カテゴリー: ウェルネスツーリズム

  • 日高山脈襟裳国定公園を歩く──風の岬と花の名峰が描く静かな風景

    目次
    はじめに
    日高山脈襟裳国定公園
    襟裳岬
    襟裳岬灯台
    百人浜
    日勝峠園地展望台
    日高耶馬渓
    黄金道路
    日高山脈
    幌尻岳
    十勝幌尻岳
    札内岳
    札内川園地
    アポイ岳
    あとがき

    はじめに

    北海道の南東部に広がる日高山脈襟裳国定公園は、海と山が近接する独特の地形が生み出す、静かで力強い自然美に満ちている。 太平洋に突き出した襟裳岬は、絶えず風が吹き抜ける荒々しい岬として知られ、 一方でアポイ岳は、標高わずか810メートルながら希少な高山植物が咲き誇る“花の名峰”として多くの人を魅了している。

    岬に立てば、海風が体を包み、波の音が遠くまで響き渡る。 山を歩けば、可憐な花々が足元を彩り、日高山脈の静かな稜線が続いていく。 風と花──まったく異なる自然の表情が、ひとつの公園の中で穏やかに共存している。

    人生の後半を歩む旅人にとって、 この“風の岬と花の山”が描く静けさは、心をゆっくりと整えてくれる。 本稿では、日高山脈襟裳国定公園が見せる静かな風景を、ゆっくりと辿っていきたい。


    日高山脈襟裳国定公園

    日高山脈襟裳国定公園は、北海道の背骨といわれる雄大な日高山脈を中心に、その山系が南に伸びて太平洋に没する襟裳岬の海岸景観などからなる、わが国最大規模の国定公園である。

    引用:日高山脈襟裳国定公園 – 環境生活部自然環境局

    日高山脈は、北海道中央南部に位置し、標高1,500~2,000m級の山々が佐幌岳から襟裳岬にかけて南北に約150kmにわたって連なっている。氷河の痕跡であるカールや、ナイフリッジと呼ばれる稜線の鋭く切れ込んだ地形が特徴的である。日高山脈の山々には一般的な登山コースが整備されておらず、山に近づくには沢登りの技術を要する。最高峰は幌尻岳(標高2,052m)である。

    アポイ岳(標高810m)にはその特異的な地質によるところの固有植物が多く、標高が低いにもかかわらず高山植物の宝庫といわれている。ヒダカソウはアポイ岳の固有種の代表格である。アポイ岳への登山道は整備されているので一般登山家にとっては有難い。

    襟裳岬は、非常に風が強いことと、岬の先端から約1.5kmも続く岩礁で知られているが、私たちが容易にアクセスできるのは襟裳岬ぐらいであろうか。


    襟裳岬

    襟裳岬【えりもみさき】は、日高山脈の南端部に位置し、太平洋に向かって南へ突き出している。地図でみると、北海道の南部の形を大きく特徴づける地形の一部を担っていると言っても過言ではない。襟裳岬の海岸は約1.5kmに渡り岩礁が連続している。

    岬の周囲は高さ60mの断崖絶壁となっており、三段に及ぶ海岸段丘が発達している。また、沖合い7kmまでの海上には岩礁が連なっている。眺望がよく、日高山脈襟裳国定公園の中核を成す観光地になっている。

    沖合で暖流の黒潮(日本海流)と寒流である親潮(千島海流)とがぶつかり、濃霧が発生しやすいという。

    また、風が強いことでも知られる。全国900以上のアメダス観測地点での観測によれば、年平均風速が最も大きいのが襟裳岬であるという。風速10m/s以上の風の日が年間270日(74%)以上もあるという。


    襟裳岬灯台

    襟裳岬灯台【えりもみさきとうだい】は、襟裳岬の先端(標高73m)に立つ白亜の大型灯台で、突端には海食崖や岩礁があって豪壮な景観を呈している。

    この岩礁はゼニガタアザラシの生息地としても知られている。

    名 称襟裳岬灯台
    所在地北海道えりも町えりも岬
    駐車場あり(無料)
    Link襟裳岬灯台 | 北海道
    えりも観光ナビ| 襟裳岬

    百人浜

    百人浜【ひゃくにんはま】は、襟裳岬【えりもみさき】から十勝方面の庶野【しょや】まで続く10~15kmほどの砂浜である。砂浜の名称の由来は、江戸時代に南部藩の御用船が難破し、この浜で息絶えた100人の乗組員にちなんだものだと伝わる。百人浜のバス停前にある一石一字塔は、その供養塔である。

    悲恋の伝説が伝えられる悲恋沼【ひれんぬま】も近くにある。

    名 称百人浜
    所在地北海道幌泉郡えりも町庶野
    駐車場あり(無料)
    Linkえりも観光ナビ| 百人浜
    百人浜展望台

    日勝峠園地展望台

    日勝峠【にっしょうとうげ】は、道央と道東を結ぶ交通の要衝上にある峠である。

    日勝峠は、標高1,022mの位置にあり、植生環境から見れば本州の標高3,000m級に匹敵する環境となっている。そのために峠越えは走行条件の厳しいものであった。この峠越えの負担軽減を図るために、平成23年(2011年)に道東自動車道が道央圏までトンネルでつなげられた。

    名 称日勝峠園地展望台
    (第一展望台)
    所在地北海道清水町清水
    駐車場あり(無料)
    Link日勝峠展望台(北海道清水町
    日勝峠十勝平野展望台

