◆ はじめに
愛知県には、渥美半島・南知多・段戸高原・振草渓谷・本宮山・桜淵・石巻山多米の七つの県立自然公園が指定されている。その中で本稿で取り上げるのは、本宮山県立自然公園である。
本宮山県立自然公園は、霊峰として古くから信仰を集める本宮山【ほんぐうさん】を中心に、山麓のくらがり渓谷、戸津呂、さらに周辺の巴山・雁峰山などの山々、そして巴川・寒狭川といった河川を含む広大な自然公園である。山岳景観と渓谷美が重なり合い、静けさと清流の気配が心地よい地域だ。

私がこの県立自然公園に興味を抱いたのは、娘たちが幼い頃に連れて行った「くらがり渓谷」が、この公園の指定区域に含まれていると知ったことがきっかけである。家族の思い出の場所が、県立自然公園として守られていることを知り、あらためてその風景を訪ねてみたいと思うようになった。
本宮山
本宮山【ほんぐうさん】(標高789m)は、愛知県の岡崎市・豊川市・新城市にまたがる山である。山一帯は大きな杉が生い茂っている。本宮山の山頂近くには、かつて三河国と呼ばれていた頃の一宮である砥鹿神社の奥宮が鎮座している。
本宮山スカイラインが山頂近くまで通っているのでアクセスは容易である。
本宮山は「三河富士」と呼ばれる美しい山であるが、山頂にはアンテナが林立しているので見晴らしは悪い。山頂からわずかに三河湾を望むことができる程度である。奥宮へ上がる石段の途中には富士山が見える場所もあるというが天候次第である。
砥鹿神社・奥宮
砥鹿神社【とがじんじゃ】は、愛知県豊川市にある神社で、東海地方の総鎮守として崇敬される。御祭神は大己貴命【おおなむちのみこと】(=大国主命【おおくにぬしのみこと】)である。
本宮山(標高789m)の山頂近くに奥宮【おくみや】が鎮座し、山麓にも里宮(豊川市一宮町西垣内)が鎮座する。
| 名 称 | 砥鹿神社・奥宮 |
| 所在地 | 豊川市上長山町本宮下4 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 砥鹿神社奥宮 | 愛知県の観光 砥鹿神社|三河國一之宮 |
本宮山スカイライン
本宮山スカイラインは、愛知県新城市の作手保永から作手白鳥に至る延長11.6kmの道路である。かつては有料道路であったが、現在は「愛知県道526号本宮山作手保永線」および「愛知県道527号本宮山作手白鳥線」として県道に認定されている。

県道に移管後も、「本宮山スカイライン」の名称は道路の愛称として残されているようだ。
本宮山山頂入口を通過する道路であるため、天候に恵まれれば、眼下に三河湾を、遠望に富士山まで見ることができるという。
| 名 称 | 本宮山スカイライン |
| 所在地 | 新城市作手保永 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 本宮山スカイライン | 奥三河 本宮山スカイライン (新城市) |
くらがり渓谷
闇苅渓谷【くらがりけいこく】は、愛知県岡崎市を流れる乙川【おとがわ】の上流部に位置する渓谷で、「くらがり渓谷」と表記されることが多い。くらがり渓谷は、ちょうど本宮山の北西斜面に位置している。

