神話の森を歩く──スサノオお手植えと伝わる八坂神社の大杉

<目次>
はじめに
八坂神社の由緒
八坂神社を歩く
杉の大杉
あとがき



◆ はじめに



高知県大豊町に、樹齢数千年ともいわれる巨杉があることをご存じだろうか。 その名は「杉の大スギ」。国の特別天然記念物に指定された日本有数の巨樹であり、八坂神社の御神木として大切に守り継がれてきた。

古くから素戔嗚尊(スサノオ)のお手植えと伝えられ、人々の信仰を集めている。 巨木を訪ねる旅の魅力は、その大きさに驚くだけではない。長い歳月を生き抜いてきた姿に接すると、自分が歩んできた人生や、これから流れていく時間についても静かに思いを巡らせることができる。

今回は、高知県大豊町の八坂神社を訪ね、悠久の時を刻む「杉の大スギ」と、美空ひばりゆかりの地を歩いてみたい。


八坂神社の由緒

高知県大豊町に鎮座する八坂神社は、延喜12年(912年)、京都から訪れた武士・杉本太郎義家が、境内にそびえる巨杉の根元に祇園牛頭天王(素戔嗚尊)、貴船大明神、行基菩薩の三尊像を祀ったことに始まると伝えられている。

主祭神の素戔嗚尊(須佐之男命)は、日本神話に登場する神で、伊邪那岐命(イザナギ)と伊邪那美命(イザナミ)の御子神である。古くから厄除けや疫病退散の神として信仰され、全国の八坂神社や祇園信仰の中心的な祭神としても知られている。

また、須佐之男命は『古事記』や『日本書紀』に描かれる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治の神話で広く知られている。出雲の国で生贄にされようとしていた櫛名田比売(くしなだひめ)を救い出し、大蛇を退治した後に彼女と結ばれるという、日本神話を代表する英雄譚である。

八坂神社と聞くと、京都・東山区にある「祇園さん」こと八坂神社を思い浮かべる人が多い。しかし、この大豊町の八坂神社は、境内に立つ国指定特別天然記念物「杉の大杉」で全国的に知られている。

この御神木は、須佐之男命(スサノオ)が太古の昔に自ら植えたと伝えられている巨杉である。杉の大杉は「南大杉」と「北大杉」の二株から成り、根元で一体となっていることから「夫婦杉」とも呼ばれている。

樹齢は約3,000年ともいわれ、南大杉は樹高約60メートル、北大杉は樹高約57メートルを誇る。その堂々たる姿は、日本一の大杉とも称される。 古来より地域の人々の信仰を集めてきたこの巨樹は、現在も八坂神社の象徴として大切に守り継がれている。

御神木の前で願い事をすると叶うとも伝えられ、多くの参拝者が訪れる大豊町屈指のパワースポットとなっている。


八坂神社を歩く

高知県大豊町にある八坂神社は、国の特別天然記念物「杉の大スギ」を御神木として祀る神聖な社である。高知自動車道・大豊ICから車で約5分、JR土讃線・大杉駅から徒歩約15分とアクセスも良い。

境内に足を踏み入れると、長い年月を生き抜いてきた巨杉の圧倒的な存在感に目を奪われる。さらに、美空ひばりゆかりの歌碑や、地域の人々に親しまれてきた社殿もあり、自然と歴史、そして信仰が調和した空間をゆっくりと巡ることができる。


● 杉の大杉(夫婦杉)

八坂神社最大の見どころが、国指定特別天然記念物「杉の大スギ」である。根元でつながった南大スギと北大スギの二株からなり、「夫婦杉」とも呼ばれている。

南大スギは根回り約20m・樹高約60m、北大スギは根回り約16.5m・樹高約57mを誇り、推定樹齢は2,000年から3,000年ともいわれる。

見上げれば空を覆うような枝葉が広がり、その圧倒的なスケールと神々しい佇まいに、思わず言葉を失う。古くから信仰の対象となってきた理由を、肌で感じられる場所である。


● 社殿と自然石の恵比須像

巨杉の傍らには八坂神社の社殿が静かに鎮座している。森に包まれた境内は凛とした空気に満ち、参拝者の心を落ち着かせてくれる。

境内には「日本一の自然石の恵比須様」と呼ばれる恵比須像も祀られており、「声に出して願い事をすると願いが叶う」と伝えられている。参拝の際には、ぜひ足を止めて手を合わせたい。


