの説がある。

    山頂直下の北東には空木駒峰【うつぎこまほう】ヒュッテがあり、その先の稜線上には「駒石」と呼ばれる巨石がある。また、東北東側に広がる空木平【うつぎだいら】カールには空木平避難小屋(無人小屋)がある。


    御嶽山の気配

    ──霊峰が見せる雄大な風景

    御嶽山【おんたけさん】は古くから信仰の対象となってきた霊峰で、山全体に独特の気配が漂う。 山頂部には火山地形が広がり、荒々しさと静けさが同居する。 中央アルプスの稜線から眺める御嶽山は、どこか神々しく、雲海の向こうに浮かぶ姿はまさに「雲上の世界」である。

    御嶽山(標高3,067m)は、長野県と岐阜県に跨る複合成層火山の独立峰である。

    独立峰としての標高は、富士山に次いで2番目に高い。山頂には一等三角点と御嶽神社奥社がある。

    古から山岳信仰の対象の山であり、いくつもの峰を連ねて聳える活火山である。木曽川水系の源流の山でもある。神聖な信仰の山であるが、木曽を代表する山として多くの人に親しまれている。ただし、火口から概ね1kmの範囲は立入禁止区域である。

    木曽山脈は国定公園に指定されているが、御嶽山は国定公園には指定されていない。但し、長野県側は御岳県立公園、岐阜県側は御嶽山県立自然公園に指定されている。

    周辺地域は木曽檜【キソヒノキ】を主とする林業が盛んである。

    名 称木曽御嶽山
    所在地長野県木曽町三岳瀬戸ノ原
    駐車場あり(無料)
    Link御嶽山
    おんたけロープウェイ

    山麓の湯けむり

    ──木曽谷の温泉で癒される時間

    山旅の締めくくりには、木曽谷の温泉がふさわしい。 木曽福島温泉や開田高原の湯は、静かな山里に佇み、歩き疲れた身体をゆっくりと癒してくれる。 湯けむりと山の香りが混じる時間は、旅の余韻を深めてくれる。


    歩き方のポイント

    ──シニア世代の登山者にも安心のガイド

    • ロープウェイ利用で無理のない山旅が可能
    • 宝剣岳周辺は岩稜が続くため慎重な歩行が必要
    • 御嶽山は火山地形のため天候判断が重要
    • 木曽谷の温泉と組み合わせることで、ゆったりとした旅程が組める
    • 稜線は風が強いため防風対策を忘れずに

    中央アルプスの山岳一覧

    中央アルプスには下表のような山々がある。最高峰は、木曽駒ヶ岳(標高2,956m)である。

    山岳名標高(m)
    大棚入山2,375
    将棊頭山2,730
    木曽駒ヶ岳2,956
    宝剣岳2,931
    檜尾岳2,728
    熊沢岳2,778
    東川岳2,671
    空木岳2,864
    南駒ヶ岳2,841
    越百山2,614
    奥念丈岳2,303
    安平路山2,363
    摺古木山2,169
    恵那山2,191

    大棚入山【おおだないりやま】(標高2,375m)は、中央アルプス北端に位置する山である。山体は大きく国道19号線からも見えるが、山頂部は針葉樹に覆われていて展望はないらしい。分水嶺【ぶんすいれい】となっていて、降水は東西に分けられる。東側は犀川【さいがわ】上流の奈良井川(信濃川水系)へ、西側は木曽川水系の濃ヶ池川へと流れ込んていく。

    将棊頭山【しょうぎかしらやま】(標高2730m)は、大棚入山の南側、木曽駒ヶ岳の北側に位置する山である。山の姿が将棋の駒に似ているところからこの山名がついたとされる。将棊頭山も分水嶺で、山頂に降った雨は、東側は天竜川、西側は木曽川へと流れていく。

    南駒ヶ岳【みなみこまがたけ】(標高2,841)は、木曽山脈の主稜線上にあり、空木岳の南側に位置する山である。山頂付近には花崗岩の岩が乱立し、山頂からは360度の展望が開ける。北側の空木岳、南側の越百山へと続く中央アルプスの主稜線が美しい。山頂の東側には摺鉢窪【すりばちくぼ】カールがあり、摺鉢窪避難小屋が建っている。カール付近の森林限界になっているハイマツ帯には高山植物のお花畑が広がっている。

    越百山【こすもやま】(標高2,614m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、南駒ヶ岳の南側に位置する山である。ハイマツに覆われた山頂部は見晴らしが良く、東側に南アルプスの峰々と、その稜線越しに富士山が見えるという。さらに西側には白山、御嶽山、乗鞍岳、穂高岳などの北アルプスの峰々も望むことができるらしい。

    奥念丈岳【おくねんじょうだけ】(標高2,303m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、越百山の南側に位置する山である。越百山から南下してきた木曽山脈の主稜線はここから南西方向と東方向へと尾根が分かれる。南西方向の尾根は安平路山へと向かい、東方向の尾根の先には念丈岳【ねんじょうだけ】(標高2,291m)がある。尚、奥念丈岳への一般登山道はないらしい。

    安平路山【あんぺいじやま】(標高2,363m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、奥念丈岳の南西に位置する山である。越百川(木曽川の支流)、与田切川と飯田松川(天竜川の支流)の源流の山である。山頂部は、森林限界に達しない標高のため、針葉樹林とクマザサで覆われている。そのため展望は期待できないという。

