投稿者: takaaki.nishioka

  • 北アルプスの高原を歩く──秘湯に癒される静かな旅

    目次
    はじめに
    北アルプスの高原風景
    上高地の清流と森の静けさ
    乗鞍高原の広がり
    弥陀ヶ原での散策
    高天原から雲ノ平へ
    名湯を訪ねる
    白骨温泉
    平湯温泉
    秘湯の魅力
    高天原温泉
    蓮華温泉
    白馬鑓温泉
    鐘釣温泉
    祖母谷温泉
    名剣温泉
    阿曽原温泉
    地獄谷温泉
    湯俣温泉
    高原散策の見どころ
    歩き方のポイント
    北アルプスの高原一覧
    北アルプスの温泉郷一覧
    あとがき

    はじめに

    中部山岳国立公園は、長野、岐阜、富山、新潟の4県にまたがる飛騨山脈北アルプス)を中心とした国立公園である。北アルプスには槍が岳、穂高岳や立山などの標高3,000m級の険しい山岳が連なっている。

    このような険しい山岳のイメージが強い北アルプスだが、山麓に広がる高原は歩きやすく、シニアでも無理なく自然の美しさを味わえる。そして、歩いた先に湧く湯けむりは、旅の疲れをそっとほどき、心を静かに整えてくれる。

    北アルプスは、険しい山岳景観だけでなく、山麓に広がる高原の静けさも魅力である。上高地、乗鞍高原、白馬、栂池──どの高原も歩きやすく、自然の息づかいを身近に感じられる。そして、その高原の近くには、古くから湧き続ける名湯・秘湯が点在し、歩く旅と癒しの旅が自然につながっていく。本稿では、北アルプスの高原を歩きながら、温泉がもたらす癒しの時間を紹介したい。


    北アルプスの高原風景

    ──歩くほどに心が澄む場所

    北アルプスの高原は、標高が高いため空気が澄み、歩くだけで心が軽くなるような爽やかさがある。


    上高地の清流と森の静けさ

    上高地【かみこうち】(標高約1,500m)は、梓川上流に位置する堆積平野で、大正池から横尾までの約10kmの平坦地を指す。梓川に架かる河童橋は、上高地のシンボルとなっている。

    梓川の清流が流れ、穂高連峰がそびえる上高地は、穂高連峰や槍ヶ岳などへの登山基地であることから「北アルプスの玄関口」として知られる。 河童橋からの風景は季節ごとに表情を変え、歩くたびに新しい静けさに出会える。上高地は、温泉もある景勝地となっている。

    私は穂高岳への登山のために上高地には何度がも足を運んでいるが、上高地をゆっくりと散策した経験が少ない。今度は上高地で滞在して、ゆっくりと散策してみたいものだ。

    名 称上高地
    所在地松本市安曇 (上高地)
    Link上高地公式ウェブサイト

    乗鞍高原の広がり

    乗鞍高原【のりくらこうげん】(標高約1,100~1,800m)は、乗鞍岳から東麓に流出した溶岩によって形成された東西に細長い山麓高原である。

    乗鞍高原は乗鞍岳の麓にあるが、どこからでも乗鞍岳が見えるわけではない。乗鞍岳の姿を求めて広い乗鞍高原を散策することになる。しかし、それも楽しいものである。乗鞍岳は見る方角によってその姿を変えるからである。

    乗鞍高原へは夏から秋にかけては避暑や登山が目的で多くの観光客や登山者が訪れる。また、冬はスキー目的のスキーヤーが多く訪れる。複数の温泉が湧出しているので、温泉も楽しむである。

    乗鞍高原には、かつて「風蓮洞」と呼ばれる大学の宿泊施設があった。ワンゲル部に所属していたので、夏は小屋番として滞在したり、冬は冬山登山のトレーニングとして「雪上訓練」のために乗鞍高原には訪れたことがある。私にとっては想い出深い青春時代を過ごした場所でもある。娘たちが幼い頃に初めて登山に連れて来たのも乗鞍高原であり、乗鞍岳であった。

    乗鞍高原は、湿原・湖・森が調和する静かな高原で、散策路が整備されている。 どこか懐かしい風景が広がり、ゆっくり歩くほどに心が整っていく。

    名 称乗鞍高原
    所在地長野県松本市安曇
    Link乗鞍高原 – のりくら観光協会

    弥陀ヶ原での散策

    弥陀ヶ原【みだがはら】(標高1,600~2,000m)は、立山連峰の麓に広がる、東西4km、南北2kmの高原である。火砕流台地であるが、河川による浸食で現在のような東西に長細い形状となったとされる。

