◆ はじめに
大津京跡のほど近く、静かな森に朱の社殿が立ち上がる近江神宮。 参道を歩くと、木々の間を抜ける風がやわらかく、 どこか古代の気配が遠くから響いてくるようでした。
天智天皇を祀るこの神社は、「時を司る社」として知られ、 境内には漏刻【ろうこく】や時計館・宝物館があり、 日本の時間文化の源流に触れることができます。
今日は、この朱の社をゆっくりと歩きながら、 古代の都の静けさと「時を刻む祈り」に触れてみました。
近江神宮とは
近江神宮【おうみじんぐう】は、滋賀県大津市に位置し、天智天皇を祀る神社です。天智天皇が飛鳥から遷都した近江大津宮の跡地に建てられています。
紀元二千六百年記念行事とは、神武天皇即位紀元(皇紀)2600年に相当する昭和15年(1940年)に祝賀のための催された一連の行事を指します。近江神宮は、この皇紀2600年を記念して昭和15年(1940年)に創祀された比較的新しい神社です。

天智天皇が667年にこの地に近江大津宮を営み、飛鳥から遷都した由緒に因み、天智天皇を御祭神として創祀されました。

近江神宮の境内には、色鮮やかな朱色の神門があり、近江神宮のシンボルとなっています。
| 名 称 | 近江神宮 |
| 所在地 | 滋賀県大津市神宮町1番1号 |
| TEL | 077-522-3725 |
| 参拝時間 | 6:00~18:00 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| Link | 近江神宮公式ホームページ |
天智天皇と「時の社」
天智天皇は、日本で初めて水時計(漏刻)を設置し、時報を始めたことから「時の神様」とも称されている。それ以外にも「開運・導きの大神」、「文化・学芸・産業の守護神」として崇敬されている。そのため、近江神宮は、開運、学問成就、産業繁栄、交通安全などのご利益があるとされている。境内には漏刻や日時計などが展示されており、時計館・宝物館もあります。
天智天皇は、626年に舒明天皇と皇極天皇の間に生まれ、即位前は中大兄皇子【なかのおおえのおうじ】と呼ばれていました。645年に中臣鎌足と共に蘇我氏を倒し、乙巳の変を起こしました。このクーデターにより、蘇我入鹿を暗殺し、蘇我氏の政治力を一気に衰退させました。そして、乙巳の変の後、天皇中心の新しい政治体制を確立するために大化の改新を実施しました。これにより、中央集権的な国家体制が整備されました。
667年に飛鳥から近江大津宮(現在の大津市)に遷都し、668年に正式に即位して、日本の第38代天皇(天智天皇)となります。
670年には日本最古の全国的な戸籍「庚午年籍」を作成し、公地公民制の基盤を築いたとされています。そして、671年には漏刻(水時計)を設置し、時報を開始しました。この実績により、後日、天智天皇は「時の神様」としても知られるようになります。
このように、天智天皇は、日本の歴史において重要な改革を敢行し、中央集権的な国家体制の基盤を築いた人物です。彼の業績は、後の日本の政治や文化に大きな影響を与えたとして高く評価されており、まさに飛鳥時代に大活躍した重要人物の一人です。
参道と境内を歩く
──森に響く静けさ
近江神宮の境内は広く、参道を歩くと森の風がそっと頬をかすめ、歩くほどに心が整っていくようでした。

参道の石段を登り、朱色の北神門をくぐると、正面に外拝殿が静かに姿を現します。大きく開かれた拝所は清々しく、参拝者を迎える最初の空間として、凛とした美しさがあります。

外拝殿の奥に続く内拝殿は、より落ち着いた雰囲気を湛えています。静かな空気の中で心が自然と整っていくようです。ここから本殿へと続く空間は、古代の都の気配をそっと伝えてくれます。

本殿は天智天皇を祀る近江神宮の中心で、社殿が森の中で静かに佇んでいます。拝所に立つと、千年以上続く祈りの流れが胸の奥にすっと沈んでいきます。

時の文化に触れる──漏刻
天智天皇は、水時計の漏刻【ろうこく】を用いて日本で初めて時を計ったとされる天皇です。境内にはその復元模型(レプリカ)があり、日本の時間文化の源流に触れることができます。静かな境内に立つ漏刻は、「時を刻む」という行為が古代から続いてきたことを静かに伝えてくれます。

境内には各地の時計業者が寄進した古代日時計が設けられているほか、時計館宝物館も併設されています。



毎年、時の記念日(6月10日)には漏刻祭が近江神宮で開催されています。
競技かるたの聖地として
近江神宮は、競技かるたの聖地としても知られ、百人一首の世界に触れたい若い参拝者の姿も見かけます。静けさの中に文化の息づきがあり、現代の人々にも愛される理由がよくわかります。
天智天皇は、小倉百人一首の第1首目の歌を詠んだ天皇として知られており、これにちなんで1月前半の日曜日にかるた開きの儀(かるた祭)が行われています。
競技かるたのチャンピオンを決める名人位・クイーン位決定戦も毎年1月に行われています。さらには高松宮記念杯歌かるた大会や高校選手権大会などが開催されているように、百人一首や競技かるたと関係が深い神社です。
境内には天智天皇の百人一首の歌の歌碑も設置されている他、柿本人麻呂や高市黒人の万葉歌碑など多くの歌碑が作られています。
近江神宮のユニークな祭事
近江神宮ではいくつかの有名な祭事が開催されています。例えば、下記のような祭事は、ユニークであり、機会があれば是非、一度は見物したいものです。
● かるた祭
- 毎年1月前半の日曜日に開催
- 天智天皇が詠んだ歌が「百人一首」の第一首であることに因み、天智天皇を祀る近江神宮において開催
- 競技かるたの全国大会も同時に開催される
- 名人位やクイーン位が決定される
- 多くのかるた愛好者が集う祭りである
● 例祭(近江まつり)
- 4月20日に行われる例祭
- 天智天皇が近江大津宮に遷都した日を記念するお祭り
- 例祭後には、地元の子供神輿が集まる「近江まつり」を開催
● 漏刻祭
- 毎年6月10日の「時の記念日」に開催
- 日本初の水時計(漏刻)設置を記念したお祭り
- 時計業界の関係者が集まり、天智天皇に感謝の祈りを捧げる
● 燃水祭
- 7月7日(7日が土日の年は5日)に行われる
- 天智天皇の時代に越の国(現在の新潟県)から献上された燃ゆる水(石油)を記念するお祭り
- 新潟県胎内市黒川から採油された原油が献納される
これらのユニークな祭事は、近江神宮の歴史と文化を感じることができる素晴らしい機会にもなり得ます。
◆ あとがき
近江神宮は、古代の都の気配と「時を刻む祈り」が静かに息づく場所です。 朱の社殿を歩く時間は、ただ静かで、ただ心地よく、 旅の流れを穏やかに整えてくれます。
森の中でゆっくりと時が流れるような感覚は、成熟した旅の記憶として、静かに胸の中に残り続けるでしょう。