はじめに
北海道のオホーツク海沿いに広がる 網走国定公園 は、花と湖と風が織りなす、どこか懐かしい“原風景”が残る場所である。 春から夏にかけては可憐な花々が草原を彩り、サロマ湖や濤沸湖の静かな水面には空の光がやわらかく映り込む。 そして海から吹き抜ける風が、湖畔の景色に独特の透明感を与えてくれる。
歩き始めると、湖のほとりに広がる湿原、草原に咲く野の花、 そして遠くまで続くオホーツクの青い空が、ゆっくりと視界に広がっていく。 派手さはないが、自然が本来持つ素朴な美しさが、静かに心に染み込んでくる風景である。
人生の後半を歩む旅人にとって、 この“花と湖と風が描く静かな原風景”は、深呼吸したくなるような癒しを与えてくれる。 本稿では、網走国定公園が見せる穏やかな風景を、ゆっくりと辿っていきたい。
網走国定公園
網走国定公園は、オホーツク海に面する北海道北部海岸部に位置し、サロマ湖をはじめとする大小7つの湖沼と砂丘、草原(原生花園)、丘陵からなる地域に設定された国定公園である。
道北エリアに属する地域の旅であるため、女満別空港でレンタカーを借りての旅となる。北海道の雄大な大自然が感じられるスポットであり、オホーツク海の海岸を堪能できる旅になるはずだ。
サロマ湖
サロマ湖は、日本最大の汽水湖【きすいこ】である。汽水湖というのは海水と淡水が入り交じっている湖のことである。有名な汽水湖には浜名湖や宍道湖などがある。サロマ湖は、北海道内では最大の湖沼面積を誇る湖であり、琵琶湖や霞ヶ浦に次いで日本で3番目に大きい湖でもある。

幌岩山【ほろいわさん】(標高376m)の山頂には、サロマ湖の全景を眺望できるサロマ湖展望台がある。幌岩山はサロマ湖の南側に位置するため、サロマ湖の全景が見える唯一無比の展望台と言える。
| 名 称 | サロマ湖展望台 |
| 所在地 | 北海道佐呂間町字浪速 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | サロマ湖展望台|北海道 |
ワッカ原生花園

ワッカ原生花園【わっかげんせいかえん】は、サロマ湖のオホーツク海側の砂州に位置する原生花園である。

原生花園とは、人為的に手を加えず自然のままにした状態でも色鮮やかな花が咲く、湿地帯や草原地帯のことである。独特の植生が見られるため「自然の花畑」と呼ばれることもある。