くらがり渓谷へは夏は涼しい清流とカジカの声を聴くつもりで行ったが、「マスつかみ」などの川遊びの方が好評であった。

この「マスつかみ」は意外に面白く、娘たちと一緒にやってみると大人でも夢中になるものである。

マスが泳いでいるのを初めて観た幼い娘たちは最初は見ているだけであったが、すぐに娘たちも積極的に参加するようになった。

マスは網ですくうより「手づかみ」の方が断然、面白い。

一般にはマスを「手づかみ」することは容易ではない。しかし、ここでは放流されているマスの数が多いので「手づかみ」できると錯覚してしまう。

私の幼い娘たちも水遊びと「マスつかみ」が融合した初めての体験に夢中になって楽しんでいたようだ。

結構大きなマスも放流されており、「手づかみ」できそうで、それが容易にできないところが絶妙に楽しいのである。

水深もそれほど深くなく、幼い子供たちを遊ばせても比較的安全であり、なによりも家族全員で楽しめるのが良い。

大人も童心に戻り、娘たちと一緒に「マスつかみ」参加し、大いに楽しんだ想い出が私にもある。

獲れたマスは宿で料理してもらうことができ、美味しく食することができる。
くらがり渓谷は、その名のとおり日中でもあまり直射日光が届かないので、世間が熱中症を心配するような季節でも涼しい。まさに家族連れの夏のアウトドアの遊びには最適であると思う。
| 名 称 | 闇苅渓谷(くらがり渓谷) |
| 所在地 | 愛知県岡崎市石原町 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | くらがり渓谷:林野庁 くらがり渓谷|岡崎市 |
巴山
巴山【ともえさん】(標高719m)は、愛知県の新城市作手清岳【つくできよおか】、作手高里【つくでたかさと】と岡崎市千万町町の境界にある山である。巴山の頂上近くには白髭神社が鎮座する。
また、歌人としても有名な藤原俊成が国司として三河国へ赴任した際に、三河国の由来が豊川水系巴川・矢作川水系巴川・男川の3つの河であると聞き、これら3つの河の歌を詠んだとされる。この和歌の歌碑が巴山頂上近くにあるという。
| 名 称 | 巴山 |
| 所在地 | 岡崎市千万町字巴山 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 巴山三川分流碑・巴山 |
雁峰山
雁峰山【かんぽうやま】(標高628m)は、愛知県新城市に位置する山である。
武田軍と徳川・織田軍が戦った「長篠の戦い」(1575年)で、武田軍に包囲された徳川方の長篠城・城主貞昌の命を受けて鳥居強右衛門【とりいすねえもん】が夜半に城を抜け出し、豊川を下って脱出し、家康・信長に援軍要請し、長篠城で籠城している仲間に知らせるために狼煙を上げた山が雁峰山だということを、私は今年放映中のNHK大河ドラマ「どうする家康」を観て、はじめて知ることができた。
雁峰山の山麓には「長篠の戦い」の歴史資料館があるらしいので、是非、立ち寄ってみたいものだ。
| 名 称 | 雁峰山 |
| 所在地 | 新城市須長 |
| Link | 雁峰山登り口 | 奥三河観光 |
◆ あとがき
童心【どうしん】に戻るとは、「子どものような純真さや無邪気さを取り戻すこと」を意味する。人は年齢を重ねるにつれ、身体だけでなく心も成長し、子どもの頃の曇りのない気持ちは次第に薄れていく。社会の常識や世間体、責任や役割といった“大人の事情”が心の中に積み重なり、無邪気さはいつしか奥深くにしまわれてしまう。
だからこそ、大人になってからふと「童心に戻りたい」と願う気持ちは、多くの人の心の奥に静かに同居しているのだと思う。童心に戻るとは、大人の精神を一時的に解き放ち、純粋な気持ちで世界を見つめ直すことなのかもしれない。
シニア世代となった今、私は自分が童心に戻って遊んだ経験がほとんどないように感じていた。しかし、よく思い返してみれば、幼い娘たちと過ごした時間の中に、確かに童心へ戻る瞬間があった。愛知県の本宮山県立自然公園に含まれる「くらがり渓谷」で、娘たちと水辺を歩き、夢中になって遊んだあの時間──あれはまさしく童心に戻っていた瞬間だった。
大人が童心に戻るのは、子どもと一緒のときがいちばん自然だと私は思う。子どもと遊ぶことで、大人がまとっている“鎧”がふっと軽くなり、無意識のうちに純粋な気持ちを取り戻している。子育ては確かに大変だが、見方を変えれば、子どもたちによって私たちは大人として成長させてもらい、同時に童心へと導いてもらっていたのだ。
シニア世代となった今、私には自由な時間がある。しかし、人間には寿命があり、残された時間は日々静かに減っていく。その中で私は、童心に戻って夢中になれるものを探し始めている。それが旅であるのか、別の何かなのかはまだ分からない。ただ、何かに心を奪われる瞬間を探すこと自体が、すでに一つの「旅」なのかもしれない。