    高原を立山黒部アルペンルートの立山有料道路が通っている。

    名 称弥陀ヶ原
    所在地富山県立山町芦峅寺弥陀ヶ原
    Link弥陀ケ原/富山県の観光

    高天原から雲ノ平へ

    高天原【たかまがはら】は、北アルプスの水晶岳西麓にある湿原である。「日本一遠い温泉」と称される高天原温泉が湧いている場所でもあるほか、「日本最後の秘境」と称される雲ノ平とも隣接している。

    高天原は、水晶岳の西斜面が地滑りによって形成された緩斜面や窪地が湿地になったと考えられている。湿地内には多くの池塘が存在する。

    雲ノ平に行く途中で、高天原温泉で登山の疲れと汗を洗い流したつもりが、雲ノ平山荘に到着するまでに再び汗をかいたことを想い出す。

    名 称高天原
    所在地富山市有峰黒部谷割
    Link高天原山荘|ロッジ太郎

    雲ノ平【くものたいら】(標高2,500~2,700m)は、黒部川源流部に位置する、祖父岳火山(標高2,825m) によって形成されたなだらかな溶岩台地である。池塘と岩が点在する高原で、高山植物の宝庫でもある。

    雲ノ平には次のような名称で呼ばれる、8つの高山植物群落地がある。

    • 日本庭園
    • スイス庭園
    • ギリシャ庭園
    • 奥スイス庭園
    • アルプス庭園
    • 奥日本庭園
    • アラスカ庭園
    • 祖父庭園

    日本庭園は、祖父岳の南山腹の第1雪田と第2雪田の間にある高山植物の群落地である。スイス庭園は、間近に水晶岳が望めるキャンプ指定地のすぐ北側にあり、木道が設置され周囲に池塘と岩が点在する。ギリシャ庭園は 雲ノ平山荘周辺にあり、奥スイス庭園はコロナ観測所の北側にある。アルプス庭園は祖母岳山頂部にあり、雲ノ平山荘からの木道がある。奥日本庭園は、祖父岳の北側の薬師沢方面の登山道上で、ハイマツ帯に池塘が点在する。アラスカ庭園は西端のシラビソ林であり、祖父庭園は祖父岳の北西の登山道分岐点で溶岩が多い場所である。

    雲ノ平は、北アルプスの最深部に位置するため、どの登山口からでも当日中にたどり着くことが困難であり、日本最後の秘境と呼ばれる。

    私は友人と雲ノ平に行き、雲ノ平山荘で宿泊させてもらった経験がある。苦労して行った甲斐があったことを今も覚えている。体力が残っているうちに再訪しておくべきであった。今の私の体力では雲ノ平への登山は無謀かも知れない。

    高原エリアといっても雲ノ平高天原は別で、この両者は登山対象である。秘湯中の秘湯である高天原温泉(高天原)には登山をしないと行くことができない。それも北アルプスの魅力の一つである。

    名 称雲ノ平【くものたいら】
    所在地富山県富山市有峰
    Link雲ノ平について | 雲ノ平山荘

    名湯を訪ねる

    ──山里に湧く湯けむりの時間

    北アルプスの山麓には、湯治場として長く親しまれてきた名湯が点在する。


    白骨温泉(乗鞍)

    白骨温泉【しらほねおんせん】は、北アルプスの乗鞍岳山麓(標高約1400m)にある温泉である。白濁した湯が特徴で、「三日入れば三年風邪をひかない」と言われるほど湯質が良い。 静かな山里に佇み、歩いた後の身体をやさしく包み込んでくれる。

    泉質は、単純硫化水素泉と含硫黄-カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型)である。胃腸病、神経症、婦人病、慢性疲労などに効能があり、かつて「白骨の湯に三日入ると三年は風邪をひかない」と言われた。

    「乳白色の湯」として知られているが、湧出時には無色透明であり、時間の経過によって白濁する。白濁の要因は、温泉水中に含まれている硫化水素から硫黄粒子が析出することと、重炭酸カルシウムが分解して炭酸カルシウムに変化するからである。

