投稿者: takaaki.nishioka

  • メタセコイア並木──マキノ高原に広がる四季の風景

    目次
    はじめに
    マキノ高原に続くメタセコイア並木
    メタセコイア並木の成り立ち
    四季が描くメタセコイアの表情
    並木を歩くという体験
    あとがき

    はじめに

    私事ではあるが、まずはどうして私たちがマキノ高原のメタセコイア並木を訪れることになったのか、その小さな物語から聞いていただきたい。きっかけは、NHK BSで2023年3月18日から5月7日まで放送されたドラマ『グレースの履歴』である。

    俳優・滝藤賢一さんが主人公の蓮見希久夫を演じ、その妻・美奈子役を尾野真千子さんが演じた全8話のドラマで、私も妻も気に入り、毎週楽しみに観ていた。物語の内容とメタセコイア並木自体には直接の関係はないのだが、ドラマのエンディングに流れるあるシーンが、私たちをこの地へと誘った。

    尾野真千子さん演じる美奈子が、ホンダが1966年に発売した赤いスポーツカー・S800(通称:エスハチ)の逆輸入車(左ハンドル)を操り、メタセコイア並木道を颯爽と走り抜ける──その印象的な映像が毎回エンディングに流れるのである。

    そしてこの並木道こそ、滋賀県高島市のマキノ高原へ続くメタセコイア並木であり、ドラマのロケ地として実際に使われた場所である。私たちが画面越しに見ていたあの風景が、現実の旅先として目の前に広がるのだと思うと、妻の期待も自然と高まっていった。

    このS800には「グレース」という名前が付けられている。名付けの由来は、女優でありモナコ公国の王妃でもあったグレース・ケリーのファーストネームで、ドラマのタイトルにもその名が使われている。そして「履歴」とは、主人公が妻の死後、残された愛車グレースのカーナビ履歴を辿りながら旅をすることを意味している。旅の途中で、主人公は自分が気付けなかった妻の深い愛情を少しずつ知っていく──そんな静かな余韻のあるドラマだった。

    妻はこのエンディングシーンをたいへん気に入ったらしく、今回の旅でも「どうしても行きたい場所」としてメタセコイア並木を最優先に挙げていた。

    基本的に出不精の私は、旅のプランニングでリーダーシップを発揮するタイプではない。いつものように、専属ドライバー兼ポーター役に徹するだけである。しかし、「船頭多くして船山に上る」になってはいけないので、妻が行きたい場所を決め、私は運転と段取りを担う──この役割分担が、私たちの旅をいつも穏やかに、そして楽しくしてくれている。


    マキノ高原に続くメタセコイア並木

    メタセコイアは、ヒノキ科メタセコイア属に属する落葉針葉樹である。落葉高木で、大きなものでは高さ50m、幹の直径は2.5m にもなるそうだ。そんなメタセコイアの並木道が奥琵琶湖の近くの高島市マキノ町にある。特に、紅葉の季節は多くの観光客で賑わうようだ。

    マキノ高原へ向かう道を進むと、まっすぐに伸びるメタセコイア並木が視界に広がる。約2.4キロにわたり続く並木道は、まるで高原の風景を縁取る一本の線のようで、訪れる人を静かに迎え入れてくれる。木々は均等に並び、空へ向かってすっと伸びる姿が美しく、歩き始める前から心が整っていくような感覚がある。

    並木の周囲には広々とした高原が広がり、風が通り抜けるたびに木々の葉がやわらかく揺れる。湖西の自然と並木が調和し、琵琶湖の旅の延長として訪れると、風景のつながりを自然と感じられる。車で訪れても、歩いて散策しても心地よく、初めて訪れた人でもすぐに「また来たい」と思わせる魅力がある。


    メタセコイア並木の成り立ち

    このメタセコイア並木は、1981年に学童農園「マキノ土に学ぶ里」整備事業の一環として、マキノ町果樹生産組合が植えたのが始まりとされている。つまり、高原の景観を豊かにするために植えたことから始まったという。その後、地域の人々の手によって育まれ、延長約2.4kmにわたる並木道には約500本のメタセコイアが植えられて、現在のような雄大な姿となっている。

    農地と高原の境界に木々を並べることで、風景に奥行きを生み、訪れる人に心地よい散策空間を提供している。年月を重ねるごとに木々は大きく育ち、今ではマキノ高原を象徴する風景として知られるようになっている。