ワッカ原生花園では、ハマナス、エゾスカシユリ、ハマヒルガオ、ハマボウフウなど300種以上の草花が見られるという。


私たちがワッカ原生花園を訪れた時期はハマナスの開花から少し遅かったようで、ハマナスの大半は結実していた。






砂州には「龍宮街道」と名付けられた道が整備されていて、ワッカネイチャーセンターのレンタサイクルでサイクリングを楽しむこともできる。




ワッカ原生花園の「ワッカ」の名の由来は、アイヌ語で「飲み水があるところ」を意味する「ワッカオイ(wakka-o-i)」が略されたものとされている。


ワッカ原生花園は、小清水原生花園と共に北海道遺産に選定されている。

| 名 称 | ワッカ原生花・ ワッカネイチャーセンター |
| 所在地 | 北見市常呂町字栄浦242-1 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | サロマ湖ワッカ原生花園 |
能取湖
能取湖【のとろこ】は、オホーツク海に通じる海跡湖である。海跡湖とは、かつて海であった場所が外海から隔離されてできた湖のことである。かつては海水流入部の湖口が季節的に開閉していたために汽水湖であったらしいが、現在は護岸工事によって完全な海水湖となっている。
湖名はアイヌ語の「ノッ・オロ」(岬のところ)に由来する。能取湖の北東側には能取岬があり、この岬に近い湖の意であるらしい。能取半島の能取岬にかけての海岸には海食崖が見られ、半島の内陸側は森林に覆われている。
| 名 称 | 能取湖 |
| 所在地 | 北海道網走市卯原内 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 能取湖/北海道の観光 |
網走湖
網走湖【あばしりこ】は、オホーツク海からの海跡湖であり、一部は地盤の沈降によってできている。海跡湖とは、かつて海であった場所が外海から隔離されてできた湖のことである。網走湖は汽水湖であり、シジミの産地としても有名である。
北海道東北部に位置し、南から網走川が流れ込み、女満別川などを集めて北東部から再び網走川としてオホーツク海に注ぐ。東岸には呼人半島【よびとはんとう】が大きく突き出ている。
| 名 称 | 網走湖 |
| 所在地 | 北海道網走市 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 網走湖/北海道の観光 |
天都山
天都山【てんとざん】(標高207m)は、網走湖の北東に位置する山であり、山頂には展望台が設置されている。展望台からは、網走湖や能取湖、オホーツク海、知床半島や知床連山まで望むことができる。天都山は国の名勝に指定されている。
展望台に隣接してオホーツク流氷館と、およそ1000本のエゾヤマザクラが植栽された天都山さくら公園がある。
| 名 称 | 天都山展望台・ オホーツク流氷館 |
| 所在地 | 網走市天都山245番地1 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | オホーツク流氷館 |
濤沸湖
濤沸湖【とうふつこ】は、オホーツク海の海跡湖で、砂州が発達し細長い砂丘によってオホーツク海から遮断されているが、北西端でオホーツク海とつながっているため汽水湖となっている。
| 名 称 | 濤沸湖 |
| 所在地 | 北海道小清水町浜小清水、 網走市 |
| 駐車場 | なし(白鳥公園駐車場利用) |
| Link | 濤沸湖 | 小清水町観光情報 濤沸湖|北海道の観光 |
小清水原生花園
小清水原生花園【こしみずげんせいかえん】は、濤沸湖【とうふつこ】の北側に位置し、オホーツク海に挟まれた砂州の草原地帯に広がる原生花園である。
この原生花園には約40種類の野花が原生する。特に美しいのは6~7月に開花するエゾキスゲ、エゾスカシユリ、ハマナス、ヒオウギアヤメなどである。この時期には普段、殺風景な草原が黄、オレンジ、ピンク、紫などの花で彩られるという。
小清水原生花園は、ワッカ原生花園と共に北海道遺産に選定されている。
| 名 称 | 小清水原生花園 |
| 所在地 | 北海道小清水町浜小清水2番 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 小清水原生花園 | 小清水町 |
藻琴湖
藻琴湖【もことこ】は、濤沸湖【とうふつこ】の西側1kmに位置する、オホーツク海の海跡湖であり、汽水湖である。網走湖とならんでシジミの産地として有名である。
藻琴湖には藻琴川【もことがわ】が流入し、さらにオホーツク海へと流出する。周辺に湿地帯が広がっている。
| 名 称 | 藻琴湖 |
| 所在地 | 北海道網走市藻琴 |
| Link | 藻琴湖の漁業の推移|網走市 |
斜里の雄大な風景
北海道の道路をドライブしていて何が嬉しいかというと私のイメージにある「北海道らしい雄大な風景」に出会えることである。特に農場の風景は北海道の雄大さを説明なしに感じられるので私は好きだ。

斜里町内の国道を走っていたときに思わず駐車してカメラのシャッターを押していた何枚かの写真がある。それはまっすぐに耕した溝が斜里岳の方向に向かって伸びる農場の風景である。

また北海道の牧草地でよく見かける牧草ロールの風景は私のイメージにある「北海道らしい雄大な風景」のストライクゾーンにある。牧草ロール(ロールベール)は牛たちの餌になる牧草の塊である。

牧草ロールは、牧草を刈り取った後、2~3日天日で乾燥した後にロールベーラーという農機でロール状に集められる。



この牧草ロールは黒のビニール袋で覆われる。私は黒ビニールで覆われる前の牧草ロールの風景が好きである。

北海道の牧草地帯を走っているとよく見かける風景であるかも知れない。しかし、天候に恵まれ天日干しが完了してロールベーラーで牧草ロールに仕上がったままの姿を目にすることは私には初めての経験であった。だから写真が撮れて率直に嬉しかった。

◆ あとがき
網走国定公園の風景は、華やかではない。 しかし、湖の静けさ、草原に咲く花の可憐さ、そしてオホーツクの風の透明感── それらが重なり合うことで、心の奥にそっと残る“原風景”が生まれる。
湖畔で感じた風の涼しさ、湿原に揺れる花々の姿、 そして空と湖が溶け合うような柔らかな光。 それらは旅の記憶の中で静かに重なり、深い余韻を残してくれる。
人生の後半を歩む私たちにとって、 無理をせず、自然の中で過ごすひとときは、何よりの贈り物である。 またいつか、花と湖と風が描く静かな原風景を歩きたくなる── 網走国定公園の風景は、そんな思いをそっと呼び起こしてくれる。