    白骨温泉には10軒余りの宿と食事処や土産物店などが数軒あるだけで、ひっそりとした佇まいの温泉街である。梓川のせせらぎ以外に音はなく、夜は星が美しい場所である。

    付近には「竜神の滝」や「冠水渓」、特別天然記念物「噴湯丘」など観光スポットもある。「白骨温泉の噴湯丘と球状石灰石」は、国の特別天然記念物に指定されている。

    名 称白骨温泉
    所在地長野県松本市安曇
    Link信州・白骨温泉
    白骨温泉 山水観 湯川荘

    平湯温泉(奥飛騨)

    北アルプスの玄関口にある温泉地で、登山帰りの湯として長く愛されている。 湯けむりと森の香りが混じる時間は、旅の余韻を深めてくれる。


    秘湯の魅力

    ──静けさに包まれた湯治場を歩く

    名湯とは異なる魅力を持つのが、山深くに湧く秘湯である。秘湯は、歩いた者だけが出会える「ご褒美の時間」だ。


    高天原温泉

    ──秘湯中の秘湯

    高天原温泉【たかまがはらおんせん】(標高約2,100m)は、北アルプス・水晶岳の麓にある高天原の北側にある温泉である。アクセスの困難さから「日本一遠い温泉」とも呼ばれる。

    山奥の温泉であることから徒歩(登山)でしか行くことができない。どの登山口からも1日では辿り着くことはできず、通常は途中の山小屋で1泊して行くことになる。

    泉質は、単純硫黄泉(硫化水素型)であり、源泉をそのまま注いでいる露天風呂が3か所ある。そのうち1つは囲いがあり女性用となっているが、山中の温泉なので簡易な脱衣所しかない。

    温泉から1 km弱ほどのところに山小屋の高天原山荘があり、温泉もここが管理している。山荘から温泉までは下り20分程度で、帰りは登りとなり30分ほどかかる。つまり往復50分ほど要するので、汗を流しにいく温泉ではなく、あくまでも山奥の秘湯を楽しむためと割り切って考えた方がよい。

    名 称高天原温泉
    所在地富山市有峰黒部谷割
    立山町千寿ヶ原
    (高天原山荘)
    Link高天原温泉(高天原山荘)

    蓮華温泉

    蓮華温泉【れんげおんせん】(標高1,475m)は、白馬岳や朝日岳などの登山拠点になっている「蓮華温泉ロッジ」が季節営業(例年3月下旬~10月20日)している一軒宿の秘湯である。

    近代的な造りの「総湯」(単純酸性泉)と呼ばれる内湯以外に、下記のような4が所の露天風呂があり、日帰り入浴もできる。

    • 仙気の湯(単純酸性泉)
    • 黄金湯(重炭酸土類泉)
    • 薬師湯(酸性石膏泉)
    • 三国一の湯(単純酸性泉)

    秘湯的雰囲気を楽しみたいならロッジから山道を徒歩5分から15分ほどの場所に散在する外湯の露天風呂に行けばよいが、露天風呂には更衣室はなく、衣服は湯船脇の木や石の上に置くことになる。蓮華温泉ロッジは、登山者のための山小屋であるので、決して一般的な旅館のような待遇を期待してはいけない。

    名 称蓮華温泉
    所在地新潟県糸魚川市
    Link白馬岳蓮華温泉ロッジ

    白馬鑓温泉

    白馬鑓温泉【はくばやりおんせん】(標高2,100m)は、白馬鑓ヶ岳の中腹にある温泉で、解体式山小屋の「白馬鑓温泉小屋」だけが季節営業(例年7月上旬~9月下旬)している一軒宿の秘湯である。標高2,100mに湧く日本屈指の高所温泉で、歩いてしか行けない場所にある。しかし、露天風呂から眺める北アルプスの稜線は格別である。

    泉質は、含重炭酸土類硫黄泉であり、泉温は43.1度で「源泉かけ流し」であるのは嬉しい。日帰り入浴もできる。内湯はなく、露天風呂だけがある。露天風呂は眺望が良い混浴露天風呂と、回りを壁で囲まれた女性専用風呂がある。