    地域の人々が手入れを続けてきたことで、並木はただの観光地ではなく「育てられた風景」としての価値を持っている。木々が並ぶ姿には、人の手と自然が共に作り上げてきた歴史が静かに息づいており、訪れる人はその豊かさを歩きながら感じ取ることができる。


    四季が描くメタセコイアの表情

    メタセコイア並木の魅力は、四季によってまったく異なる表情を見せることである。春には柔らかな若葉が芽吹き、淡い緑が並木道を包みます。初夏には濃い緑が高原の風とともに揺れ、生命力に満ちた風景が広がる。

    秋になると、並木は黄金色から赤褐色へとゆっくり色を変え、まるで絵画のようなグラデーションが続く。特に晩秋の深い赤褐色は圧巻で、並木道を歩くと木々の間から差し込む光が美しい陰影を作り出す。冬には葉を落とした木々が雪景色の中に立ち、静けさの中で凛とした姿を見せる。

    このように、メタセコイア並木は四季折々の美しい景観が楽しめる場所であり、訪れる私たちを魅了する。是非、訪れてその絶景の魅力を実際に体験してみてほしい。

    写真を撮るなら、朝の柔らかな光が並木を包む時間帯が最もおすすめである。光と影のコントラストが美しく、四季の色をより鮮やかに映すことができる。


    並木を歩くという体験

    メタセコイア並木を歩くと、木々の間を抜ける風、葉の揺れる音、足元に落ちる光の模様──そのすべてが散策の心地よさを作り出している。並木道はゆるやかな傾斜で、シニアでも安心して歩けるほど整備されている。

    歩いていると、木々の高さと並びの美しさが自然と視界を広げ、心がゆっくりと落ち着いていく。周辺には休憩できるスペースやカフェもあり、散策の途中でひと息つくこともできる。高原の風を感じながら歩く時間は、旅の中でも特に記憶に残るひとときとなる。

    名 称  メタセコイア並木
    所在地滋賀県高島市マキノ町蛭口~牧野(カーナビ)
    マキノピックランド 0740-27-1811
    駐車場あり(無料)
    Linkメタセコイア並木 | びわ湖高島観光ガイド

    あとがき

    私たちがマキノ高原のメタセコイア並木を訪れたのは、春のある平日だった。それでも並木道には多くの観光客が訪れており、写真を撮るにも人が写り込まないよう気を配らなければならなかった。人気のスポットであることを改めて実感した瞬間である。

    これが秋の紅葉の季節になれば、さらに多くの人で賑わうことだろう。メタセコイア並木の紅葉は全国的にも知られており、休日ともなれば駐車場待ちの車列ができるほどだという。基本的に人混みが苦手な私は、どうしても躊躇してしまう。美しい風景をゆっくり味わいたい気持ちがある一方で、混雑を思うと足が重くなる。とても残念ではあるが、こればかりは性分なので仕方がない。

    幸いにも、妻は私の苦手なことを無理に押しつけるような人ではない。今回の旅でも、私が気持ちよく運転できるように配慮してくれた。行きたい場所を決めるのは妻、運転と段取りは私──この役割分担が、私たちの旅をいつも穏やかに、そして楽しくしてくれている。

    メタセコイア並木の風景は、季節ごとに違った表情を見せる。春の柔らかな緑も美しかったが、いつか人の少ない時間帯を選んで、秋の深い赤褐色の並木道も歩いてみたい。混雑を避けながら、静かな風景をそっと味わう──そんな旅ができれば、またひとつ心に残る思い出が増えるだろう。


    関連記事

    戦国時代の名湯、秘境の湯「須賀谷温泉」
    1200年の歴史と癒しの湯「雄琴温泉」
    慈愛に満ちた観音様に会える向源寺・渡岸寺観音堂
    琵琶湖に浮かぶ美しい鳥居がシンボルの「白鬚神社」
    方除けの神社「日吉大社」
    時を守る神社「近江神宮」
    紫式部が源氏物語の着想を得た、花の寺「石山寺」
    琵琶湖を一望する絶景の「蓬莱山・びわ湖バレイ」
    長い歴史と自然が織りなす「能登川大水車」の風景
    水庭と光が織りなす建築美の芸術空間「佐川美術館」
    自然に学び、未来を創る「ラ コリーナ近江八幡」