◆ はじめに
春の訪れをそっと知らせるのは、桜だけではない。 神戸では、桜よりひと足早くアーモンドの花が咲き、淡い桃色の花びらが並木を静かに彩る。風が吹くたびに花が揺れ、冬の名残をやわらかくほどくように、 早春の光が道を照らしていく。
歩くほどに、アーモンドの花が持つ素朴な美しさが心に広がり、 春がゆっくりと始まっていく気配を感じられる。本稿では、神戸のアーモンド並木を歩きながら出会った、春を告げる淡い花の風景を綴ってみたい。

桜の開花前に人々の目を楽しませてくれる。
アーモンドの花の魅力
──桜とは違う春の表情
アーモンドの花は、桜よりも少し濃い桃色をまとい、 花びらの形もどこか素朴で、春の始まりを静かに告げるような佇まいである。桜の華やかさとは異なり、 アーモンドの花は「早春の静けさ」を感じさせる存在で、その淡い色が、冬から春への移ろいをやさしく描いてくれる。

サクラ(桜)、ウメ(梅)およびスモモ(李)は、バラ科サクラ属の落葉高木または落葉小高木である。一方、モモ(桃)は、バラ科ではあるが、モモ属の落葉小高木である。
アーモンドは、バラ科サクラ属の落葉高木であるから、サクラ、ウメおよびスモモとは近縁種で、ウメやスモモなどに似た果実をつける。その果肉は薄く食用にならないが、種子の殻を取り除いた種の部分が食用になる。この果実の種から作るナッツもアーモンドと呼ばれる。
アーモンドは、古くはヘントウ(扁桃)と呼ばれ、日本には江戸時代にポルトガル人によって伝えられた。当時は薬用として用いられていたという。
アーモンドの栽培品種の一つで種子が苦いものは「苦扁桃」と呼ばれ、この苦扁桃の種子から油をとった搾りかすを発酵させたものを蒸留して得る無色の液体を苦扁桃油という。主成分は、ベンズアルデヒドであるが、この苦扁桃油 を水に溶かしたものが苦扁桃水と呼ばれ、せき止めの薬として用いられていたのかも知れない。

アーモンドの花弁は、約3cmの花びら5枚からなり、色は濃いピンクや桃色、あるいは白色などがある。中央の辺りが濃い紅色になっており、とてもチャーミングな花だと思う。
花弁は、サクラと同じように花びらの先には小さな切れ込みが入っているので、初めて見たときに私は桜と間違ってしまった。神戸市内ではソメイヨシノよりも約2週間ぐらい早くに開花するので(例年3月中旬)、桜の開花時期が早まったのかと思ってしまったほどである。

神戸のアーモンド並木
──早春を彩る花の道
神戸では、桜より少し早くアーモンドの花が咲き始める。 淡い桃色の花びらは、どこか素朴で、 華やかさよりも静けさを感じさせる佇まいである。並木道に立つと、冬の冷たさが少しずつ和らぎ、 春の気配がふっと漂い始めるのが分かる。アーモンドの花は、神戸の早春を象徴する風景のひとつである。
そんなアーモンドの花を楽しめる場所の一つが、東水環境センターの運河沿いに整備されたアーモンド並木である。ここは、最近は「水辺の遊歩道」と呼ばれ市民に開放されているが、東水環境センターの敷地内である。
阪神淡路大震災で被災した東灘下水処理場が復旧した時に、運河沿いに遊歩道が造られ、その遊歩道400メートルに約60本のアーモンドが市民の希望で植栽されたという。それ以来、年々、樹木も大きくなり、毎年、開花の季節には私たちを楽しませてくれている。
東水環境センターの建物2階屋上には約10台分ぐらいの駐車スペースがあるが、開花シーズン中は十分な数とはいえない。公共交通機関の利用をお薦めする。

歩くと見える早春の風景
アーモンド並木は、歩くことでその魅力がより深く感じられる。 光の角度、風の強さ、花の揺れ方── 歩く速度だからこそ気づける細やかな変化がある。
並木の向こうに見える運河や空の色が、 季節の移ろいと重なり合い、 春の始まりを静かに感じさせてくれる。

| 名 称 | アーモンド並木(水辺の遊歩道) (神戸市建設局東水環境センター) |
| 所在地 | 神戸市東灘区魚崎南町2-1-23 |
| Link | 神戸市:東灘処理場 神戸市建設局 水環境センター |
◆ あとがき
神戸にはアーモンド並木やアーモンドの「お花見」をする機会がある。私は神戸に住むようになって初めてアーモンドの花の存在を知った。それまでは、アーモンドと言えばナッツのことだけしか眼中になかった自分を恥じたい。
アーモンドの花は、春の始まりをそっと知らせる存在である。 華やかさよりも静けさをまとい、 季節がゆっくりと進んでいくことを教えてくれる。冬の冷たさが少しずつほどけ、 光がやわらかくなるその瞬間は、特別なひとときである。アーモンド並木は、季節の始まりを味わうことの大切さを 静かに語りかけてくれる場所でもある。
淡い花びらが揺れるアーモンド並木は、春の始まりをそっと描く静かな風景であり、歩くほどにその光景は深まり、私たちの記憶として静かに心に残り続ける。