    白馬鑓温泉小屋は、基本的に登山者のための山小屋であるので個室はなく、相部屋であり、食事も簡素である。決して一般的な温泉旅館の待遇と比べてはいけない。

    名 称白馬鑓温泉
    所在地白馬村北城字白馬山国有林
    Link白馬鑓温泉小屋

    鐘釣温泉

    鐘釣温泉【かねつりおんせん】は、黒部峡谷の山間部、西鐘釣山の南麓に位置する温泉である。泉質は単純温泉で、源泉温度は60℃とちょうど良い温度である。

    鐘釣温泉旅館鐘釣美山荘の2軒のみが営業している。鐘釣温泉旅館の『鐘釣温泉』と、鐘釣美山荘の『新鐘釣温泉』に分ける場合があるが、本稿では同一の温泉と捉えたい。

    2軒の宿とも内湯は無く、露天風呂を利用する。鐘釣温泉旅館の場合は、長い石段を下った河原の露天風呂を利用することになる。一方、鐘釣美山荘の場合は、宿から近い場所に露天風呂があるため、内湯が無い不自由を感じることはない。

    名 称鐘釣温泉
    所在地黒部市宇奈月町黒部奥山
    国有林(鐘釣)
    Link鐘釣温泉・鐘釣河原 | 観光
    美山荘 (miyama-jp.com)

    祖母谷温泉

    祖母谷温泉【ばばだにおんせん】(標高770m)は、祖父谷【じじだに】と祖母谷【ばばだに】の合流地点にある温泉で、山小屋の「祖母谷温泉小屋」だけが季節営業(5月~11月末)している一軒宿の秘湯である。折尾ノ大滝(前述)は、山小屋からは比較的近い位置にある。但し、100mほどの高低差をほぼ直登する箇所があることを覚悟する必要である。

    泉質は、単純硫黄泉(硫化水素型)で、源泉の温度は98℃であり、2つの源泉を使い分けている。祖母谷温泉に湧出する源泉は内湯に使い、上流の「祖母谷地獄」に湧出する源泉は引湯をして露天風呂に使用している。下流に位置する名剣温泉にはこの祖母谷地獄の源泉を配湯しているという。

    祖母谷温泉小屋は、基本的に登山者のための山小屋であるので個室はなく、相部屋であり、決して一般的な温泉旅館の待遇を期待してはいけない。

    名 称祖母谷温泉
    所在地黒部市宇奈月町黒部
    Link山小屋 祖母谷温泉

    名剣温泉

    名剣温泉【めいけんおんせん】は、黒部峡谷鉄道の欅平駅から山道を行った先にある温泉で、「名剣温泉旅館」だけが季節営業している一軒宿の秘湯である。

    泉質は、単純硫黄泉(硫化水素型)で、源泉の温度は98℃とされる。源泉は、上流に位置する祖母谷地獄(祖母谷温泉)からの引湯である。

    名剣温泉旅館は、地上2階、地下2階建ての山小屋風の建物であり、男女別の内湯と露天風呂が完備されている他、家族風呂もある。時間制限があるが、日帰り入浴も可能である。

    日本秘湯を守る会会員の旅館で、客室は和室10室のみである。冬季は、黒部峡谷鉄道(トロッコ列車)が運休するため、それに伴い休業する。登山とは別に、秘湯の雰囲気を味わうには最高のロケーションの宿と言えるかも知れない。

    名 称名剣温泉
    所在地富山県黒部市
    Link富山県黒部峡谷 | 名剣温泉

    阿曽原温泉

    阿曽原温泉【あぞはらおんせん】は、阿曽原谷にある温泉で、解体式山小屋の「阿曽原温泉小屋」だけが季節営業(例年7月~10月)している一軒宿の秘湯である。

    風呂は内湯はなく、露天風呂のみである。コンクリート造りの露天風呂が一つだけ小屋から5~10分ほど下っていった先の河畔にある。時間を区切って男女が交代で利用するが、夜には混浴となる。

    黒部峡谷の核心部に位置し、「下廊下」【しものろうか】と呼ばれる登山道(水平歩道)おいては、阿曽原温泉小屋が唯一の山小屋である。登山者にとっては重要な山小屋となっている。

    黒部峡谷は豪雪地帯であり、阿曽原谷も雪崩の巣窟のため、損壊の危険があることから恒久的な建物の設置はできない。そのため山小屋はプレハブ造りで、毎年秋の営業終了後に解体され、翌年の初夏に再び組み立てられるという。

    名 称阿曽原温泉
    所在地黒部市黒部奥山国有林地内
    Link阿曽原温泉小屋

    地獄谷温泉

    地獄谷温泉【じごくだにおんせん】(標高2,300m)は、室堂平にある温泉である。

    かつては噴気帯近くに温泉宿があったらしいが、火山性ガスの危険のために閉鎖され、現在は地獄谷の源泉から近隣の4軒の温泉宿(みくりが池温泉らいちょう温泉(雷鳥荘)および雷鳥沢温泉(雷鳥沢ヒュッテとロッジ立山連峰)へ配湯されている。