    摺古木山【すりこぎやま】(標高2,169m)は、木曽山脈の主稜線上にあり、安平路山の南西に位置する山である。山頂には一等三角点が設置されている。

    恵那山【えなさん】(標高2,191m)は、木曽山脈の主稜線上の最南端に位置する山である。山頂部には、一等三角点、展望台、恵那神社奥宮本社がある。山頂展望台は、周囲にトウヒやコメツガなどの背が高い針葉樹林があるため、展望はあまり良くないという。中津川支流である黒井沢からの登山道と主稜線の合流点には、恵那山頂避難小屋がある。その裏の岩場からは、北アルプス、御嶽山、中央アルプス、南アルプス、富士山などの展望が得られる。


    寝覚の床

    寝覚の床【ねざめのとこ】は、木曽川によって花崗岩が侵食されてできた自然地形の景勝地で、国の名勝にも指定されている。

    寝覚の床へは赤沢自然休養林に行った際に立ち寄った記憶が残っている。その際にはまだ幼かった娘たちが足を滑らして川に落ちないか心配で自分自身がゆっくりと大自然による造形物を鑑賞する気持ちの余裕がなかった。

    シニアとなり子育てからも解放された今ならゆっくりと心行くまで鑑賞できるだろう。再訪してみたいものである。

    名 称寝覚の床
    所在地長野県上松町大字小川
    駐車場あり(無料)
    Link寝覚の床 – 上松町観光サイト

    赤沢自然休養林

    赤沢自然休養林は、林野庁中部森林管理局管轄の国有林で、樹齢300年超の木曽檜【キソヒノキ】の天然林があり、赤沢美林とも呼ばれている。森林を構成する樹木の種類は、木曽檜を中心とした針葉樹であるが、サワラ、ネズコ(クロベ)、アスナロ(ヒバ)、コウヤマキなども生育している。

    元々は伊勢神宮などの御神木や建築用材を産出する森林地であったという。明治になって皇室財産の御料林となり、戦後は国有林に編入されたという。長年、木材を出荷していたが、外材の輸入増加にともなう林業不振によって、全国初の自然休養林として公園地となった。そのため日本における「森林浴発祥の地」として知られるようになった。

    全8つのバリエーションに富んだ森林浴コースが開放されているので、幼児から大人まで幅広い年齢層が楽しめるように工夫されている。

    公園内にはかつて利用されていた木曽森林鉄道の車両が保存されており、週末には乗車体験ができるようになっている。

    名 称赤沢自然休養林
    所在地長野県木曽郡上松町小川
    小川入国有林
    駐車場あり(有料)(開園:原則、
    GWから11月初旬まで)
    Link赤沢自然休養林:林野庁
    赤沢自然休養林 |上松町観光

    田立の滝

    田立の滝【ただちのたき】は、大滝川の峡谷にかかる、うるう滝、らせん滝、洗心滝【せんしんだき】、霧ヶ滝、天河滝【てんがだき】、不動滝、そうめん滝など多くの滝の総称である。長野県の名勝に指定されている。

    主たる滝の一つである天河滝は、落差が40mの滝で、花崗岩の壁を大滝川本流が崩れるように落ちる。その様子は圧巻で、かつて里人たちはこの天河滝を神聖視し、雨乞い神事をするとき以外には立ち入らなかったと言われている。

    名 称田立の滝
    所在地長野県木曽郡南木曽町田立
    駐車場あり(無料)粒栗駐車場
    Link田立の滝|日本の森滝渚

    あとがき

    本稿を書きながら、私は中央アルプスの山にはこれまで一度しか登っていないことに改めて気付かされた。 それも、木曽駒ヶ岳や空木岳の周辺を歩いた程度で、中央アルプスの稜線をじっくり味わったとは言い難い。

    体力が衰えた今となっては、かつてのように長い縦走をすることは難しい。しかし、千畳敷までは駒ヶ岳ロープウェイで簡単にアクセスできる。 木曽駒ヶ岳や宝剣岳なら、もう一度ゆっくり歩いてみたい──そんな思いが静かに湧いてくる。 登山をしないとしても、整備された遊歩道を歩き、千畳敷カールの雄大な景観に身を置くだけでも十分に心が満たされるだろう。

    中央アルプスと御嶽山は、若い頃に歩いたときと、シニアになってから歩くときとで、きっと違う姿を見せてくれる。 稜線を渡る風、御嶽山が放つ霊峰の気配、木曽谷に漂う静けさ── そのどれもが、今の自分にそっと寄り添い、歩くほどに山との距離がゆっくり縮まっていくように感じられる。

    だから私は、またこの山域を訪れたくなる。 雲上の静けさに包まれた時間は、旅の終わりとともに心の奥にそっと残り、次の山旅への静かな呼び水となる。

    山は、訪れるたびに違う表情を見せてくれる。その変化に気付けるようになったことこそ、歳を重ねた旅の豊かさなのかもしれない。


    参考資料
    ヤマケイアルペンガイド 中央アルプス・御嶽山・白山
    (山と渓谷社、2021.12.18発行)
    中央アルプス(山と渓谷社、2009.06.27発行)

    関連記事

    中部山岳国立公園を歩く──天空の自然美と名瀑・名湯に癒される旅
    北アルプスの高原を歩く──秘湯に癒される静かな旅
    南アルプス国立公園を歩く──天空の静けさと湯けむりに癒される旅
    南・中央アルプスの展望台──しらびそ高原を歩く