● 美空ひばりの遺影碑・歌碑

八坂神社は、昭和を代表する歌手・美空ひばりゆかりの地としても知られている。 1947年(昭和22年)、9歳だった美空ひばりは地方巡業中に大豊町でバス事故に遭い、九死に一生を得た。

その後、この「杉の大スギ」に参拝し、「日本一の歌手になれますように」と願をかけたと伝えられている。帰京後はその願いどおり国民的歌手への道を歩み、14歳の時には再びこの地を訪れている。

その縁を記念して、境内には「大杉の苑」が整備され、美空ひばりの遺影碑と歌碑が建立された。遺影碑の前に立つと、今なお多くの人々に愛され続ける歌声と、その波瀾万丈の人生に思いを馳せることができる

名 称八坂神社
所在地高知県長岡郡大豊町杉794
アクセス高知道「大豊IC」から車で約5分
駐車場あり(無料)

杉の大杉

八坂神社の御神木として知られる杉の大杉は、「南大スギ」と「北大スギ」の二株からなる巨杉の総称である。

いずれも推定樹齢は約3,000年ともいわれ、国の特別天然記念物に指定されている。古くから素戔嗚尊(スサノオ)のお手植えと伝えられ、多くの人々の信仰を集めてきた。

二株を比べると、南大スギの方がわずかに大きい。南大スギは樹高約60メートル、幹周約20メートルを誇り、北大スギは樹高約57メートル、幹周約16.5メートルである。

数値だけを見れば南大スギが勝っているように思えるが、実際に目の前に立つと、その違いを見分けるのは容易ではない。 天を突くようにそびえ立つ二本の巨杉は、まさに圧巻の一言である。

見上げれば首が痛くなるほどの高さがあり、長い歳月を生き抜いてきた生命力と風格に圧倒される。南大スギと北大スギが寄り添う姿は「夫婦杉」とも呼ばれ、人々から親しまれている。

樹齢数千年ともいわれる巨木の前に立つと、人の一生がいかに短いものであるかを感じさせられる。八坂神社を訪れたなら、ぜひ足を止め、悠久の時を刻んできた杉の大杉の息吹を感じていただきたい。


◆ あとがき



八坂神社の「杉の大スギ」は、単なる観光名所ではなかった。 数千年という気の遠くなるような歳月を生き続けてきた巨木の前に立つと、人間の歴史や人生の長ささえ小さく感じられる。

その一方で、私たちが日々積み重ねてきた時間もまた、決して無意味ではないことを静かに教えてくれるようであった。 古代から人々の祈りを見守り続けてきた夫婦杉、美空ひばりの夢を受け止めた杉の大スギ、そして静寂に包まれた八坂神社の境内。そこには、現代人が忘れかけている「自然への畏敬」と「祈る心」が今も息づいている。

もし高知を訪れる機会があれば、ぜひ大豊町まで足を延ばしてみてほしい。巨杉を見上げながら深呼吸をすると、はるか昔から続く大きな時間の流れの中に、自分自身が生かされていることを感じられるだろう。




【関連記事】

飛鳥京から長岡京へ──古代国家の歩みをたどる
日本国家の原点を訪ねる・飛鳥京──古代国家形成の舞台
都城の時代を開いた藤原京──日本初の本格都城
国際都市として栄えた平城京──日本初のコスモポリス
平安京への道を開いた長岡京──新時代への転換を試みた都城
御墓山古墳を歩く──古墳に眠る人々の姿を想う旅
美旗古墳群を歩く──古墳に眠る人々の姿を想う旅
石山古墳を歩く──古墳に眠る人々の姿を想う旅