    これら4軒の宿は「旅館」と「山小屋」の2つの要素を兼ね備えている。純粋な山小屋とは異なり、定員以上の宿泊はできないため、シーズン中は予約が必須となる。

    名 称地獄谷温泉
    所在地富山県中新川郡立山町
    Linkみくりが池温泉
    らいちょう温泉雷鳥荘
    雷鳥沢ヒュッテ

    湯俣温泉

    湯俣温泉【ゆまたおんせん】は、高瀬ダムの上流域の高瀬渓谷にある温泉で、山小屋の「晴嵐荘」【せいらんそう】だけが営業している一軒宿の秘湯である。晴嵐荘には内湯もあるが、機械掘りされた露天風呂も備えられている。晴嵐荘は、北鎌尾根や湯俣川方面への唯一の登山基地としての役割を担っている。

    湯俣の地名は、その名の通り、温泉が湧出する場所であり、河原を掘れば手製の露天風呂を作ることができる。噴湯丘の場所には手作りの露天風呂があり、「野湯」を楽しめる。

    名 称湯俣温泉
    所在地長野県大町市平湯俣
    Link湯俣温泉 晴嵐荘

    高原散策の見どころ

    ──自然と湯をつなぐ静かな道

    北アルプスの山麓に広がる高原は、険しい稜線とはまったく異なる表情を見せてくれる。 森の香り、清流の音、湿原の静けさ──歩くほどに心が澄んでいき、 その先には湯けむりが待っている。 ここでは、名湯・秘湯へと続く「静かな散策路」の魅力を紹介したい。


    上高地──梓川の清流と穂高の気配

    上高地は、北アルプスの高原散策の代表格である。 梓川沿いの遊歩道は歩きやすく、河童橋から明神池へ向かう道は、 森の静けさと清流の音が心地よい。 穂高連峰の気配を感じながら歩く時間は、まさに“高原の静寂”そのもの。 散策後に平湯温泉へ向かえば、湯けむりが旅の余韻を深めてくれる。


    乗鞍高原──湿原と湖がつむぐやわらかな風景

    乗鞍高原は、湿原・湖・森が調和する静かな高原である。 まいめの池、一ノ瀬園地、どこを歩いても穏やかな風景が広がり、 シニアでも安心して自然を楽しめる。 白骨温泉が近く、散策の後に白濁の湯に浸かれば、 歩いた時間がゆっくりと身体に馴染んでいく。


    白馬・栂池──高原から望む白馬三山の雄姿

    白馬や栂池の高原散策路は、北アルプスの名峰を間近に望む贅沢な場所だ。 湿原に咲く高山植物、白馬三山の大きな山容、 そして風が通り抜ける静けさ──歩くほどに心が軽くなる。 白馬鑓温泉へ向かう登山道はやや険しいが、 高原散策だけでも十分に自然の美しさを味わえる。


    湯へつながる道としての高原

    北アルプスの高原散策は、自然と湯がひとつにつながる旅である。 森を歩き、清流に耳を澄ませ、湿原の風景に身を置く── その静けさが、名湯・秘湯の湯けむりへと自然につながっていく。 歩く旅と湯の旅が、無理なくひとつになるのが北アルプスの高原散策の魅力だ。どの道も歩きやすく、シニアでも安心して自然を楽しめる。 そして、その先には湯けむりが待っている。


    歩き方のポイント

    ──シニア世代にも安心のガイド

    • 高原散策は無理のない距離を選ぶ
    • 名湯・秘湯はアクセス方法を事前に確認する
    • 高原は天候が変わりやすいため防寒対策が必要
    • 湯めぐりと組み合わせることで、ゆったりとした旅程が組める
    • 歩いた後は必ず水分補給を忘れずに

    北アルプスの高原一覧

    高原名標高(m)所在地
    栂池高原800~2,000長野県小谷村
    上高地約1,500松本市安曇 (上高地)
    乗鞍高原約1100~1800松本市安曇
    弥陀ヶ原1,600~2,000富山県立山町芦峅寺
    高天原約1,900富山市有峰黒部谷割
    雲ノ平2,500~2,700富山市有峰