    日高耶馬渓

    日高耶馬渓は、様似町冬島から幌満にかけて約6kmも続く断崖絶壁の海岸線である。波の浸食でできた海食崖【かいしょくがい】であるが、大分県の景勝地「耶馬渓」にちなんで名づけられたという。

    国道336号線はトンネルが多く、車で走行している分にはその雄大な眺めを見ることはできないので残念である。そこで、旧国道に入ると海岸線から高さ約100mの海食崖の断崖を望むことできるという。

    名 称日高耶馬渓
    所在地北海道様幌満 襟裳国道
    駐車場旧道路肩に駐車可能
    Link日高耶馬渓エリア
    日高耶馬渓 – 北海道

    黄金道路

    黄金道路は、国道336号のルートのうち、えりも町庶野から広尾町音調津までの33.5kmの道路を指す。

    このルートは日高山脈が海岸までせり出し、交通の難所となっていた場所で、断崖を切り開く難工事のために多額の建設費用を要したという。そこで、黄金を敷き詰められるほどに莫大な建設費用が必要であったことから「黄金道路」と呼ばれるようになったというわけである。舗装化だけでも当時の一般的な国道の10倍近い費用を要したと伝わっている。

    名 称黄金道路
    所在地北海道えりも町庶野 ~
    広尾郡広尾町
    Link黄金道路開通|北海道開発
    えりも観光ナビ| 黄金道路

    日高山脈

    日高山脈は日本国内で最も原始的な自然を残しており、固有種や隔離分布する植物を数多く見ることができるのが特徴になっている。一般的な登山コースを整備していないため、登山に関しては難度の高い山域として知られている。

    最高峰の幌尻岳をはじめ、札内岳十勝幌尻岳ペテガリ岳楽古岳など1,500mから2,000m級の山々が連なり、稜線は鋭く切れ込んだナイフエッジになっている。


    幌尻岳

    幌尻岳【ぽろしりだけ】(標高2,052m)は、1300万年前の造山活動で生じた山で、山の上部には第四紀の氷期にできたカールが残っている。日高山脈の最高峰であるが、主稜線上にはなく、西側に少し外れた位置に聳えている。

    山名の由来は、アイヌ語で「大きな山」を意味する「ポロ・シリ」からきている。地元では古来よりカムイ(アイヌ語で神格を有する高位の霊的存在を意味する)として崇められてきた。


    十勝幌尻岳

    十勝幌尻岳【とかちぽろしりだけ】(標高1,846m)は、日高山脈主稜線上のエサオマントタッベツ岳から東に派生する支稜線上に位置する山である。

    山名の由来は、アイヌ語で「大きな山」を意味する「ポロ・シリ」に、所在地である「十勝」を冠したものとされる。登山者からは「カチポロ」の愛称で呼ばれる。


    札内岳

    札内岳【さつないだけ】(標高1,895m)は、十勝幌尻岳と同じく日高山脈主稜線上のエサオマントタッベツ岳から東に派生する支稜線上に位置する山である。

    山名の由来は、この山が札内川の源流となっていることからアイヌ語で「Sat(乾く)nay(川)」を意味しているとされる。


    札内川園地

    札内川園地は、日高山脈の麓に位置し、日高山脈襟裳国定公園の指定区域内にある自然豊かなキャンプ場である。広大な敷地にキャンプ場が整備されており、大自然の中でキャンプを楽しむことができる。

    キャンプ場内には清流日本一に選ばれた札内川が流れ、ピョウタンの滝と呼ばれる落差10mの豪快な滝は、観光客にとって人気の観光スポットになっているという。

    名 称札内川園地
    所在地北海道中札内村南札内713
    駐車場あり(無料)
    Link札内川園地キャンプ場

    アポイ岳

    アポイ岳(標高810m)は、世界的にも珍しいかんらん岩からなる山塊や渓谷、特殊な土壌条件などによって比較的低い標高でありながら高山植物を見ることができる自然環境にある。

    アポイ岳への登山道は整備されているので、私たち一般登山客も登ることが可能である。是非、固有種のヒダカソウなどの高山植物を探しながら登山を楽しみたいものだ。


    あとがき

    大学時代、ワンダーフォーゲル部で山を歩いていた頃の私なら、日高山脈の山々にも挑戦してみたい── そんな思いがふと胸をよぎることがある。しかし、知床半島の羅臼岳で海抜ゼロメートルから沢を詰め、 道なき道を「藪漕ぎ」しながら進んだあの苦い経験を思い返すと、 日高山脈の縦走は、一般の登山者にはあまりにも荷が重いと感じる。 ましてや、体力が衰えた今の私には到底歯が立たないだろう。せめて、花の名峰・アポイ岳をゆっくり登れる体力を保ちたい── そんな控えめな願いが、今の私にはちょうどよいのかもしれない。

    襟裳岬の風は強く、アポイ岳の花々は小さく、そしてどちらも静かに美しい。この公園の魅力は、派手さではなく、自然が本来持つ素朴な力と優しさにある。岬で感じた風の冷たさ、山で見つけた小さな花の輝き、 そして日高山脈の稜線が描く穏やかな曲線── それらは旅の記憶の中で静かに重なり、心に深い余韻を残してくれる。

    人生の後半を歩む私たちにとって、 無理をせず、自然の中で過ごすひとときは、何よりの贈り物である。 またいつか、風の岬と花の名峰をゆっくりと歩きたくなる── 日高山脈襟裳国定公園の風景は、そんな思いをそっと呼び起こしてくれる。


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