    栂池高原【つがいけこうげん】(標高800~2,000m)は、白馬岳【しろうまだけ】の東麓に広がる高原である。高原上部には栂池自然園があり、ふもとには栂池高原スキー場や白馬乗鞍温泉スキー場がある。

    名 称栂池高原
    所在地長野県小谷村栂池高原 
    Link白馬つがいけ高原スキー場

    北アルプスの温泉郷一覧

    温泉地名泉質所在地
    蓮華温泉単純酸性泉
    重炭酸土類泉
    酸性石膏泉
    糸魚川市
    白馬鑓温泉含重炭酸土類硫黄泉白馬村
    鐘釣温泉単純温泉黒部市
    祖母谷温泉単純硫黄泉黒部市
    名剣温泉単純硫黄泉黒部市
    阿曽原温泉(不明)黒部市
    地獄谷温泉(不明)立山町
    高天原温泉単純硫黄泉富山市
    湯俣温泉(不明)大町市
    上高地温泉単純硫化水素泉松本市
    中の湯温泉硫黄泉松本市
    坂巻温泉炭酸水素塩・硫酸塩・
    塩化物泉
    松本市
    乗鞍高原温泉単純硫黄泉松本市
    白骨温泉単純硫化水素泉
    含硫黄-カルシウム・
    マグネシウム-炭酸水素塩泉
    松本市
    平湯温泉炭酸水素塩泉
    塩化物泉
    単純泉
    硫黄泉
    高山市

    上高地温泉は、上高地の梓川右岸にある温泉で、焼岳に源泉を有し、泉質は単純硫化水素泉である。上高地温泉ホテル上高地ルミエスタホテルの2軒が季節営業(4月後半~11月中旬)をしている。

    名 称上高地温泉
    所在地松本市安曇上高地
    Link上高地温泉ホテル – 上高地
    上高地ルミエスタホテル

    中の湯温泉は、上高地への道中、安房峠付近にある温泉で、泉質は硫黄泉である。一軒宿の「中の湯温泉旅館」は、かつては釜トンネル入り口付近にあったが現在の地に移転されている。

    名 称中の湯温泉
    所在地松本市安曇4467
    駐車場あり(無料)
    Link中の湯温泉旅館

    坂巻温泉(標高約1,220m)は、上高地に向かう国道158号の山手側にある温泉で、日本秘湯を守る会会員の「坂巻温泉旅館」だけが営業している一軒宿の秘湯である。泉質は、炭酸水素塩・硫酸塩・塩化物泉である。

    名 称坂巻温泉
    所在地松本市安曇上高地
    駐車場あり(無料)
    Link信州上高地 坂巻温泉旅館

    乗鞍高原温泉は、乗鞍岳の山腹から湧出する温泉を乗鞍高原へと引湯している温泉である。泉質は硫化水素型の単純硫黄泉である。乗鞍高原内には引湯施設として57軒ほどが登録されている。

    名 称乗鞍高原温泉
    所在地長野県松本市安曇
    Link 乗鞍高原温泉

    あとがき

    ──湯けむりが教えてくれる旅の豊かさ

    中部山岳国立公園の指定区域である山岳エリア(槍が岳、穂高岳や立山などの標高3,000m級の山岳が連なるエリア)へは登山が必要になるが、高原エリアへは比較的容易にアクセスできる。高原エリアの中には夏は避暑地として、冬はスキー場として賑わっている所もある。

    このように北アルプスは山岳だけでなく、その山岳の裾野に広がる高原も魅力的である。また、北アルプスの高原やその周辺には名湯・秘湯と呼ぶに相応しい温泉がいくつもある。それだけでも魅力的であり、実際に行くことになれば、到着前からワクワクする。

    北アルプスの高原を歩き、名湯・秘湯に浸かる時間は、若い頃に訪れたときとは違う豊かさを感じさせてくれる。 湯けむりの静けさ、森の香り、山の気配──そのどれもが、今の自分にそっと寄り添い、歩くほどに心が整っていく。 だから私は、またこのエリアを訪れたくなる。湯けむりに包まれた静かな時間は、旅の終わりとともに心の奥にそっと残り、次の旅へのやさしい呼び水となる。


    参考資料
    北アルプス 槍・穂高連峰(山と渓谷社、2008.05.31発行)
    北アルプス 剱・立山連峰(山と渓谷社、2008.05.31発行)
    北アルプス 白馬・後立山連峰(山と渓谷社、2008.05.31発行)

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